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20話 新人戦(4) 〜選抜VS選抜〜

【聖剣魔術学園豆知識】

レイン・クローバー   S2のリーダー。長い黒髪と漆黒のように黒い瞳を持つ。背丈はシトラと同じくらい。得意としているのは魔弾レボルバーを使用した中距離戦闘と剣を使った近接戦闘。なにやら不思議な眼を持っているらしいが・・・・・・


アネモネ・フィリス   S2の生徒。茶色のフワッとした髪と瞳を持つ。背丈はレインより低く、フレイアと同じくらい。語尾に「にゃー」とつけるユルユルしたキャラの持ち主。実はアイドル活動をしていたりする。レインにかなり懐いており、ムーちゃんと呼ぶ。


 午後を迎えた。それは決勝戦第一試合が始まる時間だ。組み合わせはS1対S2。将来を期待される選抜科どうしの対決ともあってか、会場のボルテージは最高潮だった。


 会場、新人戦の模様は記憶投影術式(キャストメモリー)を応用して、会場に配信される。その配信が行われているのが、聖剣魔術学園の中にある競技場である。新人戦や秋の双剣戦デュオ、クラン戦なども行われる広いコロッセオのような場所、それが競技場。その中央の広場に、戦いの模様がリアルタイムで投影される。


 この場にいるのは学園の生徒、保護者はもちろんのことながら、スーツを着た男たちや、鎧装備を身につけた騎士など様々な人がいる。その目的はスカウト。魔術大学校の関係者は推薦入学対象の生徒を、騎士団は将来有望な金のヒナをそれぞれ見に来ているのだ。


 そしてそんな中、B組に快勝したアザミたちもここにいた。


「よし、見るかっ」


 予選を突破した余裕なのか、アザミは腕を組んでドカンと座席に腰を下ろす。


「……緊張するな」


 アックは堂々としたアザミと対照的に周りを伺いながらそっとその隣に腰を下ろした。


「どうしてお前が緊張するんだ、アック。どちらと当たろうが勝てば優勝だろう?」


「馬鹿言うな、アザミ。君と違って俺はそんなに落ち着いていられないよ、、、、まだ勝ったって実感ないもん」


「んなこと言ったら俺もだぜェ! まだ勝てたって信じられねえ!」


「まあ、グリム君は序盤で死にましたからね。実感はなくて当たり前です。むしろ記憶もない―――」


「―――んだとシトラテメェ! 俺ァ、真の男女平等主義者でよ、女子だからって手加減しねえぞォッ!!」


 グリムがシトラの発言に「おいおいッ!」と立ち上がった。シトラは素であの発言をしているわけで、それなのに突っ駆られると流石にムッとするらしい。その手の中で魔剣がカランと揺れる。それを見て慌てた様子でエイドがそれを抑えたから事なきを得たのだが。


「やめなよグリム! あなたじゃシトラちゃんには勝てないって!!」


「――っ、、何も言い返せねえ……」


 ぐぬぬぬと悔しそうな顔になるグリム。来ないのですか?、と首をかしげるシトラ。

 それを見て兄とリーダー(アザミとアック)が深いため息をつく。


「……馬鹿は置いておいてだな、この試合で気にすべきポイントは戦い方、そして相手がどのような魔術を得意としているか、だな」


「ああ。情報を得られなかった分は生で見ないとね、、あっそうだ! グリム、この前『任せて欲しい』って言ってた件だけど……」


 思い出したようにポンっと手を叩くアックの言葉にグリムがシトラから目線を外し、ニヤリと自信ありげにアックに向けて親指をぐっと上げる。


「その件は大丈夫だ。この試合が終わって対策会議をするときに役立つぜ!!」


 グリムがニッと歯を見せて誇らしげに笑う。ちょうどそのとき、ゴーンと時計塔の鐘が鳴った。


「14時、定刻だ―――」


* * * * * * * *


「それでは、、、両クラスとも、、、、準備はよろしいですか、、、、、??」


 競技場の中央に集う両選抜科。トーチとレイン、ともにリーダーを中心にしてにらみ合う。


「……やあ、トーチ・キールシュタット。今日はよろしくね」


「レイン・クローバーか、“はじめまして”。せいぜい良い試合にしようね?」


 トーチの言葉にレインは一瞬怪訝そうに眉をひそめるも、両リーダーはそう言ってフッと笑って握手を交わす。それを見て「そろそろ、いいですか?」と、オドオドと声をかけるクリカ。二人がコクリと頷くのを見て、「ふぅー」と息を吐くと、掲げていたその手がブンッと振り下ろされた。


