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215話 裏切りと覚悟と

 裏切り、と言えば聞こえは悪いがまあアザミにすればただ利用できるところは利用するといった感じだ。なんせ双子がシャーロットのために相手取ろうとしているのは国そのものなのだから。ただの学生の身分で国家権力には向かおうとしているのだ。それなりの覚悟と協力が必要になるのも当然。


「……で、私を利用するのねアザミくん」


「そうですね。適任でしょう? サラさん」


 オシャレな王都のカフェ、そこで優雅に茶を飲みケーキを食べるサラ・バーネット。これで3個め、どれだけ食べるんだという不安と財布の中身に対する不安がアザミを襲っていた。そんなアザミの不安など無視してサラが4つ目を注文する。


「いいよね? 君たちの頼みに乗っかってあげるんだし、それにお金なら結構持ってるでしょ? 新人戦とか双剣戦の賞金とか直近ならニーナ戦での報奨金とかさ〜〜」


「……まあ、ありますけどそのお金は決してサラさんにケーキを奢る金ではないですからね? それに家柄で言ったらミラヴァード家なんて田舎の元騎士の家系ですよ......」


「……騎士の家系、ねぇ。……ってことは“アレ”知らないんだね」


「“アレ”ですか?」


「……忘れて。聞いてないなら私が言うことでもないし......おかわり!」


 何かを知っている、そんな口ぶりのサラの目の前の皿がいつの間にか空っぽになっている。王都のおしゃれなカフェのケーキ、恐ろしい値段になっていそうでメニューも伝票もろくに見れないアザミだった。


「アザミくんは何も食べないの?」


「……じゃあ、水で」


「私はこの“ぱふぇー”とやらが気になります!」


「いやおいっ!! なんでシトラまで食べようとして――」


 聞く耳を持たず、パフェを注文してしまうシトラ。あらあら、と憐れむ目で見てくるサラ。なお、金欠のためこの日からしばらくお昼ごはんに某生徒会長と同じ『セットメニューセットのみ』を食べることになるアザミだった。


「もぐもぐ......?」



「じゃあ、食べたことだし帰るね――」


「――帰すわけがないじゃないですか〜アハハ......」


 立ち上がったサラの袖を目が笑っていないアザミが力強く掴む。しばらくの沈黙のあと、諦めたように席に戻るサラ。だいぶ金と時間を使ったがようやく本題だ。


「で、私に頼みたいことって何? 私、別にアザミくんたちにとって都合がいい騎士団内部の人間ってわけじゃないんだけどね」


「人の金で飲み食いしたんだから黙って聞いてください。……頼みたいことっていうのは王選についてです」


 “王選”というワードにサラの眉がピクリと動く。やはり王都もそうだが騎士団もだいぶこの一大イベントを意識しているようだ。サラは「あー」と何かを悟ったような表情で一口コーヒーを飲み、白い息をぷはぁと吐き出す。


「シャーロット王女の頼み、ね?」


「やっぱり知っていたんですね」


「まあね。兄さんから聞いてたこともあるけど、私も実は頼まれたのよ。姉妹全員揃って王になる事はできませんか、ってね。そのことでしょ?」


「知っているなら話は早いですね。そのとおりです。シャーロットの願いを叶えるためにサラさんの力が必要なんです」


 アザミが頭を下げる。それを見て隣のシトラも慌ててペコっと頭を下げる。


「……でも、聡明なアザミくんのことだからもちろん分かってるよね。それが不可能ってことぐらい」


 サラは乗り気じゃなさそうだ。さっきは『乗っかってあげる』と言っていたのにまるで嘘のよう。でもそれもそのはず、出来ないこと、それも危険の伴うことにやすやす乗っかれる人間なんてそうそういない。シャーロットが双子にふっかけたのは元生徒会長で学園史上唯一無二の天才とも言われたサラでさえ渋るレベルの無理難題だった。でも、


「分かっています。だからこうやって策を練ってそれをサラさんに手伝って貰おうってしてるんじゃないですか」


 アザミはそんなことお構いなしにケロッと答える。もう散々迷い、そしてやると決意したアザミに今さら怖いものなんてなかった。そんな堂々としたアザミにサラがキョロキョロと辺りを見渡し、そっと耳打ちする。


「……その策ってまさか“票をイジる”とかじゃないよね? そんなことしてもバレるし無効票になるだけだよ。買収、なら無効にはならないだろうけどいったいいくらかかるのやら。そんなのバーネット家でも無理よ」


