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217話 陽が落ちる刻

 静まり返る王城内、シャーロットは一人心の中でガッツポーズしていた。なぜなら投票結果はイーブン、フリュイとシャーロットとカヌレが全くの同数になっていたから。


「……これは一体どうなるの? 結構気になっているのよ、私」


「フリュイ姉さまとシャロ姉さま、私の三人で王様ということなのではないですか? だってもう日が沈みます。決選投票、ともいかないなのです」


 カヌレの答えにざわつく王城内。そんなことは前例がなく、当然史上初だ。だが投票結果が優劣を示していない以上、誰か一人のみを王座に据えるわけにいかないのも事実。そんな中シャーロットはある違和感に気がつく。


「……あれ? エレノアはどこかしら、、、」


 さっきまでサラの隣で腕を組み立っていたエレノアがいつの間にかいない。サラは「お前は動くな」という兄からの命令を受け王城内に留まっていた。


(……さて、ラスボスが動いたわ。アザミくん、あなたがどうするのか、楽しみにしてるよ......)



「よくもやってくれたな貴様ァッ――!」


 騎士団の男がアザミの背中を押し、広場に引きずり出す。そこはもう投票を終えて人の消えた、最初双子がいた中央広場だった。魔力を使い果たしたため抵抗できないアザミは為す術もなく地面を転がされる。


「……アザミに何を――!」


「やめろ、シトラ。話がややこしくなる」


 アザミをぞんざいに扱う男に怒りを露わにするシトラ。だがアザミがそれをなだめ、裂けて血を流す唇をぐいっと拭ってゆっくりと立ち上がる。そんなアザミの前に立っていたのは、


「……これは一体どういうことかな、アザミ・ミラヴァード。どういうつもりで王選の結果を三王女揃えるなんて真似を......妨害をした?」


「そう、頼まれたからですよ。良き友人でこの国の第二王女であるシャーロットにね」


 アザミも負けない。真っ直ぐにエレノアを睨み返す。エレノアはチッと舌打ちをし、腰に手を当てて疲れたようにため息をつく。


「ホント、やってくれたもんだよ。これで王選の結果は全員互角。起こり得ない奇跡が起きてしまったわけだ。まあ、これが結果を不正に操作したとかならやり直しも効くし無効にも出来るんだけどね。今回は残念ながら“国民が自らの手で投票した”わけだから結果は日が落ちた瞬間確定しちゃうんだよね」


 そう、いくら不正があったとは言え魔法によるものなので証拠がない。その上アザミは数値そのものをいじったのではなく、投票する人を操ったわけで、その手で投じられた票を無効にできないのだ。


 だが、そんな報告をただするだけのエレノアではない。すっと腕をまくり、アザミににやりと笑いかける。


「ああ、そうだった。まだ日は落ちていないから投票は有効なんだったね。それで偶然かな。俺は今日ずっと王城にいてね、官僚の奴らは投票権がないから良いんだけどさ、俺にはあるんだよね。それで、俺はまだ票を投じていないわけだ――」


 エレノアがクルッと踵を返し、投票場所へと向かう。そこにおいてある3つのプレート、その真ん中に手のひらを押し当てるために。


「思い通りにはさせないよ、アザミ・ミラヴァード!」


 ダンッと力強く手のひらを押し当てるエレノア。その瞬間、シャーロットの得票数が1増える。たった1、されどその1票が三王女に優劣をつける。ハッとした表情で息を呑むシャーロット。日はもうほとんど落ちかけている。万事休すか......


(そんな、、、ここまで、なの!? アザミくん、シトっち――! お願い、、、お願い!!)


 ギュッと胸元を押さえ俯くシャーロット。シャーロットは願った。三姉妹でいる未来を、一人ぼっちになりたくないという願いを。そして双子はその願いを聞き届ける。


――そんなに呼びかけなくても、聞こえているよ


「――ッ!」



 投票を済ませ、振り返ったエレノアは違和感を覚える。アザミとシトラの表情に焦り、狼狽がないからだ。ここまでの策が無駄になった、破られた、禁忌を犯してまで行った行為が全て否定されて崩れ落ち、もう何も出来ない......はずなのに、だ。双子は何も諦めていない。むしろここまで予想通りだと、そう言わんばかりに力強くその歩みを進める。ジリッと後退りしたのはエレノアの方だった。


「……エレノアさんは俺を理解していなかったみたいですね。俺は一度自分の未熟さ、慢心ゆえに負けている。それからは全てを、起こりうるすべての状況を考えて徹底した策を練ることにしているんですよ」


 冬、サラやアミリー、クトリやニックに完膚無きまでに叩きのめされたクラン戦。その敗因になったのはアザミの未熟さ。自分たちが挑戦者だと忘れた慢心からだった。だから、最後まで決して手を抜かない。


