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26話 決勝戦(1) 〜もうひとりの転生者〜

 それは決勝戦第一試合が終わった少しあとのこと、A組の面々は教室に集まっていた。

 何をするのか。そんなの決まっている。明日のS1戦に向けた作戦会議である。


『……さて、何が聞きたいのかね?』


 教卓の上に置かれた呪符、通信用のそれから声がする。男にも女にも取れる、中性的な声。


「グリム、まずは説明してくれ。なんだ、これは……」


 アザミが机に肘をつき、怪訝そうな視線をグリムに送る。それもそうだ。いきなり集められ、誰とも知れぬ変な声を聞かされればこんな顔にもなる。だが一番釈然としないのは、みんなを集めて声の主を呼んだグリム自身が状況をはっきりわかっていなさそうな顔をしている点だ。


「説明ったってなぁ……分からん。でも、こいつは信用できるやつだぜ。情報屋(インフォーマー)、そう呼ばれているんだけどよぉ、実はちょっとばかしツテがあってな。依頼しておいたんだ」


『……で、何が聞きたい? いろいろ調べたよ。決勝も見た。情報の精度は君たちよりも高いと思うんだけどね?』


 その言葉に顔を見合わせる。信用していいものか。こういう時に、未知に飛び込めるものはそう多くない。そしてこういう時こそ、先陣を切るのがリーダーの役目だった。


「わかりました。利用できるものは利用させてもらいます。じゃあ、まずはS1の主要な人たちについての情報を出来るだけもらえますか?」


 誰も何も言わない状況の中、手を挙げて切り込んだのはアック。さすがリーダーだ。


『できるだけ、ねぇ。君たちって結構欲張りなんだね! あーいやいや冗談冗談。んっ、んん。じゃあ、早速……』


 咳払いを合図に、パァーッと呪符の色が変わった。かと思うと、チョークが勝手に動いて、黒板上につらつらと文字を描いていく。


【トーチ・キールシュタット 魔術師

 得意としている魔術は特になし。『歩く魔導書』という二つ名の通り、古今東西無数の術式に精通している。その知識を生かしてたいていの術式は『特定魔術無効インディビデュアル・ブロック』で防ぐことが出来る。】


【ジョージ・ハミルトン 剣士

 ハミルトン家に代々受け継がれるハミルトンの光速剣技(ルミナス・ハミルニア)と呼ばれる高速移動を得意とする。剣術の腕も学年でトップクラス。豪快な力を持ちながらも、繊細な剣捌きを可能としている。】


【リヴァ・フレイア 魔装術師(マジックキャスター)

 火ノ小太刀(フレアズ・ナイフ)と呼ばれる二本の短剣を使う。魔装展開時には移動速度、俊敏性が上昇し、双剣も炎を纏えるようになる。】


【クレア・スノウ 魔装術師(マジックキャスター)

 大盾使い。一度に複数枚の盾を生成し、操ることが可能。攻撃系魔術は使えない、防御専門。盾は守り以外にも相手の動きを止めたり、足場にするなど柔軟な使い方ができる。】


『……ってとこかな。まあ、これはあくまでおさらいレベルの情報なんだけどね。詳しい情報やデータは紙の資料にまとめてグリムくんに渡しておいたから後で確認してよ。で、、』


 ズラーッと黒板に並んだ情報を背に、情報屋(インフォーマー)が一息つく。と言っても呪符越しなので表情が見えるとかそういうのは無いのだが。


『……多分、全員が気になっているであろうこと。シャーロット・ローズウェルハートについてなんだけどね』


 その名にザワつく生徒たち。“王族が同じ学年にいる”。それだけでも大事なのに、まさかの王女様なのだからその衝撃は相当なものである。


(王族、ねぇ。魔王時代に触れることはそんなに無かったが、王の権威が強いことは俺が一番知っていることだしな)


 ローズウェルハート家。それはアズヘルン王国の王家である。その歴史は建国以来、なので500年以上だろうか。現国王ルイ・ローズウェルハートは病弱で、もう先が長くないと噂されている。そして、もしものときに国王の座を継ぐと言われているのが三王女と呼ばれる王女たちである。


 シャーロットはその二番目、第二王女なのだ。つまり、将来的にこの国を背負って立つ可能性のある存在。それが同学年に居れば、少なからず動揺もするだろう。


『そんなシャーロットの武器は剣だ。詳しいところまでは分からないけどね』


 情報屋インフォーマーの言葉に、隣のシトラがグッと唇を噛んだのが横目に見えた。アザミは「ふぅー」、と息を吐く。


(よく知っている。あれは、聖剣フィルヒナート。あの戦いの最後に俺を貫いた、シトラスを聖騎士の座につけた、そんな剣だ)


 使用武器は聖剣フィルヒナート。氷を支配する剣。剣術の腕は未知数だが、聖剣に選ばれるほどなので相当の使い手であると予想される……。アザミやシトラであればそこまでわかるが、まさか聖剣とかフィルヒナートとかに知識のない皆にとってはピンとこない話だろう。だから、そこまでは明かさない。