 確かにサラの言う通り、国民がシャーロットに投票するならその対抗であるフリュイとカヌレへの票を増やし、そして微調整して3人の得票数を揃えるという手もある。


「……でも、それだと確実性がないじゃないですか」


「まあ、ね。誰が誰に投じたかは結果見るまでわからないんだし、感覚で投票して3人みんな一緒の票数になるなんて奇跡以外の何物でもないものね。……他に私が思いつくのはその結果自体を書き換えちゃうぐらいだけど、それもバレたら無効になるし賢明とは言えない。……で、ならばアザミくんはどうするつもりなの?」


 サラの疑問に答える代わりにアザミは軽く折りたたんだ紙をそっと手渡す。ニコッと笑って紙を差し出すアザミの手からそれを受け取って開くサラ。その表情が「ん?」と疑問を示す。


「……これだけ? これだけでいいの? 私がやることって......」


「ええ。それが最も重要っていうか、この作戦のトリガーになるんで。あ、あと概要なら教えますけど詳細は話せません。それ、伝えちゃうとサラさん、俺たちの共犯になっちゃうでしょ?」


 アザミのカラッとした笑顔には恐怖など一切なかった。サラはゴクリとつばを飲み込む。


「本当に大丈夫なの? これ、成功したとしても確実に犯人はあなたってバレるわよ......それでも、やるの?」


 サラの心配そうな目。でもアザミはそれも想定済み。覚悟の上だった。アザミにしては珍しく賭けの要素が高い今回の作戦。すべてが上手く行かないと成功しないうえ、失敗した時のリスクはでかい。その上成功したとしてもアザミが得られるものなんて無いときた。でも、それでもやるのは――


「やりますよ。だって友人と妹の頼みですから。自分できることは精一杯応えるつもりです」


 アザミが立ち上がり、ペコリと一礼して席を立つ。その足取りは軽いものだった。まあ、支払いが終わる頃にはひどく重いものになっていたが。


カランカランッ


 鈴が鳴ってアザミとシトラの姿が王都の町並みにに消えていく。サラはコーヒーを飲み干し、再び手渡された紙をじっくりと見る。そこに書かれていた内容はリスクはあるかも知れないが、それでもアザミやシトラと比べたら軽いものだった。


「……本当に王選のやり方を徹底する、厳格にするだけで良いのかしら......?」


 そして、サラは指先でススッと紙をずらす。“2枚目”、王選のためにサラさんにやって欲しいことがあるとアザミから手渡された紙に重ねて手渡された、その下に隠れていた1枚。


「……こっちは兄さんに渡しておけばいいのね。まったく、アザミくんは振った女ですら便利に使うのね」



 そして時は流れて行く。シャーロットを始め三王女は王選に向けた演説を王都の各地で行っているため学校には来ていない。そして案の定、現在圧倒的に優勢なのはシャーロットらしい。学園内でも「誰が良いと思う?」なんて話で盛り上がっているが、そこでも一番人気はシャーロット。得票も5割超えは確実、8割を超えるのではとも言われている。


「……そんなに銀髪っていいのかね」


「多分そこだけじゃないと思いますよ。でも、たしかにシャーロットはスタイルも良くて性格も良い、何よりキラキラしてます――!」


 秋の寂しい風が吹く屋上、そこで寝転がるアザミの傍にシトラがそっと腰掛けていた。アザミは今更ながら気になったことを一つ。


「シトラは生徒会だろ。なのに俺と一緒に屋上なんて来ても良いのか? ここ、一応校則で立ち入り禁止されているはずなんだが」


「明日、校則なんて目じゃないほどの禁忌を犯そうとしているんですよ? 私達。……そう考えるとちっぽけに思えますね、こんな小さな校則違反」


 シトラは楽しそうに笑う。これでいいのか、と心配にもなるが触れるのは野暮だろう。アザミはそう思って黙って目をつむる。


「……心配するな。俺がこれまで失敗したことあったか?」


「何度もありますよ。まったく、あなたのヨワヨワメンタルに何度手を焼いたことやら......」


「おいっ! それを言うなら俺だってお前の非常識っぷりに苦労させられた来たんだが!?」


 ガバッと起き上がって即座に反論するアザミ。一瞬真剣な表情で互いに目が合い、そして


「プハッ」


「フフッ、お互い様ですね、本当に。……でも、二人なら失敗したこと、無いですよ? 双剣戦も優勝したし、冥王クリムパニスも倒しました。だからきっと今回も......」


 ついに明日、王選の本番を迎える。国内各地で投票が行われ、次期国王が決定する最大イベントが。


「……ああ、俺たちならやれるさ。力を合わせて、な――!」


 アザミがスッと拳を差し出す。シトラもフフッと微笑み、その拳に自分の小さな拳をガツンッと合わせる。





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