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213話 出会いたくない相手

「……納得したわけじゃないぞ。でもシトラが関わらざるを得ないのなら俺も1枚噛んでやる、それだけだ」


「まあいいわ、それで。とりあえず今日のところは現状を見てもらえて私の気持ちを伝えられたからオッケーね。詳しい話はまた後日、ゆっくりとでいいかしら?」


「ああ。行くぞ、シトラ」


 今度こそクルッと踵を返すアザミ。それについていくシトラ。双子は王城の応接室を後にする。先程通った廊下に出ると、いつの間にやらそこにエレノアが立っていた。腕を組み、壁に背中を預けて双子を待っている様子。


「……」


「……行こう」


 その前を特になーにも無く通過するアザミ。目すら合わせない。その態度にエレノアの両肩がプルプルと怒りに震えているがアザミには知ったこっちゃない。シトラは心配そうに「あれ、無視しても良いのですか?」とチラチラアザミを見ていたがアザミはそれすら無視して歩みを早める。少しずつエレノアとの距離が開いていく。


(これ以上余計なことに巻き込まれてたまるか……)


 だが、


「――ちょっと待ちたまえ。俺を無視するとはいい度胸じゃないか。えぇ!?」


 業を煮やしたエレノアが自ら走ってきてアザミの肩に爪を立てる。そんな荒れたエレノアにアザミは振り向くことなくサラッと言い放つ。


「無視してません。見えてませんでした」


「嘘つけぇぇ!!」


 天下の騎士団長様にこのような態度を働くのはアザミただ1人だろう。我慢我慢、ここは王城だ......とエレノアはグッと堪える。


「……で、話はなんですか」


「……聞くことには聞いてくれるんだな。まあ、お前にも関係のある話だ。……憎悪の魔王、ニーナという少女の核が狙われている」


「でしょうね。それだけですか?」


 それ自身は特段驚くことでもない。アザミはニーナとの戦闘後にその核を回収、そしてそれをエレノアに預けて王都内で最も安全な場所である騎士団本部に保管してもらっている。なぜそこまで厳重に保管するのかというと、核と死体があればアンデッドを、そこに“感情”という名の司令部を据え付けてやれば人工の魔王様が完成するからだ。つまりニーナの核が再び魔界の手に渡ってしまえば第二第三のニーナが生まれることになる。アザミだってそれは阻止したいし、騎士団としてもまたあのような被害を出す訳にはいかない。なので人界が保管しているのだ。


 そして、そのような重要な物をみすみす魔界が手放す訳がない。取り返しに来ることは目に見えていた。例えばニーナ戦のあとに戦ったサイコロの少女だったり。今度はこちらが守る側になる、それも先手で守りを張れることもありアザミは一度見逃したのだが。


「……核を囮に魔界の奴ら、あわよくばSSDの構成員を釣れます。ならば狙われているのは好都合では?」


「確かにな。まあお前がそういう考え方ならいいさ。ちなみに言ってしまえばこれは忠告だ。あまり報道はされていないが今月に入ってから騎士団の団員が襲わる事件が急増している。そしてそれはニーナ戦に関連しているお前とて例外ではない」


「ご忠告どうも。ですが俺なら大丈夫ですよ。七罪の使徒クラスの侵入形跡が無いのならせいぜい知れています。俺なら、俺たちなら大丈夫です」


 アザミがシトラの肩をポンッと叩く。「任せてください」、とシトラも自信ありげにこくりと頷く。


「……お前たちは、な。だがその周りを狙ってこないとも限らん。せいぜい、注意することだな」


 取り越し苦労だったな、とエレノアがため息をついて双子に背を向ける。それを見送り、アザミたちも出口の方へと歩みを進める。


「一応警戒は怠らないようにしましょうね。敵の強さは未知数ですし、魔王クラスでなくても不意を突かれたら私達も危ないので」


「……油断しないにこしたことは無い。まあでも魔界は一騎当百万型だ。強いのは魔王や将軍、各家の当主ぐらいだよ」


 300年前のものであれば魔界の事情に精通しているアザミ。人界がそう大きく変わっていなかったことからシトラもその言葉を信じる。だが少し、ほんの少しアザミには懸念があった。今人界に潜んでいる魔界の刺客がいてもその強さなんてそれほどでもないだろう。ただ、


(あのサイコロの女……アイツは不明瞭な点が多い。出来れば会いたくはないな、、、)


 決して魔力が多いとか魔術に秀でているとか剣術に優れているという訳では無い、とアザミは分析する。だがあの少女の強さはどこかそのような数値では測れない、異質な強さに思えた。


