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334話 首都攻防編(15)〜思い通りにならない世界〜

 白ゴーレムの肩の上に立った状態でギューッと固くその拳を握りしめ、今にも泣きそうな潤んだ瞳でシトラを睨みつけるフェリアの姿にシトラは面食らう。怒っているのは分かるがその理由がわからない。イシュタル国防軍の兵士を躊躇なく血祭りにあげたことか? それとも―――


「ワタシは魔界が憎くて戦っているのですっ! それと同じなどっ、、言わないでくださいッッ!!」


「……フェリアさん、、、」


 ああ、そうか。そう悲しげな表情を浮かべるシトラはその目を知っていた。メグミやかつての自分と同じ目......復讐や何かを憎んでいる目だ。フェリアの場合、その対象は“魔界”―――それはなんとも皮肉で、心苦しいもの。シトラの中に同情と憎悪の感情が渦巻く。


「……そうですか、、あなたは知らないのですね......自分が利用されていることに、、あなた方の背後にいるのがその“魔界”、それも魔王であるということに―――」


 シトラの言葉に呆然と目を見開くフェリア。それを見てシトラは深く深くその純白の手のひらに爪を食い込ませる。怒っていた......。魔王フィアロという男に怒りを抱く―――。普段温厚、というか冷静なシトラにとっては珍しく。


(……そうですか、それがあなたのやり方ですか―――魔界に恨みを持つものを焚き付け、実はその行動は魔界のためになっていたという皮肉な結果ッ、、、それを知って絶望するのを見たいというのですか―――!)


 魔王フィアロに対して抱く深い怒り。その時、シトラの知らない心の奥底......血の海の中で何かにパキッと亀裂が入った―――。


* * * * * 


「……おやおや、面白い客人が来たものだな」


「神に導かれるがままに来てみればまさか。でも魔王直々にいるとは僕も思っていなかったぞ」


 ポンッとトーチとレインの肩を叩き、ニヤッと笑うファルザ。トーチとレインは「悪いね、、」「ありがとう」と呟きゆっくりと立ち上がる。また為す術もないまま敗北を喫するところだった。ファルザが来なければ、フィアロの魔術を打ち消してくれなければ間違いなく負けていたし、死んでいた。そう、それがフィアロのシナリオだったのだ。


 だが、それをファルザが打ち破った......傲慢なフィアロにとってそれは許されることではない。余裕の笑みを崩してはいないが、ピクピクと動く眉や言葉の節々からフィアロが苛立っていることが感じ取れる。


(……この神父め、、俺様の思い通りにいかないやつは生きている勝ちがないのだがな......さて、どうやって料理してやるか―――)


 槍にもたれ掛かって腕を組み、トントンとその指を鳴らしながらフィアロはトーチとレインの二人に加勢する形で現れた神父ファルザをジーッと見つめる。フィアロの魔術を打ち消したのも想定外だったが、ファルザの普通の身なり、武器と言っても手に抱える本くらい。そんな決して強いとは思えない男に自分の計画を狂わされたことのほうが想定外、不愉快だった。


(……まあ偶然、か。俺様も少し油断しすぎていたようだが......次はそうはいかないぞ、神父―――!)


 フィアロがスッとその手をかざす。グルグルとその手のひらの魔法陣に集まる黒い煙。さっきのことは偶然―――と思っていたのに、


「ゆけ―――漆黒魔シッコクマ……」


「―――術式解体エールインターセプト


 だが再びパシュっと情けない音を立てて再び消えるフィアロの魔術。それにはさすがのフィアロも「はぁ?」と驚きを隠しきれない様子。二度も思い通りにいかなかったのだ。傲慢の魔王であるフィアロの心情はグチャグチャ。ギリッと唇を噛み締め、『次こそはない―――!』、と今度は呪符も加えて詠唱を始める。二度の失敗によりフィアロの高い高いプライドは引き裂かれたのだから、もうやけになって魔術を使う。だが、


「なぜだっ―――!? なぜ貴様らを弄ぶはずの俺様が人間ごときに弄ばれているッッッ!!」


 怒りをぶつけるようにダンッと地面を思い切り踏みつけるフィアロ。その魔術は三度目、また放つ前にあっけなく消えたのだ。ファルザの『術式解体エールインターセプト』を前に。

