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219話 最大の敵

 一週間が過ぎた。王選の結果は変わらず、反対はあったもののフリュイ、シャーロット、カヌレの3人が次期国王として即位することに決まった。結局はシャーロットの言っていた『3人で一人前』が通った形だ。フリュイの政治、シャーロットの人徳、カヌレの軍事。どれが欠けても国は成り立たないのだから仕方がない。


 そしてアザミとシトラは今、王城への召喚命令に従ってまたまた王城へ向かっている最中だった。秋も中頃に差し掛かり、だんだん吹く風は冷たいものになっていく。そんな中をゆっくりと歩く双子。要件は言われていないが察しはつく。エレノアが言っていた『どんな理由をでっち上げても』というやつだろう。


 エレノア含め大多数にとってはアザミ達のせいで、シャーロットにとってはアザミ達のおかげで荒れに荒れた王選。その責任を誰かが取らなければいけない、そういうこと。


「……アザミ、本当に大丈夫なのですか? 私はもしあなたが罪に問われたらと思うと心配です、、、」


「多分大丈夫だ。でもごめん、“確実に”とはいかない。前も言った通りこの先は賭けなんだ。俺たちに介入できる余地はなく、あとは俺の思い通りに事態が動いてくれれば、、ってとこだな」


 遠く真っ直ぐどこかを見つめるアザミの目。その目に描かれているプランはもうアザミの意思の介入を許さない。なのでもうこのまま運を天に任せるしかないのだ。死か生か、有罪か無罪か。その選択はすでにアザミの手を離れている。


「……あー、、、よしっ! 暗い話はやめましょう! 王城までもうちょっと掛かりますし、そうですね......この前の学術発表の話をしませんか?」


 双子の間に広がる不安緊張、そして沈黙に耐えかねたシトラが無理に笑顔を作り、アザミにグッとサムズアップする。だが、


「いや、学術発表は暗い話題じゃないか? 俺たち準優勝だったんだし......」


 しまったっ! と固まるシトラ。そんなシトラの天然っぷりに相変わらずだな、とアザミの体から余計な力が抜けたのでナイスプレーではあった。


「う〜ん、でも納得はしてませんよ私。確かにトーチくんの開発した『次元置換シフトディメンション』でしたっけ? アレは難しそうと言うか凄そうでしたけど、私はアザミのぐるぐる魔術の方がすごかったと思います!」


「うん、ネーミングセンスをなんとかしような」


 剣や身体能力は問題ないのに頭がすこーし弱いシトラにアザミは生暖かい笑顔を向ける。

 考えてみると学術発表で優勝できなかった要因はいくつかある。ひとつはまあ、王選でやらかした術式のため印象が悪かったこと。そしてふたつがインパクト不足、だ。


(トーチの“シフトディメンション”は不可能とされていた透明化を一部とはいえ実現したものだからな。そりゃインパクトは十分だ......)


 ただそのシフトディメンションが開発された目的が『女湯を覗くため』なのはどうかと思うが、とアザミがため息をつく。王都を守る、友人の願いを叶える、そのために使った術式がまさか煩悩の塊のような魔術に負けるとは……。


 そうして話しているといつの間にか双子の前には大きな城門。ギギギと軋んだ音とともに跳ね橋が下がる。アザミはゴクリとつばを飲む。これからこの先で王選最後の戦いが始まるのだ。



 王城の広間、この前の応接間とは違う本当の王の御前の部屋へと通されたアザミとシトラ。双子を囲むように武装した騎士団員が十数人。それを率いるのは騎士団長であるエレノア。


「まあ、この兵力で貴様ら2人を相手取れるとは思っていないがな」


「大丈夫ですよ、俺らだって王様の前で争う気はありませんから」


 ひとつ高い壇上に並べられた3つの椅子。そこに腰かけるフリュイ、シャーロット、カヌレの三王女。カヌレは心配そうに、シャーロットは申し訳なさそうに双子を見つめている。そんな中、尋問が始まる。


