27話 決勝戦(2) 〜嵐の前には雨が降る〜
「開眼せよ! 魔装展開!!」
開戦したその瞬間、クレアは迷うことなくいつもの詠唱を叫んだ。それに応えてクレアの体を大盾が何枚も集まって覆っていく。そして、S1の本陣に再び巨大な球体が出現した。王様であるクレアを囲う盾の蛹だ。
その球体の前で、S1の面々が一堂に会する。まず王様を安全にしたうえで、落ち着いて作戦会議だ。
「フレイア、君はAの本陣を叩いてもらうよ」
「え、ええ。でも、そうしたらクレアを守るのは誰が……」
トーチの指示に頷きながらも、心配そうにギュッと手を握るフレイア。
「私がやってあげるわ。ここを守る、簡単な仕事よ」
シャーロットがスッと前に出て、そう名乗りを上げた。右手には聖剣フィルヒナートを握っている。彼女もやる気は十分というところか。そうでなくとも、名乗り出た王女様に待ったをかけられる人物なんていないのだが。
「OK。頼みましたよ、お姫様」
トーチの言葉にシャーロットがぷくーっとと口をすぼめた。
「その気持ち悪い言葉遣いはやめてくれないかしら。いちおう同級生なのよ?」
「いえいえ、僕は騎士です。そしてあなたは主人である王族なのですから。将来の主人にタメ口なんて恐れ多いですよ」
ハッハッハーとトーチが笑い飛ばす。それを見て「なんか楽しんでない?」と訝しげな表情になるシャーロット。やっぱり、トーチはイケメンだが何か残念だ。
「冗談はさておき……行くよ、みんな。ここで勝って、優勝するんだ。優秀なのは選抜科の僕たちだって教えてやろう」
「おう! 言われなくても分かってるぜ!!」
ヒヒッ、と白い歯を見せてジョージが剣を抜く。フレイアも双剣をぐっと握る。シャーロットはフッと笑ってトーチを見る。球体もガタンッと揺れる。他の生徒達も「おお!」と声を上げる。
「気合は十分、かな。よろしい。じゃあ、行こうか」
トーチを先頭に、前衛部隊が城外へ飛び出していく。
***
「お前ら、いいか? 勝つんだぞ!!」
「うん、分かっているよ。にしても、同じことを何回言うんだよ、アック。緊張を誤魔化すために大声を出すのはやめてくれよ。温厚な僕でも少しイライラしてきたよ?」
ダグラスがアックに詰め寄る。すまん!と両手を合わせるアック。Aクラスの本陣は、相変わらずどこか浮ついていた。それでも、開戦した以上気を抜いていい時間はない。刻々と時は過ぎ、相対する時は近づいてきているのだから。
「じゃあ、作戦通り……俺とアック、シトラが前衛。グリム、ダグラスが後衛で王様を守る、これでいいんだよな?」
「ああ、今回は少し防衛を優先する。シトラちゃん、君にかかってるんだよ!」
「アック……。そういうセリフはあまり言わないほうがいいと思うのですが。まあ、いいです。私があまりプレッシャーを感じるタイプでなくてよかったですね」
そう言ってシトラが颯爽と歩き出す。こういうところは頼りになる。戦闘面では、シトラに並ぶものはそういないだろう。……戦闘面は、だが。
「待てシトラ、俺もいく。じゃあな、王様をしっかり守れよ」
そう言ってシトラの後を追うアザミ。だがその途中で不意にピタッと止まり、「言い残した」と一度振り向いた。そして、ビシッとグリムを指さして一言。
「‟また”、すぐに死んでくれるなよ?」
それだけ言い残し、シトラの後を追って消えたアザミ。アックもそれを追いかけていった。
というわけで、非常に腹立たしいお言葉だけ頂いたグリム。ぴきぴきと、当然のように彼の額には血管が浮いていた。
「あぁん!? 喧嘩売ってんのかテメエ!! あー、分かった分かった。ぜってーお前よりも長く生き残ってやるぞコラ!!」
グリムが「やんのか!」と拳を構える。なぜ、グリムは味方とやり合おうとしているのか。分かっていて煽るアザミもアザミだが、それにまんまと乗っかって我を忘れるグリムもグリムだ。ため息をついてエイドがグリムの後頭部をパコンと叩く。
「わーてるって。真面目にやるから。頼んだぜ、ダグラス、みんな。あのバカアザミに笑われねぇためにも、死んでもここは死守すんぞ!!」
「死んだら死守できないよ、グリムくん……」
冷静にツッコミを入れるエイド。たぶん、A組一番の苦労人はエイドである。