「……だけど、どうして王家の人間が聖剣魔術学園に? 騎士団は王家所属なんだから簡単に入れるだろうし……教育だって、いくらこの学園が国内トップでも、専属の家庭教師とかによる英才教育とかのほうがレベル高いんじゃないのか?」


 そんな中、確かに気になる点に触れたアック。「へぇ」と、アザミはそれに乗っかる。


「それは確かに妙だな。必要はないだろうにわざわざ通うということは、意味があるということだ。情報屋(インフォーマー)、何か心当たりは?」


『いや、そこまでは知らないんだけど』


「んだよ、使えねえな」


『なっ!? わた……オホン。自分だって、全知全能というわけではないんだ。知っていることしか知らない』


 クルリと綺麗に手のひらをひっくり返し、ケッと悪態をつくアザミ。それに対して『王家の情報は規制が厳しいんだぞ!』『大変なんだからな!』『聞いてんのか!』などなど……。呪符からわーわー声が聞こえていた。

 

『……確かに、王族が入学したという事例は過去にない。でも、シャーロット王女は入学した。君の言った通り、それにはきっと理由がある。例えば、“誰かに存在をアピールしている”とか? もしそうなら決勝第一試合でわざわざ切り札の聖剣を見せたことにも納得がいくんだけど―――』


 一応は情報屋インフォーマーにもプライドはある。ごにょごにょと考察を述べていた。だが、その言葉に双子はハッと顔を見合わせる。


「シトラ、ちょっといいか」


「はい……」


 アザミはシトラの手を引くと、まだざわつきの残る教室を出ようと扉に手をかけた。


「ちょ、、待てよ! 作戦は……」


「悪い、アック! 後で聞くから!!」


 呼び止めたアックに謝罪し、ガラガラと扉を開けて外へと連れだす。そして、双子は人気のない所へと向かった。


****************************


「シトラ。シャーロットについて何を知っている?」


 屋上への階段の踊り場。そこで腕を組み、壁にもたれかかりながらアザミはシトラに話を促す。情報屋の話にピンと来るところがあったのだ。そしてそれはシトラも……いいや、シトラこそ、より強く気がついてしまったことでもあった。


「……アザミ、あなたは聖剣の特性を知っていますか?」


 階段にちょこんと腰掛け、シトラが口を開く。


「聖剣? さあな。魔界にはそんなものはないからな。情報としてなら“剣自体が意思を持つ”とか“作り出すことは出来ず、神から与えられる”とか‟同一の剣はひとつしか存在できない”とか。その程度しか聞いたことはない」


 首を傾げ、アザミが答える。その程度と言いながらも、まあまあ知っている点は置いておこう。シトラはその答えに首を縦に振り、話を続ける。

                     

「後者はウワサですけどね。そうじゃなくて、聖剣は使い手を選ぶってことは知っていますか?」


「いいや、初耳だなそれは」


「聖剣は、聖剣に選ばれたものしか振るう事ができないんです。そしてその力を全て扱えるのは真に選ばれた人物のみなんです」


 その言葉にアザミは頭を抱え、深くため息をついた。懸念は確信に変わる。やはりそうだった。選ばれた者しか使えない聖剣。そして、それに選ばれたのは勇者シトラスのはず。だが、果たしてそれが、‟彼女一人だった”のかは述べられていない。ということは、


「シトラ……。まさか聖剣フィルヒナートに選ばれたやつが他にいたのか」


 シトラはその質問に少し悲しそうな顔を浮かべた。けれど、それはその通り。ゆっくりと頷いた。


「あの剣を仕えるのは私の他にもう一人……。ミーシャ・ロッツォという少女のみです」


「ロッツォ、それってまさかエイドの祖先なのか?」


 聞いたことのある名字に反応するアザミ。「多分?」と曖昧ながらも、シトラは頷いた。


「おそらく、そうだと思います。ロッツォ家はローズウェルハート家の分家ですし。今は没落していると思いますが……」


「んで、そのミーシャってやつと何があった。情報屋(インフォーマー)の言う通り、あの行為が誰かに向けたアピールなのだとしたらその対象は……シトラしかいない、だろ? そして、もしそうなら―――」