「そ、、それでは、、、、転送開始(アナザーポーター)!!」


 両クラスの生徒たちが金色の光とともにパッと姿を消す。決勝第一試合が始まった。


* * * * *


「大変お待たせいたしました!! 決勝戦の開幕です!! 司会は変わらず、放送部のマイクがお送りします。そして解説も引き続きサラ会長、お願いしますっっ!!」


「よろ」


「……なんか適当になってませんかね? ……っと、まずは両クラス探知術式を起動します。S1は半分が待機、半分が攻撃という陣形ですが、、これはまさか!!」


「へぇ、面白いじゃない。……さて、どっちが勝つのかな?」


* * * * * *


「おい、アザミ! どういうことだよ! こんなのってあんのかよ!!」


 ざわつく会場。グリムも投影されたS2の動きを指差し、興奮した様子でアザミの襟首を掴んでブンブンと振っていた。アザミはその手を鬱陶しそうに払い除け、投影された試合の光景に集中する。


「うるさいぞグリム、少し黙れ。とはいえ、、これはどういう意図があるんだ? 理論上は悪手に違いはないんだが……」


「まさか過ぎるだろうがよ、、“全員攻撃”なんてなァ……」


―――王様を含めた全員が前衛、なんて悪手のハズ、、、、なのに、なんだ? この違和感は……




「おい! トーチ、どうするんだ!?」


「うるさいなジョージ、少し黙ってくれよ。僕も予想外なのさ、恥ずかしながらね。……王様を前に置くなんていったい何を考えているんだい、、、、」


 爪をかみ、頭を悩ませるトーチ。聡明なトーチでもS2の“全員攻撃”は想定外だった。だが、


―――とはいえ相手も選抜科。何か考えがあってのことだろうし警戒しておくか......


 何も思惑無くこんな愚策を取るはずがない。レイン・クローバーという少女はそこまで馬鹿ではないとトーチは知っていたから。だから、とりあえず今取れる最低限の動きを取るうとトーチは胸ポケットから一枚の呪符を取り出した。


「聞こえるかい? クレア、フレイア」


 それは通信用の呪符。トーチが通信用呪符を用いて自軍の城と連絡を取る。その相手はクレアとフレイアだった。城の方も想定外の事態に動揺していたようで、すぐに返事が返ってきた。


「―――聞こえてるわよ! で、どうすんのよトーチ。あいつら、全員で攻めてきてるわよっ!?」


「落ち着いて、慌てたら向こうの思うツボだよ。……とりあえず、早いけど今からクレアに魔装を使わせてほしいんだ。全員攻撃によってこの隙を突かれるのはマズイからね。警戒を怠らないように、頼むよ......?」


「……分かったわ。クレア、お願い―――」


 トーチの指示を受けたフレイアの言葉にクレアが素直にこくんと頷き、手を組み祈りの姿勢を作る。


「救いの手に神の加護を〜 God's blessing in the hands of salvation 〜、、魔装展開(コクーン)!!」


 その祈りに応えるよう、クレアの体がパァッと青く輝いた。次の瞬間、クレアの周りに何重もの大盾が出現し、その盾がグルグルッとクレアを厳重に包み込んだ。そうしてまるでサナギのような盾で出来た球体が完成する。



「ま、まさか彼女は魔装術師(マジックキャスター)なのか!?」


「お! 知らない単語が来たぞ。アック、説明を頼む」


 もうここまで来たら恥も外聞もない。さあどうぞっ、とアザミとシトラが目を輝かせてアックを見つめる。


「……もう君たちの無知っぷりにも慣れたよ」


 強く、戦況を正確に見極める頭の良さがあるくせにこうした常識的な、現代的な言葉に疎い―――そんな双子の不思議な無知に慣れてしまった自分にズキンと頭が痛む。アックは側頭部を押さえながら「はぁ」、とため息をつき、


