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315話 首都攻防編(2)〜関所を突破せよ!〜

 関所はやはり強固だ。今まさに内乱中というのもあるのだろう。イシュタル国防軍、と書かれた旗の元に衛兵らしき男が10人ほどの小隊で内壁区へ立ち入る門の前を守っていた。それを外壁区側からそっと観察するアザミ達。堂々と歩けたのは結局少しの間だけだった。路地裏に隠れ、関所の様子をうかがう。


「……まずはここをどう突破するか、ですね。幸い私達の顔は割れていないので反乱軍の味方だと疑われることなく入れそうですけど、、、」


「いや、どうやら厳しそうだぞ......」


 しばらくジーッと関所を観察していた中、シトラがボソッとこぼしたその言葉にアザミは首を横に振り、そっと関所を指差す。関所は今ちょうど行商人の格好をした男がそこへやってきたところだった。アザミ達がその対応を伺う中その行商人が衛兵に何やら紙のようなものを手渡す。


「……あれは許可証、か?」


「まぁ、そういうものだろうな。果たしてそれで通れるのか......」


 ファルザが着目したのはその紙が何であるか、だった。行商人が関所で手渡すもの......といったら許可証のような通行に必要なものだと推測できる。アザミもその見解には同調しつつも、その表情は依然として険しい。


(通行証一枚で通れる関所なら簡単なんだがな、、、)


「あっ、通れなかったみたいですよ!」


 行商人がクルッと踵を返し、持ってきた商品とともに関所からもと来た道を戻っていく様を指差すシトラ。アザミの思った通り関所は通行証があろうと関係なく通れないようだ。


「当然っちゃ当然だな。反乱軍がどこにいるかわからない、だがほぼ確実にもう一度攻めてくるであろう中、みすみす関所を通すわけがないからな。今現在あの中、内壁区には誰一人として入れないって考えるのが妥当だろう」


「……それじゃあ一体どうするのよ、、、」


 簡単に内壁区には侵入できないだろうと想定していたとはいえ、思った以上に厳重な城塞にアザミは「ふむ、、」と頭を悩ませる。やはり地図だけではその守りの強固さはわからないものだ。


(城壁の高さは跳躍でひとっ飛び、とはいかない高さだな。それなら飛翔術式で上から行く......いや、俺たちの技術じゃ危険すぎる。やはり闇に紛れて行くか? いや、それこそ向こうが一番警戒している侵入方法だな......)


 正面突破では偵察の意味がない。かと言って真面目に入ろうとしてもさっきの行商人のように追い返されるのは目に見えている。最初の関門からだいぶ厳しい現状―――頭を悩ませるアザミの横でスッとトーチが立ち上がる。


「……どうした? なにか見つけたのか?」


「いや、そういうわけじゃないさ。ただ何をそう長々と悩んでいるのかと思ってね」


 関所やその周りをジーッと観察して頭を悩ませるアザミを見て「やれやれ」と肩をすくめるトーチ。その余裕そうな表情にアザミはハッとトーチを見上げる。


「まさか、なにかあそこを突破する手立てでも思いついたのか!?」


「そうじゃなきゃ僕は動いたりしないよ。知っているだろう? 僕もアザミと同じ、しっかり策を立てて行動するタイプだって―――」


 そう言ってニコッと笑ってウインクするトーチ。思い出されるのは王都祭フェスタでシトラと二人っきりになろうとしたあの作戦とサラ達の卒業旅行での女子風呂覗くぞ大作戦。かっこいいことを言いながら実績が下衆すぎてアザミはそれを手放しに褒められない。それに、アザミでもいまだ見つけられていない突破口をこうも簡単に見つけられるものなのか? と疑念も不安もある。だが、そんなアザミの思考を読んだかのように、


「……疑っているのかい?」


「いや、そういうわけじゃない......ただ実感がわかないだけだ。どうやってあの強固な守りを突破するのか、、、」


「……なんだ。そんなもの、簡単じゃないか―――」


 真剣な面持ちで関所を観察するアザミにため息をつき、トーチが5人の隠れているスペースから一歩踏み出す。


「……正面突破さ―――!」


「なっ!?」


 驚いたのはトーチを除く他の4人。あっさりと隠れ場所から姿を表して関所へ堂々と歩いていくトーチの背中を呆然と見る。トーチは少し振り向くとチョイチョイと指で「ついてきて」と指示する。その指示に恐る恐る、疑いながらも隠れ場所から4人もその姿を表す。


(トーチが姿を見せた時点で関所の衛兵に俺たちの存在はバレた。それなのにアイツ、何を狙っているんだ......? 正面突破ってまさか無理矢理に関所をこじ開けるつもりか!?)