「じゃあ、私は敵陣を目指しますので」
本陣からしばらく歩いたところで、シトラはそう告げて単独行動を始める。アザミとアックとは別の道へ、ザッと一歩踏み出した。
「ああ、ケリをつけてこい。……でも、死ぬなよ?」
「……まさか。私の強さはあなたが一番知っているでしょ?」
アザミとシトラは互いに顔を見合わせてニッと笑う。
「―――お楽しみしたいなら俺は邪魔だな。よし、じゃあな」
「こんなところでするわけがないだろ、アック」
空気を読んで立ち去ろうとするアックの襟首をアザミは慌てて掴んで止める。
(こんなところじゃなかったらやるんですね……じゃなくて!! 今はミーシャ、あなたです。勝負をつけましょう。300年前の続きを)
こうしてアザミとアック、シトラは二手に分かれ、森を進む。
**
「こちらフレイア。早くも敵陣発見!! 王様は……どれかな? あの赤髪の子、、じゃないよね〜。アホそうだし」
三人が森で別れたのとほぼ同時刻、フレイアは通信用の呪符を介してトーチと連絡を取っていた。
「ヘックション!」「風邪かい? グリム」「おっかしいなあ…」
フレイアの耳に入ってくるのは、どうにも気が抜ける緩い言葉だけ。
『……やれそうかい?』
「それは、勝てるか? って意味かしら?」
フレイアがニヤリと笑う。トーチにしては愚かな質問だと思った。その答えなんて、聞かれなくても決まっている。
『ふふっ、愚問だったかな』
「ええ、アネモネと比べたら普通科なんて余裕よ!」
こんな連中に負ける気がしない。事前情報だけでもそう思っていたが、こうやって現場を見て確信した。
『突入の判断は君に任せる。ただ……一つ助言をしようか。あまりA組を舐めないほうがいいよ』
「へぇ。珍しいわね。トーチがそんなコト言うなんて。確かにおかしな双子とかもいるけど、それ以外は……」
『―――未完成の歯車、聞いたことはあるよね?』
その言葉にフレイアの表情がフッと真面目なものになった。
「ええ。確か、ある分野では圧倒の成績を残すけど、それ以外は何も出来ない。いわば不良品、よね? まさか……」
『もしかしたら、‟A組はその集まりかもしれない”―――。だから油断すると、食われるかもしれないよ』
「……頭に入れておくわ。じゃあ、切るわね」
呪符がフワッと浮かび、サラサラと砂に変わり、風に流される。
(未完成の歯車、ね……)
軽く目を瞑り、深呼吸をする。確かに、もしその通りなら厄介だ。けれど、まさかそんなことはないだろう。それに、もしそうだとしても不良品なんかに負ける気はしない。だって、こっちは選ばれし者の集まり。いわば、完成品なのだから。
「よしっ!!」
木を蹴って、フレイアはA組の本陣へと単騎で飛び込んでいく。
***
「んで、フレイアはなんだって?」
トーチの持つ通信用の呪符が消えたタイミングで、ジョージが尋ねる。2人はA組、S1組両方の本陣から離れたところに居た。
「敵陣を見つけた、だそうだよ。まあ、あの子の強さなら、順当に行けば僕たちの勝ちだろうね。ただ……」
トーチがキッと正面を睨みつける。順当に行けば、実力で上回るS1に死角はない。けれど、順当にいかないのが戦場というものだ。
ジョージも剣を構え、臨戦態勢に入る。やはり順当にはいかない。
「ああ、来やがったか。今度は兄貴のほうかいなぁっ!!」
ザッと歩いてきたのは、アザミとアックだった。そこは森のギャップの部分。開かれた草原で両者が相対する。ちょうど数も二対二だ。
「只者じゃないとは思ってたよ、アザミ・ミラヴァード。僕は君と戦えることを楽しみにしてたんだ」
トーチが大きく両手を広げて、歓迎のポーズを取る。楽しみ……。あくまで、遊び感覚か。
「それはどうも。俺も会えて嬉しいぜ、トーチ」
アザミはそう言って魔剣を起動した。シトラに勝てるレベルでは到底ないが、昔ある人に鍛えられたおかげで剣の腕にも多少は心得がある。真っ黒な煙とともに十字架が黒剣の形になっていった。
「お前も、、剣士なのか?」
ヘヘッと嬉しそうにジョージが尋ねる。
アザミはいや、と手を振り、
「剣はシトラに軽く稽古つけてもらった程度だ。素人に毛が生えた程度だよ」
「なんでい、、つまんねえな」