* * * * * * *


 時を同じくして王都内貧民地区。ゴキっと骨が軋む音がして赤い血の斑点が地面に落ちる。


「ハガッ! や、やめてくれ……俺は何も知らないんだっ!!」


 頬を押えたまま後ずさりをする男。その服装、帯刀していることから騎士団の団員だと分かる。男は恐怖の表情を浮かべている。その対象は男を見下ろす2人の少女。


「……だってさ。テュリ、ホントのこと言ってる?」


「うーん、、嘘の匂いはしないかな」


 シキネが逃げられないように男の襟首を押さえる。テュリはシキネの質問に首を横に振る。月明かりのない闇夜にその紫色の瞳が怪しげに光る。


「なっ!! その耳、、狼族ローガか!? ってことは貴様らは魔界の……」


 テュリの尖った獣耳、ふさふさの尻尾を見て男がおののく。テュリは不快そうな表情を浮かべ、それを代弁するかのようにシキネが男の頬を再び引っぱたく。


「二度と言うんじゃねえ! 裏切り者の、汚れたアズール人がよっ!!」


 ペッと唾を吐くシキネを男は恐ろしいものを見るかのような目で見上げ、そしてボソッと呟く。


「……君は“人間”だろ? どうして魔界の奴と一緒にいるんだ、、、」


「チッ、こいつマジで下っ端じゃん。使えねぇな……なあ、アンタ実戦経験ないだろ?」


「……そ、それがどうした――」


 突っかかろうと身体を起こした男の顔面を思い切り蹴り飛ばすシキネ。男は卒倒し、ピクピクと痙攣している。それを蔑むような目で見下ろすシキネ。その目には軽蔑、憎悪のように男に対する嫌悪感の感情しかなかった。


「汚い手で誇り高きクロイツ人であるアタシに触るな、アズール人。……行こうぜ、テュリ。コイツも下っ端過ぎて何の情報も持っていない。ニーナ様の核に関することなんて何も、な」


 シキネがクルッと踵を返し、テュリを連れ立ってその場を去る。2人の目的はニーナの核の奪還だった。そのため核の在処を知ろうとこうやって騎士団の団員や役人など知ってそうな人を手当たり次第に当たっているというわけだ。


 しばらく歩き路地裏に入った2人。ふとどこかの軒先、石段の上に腰掛ける。


「ちょっと休憩しようぜ。ほいっ、テュリ」


「あ、ありがとう……ハグッ!」


 シキネから投げられたパンを犬のように口でキャッチするテュリ。嬉しそうにその表情がほころび、それを示すかのように尻尾がブンブンと揺れていた。流石は狼族ローガのハーフだ。ハムハムと口に含んだパンを飲み込み、テュリが小首をかしげる。


「でもシキネちゃん、ニーナ様の核ってどこにあるんだろうね〜」


 食事中の他愛ない話、のつもりで口にした疑問だったがシキネはグイッと食いついてきた。


「それを今探してんじゃんか。でも考えてみるのは面白いな。候補が絞れればカマもかけれるし。テュリはどこに隠す?」


「私なら神殿の金庫、かな。でも人界に神殿はないよね?」


「そうだな〜、、、奪った地図が全て本当かは分からんけど、でもこの地図上にはないな。じゃあまたまたテュリに聞くけどさ、奪われたくない大切なものってどうするのが一番安全だと思う?」


「……身に付ける、かな? 四六時中肌見放さず持っていれば安全だと思うな、、、」


 テュリの意見にシキネは首を横に振る。


「それだと疲れるでしょ? 寝るときとかどうするのよ。他に、どこに隠す? いや、質問変える。“魔界ならどこに隠す?”」


 テュリがもしも大切な何かを魔界に隠すとなった場合どこに隠すか、テュリの答えは、


「魔王城かSSDの研究所、かな。魔界の中じゃあそこが人界の最終目標だろうけど、その分防衛力も高いし......ハッ! もしかして、人界でも一緒......?」


「多分な。アタシはそう思ってる。ニーナ様の核は王城か騎士団本部、いやおそらく騎士団本部だな」


「なんで分かるの?」


「確かに王城が一番安全かも知れないぜ? アタシ達が人界を攻めるなら一番の目標にする建物だし、テュリも言ったように最も防衛に力を入れていると思う。でも、あそこには王族が住んでるんだろ? そんなとこにわざわざ敵が攻めるきっかけになるもん置くか?」


 確かに、とテュリは納得する。人界にとっての最高権力者、アズヘルン王国が人間族の首長たることが出来るために必要な王家の血筋。それを危険に曝すかも知れないものを置くわけがない、と。なら答えはおのずと一つに......


「……騎士団本部に保管してるってこと?」


「ああ、きっとそうだぜ。だからアタシ達、こうやって騎士団員をメインに情報引き出してんじゃんか」


 そう言ってシキネは自分の分のパンを口に押し込む。流し込むように上を向いたシキネの脳裏にふとあの時、夏に出会った男の顔がよぎる。


(……アレ、何者だったんだろうな。騎士団じゃなさそうだったけど......ならその正体は、、、)


 きっと核をめぐってあの男とはまた出会う、そんな予感がシキネの中で確信に変わりつつあった。

 

「まったく、こりゃたった二人でやる任務じゃねえよ......」


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