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289話 過去と駆け引きと約束――地下――

「あづーい、、妾にこの暑さは無理ぃーー」


「……我慢しろ、メグミ。あと急にキャラ変わったな」


「バレるから一人称と話し方を変えろってばあやに言われてたの。あーまったく、窮屈だったぞー!」


 日は頭上に高く昇り、容赦なく照りつける。太陽の光を吸い込んだ灼熱の砂は見ているだけで全身を焼かれているような気分になる。そんな中、タローにおんぶされながらメグミがよろよろと拳を掲げる。

 そう、元々メグミは天帝一族を追放されてからは首都オドエオの隅の屋敷で父母とお付きのばあやと4人暮らしだった。そしてメグミがまだ7つの時に鬼族の戦士だった父親が戦死し、母とばあやと3人暮らしになってからはメグミは寂しさを紛らわすかのように母親にベッタリになった。その時に母親の話し方が伝染したのだ。だからメグミの話し方は母親からの数少ない形見と言える。それを『バレるから』と着飾っていたことはメグミにとってとても窮屈なことだったのだ。だが、アザミ達に完全にバレた今、着飾る必要なんてまったくない。


「……まあ、前の話し方のほうが女の子らしいと言えばらしかったがな」


「妾におなごらしさなど求めないで、むず痒い。……まぁ、妾は世間知らずだからな〜仕方がないっ!」


 幼い頃からメグミにとっての世界は狭い屋敷のみだった。天帝一派に禁忌を犯したものがいる、など知られたら権威に関わる恥だ。だからバレないためにも外出することは許されなかった。なので実は、首都を逃げ出してからヨーキとタローと、そしてアザミ達と冒険したことはメグミにとって生まれてはじめての外出ということもあって、結構楽しんでいたりする。そんな中、暑さでバタンキューなメグミを見て首をかしげるトーチ。


「……世間知らずでも、メグミさんは可愛いと思うけどね。アザミと口論していた時も今にも消えてしまいそうな儚さがあって、本当に綺麗だった。……それと胸g―――」


「だからッッ!! ……ッ、、妾が実は天帝の血を引いてました、って知ってもその態度なのね、変態っ!」


 結構良いことを言っていた前半を台無しにする勢いのトーチの発言を最後まで聞くこと無く、タローに背負われたままメグミがその横っ面を引っ叩く。だが、トーチは笑みを浮かべて起き上がり、メグミを真っ直ぐに見つめる。


「……でも、君は今一般人だ。追放され、天帝の身分には届かない」


「わ、分かってるわよそんなこと......」


「じゃあ君は、何をしたいんだい?」


 そこに至った経緯も、その言葉に込められた意味すら省略されたトーチの一言。だが、メグミはそれが理解できた。なぜならそれこそがメグミが今思い悩んでいる種だったから。


「……まさか、まだなにか隠しているのか?」


「違う、アザミ! ……隠してるんじゃなくて、、わからないの......ええ、そうよ。そこの変態が言うように私はわからなくなった......」


 天帝の一族から追放されて一般人になった。なのに、その地位にすがってしまうのはなぜか。父親は反乱軍との内乱で戦死、病気がちだった母親は反乱のせいで高騰した薬に手が出せず、死んだ。そしてそれから親代わりをしてくれたばあやも首都を燃やし、乗り込んできた反乱軍の手で命を奪われた。


(だから私は......反乱軍を仇だと思って過ごしてきた、、でも、、、)


 でも、最近になってメグミはそれがわからなくなっていた。確かに反乱のせいで大切なものを失った。でもそもそも反乱が起きたのは天帝の政治が上手くいっていなかったせいではないのか、と。前近代的な政策に制度。それに不満を持つ民衆が立ち上がるのは当然なのではないかと。そうだとしたら自分はどちらにつくのが正解なのかと迷うようになった。そんなメグミを横目にアザミが厳しい言葉をかける。


「……迷うなら戦いなんてしないほうが良い。敵はハッキリ決めろ。もしメグミが復讐をやめると言うならそれでメグミの戦争は終わりだ。この先は俺たちだけで行く」


「―――ッ、やめない! 絶対、やめないから......正直今の妾では天帝派、反乱軍のどっちが正しいか分からなくなっている。でも、ばあやを殺したのは紛れもなく奴らだッ。そこのケジメはつけたいから、、」


 迷いを完全に断ち切ることは出来ない。それでも、ここまでやって来れた原動力を止めるわけにはいかない。だからメグミは心を決めた。反乱軍と天帝派、どちらが正しいのか、どちらがこの内乱を生んだのかが分からなくても戦い続けると。


「迷っても妾はやるぞ、アザミ。だってその答えを戦いの向こうで見つけるんだから―――」


「……その意志は分かった。けど、そういうセリフは“そこ”から言うものじゃないだろ」


 せっかくのかっこいいセリフなのにタローにおんぶされた状態のメグミにアザミは苦笑する。だが、元とはいえ引きこもりには厳しすぎる暑さにメグミはそれ以上反論しようともしなかった。その気力はもうなかったから。

 そんな中、先行していたクロトが砂丘の上からブンブンと大きく両手を振っているのが見えた。その笑顔は嬉しそうに輝き、長旅で案外疲れていたアザミたちに希望を与える。


「どうやら、着いたようだな......」


 流石のアザミ達と言えどもこの暑さでは体力も相当に消耗する。それでも目的地が目前に見えると、力は湧いてくるものだ。最後の力を振り絞って砂丘を登り、そして眼下に広がる光景に息を呑む。