魔装術師(マジックキャスター)ってのは、魔術を霊装化して身にまとえる魔術師のこと。簡単に言えば自分自身をひとつの霊装にしてしまうってことだな」


「それは、、難しいのか?」


「そりゃな。魔装術師(マジックキャスター)なんて魔術師全体の1%もいないよ。魔術を固定するだけでも大変なのに、それを自分の体と一体化させようって言うんだからね」


「そんなに少ないのですか……。ところで自分自身を霊装化することのメリットとは?」


「うーん、、ひとつは身体能力の大幅強化。そしてもうひとつは身体を魔力で覆っているから、魔方陣などを必要とせずに魔術を放てるってとこかな」


「おいおい、それはかなり強いじゃないか......」


 アックの説明を聞く限り魔装術師マジックキャスターは相当に強い。アザミの背中を冷たい汗が流れる。見ていてよかった、シードをとっていてよかった。初見でS1にあたっていようものなら間に合っていなかっただろうから。


―――相手の魔術式、魔方陣を読み解いて動きを先読みすることを得意とする俺にとって、ノーモーションで魔術をぶっぱなしてくるのは天敵、だな、、、


 ふむ、と明日の決勝戦でS1にあたったときのことを思って考え込むアザミ。だが、基本的に魔術に疎いシトラはそんなことお構いなしにただ自分の疑問をアックにぶつけていた。


「でもあれは、、クレアさんは魔力を纏うというより、纏われてませんか??」


 盾に囲まれたクレアを指差してシトラが尋ねる。もう質問攻めにも慣れっこなアックはすんなりとシトラの質問に答えるのだった。


「ああ。魔装術師(マジックキャスター)はその能力使用時は常に魔力を放出し続けている状態なんだ。つまり魔装を展開できる時間にも限りがある。おそらくクレアはその魔装を実体化し、さらに球形にすることで魔力を循環。これによって魔力の消費を極限まで抑えているんだ」


「……つまり、あの防御は長いこと続くってことか。フンッ、やはり化け物じゃないか」


 肩をすくめ、アザミは改めて戦場の様子に視線を戻す。


―――ま、あれじゃ王様は明らかだな。別にバレたところでって感じはするが、、


* * * * * *


「ムーちゃん、ムーちゃん!! なんなのにゃ、あのでっかいボールは!!」


 人気のない薄暗い森の中、そこで1人佇んでいるレインの通信用呪符からにゃーにゃーと明るい声が聞こえてくる。レインは緊迫感などどこかに捨ててきたかのようなアネモネのテンションにクスッと笑い、答える。


「……分かってるよ、こっちからも見えてるからね。……どうやらあれがS1の王様、かな」


「にゃっ!! ってことはネモちゃん達、あれを倒すのにゃ!?」


「まぁ、ネモちゃんなら行けるよね―――?」


「よ、余裕だにゃ! ヨユーダニャ―......ごほんっ。まぁ、作戦通りにネモちゃんが目になるからよろしくにゃ〜!」


「はいはい、期待してるからね」


 そう言って通信を切るレイン。レインは戦場の真ん中なのにその場から一切動かず、腰に手を当てたまま落ち着いた様子を見せている。そんな油断しまくった敵のリーダーに狙いを定めないはずがない。当然のように、その背後には人影が迫っていた。


「こちらルージェ。本部聞こえるか―――」


 その少年は通信用呪符でS1の本陣と連絡を取る。彼の名はルージェ・ヘイス―――S1の生徒だ。右手に魔弾スナイパーを持っている。

 彼は幸運だった。敵を探して森を歩いていたら偶然にもレインを発見したのだ。スコープを通して見えるレインの流れる黒髪に思わずつばを飲み、指先が震える。その時、呪符から言葉が返ってきた。