「……票を均一にした時点でこうなることは想定していました。エレノアさんじゃなくても、誰かが土壇場でシャーロットに一票投じるんじゃないかって」


 その言葉、歩みを向ける先にエレノアはアザミの真意を見抜く。だが、遅かった。結局、アザミのほうが一枚上手だったということ。


「――まさか俺と同じことを......!!」


「ああ、そうでした。実は俺たちも投票、していないんですよねっ」


 満面の笑みを浮かべたアザミとシトラがそれぞれフリュイとカヌレに一票投じる。その瞬間、王城内の投票結果が再び均一になり、そしてその瞬間、完全に日が落ちた。それはタイムリミットだった。


「俺たちの勝ち、ですね。エレノアさん」


「グッ、、、貴様は一体何者なんだ、、、」


 不敵にほくそ笑むアザミにエレノアが敵意の視線を向ける。エレノアにとってアザミはもう、“ただの学生”という枠組みに入れられる相手ではなかった。七罪の使徒、イドレイを倒し、ニーナと戦った時はその戦いを決定づけた策を立てた。そんな男がただの学生なんて、そんな話はあってはならないと思った。


 だがアザミはその質問に答えることはなく、黙って壇上を降りてエレノアとすれ違い広場をあとにするべく歩き出す。代わりに答えたのはシトラ。すれ違いざまに歩みを遅め、そっと囁く。


「知りたいですか? アザミの正体――」


「……ああ。初めて見たよ。あんな得体のしれないやつ」


 目は合わない。だがシトラはフフッと軽く微笑み、


「……誰にでも優しくて誰よりも弱さを知っているおせっかいな男。そして何より勝手に女の子が集まってくるっていう存在......それがアザミ、私のバカ兄貴ですよ――」


 シトラはそう言うとアザミの後を追いかけて足を速める。エレノアはそっと振り返る。双子の後ろ姿、その兄妹を。


「……バカ兄貴、ねぇ。ぴったりじゃん、俺らには」


 そう鼻で笑い、エレノアは強く誓う。必ずあの男の正体を掴んでやると。してやられたままでは終われない、エレノアにも騎士団長として、バカ兄貴としてのプライドがあった。

 そう意気込み、エレノアが双子の背中に声をかける。


「……これで終わりだと思うなよ。王選においてはお前たちの望む結果となったかもしれん。だが、そう簡単には終わらない......!」


「そうですね。まだ勝負は終わっていない」


「後日、お前には出頭命令が下るだろう。厳正な王選を乱したんだ、罪をでっち上げてでも責任を取らしてやる。禁忌を犯すものには罰有るのみ、だ!」


「でっち上げるって、それはあまり大声で言ったらダメなんじゃ......まあ良いですよ。俺たちだってそこまで覚悟の上でやったんだ」


 アザミとエレノアがバチバチとにらみ合う。そう、ここまでがアザミの策。有権者を操って票を均等にさせ、そしてもしもギリギリでシャーロットのみ一票増えることになってもアザミとシトラ二人の投票で再度票を同数に戻す。そしてまだその先、『術式の仕組みはアザミが開発したもののため術者は速攻でバレるだろう、そうなれば拘束、最悪国家への反逆で死罪なんていうのもあり得るだろう』そこまで想定していた。


 犯罪者になることも覚悟の上で禁忌を破ったのだ。そしてこの先はアザミにとっては未知の領域。いちおう打開の策はある。が、通じるかはぶっつけ本番の策だった。正直投票をイジるよりも賭けの要素は強い。


(だからこの先、この先まで勝ちきってようやくすべてが終わる......)


 まだ王選は終わらない。

『俺が危険になっても親友の願いを叶えるか――?』......その質問の答はこの先にある。


 そしてあと一つ。アザミは広場を離れようと踏み出した足を止め、エレノアの方を振り返る。


「ああ、忘れてました。2枚目、どうなりました? サラさんから受け取っていたと思うのですが、、、」


 その言葉にエレノアが露骨に嫌悪感をあらわにする。


「……捨てた」


「はぁ!? いや、、、えっ? なんで捨てるんですか、、、!!」


「……チッ、嘘だよ。捨ててはいない。だがあんなこと言われなくても俺だって分かっていた。だから、俺の勝手にやらせてもらったよ。……それがこの王選、貴様を助ける一因になったのは癪だけどね」


 怒りを現すように地面を蹴るエレノア。アザミは「よかった」と肩の力を抜く。


「じゃあ、その件も合わせてまた後日、王城で。……決着をつけましょう」


 そう言って今度こそ広場を後にするアザミ。シトラもその後に続く。残されたエレノアはギューッと拳を握りしめていた。爪が深くが刺さり、血がにじむ。


「……アザミ・ミラヴァード、、、」


 日が落ち、闇の支配する時間。そして話は王選と並列して別の場所で行われていた“もう一つの戦い”へと舞台を移す。



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