「……ここが、、鉱山都市アルカマクか―――!」


 大きく窪んだ砂の中にそびえ立ついくつもの建物。鉱石を運び出すためか、大きな車輪のようなものがあったりガガガと大きな音を立てる施設があったりと、そこには王都では見たことがないようなゴツゴツした物が多くあった。だが、


「あれっ? 人の気配がないな、、、まさか―――!?」


「……大丈夫さ、アザミ。僕について来て!」


 鉱石を掘り出すための仕組みや建物はいくつもあるのに、そこには肝心の人間が一人もいなかった。生物すら見当たらない。その人気の無さに「もしや、すでに反乱軍によって滅ぼされたのでは?」と最悪の想像に駆られるアザミ。だがトーチは焦ることもなく、慣れた足取りでサーッと砂の側面を滑って降りていく。


 トーチの言葉に従って皆も砂の上を滑るように下へ降りる。下に降りて見て気づいたことは、そこを囲んでいる砂丘は相当の高さがあったということ。下から見ると「よくためらいなく滑れたな、、」と思い返して恐ろしくなるレベルの高さだということだった。そして本当に今なお稼働している採掘現場には人一人として存在していないということ。だが近くでその現実を見てもなお焦らず、何かを探してキョロキョロとあたりを見渡すトーチ。


「えっと、確かこの辺に......あった!」


 しばらくあたりを探していたトーチが「おっ!」と発見した様子でかがみ込む。アザミはトーチの立ち止まったあたりに目を凝らすが、そこにはなにもないように見えた。砂嵐が運んできたのであろう黄色色の砂が降り積もるただの床にしか見えない。だが、トーチがサッサとその表面に積もる砂を払うとその下に鋼鉄製の隠し扉があった。


「おいおい、何だそれは、、」


「知らなかったのかい? アルカマクはイシュタル帝和国随一の鉱山都市で、そして唯一の地底都市なんだよ」


 その言葉通りギギギと錆びた音を立てて開いた扉の向こうには真っ暗な階段が続いていた。そしてそれを見てアザミは思う。


(移動都市オリハラ、地底都市アルカマク......イシュタル帝和国の街は一風変わっているのか!?)


 この流れだと首都オドエオは宙にでも浮いているのだろうか、なんて馬鹿げた空想がアザミの脳内でモヤモヤ膨らむ。


「……こういうアズヘルン王国じゃ体験できない街、これこそ異文化って感じですね、アザミ!」


 その隣で目をキラキラ輝かせるシトラ。アザミは「こういう秘密基地みたいなものでウキウキするのは男子の仕事だろ」と苦笑しながらも階段の前に立ち、そして一歩を踏み出す。カツーンと暗い地底に吸い込まれていく足音。


「じゃあ......行くか―――」


 アザミを先頭に11人一列に階段を下っていく。その先にある地底都市アルカマクを目指して。


(……へぇ、思ったより深いんだな。でも、)


 でも、クリムパニス大墳墓ほどではない。アザミとシトラ、いや魔王シスルと勇者シトラスが初めて出会った場所でもあるその大墳墓の999段の階段よりはマシなようだ。カツンカツンと下っていくとすぐに奥に小さく光が見えてきた。それはおそらくアルカマクの街明かり。

 

 それが近づくにつれて、心音が大きくなっていく。クロトはそれを隠すようにキュッと服の胸部分を掴み、自分に必死で言い聞かせる。


(……大丈夫、大丈夫よクロトちゃん......不安になることなんて、きっと無い、、だから、、目を開けなくちゃっ―――)


 でも、その光が大きくなるに従ってクロトは目を開けることが出来なくなっていた。怖かったからだ。もしもその光の中に飛び込んだ時、そこに何もなかったら―――。その奥にあるのが救いようのない地獄なら?


「ハァ、ハァッ、、ハァ―――」


 フラフラと足元がおぼつかなくなり、視界がぼやける。過呼吸気味にだんだん息苦しくなる。だがその時、そんなクロトの首筋にピトッと冷たい指先が触れた。そのおかげか一瞬呼吸と拍動が止まり、そしてやり直すかのようにまたいつものペースで再開する。ゆっくりと振り向いたクロトの目に飛び込んできたのは、


「……トーチパイセン?」


「大丈夫だよ、クロト。僕らがいる。……僕らならたとえ何があっても乗り越えられるさ。だから、逃げちゃダメだよ」


 逃げちゃダメだ―――そう、憧れの先輩からの言葉にクロトは大きく深呼吸をし、その先に踏み込む覚悟を決める。


「……じゃあ、約束ですよトーチパイセン。クロトちゃんがもしも泣いちゃったら、その胸貸してくれるって」


「造作も無いよ、それぐらい。僕はクロトを見捨てたりはしないさ」


 こういうところはイケメンだ、クロトは涙を拭ってニッと笑う。


「着いたぞ、ここがアルカマクだ―――」


 クロトは作った覚悟をそのままに光の中へ足を踏み入れた。

 そこに広がっていたのは地中にあるとは思えないほど広い空間と、発展した町並み。灯りのおかげで太陽光の届かない地中でもよく見える。そして外よりも涼しい。ガヤガヤと聞こえてくる人の声。どうやらここには人がいるらしい。と、ホッとしたのもつかの間、アザミ達は違和感に気がつく。


「……待て、よ......この声、悲鳴に聞こえないか?」


 街の至るところから聞こえてくる声は活気に溢れた生活音と言うよりかは逃げ惑う声に聞こえた。そしてそれを裏付けるかのように、遠くでボンッと爆発が起きたのはその直後だった。



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