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18話 新人戦(2) 〜アザミVSゴードン〜

「なっ......それじゃあ、まさか……」


「ああ、俺達の勝ちだよ―――」


 ダグラスから結果を聞いたアザミが不敵にも笑みを浮かべる。俺たちの勝ちだ―――そう、勝利を確信した余裕の表情で。


* * * * *


「おぉっと、ここでB組のゴードン・アクセル君がA組のグリム・カイエン君を倒しましたね。初撃破はB組、グリム君はこれでゲームオーバーとなります!!」


「ふーん。……でもこれは“悪手”だね」


 サラが解説席でふぅ、と息をつき、椅子に深く腰を掛ける。マイクはそんなサラの解説に「というと、」と驚いたように目を見開く。


「というと、B組がなにかミスをしたってことですか?」


「ええ、勝負はおそらく着いたわ。A組がここまで読んでたらの話だけどね......」


―――まあ、とはいえあの双子……特に兄ならきっと、ね。


 フフッとサラは笑った。その脳裏を初日から指導、という新記録を作った双子の顔が過る。


*  * * * *  *


「アック、シトラ。作戦通りに行くぞ!」


 結果を聞いた後、すぐにアザミが通信用呪符で二人に連絡を取る。


「分かった。でもアザミ、決して油断はするなよ!? 他のみんなは敵と遭遇し次第各個撃破でよろしく!」


「「「了解」」」


 アックの指示にアザミ含めみんなが行動を開始する。アザミはスタッと木から降りてグリムがやられた場所を目指して真っ直ぐに加速する。



「あー、やられた…」


 校庭に設けられた各クラスの待機テント。その中でグリムは目を覚ました。……手も足も動く。斬られたはずなのに血も傷も痛みも全くない。


「殺された、、、、なんて信じられないぜ。本当の戦争ならこうやって体を動かすことも出来ねえんだろうけどよ......」


 完全に背後を取られた、それに気づいたときにはすでにグリムの首は飛んでいた。それを思い出してブルッと身震いする。


(レーダーなんて関係ねえ。あれはマジの化け物だぜ、アザミ。お前の読みが当たったとはいえ、あんな奴にマジで勝てるのかよ……)




「デカイ体に、それが小さく見えるほどの大鎌......間違いない、お前がゴードン・アクセルだな?」


 そんなグリムの心配とは裏腹に、アザミはゴードンを発見し、その巨体と向かい合っていた。正確に言えば発見したのではなく、ゴードンがグリムを倒したときに利用した術式の匂いを追ってきたのだが。

 返事を待つこと無くアザミはまっすぐゴードンにむかって跳ぶ。


「ふん。よく見つけたのであるな。だが、ここまである!!」


 そんな奇襲めいた攻撃に顔色一つ変えず、ゴードンがそう言って大鎌の霊装を振るった。ブン、と空気が裂かれる音がしてアザミの足元の地面に亀裂が入る。目と鼻の先を通過した斬撃にピターッと急停止するアザミ。


「あぶないな......」


「よく立ち止まったのである。だが所詮は一時の延命にすぎぬ―――!」


 ゴードンは大鎌を右手一本に持ち変え、左手で掃射魔弾(ガトリング)を起動する。キラリとその銃身が一瞬光った。その魔弾ガトリングがゴードンの魔力由来の弾丸を射出するその瞬間―――


 その一瞬をアザミの眼は見逃さない。


(魔術式は……見えたっ。0.7秒後、狙いは俺の周囲1メートル弱―――)


 アザミの脳内をその魔法式が通過すると同時にババババッと連続する破裂音。

 それと同時にアザミが真上へ跳び、超速で飛んでくる弾丸を全て回避した。


「避けた!? のであるか、、、面白いぞ貴殿ッッ」


 ハハッと笑ってゴードンは魔弾を捨て、再びその最大の武器である大鎌を両手で握り直す。そしてアザミを追ってズガッと思い切り地面を蹴る。上へ飛んだアザミは今度は木を伝って森の奥へ奥へと逃走を開始する。


「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ―――?」


「貴殿がふざけていられるのも今のうちであるっ!」


 アザミを目掛けてゴードンが大鎌を幾度となく振るう。だが、そのたびにギリギリのところでアザミはかわす。


「ええい、ちょこまかと、、、、これは少し本気で行かせてもらうぞ。蒸気流加速式(ボイルアクセラー)!!」


 そう詠唱したゴードンの体からプシューと蒸気が立ち上る。と、次の瞬間先ほどまでの速さとは比べ物にならない速さになったゴードンがアザミに迫ってきた。


 しかしアザミは動じない。


「|自己加速術式、限界解除オーバーフロー!!」


 刹那、アザミの体がグーンと後方へ急加速し、ゴードンの接近を振り切る。またしても空を切る大鎌。


「なんだと!? それなら貴殿よりももっともっと速く動くまでよ!!」


 加速に次ぐ加速―――ゴードンの体が熱で赤くなる。右へ、左へ。上へ、下へ。ゴードンはアザミを追いかけて自由自在に、ものすごい速さで動く。


 だが、それでもアザミに追い付けない。


「そんな……バカな……!?」


「へぇ、なるほど......体を熱して血液を沸騰させ蒸気に変える。それによって血の巡りを限界を超えて速くし、身体の動きを極限まで加速させているのか。その体の丈夫さあっての術式だな......」


 ゴードンの攻撃を空中で避けながらアザミは術式を分析してニヤリと笑う。その言葉と余裕そうな態度に「な!?」とゴードンは驚いた。


(こいつ、どうしてそれを知っているのであるか!?)