「……貴様ら2人は魔術を用いて王選を妨害した罪に問われている。事実か?」


「妨害するつもりはありませんでしたよ。俺たちはただシャーロット王女の願いを叶えただけですから」


 王に仕えるエレノアが、騎士団がシャーロットを無下にあつかうはずが無い、その信頼から素直に真実を話すアザミ。そしてその予想通りエレノアはシャーロットを睨みはしたものの何も言わずに尋問を続ける。


「さらに、その際に洗脳の術式を用いたと聞いている。それに関して言うことは?」


「証拠はあるんですか? あ、これ犯人の常套句ですね。でも、疑うってことは俺が国民を洗脳したって証拠はあるんですよね?」


 アザミは1歩も引くことなくエレノアを真っ直ぐに見据える。エレノアは黙るしか無かった。そう、魔法陣や魔法式を用いる現代魔術と違い精霊魔法はその痕跡が残らない。正確には魔法を使った後には精霊の残滓は残るのだが精霊に慣れていない現代人にはそれを捉えることが出来ない。ゆえに証拠なんてあるはずがなかった。


「……確かに証拠は無い。魔術を使った証拠はな。だが、じゃあこの状況をどう説明する? まさか全国民の票が“奇跡的に”三等分されたとでも言うのか?」


「そうなんじゃないですか? 状況だけ、数値だけ見ればそれが真実かと」


「ほざけ。そんな天文学的な奇跡が起きてたまるか」


 エレノアがパチンと指を鳴らす。すると取り囲んでいた騎士たちが双子に近づき槍の切っ先を向ける。


「どういう事ですか兄さん!! 証拠も無いのにこれでは――」


 エレノアに突っかかるサラ。だがそのサラにエレノアは自らの剣を突き立てる。首元に押し当てられた切っ先に言葉に詰まるサラ。


「……お前は黙っていろ。それともなんだ? お前もこいつらの共犯として裁いてほしいのか?」


 エレノアの冷たい目がサラを射抜く。見抜かれていたのだ。サラがアザミ達を手伝ったと。サラを罪に問わないのはただの兄としての身内庇いに過ぎないのだと。サラは何も言い返せず、ただ睨みつける事しか出来なかった。抵抗する術を失ったサラを一瞥し、エレノアが双子に告げる。


「悪いな。貴様らは人界にとっていい働きをした。だがこれは別の話だ。罪には罰を。残念だよ、本当にな」


「……騎士団はこういう強引なやり方をするんですね、、、」


「なんとでも言え。俺は貴様らをもう信じてはいない」


 双子を囲んでいた騎士たちの1人が今にもアザミの手に枷をはめようとする。万事休すか、そう思われたその時、


「待ちなさい――!」


 その声に広間に居た全員が動きを止める。ただ1人、立ち上がって肩で息をするシャーロットを除いて。


「……シャーロット様。貴方様の気持ちは――」


「――黙るかしらエレノア。その2人は私の友人よ。手を出すことは許さないわ!」


 シャーロットが壇上から降りてエレノアの首元を掴む。睨み合う2人。だがエレノアは王であるシャーロットに手を出せない。そっとその手を振りほどくのみ。そして諭すように、