 そんなことをすれば潜入の意味もないし、最悪アザミ達5人で内壁区の天帝派の相手をすることになる。それは流石に無理だ。魔界がバックに居る天帝派と今の反乱軍の戦力で正面からぶつかるだけでも厳しいからこうやって弱点を探ろうと潜入しているというのに。アザミはトーチに「おいっ! どういうつもりだ!?」とボソボソと呼びかける。だがトーチは何も答えず堂々と関所へと近づいていった。


「な、何奴だ!! 止まれ止まれいっ!」


 突如姿を表した怪しさ満点のアザミ達に衛兵たちは当然関所を守るように立ちふさがる。各々が槍や剣を持ち、緊張した面持ちでアザミたちを迎えている。にもかかわらず一切動じないトーチはザッと衛兵たちの前まで歩みを進めた。その距離は槍一本ほど。踏み込めばすぐにでもその切っ先が肉体を貫くであろう距離感だ。嫌でも双方に緊張が流れる。そんな中、トーチがゴソゴソと懐から取り出したのは短剣だった。


「―――貴様っ!!」


 戦闘か!? とその剣を見てバババッと持っている武器を強く握って構える衛兵たち。だが、トーチの持つ短剣をじっくり見た途端、その空気は一変した。正確に言うとその短剣に刻まれた文字を見て衛兵たちがピシッと凍りついたのだ。そう、”キールシュタット”という家の名前に。


「……通してくれるよね?」


 短剣を見せつけ、ニコリと笑みを浮かべるトーチに衛兵たちはコクコクと頷くのみだった。トーチが一歩進むと衛兵たちはサッとそこを退き、道を作る。そうして出来た道を通って難なく関所を突破するアザミ達。トーチの後ろをついていくだけで本当に内壁区へ入ることが出来た。


「……トーチお前、、実は凄いやつなのか?」


「まぁ、僕の家であるキールシュタット家は天帝の......側近、だからね。こうやってその証の短剣を見せるだけでこの国じゃ圧倒的な信用を得ることが出来るのさ。……その信用をこうして裏切る形で使ったことはさすがに申し訳ないと思うけど、、」


 関所を抜け、ボソッとトーチに小声で尋ねたアザミ。その返事とともにパチンッとウインクが返ってくる。アザミはトーチのことを見直していた。真正面から関所へ進んでいった時は何事かと思って焦ったが、まさかトーチがイシュタル帝和国の中でもそんなに偉い地位にあるだなんて知らなかったからだ。だが、トーチは少しうつむく。


(……まさか僕の家が暗殺者の一族だなんて言えない、よね、、)


 友人で良きライバルだからこそ真実を言えなかった。見せた短剣だって元々は暗殺に使う道具だ。キールシュタット家の人間であることを示すとともにその剣には天帝には向かうもの全てをその刃で闇に葬り去る、という忠誠を示す意味もあった。そんなものを見せてアザミに万一真実を知られたら......トーチの手が血に濡れていることを知られてしまったら......そう思うと怖かった。罰は覚悟している、なんて言いながら失いたくないと思ってしまうのだ。


(それでも、いつかはバレてしまうのかな......アザミにも、レインにも、、)


 トーチはチラッと少し後ろを歩くレインに視線をやる。が、ふと目があってすぐに前に目線を戻した。アネモネの言葉がトーチの脳裏をよぎる。


―――ネモちゃんはお前を絶対に許さない―――! ムーちゃんの笑顔を奪い、弄んだお前をっ!


(……僕は、、どうしたら、、、)


 一方でトーチと目が合ってレインは側頭部をそっと押さえる。不思議と目が合ったその瞬間、ズキンと頭に痛みが走ったのだ。理由はレイン本人にも分かっていない。だが、ふとその痛みで何か、がんじがらめに鎖で封じられていた箱からその鎖が一本解けたような......そんなイメージが頭の中にモヤモヤと浮かぶ。記憶の海の底、閉ざされたその蓋が開こうとしているのかもしれない。


(でも、何がきっかけ......? トーチがまさか、、私の過去を知っているとでも言うの?)


 未だズキズキと痛み続ける頭。レインは先を歩くトーチの背中にふと疑念を抱く。が、詳しいことを聞くことは出来なかった。伸ばそうとした手は無意識に引っ込む。うつむいていた顔を上げ、ふと空を見上げる。“内壁区”、という言葉のとおり高い壁に囲まれた城塞都市オドエオ。建物一つ一つが密集し、見える空は自ずと狭いものになる。なのに、レインは巨大な穴に沈んでいくような、何か得体の知れないドロドロに飲み込まれるような感覚を覚えた。その体がグラッとぐらつく。


「大丈夫か?」


「……アザミ、、ううん。大丈夫、ありがとう......ちょっと立ちくらみしちゃっただけだから、、」


 倒れかけた体をそっと支えてくれたアザミに微笑むレイン。気づくとそこは関所からしばらく歩いた場所。路地を抜け、オドエオの中でも大きいと思える道沿いだった。そこで立ち止まる5人。皆をぐるっと見回してアザミが口を開く。


「……じゃあ、ここで別れよう。皆それぞれ解決したい、決着をつけたいことがあってここへ来た......それは知っている。だから、悔いのないように行動して欲しい。あ、だがその片手間にでも俺達がここにきたそもそもの目的は忘れないでくれよ?」


「ハハッ、分かってるさ。今の僕はキールシュタット家の人間である以上に君たちの仲間だ。天帝派の大きな情報でも持って帰ってあげるよ」


「それは助かるな。……じゃあ、皆......無事に一週間後、ここで会おう―――」


 アザミがニコッと笑みを浮かべてその拳をグッと突き出す。それを見てバラバラと他の4人もその拳を突き出す。イシュタル帝和国の首都オドエオ、その青空の下で5つの拳が集まる。


「負けるな―――!」


 たった4文字。それだけでよかった。ゴツンと骨と骨のぶつかり合う音とともに拳を突き合わせ、アザミ達はそれぞれの目的のために内壁区各所へ散って行く。

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