それを聞いてすぐにがっかりした顔に変わるジョージ。その素直な反応に「ああ、こいつグリム並だな」と内心で笑うアザミ。シトラに及ばないのも、シトラにも一応剣を聞いたのも本当だ。だがまさか、魔王が‟素人レベル”なわけがないだろう。まあ、知らないのだからしょうがないのだが。
「ま、いいか。さっさとテメエをぶった切れるってことは、あの金髪女を早く倒しに行けるってことだろ!!」
そう言ってジョージが地面を蹴ってアザミに飛びかかる。完全に信じ込んでいた。アザミは剣に長けていないと。
ガキンッ!と言う音と火花が散る。ジョージの剣をアザミが魔剣で受け止めたのだ。
しかし、パキンッと音を立ててアザミの魔剣が壊れた。魔剣は魔術で生成されるため、実体のある剣などの武器よりも耐久度が低いのだ。そこは剣の腕がどうだろうと関係ない。剣自身の問題なのだから。勝った、とジョージの目に油断が泳ぐ。
「やわいぜ!! 貰ったぁ!!」
ジョージが二撃目に繋げようと、振り下ろした剣をカチ上げた。それで勝負を決めようとやけに大振りだ。隙だらけ、だった。
「頼む! アック!!」
「おう! 対応型干渉魔術、双鎖重球陣!!」
それを逃さず、待ってましたと詠唱したアックに、ガクッとジョージの膝が折れ、体勢を崩した。
それでもジョージはすぐに起き上がり動こうとする。が、
「―――なっ、なんだ!? 体が……重いっっ……!」
ジョージの足に、鎖がジャラジャラと絡みついていた。それがジョージを重たく縛り付け、その動きを妨げる。
(なるほど、設置魔術に長けたアンカーを待機させずに動かしてきたのは『相手の動き』に干渉する魔術の罠にかけて、ジョージのハミルトンの光速剣技に対応するためだったか。剣の素人では一撃でやられることは目に見えているからね。だけど……)
「その術式は‟知っている”よ。特定魔術無効!」
トーチの右手がパッと光ると、ジョージに絡みついていた鎖がパリンッと壊れた。
「よし! 助かったぜ、トーチ―――!」
「もう一回だ! アック!!」
「双鎖重球陣!!」
「なに!?」
復活し、今度こそと意気込んだジョージ。だが、攻撃をしようと踏み出したジョージの足に再び鎖が絡みついた。
「何が狙いだい? この術式は効かないと、さっき―――」
トーチはインディビデュアルブロックで再びジョージを鎖から解放する。しかし、またしてもアックが術を発動し、ジョージの動きを止める。それはまるで、再現映像だった。同じことの繰り返しだ。
「テメエら! 一体何がしたいんだよ!」
思うように動けずイライラし始めたジョージ。それもそうだ。何度も立ち上がり、そのたびに足を引っかけられて転んでいるのだから。沸く怒りでガンッ!と地面を踏みつける。
「まさか......勝つ気が無いのかい?」
「いいや、勝つ気はあるさ。でも、それが一番じゃない」
ここでトーチらに勝つことを目的としていない。アザミの言葉にハッと表情を変えるトーチ。ということはつまり、狙いは別にあるということ。そして、その狙いは考えてみればすぐわかる。
「これは……時間稼ぎ、か!!」
「その通りだ、S1のリーダー。うちの妹が、どうしても決着をつけたい相手がいるんだってことでな。というわけで、お前たち。ここから先には行かせないぞ?」
立ちふさがり、アザミはニッと笑った。
***
(今頃、アザミとアックが戦ってくれている頃でしょうか)
シトラは一人、森の中を歩いていた。とはいえ、シャーロットがどこにいるのかはわからない。
しかし、シトラは感じていた。かつての相棒、聖剣フィルヒナートの気配を。
―――それを追っていけば、ミーシャにたどり着く。
少し歩くと、城壁が確認できる広い草原に出た。
そこはS1の本陣まであと少し、という場所だった。シトラは一息ついた。戦いの前の小休止、気持ちを落ち着けるために。
「ありがとうございます、アザミ、アック。私のために、時間を稼いでくれて……。そして―――」
その人影に、シトラは笑顔を作った。彼女の正面に立つ、剣を携えた銀髪の少女に向けて。
「お久しぶりですね、ミーシャ」
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