 なんせアザミの見立てが寸分違わずゴードンの魔術を言い当てていたのだから。


「貴殿の速さ……、あり得ないのであるっ。一体いくつの魔方陣を同時に操っているのであるか―――!?」


「……さあな。それよりバテてきたんじゃないか? ずいぶん動きが落ちてきたぞ、ゴードン・アクセル!!」


* * * * *


 異空間でアザミとゴードンとのもはや目で追えないレベルの速さで繰り広げられる戦闘。それを見ている解説席は騒然としていた。


「こ、これはどういう事でしょうか。サラ会長。解説をお願いしたいのですか、、、、」


「……私も驚いているわ。思ってたよりすごいのね、アザミ君。今の一瞬で計15枚の魔方陣を同時に展開していた。並みの魔術師の魔力ではせいぜい3枚が限界なのに、ね......」


「15枚!? でも、自己加速術式ってあそこまでの速さが出せるのでしょうか? それにあの術式は直進しか出来ないという欠点があったはずでは……」


「魔方陣っていうのは重ねて使用することでその効力を累乗することが出来る、っていう特性があるのは知ってるわよね。アザミくんは魔法陣を5枚重ねて使用し、加速することであの異次元の速さを可能にしているのよ。そして直進した先に“別の方向へ加速する”魔方陣を展開している。だからあそこまで自由自在に動けるってわけね」


 魔法陣で加速し、魔法陣で向きを変える。そんな一瞬でも判断をミスれば生い茂る木に激突してぺしゃんこになりかねない無茶な戦い方。それを見て思わずサラの口元に笑みがこぼれる。


「な、なるほど……。ですがそれを可能にするなんて一体どれほどの魔力量があるのでしょう? それにあそこまで速く動けるのなら一対一で戦ってもいい気がしますよね。逃げてばかりじゃなくって―――」


 マイクの疑問にサラが「分かってないわね」と言わんばかりにニヤリと笑う。


「無理だよ。あの量の魔方陣を正確に展開するだけでも相当の負担がアザミくんにはかかっている。攻撃に転ずるとなるともっと必要になるし、それは難しいんじゃないかしら。……それに、大鎌をあそこまで軽々と振るゴードン君に接近戦は無謀だよ」


「では、逃げていることに何か狙いがあるということですかね?」


「おそらく、ね......」


―――さて、見せてもらおうかな。



 騒然としていたのはギャラリーも同じだった。アザミがゴードンを翻弄している光景を見る二人の少年、トーチとジョージ。


「なんじゃあの速さ! 普通科ごときの魔力量じゃねえぞおい!」


「しぃー、ジョージ、少し静かにしなよ。一般の人もいるんだからね?」


「チッ......でもアレは一般じゃなくて大学や軍のスカウトがほとんどだろうがよ。おい、トーチ。お前は何枚操れる?」


 ジョージの質問にトーチは少し遠くを見つめ息を吐く。


「……そこに特化したタイプじゃないとは言え、僕でも4枚が限界だろうね。15枚なんて人を超えているよ......アザミ・ミラヴァード、か。ジョージを倒した妹よりも強いんじゃないのかな? あのお兄さん」


「ふん、どうだか。それにどっちもまとめて俺らが倒すんだろうがよっ!」


「そうだね、まあ一筋縄では行かないだろうけど」


 ジョージの言葉にフフッと笑うトーチ。だがすぐにその目を細め、深刻な面持ちになる。次戦で当たるのはB組だろうな、とゴードンを見に来たつもりだったが思わぬ収穫だった。


―――あの魔力……厄介だね。見ていてよかった、、


****************************



「逃げてばかりでは私には勝てないぞ! 貴殿の力ももう限界であろう―――!」


「ふんっ、それはお互い様だろう?」


 ゴードンの挑発を笑って躱すアザミ。目に見えて明らかにゴードンのパフォーマンスは落ちていた。最高速でもアザミに追い付けない。その事実にゴードンは焦っていたのだ。


(舐めていたのであるっ......まさか、こんな男がいたとは。だが、この男の狙いがいまいち読み切れないのであるな……逃げているのは何らかの作戦、、それとも私の大鎌を警戒して手が出せないのであるか―――?)


 その焦りと限界を越えた魔術を制御していることで、ゴードンの頭はいっぱいいっぱいだった。それにもしもアザミが大鎌を警戒しすぎて手を出してこないなら勝機はある。

   

そんな僅かにチラつく巻き返しの可能性―――目の前のアザミで精一杯になったゴードンに仲間からの指示も聞こえていなかった。


「……ダメだ、ゴードン君!! 深追いをしては......それは罠だよ!!!!」


 虚しくも届かないその声。アザミを追って森を駆けていたゴードンの視界が不意にパッと開けた。


「むっ......!」


 そこは森の中に何ヵ所かある、開けた草原のひとつだった。先に侵入したアザミを追いかけ、躊躇なく立ち入るゴードン。だが、それが罠―――。


「しくじるなよ! アック!!」


 アザミがその名を呼ぶ。それを合図に、草原の上に侵入したゴードンの足元の地面に突如として魔方陣が出現した。


「設置型拘束魔術......双鎖ツヴァイト殲獄陣チェーンアンカー―――!!」


 アックの大声があたりに響く。その声に応えるよう、左右の魔方陣から鎖がまるで生き物かのように飛び出してゴードンに絡まりつき、一気に縛り上げた。アザミで手一杯だったゴードンは全く反応できず、まともにその鎖を食らってしまう。


「作戦通りだよ、人形の王様(ゴードン・アクセル)―――!!」




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