 トーチはフィアロが何も出来ずに三度も本気の魔術を消されたこと、そしてそれを可能にしたファルザの力に驚いていた。


「すごい、、、」


 そう、思わず口から漏れる。トーチが得意にしているのはその膨大な知識量を生かした『特定魔術インディビデュアル無効ブロック』という対抗魔術だ。これは相手の魔術を“知って”さえいれば条件無く打ち消せるという魔術。だが、もちろんだが知らない魔術には対応のしようがない。なのでフィアロの使う魔界の魔術には対抗できなかったのだ。


 だが、ファルザは違った。フィアロの魔術を三度も防いだ。それもトーチも知らない未知の対抗魔術で。そこに慄き、そこに感服していた。だがトーチが感心する反面、もちろん三度も防がれたフィアロは怒りに震える。


「俺様を、、コケにするのか人間風情っ!!」


 傲慢なプライドはズタズタだった。下に見ている“人間”に自分の魔術があっけなく破れたのだから。だがフィアロも弱いわけでは決して無い。止められたからといってこれ以上やけになって魔術だけを連発するような、勝ちを捨てる負けず嫌いではない。


(……チッ、、コヤツは腕の立つ魔術師ということか......認めてやるよ、不本意だがな。……それで俺様の魔術を打ち消せるというわけなら、、まあいい。……そうとなれば近接戦で―――!)


 元々槍使いで魔術も扱う、というのがフィアロのスタイルだ。魔術は最悪通じなくても本命の武器である槍が残っている。これに関してはフィアロは傲慢ではなく、本気で圧倒的な自信を持っていた。決して止められない、、この槍に貫けない盾は存在しないと。


「―――フンッ、貴様の魔術は認めてやろう神父風情よ。だがな、人間などでは俺様には決して勝てないのだ!」


 スポッと地面に突き刺していた槍を引っこ抜きクルクルと回すとその切っ先をファルザにまっすぐ向ける。それを前にトーチは魔剣を、レインは聖剣クレイピアをギュッと構える。が、それはさきほどフィアロの槍を前に脆く砕け散ったもの......その光景がフラッシュバックし、じわっと手のひらに汗が滲む。


 なのに、ファルザは一切動じていなかった。むしろその表情には笑みさえあった。ザッとフィアロが地面を蹴り、その槍の切っ先がファルザに襲いかかる―――。


「俺様に認められたことを光栄に思いながら死ぬのだな、神父風情よ! かの剣達を貫け―――!」


「……認める、ねぇ......悪いが僕は偉大なる神以外から認めてもらったところで何も思わないのだよ......そして残念、、、」


 フィアロの槍に触れた途端、パキッとやはり簡単に砕け散るトーチの魔剣。先程その槍をギリギリのところで食い止めた聖剣クレイピアさえもガラスのようにあっさりと砕け散り、そして勢いそのままに槍がファルザの喉元を―――


「―――いつ僕が“魔術だけでしか戦えない”と言った......?」


「何だと―――」


 スッと黒い影がファルザの背中側から飛び出したのが見えた気がした。

 

 結果として、フィアロの槍はファルザの喉元を貫くことが出来なかった。なぜならその黒い影が全力の飛び蹴りを槍に向かって繰り出したから。その衝撃で切っ先が逸れて、逆に無防備になったフィアロの腹にその影がニ発目となる蹴りを叩き込む。


「ガハッッ、、!?」


 その衝撃に吹っ飛び、地面を何度かバウンドするフィアロ。初めて感じる痛み、初めての尻もち、見下される屈辱感、、、『何をしたっ!』と怒りに息を荒げるフィアロの瞳がゴゴゴと燃え、ファルザを、そしてその蹴りを叩き込んだ影に向けられる。


「……なんなのだっ! 貴様ら人間のくせになぜ俺様が見下されているっっ!!」


「これが人間だ、魔王フィアロ。そして、これが俺達姉弟だ―――」


 黒い影に「姉さん」、そうファルザが声をかける。何もないはずだったファルザの背後から現れた影の正体―――それはファルザの姉で王都騎士団、円卓の騎士の第禄席を務める聖女シスターさんだった。


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