「……こちら本部、どうぞ」


「今俺の目の前にS2のリーダーがいる。念のため探知術式確認してくれ」


「マジかよ、おう。……ちょっと待て」


とりあえず、とルージェは「はぁー」と深く息を吐いた。ここで敵のリーダーを倒せば、もしも王様なら大金星だ。トーチ・キールシュタットという絶対的なリーダーがいるS1でなり上がれる可能性すらある。思わずにやけてしまった顔を「しっかりしろっ!」と叩くルージェ。だが幸いレインはまだ気づいてなさそうだ。自分の魔弾(レボルバー)をいじり、背中を向けている。返事を待つ時間は随分と長く感じられた。が、ようやく結果が返ってきた。


「こちら本部。ルージェ、そいつが王様だ。探知術式に反応がない。凄いよお前、よくやったな! 念のため近くにいた3人を向かわせた。揃い次第不意打ちで倒せ」


「了解! へへっ、悪いなトーチ。俺がMVPもらっちまうぜ!」


 高鳴る胸を抑えつつ、ルージェは魔弾(スナイパー)を手に取り、スコープを覗き込む。


―――3人の加勢、か。まあ一番槍は俺だぜ。大丈夫、あの女は俺に背を向けてやがる、、


 最後の確認、のつもりで覗き込んだスコープに写ったのはレインの後ろ姿。

    

 それと、“自分に向けられた”レインの握るレボルバーの真っ黒な銃口。


「んだと―――」


 気づいたその瞬間、銃口がキラリと光った。それがルージェの見た最後の景色。途端、スコープを覗き込んでいた視界がフッと消えたのだ。


「ぐ、、ぐぁぁぁあッッッ!!」


 痛みと焦りでのたうち回るルージェ。本人は気がつく由がないが、レボルバーから放たれた銃弾により顔の半分が吹き飛ばされていたのだ。目を開けようと努力しても、その右目が顔に存在していないのだから不可能。ルージェの頭の中をグルグルと走馬灯のように「?」マークが駆け巡っていた。


(な、なんで後ろ向きで俺を正確に狙えるんだよあの女―――!!)


 だがそんな疑問は届くことも、そして答えが返ってくることもない。間髪をいれずレインが2つ目の魔弾レボルバーを取り出し、ルージェをかすめるように左右へ一発ずつ撃ち込んだ。


「がっ!!」「ぬおっ!!」


 その弾丸が通り過ぎた刹那、森の中から断末魔が聞こえてきた。それがルージェの元へやってきた、あの呪符で伝えられた“加勢”だと気がつくのにしばらくかかる。ルージェの無事な側の頬を冷たい汗が伝う。


「さて、あとは正面の人だね―――」


 尾の言葉とほぼ同時、レインの真正面から閃光が飛んできた。だがそれを、“さも知っていたかのように”ひらりと避けるレイン。それが格の違い―――ルージェは尻餅をつき、その手の魔弾スナイパーをドサッと地面に落とした。握力など震える手にはもう少しも残っていなかった。そんなルージェに構う様子もなく、レインは楽しそうにクスクスと笑っていた。


「あはは、見えてるよっ! でもちょっと遠いかな〜?」


 レインが手負いのルージェの方へ走ってきて、落ちているスナイパーを拾う。


「ラッキー! スコープは割れてるけどこの子は壊れてないみたい!」


 そう言って右手一本でスナイパーを、まるでレボルバーのように構えるレイン。その細長い指先を引き金にかけ、


「ていっ!」


 そんなふざけた掛け声とともにレインのスナイパーの銃口がキラリと光り、銃弾が光の尾を引いて飛んでいく。……それに対して森の奥にいる加勢は撃ち返してこない......ということは命中したのだろう。


「そ、そんな……化け物だ―――」


「あらら、まだ生きてた? ふふっ、なかなか生命力があるんだね。でもね、ここまでだよ。……おやすみ―――」


 最後にルージェを一瞥し、レインが笑顔で引き金を引く。その閃光が見えた瞬間には残っていた半分の顔が完全に消し飛んでいた。そして、ルージェの意識もそこで完全に消えたのだった。


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