「ええ。シャーロットはミーシャが転生した姿、私達と同じってことになりますね。だって、私の顔を知っていることになるのですから……」


 シトラはそう言って膝を抱え、うつむいた。心当たりはある。けれど、それは、


「あまり話したいことではありません。あの子の人生を狂わせたのは……、ロッツォ家の没落の原因は、少なからず私にあるのですから」


「なるほど、な。でもまあ、無理に話すことじゃない。いずれにしろ決着は着けなきゃいけないと思うがな」


「え?」


 シトラが少し驚いた顔でアザミを見上げる。


「なんだよ……」


 アザミは少し頬を赤らめ、目を逸らした。こういう形で見つめられたのは初めてだったから。シトラのきょとんとした目なんて、見る機会はろくになかったし。


「いえ、、厳しいことを言われると思っていたので……。『弱音を吐くな!』とか」


「お前なあ……。確かにお前が弱音を吐いているのを見るのはかつての好敵手(ライバル)から見てあまり気持ちのいいものではないけど」


 何といえばいいのか。言葉が思い浮かんでは、あぶくのように消えていく。もどかしい。「あーもう!!」と頭を掻き、シトラの横に腰を下ろした。


「別に俺はお前の過去に干渉するつもりはない。それは、お前自身が決着をつけるものだからな。シトラ自身で決めなければならない。だから、決勝戦でシャーロット、いやミーシャに直接ぶつけてこい! 俺が望むのはそれだけだ」


 そう言ってシトラの額をペシッとはたき、立ち上がる。恥ずかしいことを言った気がする。


「戻るぞ。作戦会議の途中だしな」


 そう言って振り返ることなく、階段を降りていくアザミの後ろ姿。シトラは握りこぶしを、胸の前で抱いた。確かに、アザミの言う通りだ。


「―――そうですね。もう過去から逃げたくありません。だからミーシャ。決着を着けましょうか。決勝で」


 かつての魔王にそう言われては勇者として立つ瀬がない。まさか逃げるなんて、なおさらそうだ。

 だからシトラは誓う。必ず、ミーシャと決着をつけると。ずっと逃げてきた……過去の罪に向き合おう、と。


**


 それぞれがそれぞれの理由で挑む決勝戦は、終にその当日の朝を迎えた。


「ついに決勝戦だ。みんな、よく眠れたか?」


「アック、君に言われても説得力がないよ」


 ダグラスが目の下にくまを作っているアックを指差す。確かに、眠れたかと尋ねる張本人が一番眠そうでは話にならない。そんなアックに、グリムは腹を抱えて転げ回っていた。アックとて羞恥心はあるし、思うところはあるが……それでも、これだけ笑えれば大丈夫だろう。緊張とか、そう言うのは心配無さそうだ。


「まったく、誰のせいで寝不足だと……、とりあえず、S1のデータは読み込んだな?」


「バッチリよ! 任せとけって!!」


 グリムが笑いの残る腹を抱えたまま、親指を掲げる。それにしても笑いすぎじゃないか?、とそろそろ耐えきれなくなってきたアック。


「い、いいだろ!? 緊張して眠れなかったんだよ!!」


「おいおい、リーダー……。お前が一番しっかりしなきゃいけない所だろう」


 アザミは「はぁー」とため息をつく。こんなので大丈夫なのか?、と。だが、隣に立つシトラは不安そうなアザミをよそに、一人集中を高めていた。


「まあ、いいんじゃないですか? ここで勝ったら優勝なのです。史上初の普通科優勝ですよ。そのクラスのリーダーなんて、緊張もプレッシャーもありますよ」


 シトラは魔剣を見つめながら表情ひとつ変えず、淡々と言う。さすがは勇者、だろうか。潜り抜けてきた死線の数が違う。今更、死の存在しない模擬戦闘なんて緊張のきの字も無いか。


「シトラは、随分落ち着いてるのな。昨日の弱気が嘘のようだ」


「覚悟を決めたんです。もう、逃げないって。……あ! アザミ、力を分けてくれませんか? どうも、まだ力が安定しなくて……」


 思い出したようにフッと顔をあげ、アザミの方へ駆け寄る。

「分かったよ」と言い、アザミがシトラの頭を両手で持って、トンっとお互いの額をぶつけ合わせた。成長したことでシトラも魔力をある程度は操れる。だが、アザミと違ってシトラは魔術の腕はからっきしだった。だから、未だ戦うときはアザミのサポートがいる。勇者として、魔王の手を借りるのはモヤモヤするのだが、戦うためには仕方ない。


「―――ふうっ」


 暖かな魔力がシトラの体内に流れ込む。恒久の魔眼、アザミの力である『魔力無限』を利用してシトラに魔力を分け与えているのだ。こうすることで、シトラは力を真に使うことが出来るようになる。


「……あ、あの! シトラちゃん、本当に一人で大丈夫なんだよね?」


 恥ずかしいものを見ているかのように目を両手で抑えながら、エイドが尋ねる。当たり前みたいにやっていたが、周りから見れば‟兄妹”の域を超えているのだ。この双子の関係性は。


「昨日も言ったとおりです。シャーロット・ローズウェルハートの相手は、私がします。安心してください、負けませんよ。もう、絶対に……」


 シトラはそう言ってグッと、強くて堅い握りこぶしを作った。

 そして、その時はやってくる。覚悟を決め、いざ本番が。


「じゃ、行くか!!」


「「「「おう!!!」」」」


 威勢よく返事をし、Aクラスの面々は戦場へと歩みを進める。覚悟と、決意と、そして少しの緊張を持って。

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