「……国王がそれでは困りますね。王たる者、私情を挟むべきではないかと」


「それでも――!」


「くどいですよ、シャーロット様。これは罰なのです。禁忌をおかしたものに等しく与えられる罰。残念ながら貴方の力ではどうにも出来ない――」


「なら私“たち”ならどうなのよ?」


 その声は壇上からハッキリと聞こえた。声の主、立ち上がったフリュイかコロコロと楽しそうに笑う。


「……フリュイ、、、姉様?」


 ピンと来ていないシャーロットが首を傾げる。だがフリュイは気にせず壇上にから降り、真っ直ぐにアザミの元へと歩み寄る。バッとその通り道を開ける騎士たち。


「そなた、なかなか危険な賭けをするのよ。私がその思惑に気が付かなければ、シャーロットが立ち上がらなければ死んでいたかもしれないのよ?」


「……信じてましたから。シャーロットを、そしてシャーロットがやっと見つけた大切な存在、貴方とカヌレのことを」


 アザミの返事にフリュイが苦笑する。そして真剣な目で広間にいる全員に聞こえる声で号令を発する。


「王令を発動するのよ。アザミ・ミラヴァード、シトラ・ミラヴァードの両名の罪を免除すると――!」


 ザワつく広間。ホッと肩の力を抜くアザミ。王令は国王の発する命令のことだ。国王を絶対視するこの国においては最高決定権を持つ命令で、そして国王が3人いる今、発動にはその過半数の賛成が必要となる。だが問題は無かった。フリュイの声にシャーロットがパァーッとその表情を輝かせる。


「私も――私も命令します! 私の友人達を許すと」


 そしてその声は3人目、カヌレにも届く。


「私も信じているなのです。アザミさんを、シトラさんを。それに今、姉妹で居られて私は幸せなのですから――」


 立ち上がったカヌレがニパーッと笑顔を向ける。これで国王3人の意見が揃った。誰も文句をつけられない王令だ。そしてこの一手がアザミを賭けに勝たせる。


「……さすがはシャーロットの友人なのよ。そなた、やっぱり面白いわね。食べちゃいたい」


「ありがとうございます。でも最後のは冗談として受け取れない恐怖がありますので丁重にお断りします」


 ペロッと舌なめずりするフリュイから1歩距離を取るアザミ。こうなると立場がないのがエレノアだ。王令によって双子の罪が許された今、罰を与えることが出来なくなった。騎士たちが指示を仰ぐ意味でエレノアの方を見る。


「……やってくれたな、アザミ・ミラヴァード。ここまでがお前の策、三王女に取り入って恩を売り、その罪を消したわけか」


「取り入ったというより良好な関係を築いていたおかげですよ。それにフリュイ様に言われた通り、もしシャーロットが立ち上がらなければ、王令が出されなければ俺たちの負けでしたから」


 アザミとエレノアが睨み合う。同じ人界に暮らす存在なのにもう何度目かの睨み合い、対峙だ。「では」と一礼してアザミが広間をあとにしようとエレノアに背を向ける


「兄さん……?」


 心配そうにエレノアをチラッと見るサラ。だがその目は驚きに見開かれる。……エレノアは笑っていた。それは敗者の表情では決してない。まだ話は終わっていないぞと纏う雰囲気で告げるエレノアがアザミの背中に呼びかける。


「待てよ、アザミくん。君にはもうひとつ嫌疑がかかっている」


 その言葉に振り返るアザミ。エレノアがパンっと手を叩いて騎士に命令を出す。


「おい、アレを連れてこい。処分する前にたった一つ残された利用価値を使う」


 エレノアの言葉にアザミは首を傾げる。何を言っているんだ、と。だがその言葉の意味はすぐに、いやでも分かった。ジャランジャランと鉄の鎖が打ち合わさるような音が扉の奥から聞こえてくる。そしてその扉が開いた時、そこにいたのは、


「……エレノアァァ――!!」


 それを見たアザミが目を大きく見開き激昂する。目は赤く血走り、握る拳はプルプルと震え、爪を突き立てた手のひらからボタボタと血が滴る。シトラもシャーロットも、誰もが言葉を失っていた。そこにいた少女は――。


「グルルルル......」


 真っ赤に染まった焦点の合わない目、理性を失っているのか、喉の奥から聞こえる恨みのこもった低い唸り声。ボロボロに痛めつけられたアザだらけの体に首枷と手枷をはめられた狼族ローガの少女。


「……アザミくん。君は魔界の人間か?」


 そんな悲惨な姿をしたテュリを前にエレノアは笑った。笑って、さもその光景が当たり前と思っているかのようにアザミにそう尋ねる。



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