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211話 シャーロットの願い

 しばらく言葉が出ない。確かに、王都に初めて来た時に聞いた。王都のマダム達の好きなゴシップ話の中にあった『国王はもう長くない』『次の王様は三王女の誰かになる』という話。まさかそれがここで、とは。


「なんかの陰謀、では無いよな?」


「……違うンじゃねェの? 死因が詳しく書いてねェってことは噂通り病気が原因なんだろうぜ。もし暗殺とかならこぞって伝えるだろうしなァ」


 それもそうか、とアザミは納得する。ということは国王は病気で亡くなった、時期国王は選挙で決まる、そういうこと。


(それもカヌレとシャーロットが王様になる可能性がある、ってことかよ)


 この国の王座は指名制であり継承順位なるものは無い。つまり、長女である第一王女が必ずしも次の王様という訳では無いということ。国王が事前に「次の王はそなただ」と指名し、その通りに世襲するのが通例。だが今回、国王は後継を指名しなかった。と、いうか指名する前に亡くなった。


 そのため次の王様を決めるのは王都、アズヘルン王国の国民に委ねられた。“王選”――それは文字通り国王を選ぶ選挙のこと。第一王女、第二王女、第三王女の三人が立候補し、その中から1人選ぶ簡単なもの。


「……俺らって選挙権あるのか?」


「知らねェ。でもねェんじゃねェの? それに、もしあったとしても無理だな。その日、学術発表の日だぜ?」


 グリムがトントンと紙面を叩く。王選の日は2週間後、と書かれていた。そしてそれは奇しくも聖剣魔術学園の学術発表の日と被っていた。


「……ま、いいか。変に巻き込まれなくて済む」


……なんて、そう思っていたアザミだった。だが、入学試験に遅刻し、普通科のくせに新人戦で優勝し、最初の試験では未クリアのダンジョンを攻略し、夏に合宿に行けば七罪の使徒を倒し、行方不明事件があればそれを解決し、最強クランと戦い、なぜかたくさんの女子にモテるといった変なイベントに自ら飛び込んで行っているようなアザミが、“次の国王、決めるんだってよ。それも候補者3人のうち2人は友達”なんていう面白すぎるイベントから自分勝手にも逃れられるはずがなかった。


 いくらアザミが面倒を避けようとしても、その時は面倒さんが直々に飛び込んでくるのだ。


「――私を、、王選に落としてくれ!!」


「……なんでこうなった、、、」


 ガックリと肩を落とすアザミ。それは国王逝去のニュースが未だホットに飛び回るその日、その放課後の事だった。



「……あの、、少しいいですか?」


「どうしたシトラ。別に遠慮はいらないぞ」


 授業が終わり荷物をまとめているアザミをシトラがチョンチョンとつつく。言いにくそう、申し訳無さそうなシトラの様子にアザミは優しく笑う。昔なら「ついてきて下さい」「あなたに頼みがあります」なんて、有無を言わさなかったのに今ではこうだ。アザミとしてそれは嬉しくもあり、逆に不安でもある。まあ、それでもシトラが自分に何か話があるとの事を無視できるはずはない。アザミは黙ってシトラのあとに着いて行く。


 シトラに連れられて来たのは屋上に続く階段。秘密話の定番スポットだ。そしてそこにいたのはシャーロット。


「……なんか一年ちょっと前も似たようなこと、あったな」


「シトっちの誕生日、かしら。懐かしいわね」


 シャーロットがクスッと笑う。でもその目も笑顔もどこか疲れた様子。なるほどシトラの用件とはシャーロットに関することか、とアザミは理解する。同時に、『今この時期のシャーロットの悩み、つまり王選、つまりこれは――』とこの後待っているであろう状況も理解する。


「あのっ、アザミにも一緒に聞いて欲しいのです、、」


 シトラが追い打ちをかけるように一言。兄として流石にシトラに全てを押し付ける訳にはいかない、つまりアザミに断る手立てはなかった。仕方がない乗りかかった船だ、と自分に言い聞かせて諦めさせる。


「分かったよ。でも話を聞くだけだぞ? どうするかはその後でだ」


「分かったわ。正直あなたの力を借りられるのは助かるかしら」


 シャーロットが安堵の表情でクスリと笑う。そして単刀直入に一言、


「――私を王選で落として欲しいの」


 シーンと沈黙が双子の間を突き抜ける。アザミはその言葉の意味を今一度考える。が、特に変わらずそのまま。


「聞き間違い、じゃないよな?」


「ええ。私は確かに“落として”と言ったわ」


 シャーロットの真っ直ぐな目、そしてさっきよりハッキリ聞こえた言葉にアザミは聞き間違いでなかったと理解する。だがその真意は読めなかった。“当選させて”なら分かる。だが“落として”となるとそこにどんな理由があるのかは予測のテンプレートから外れてくる。


「……あの、シャーロット? どういう意味なのですか、“落として”というのは、、、」


「言葉通り、かしら。次の王選は私とカヌレ、フリュイ姉様の3人が出るわ。だからそこで私以外を勝たせて欲しいのよ」


「それはまるで“このままだと自分が王になる”って言っているようなものだな。それは相当の自信、か?」


 アザミがシャーロットに向けて意地悪に笑う。なぜならシャーロットが言う“落として”とは自分が当選することを当然としているからこそ言える言葉通りだからだ。もし、結果がどうなるか分からないのなら自分の裁量でどうにかなるだろうから。


「……ええ、そうよ。きっとわたしは王選で勝つ。私が次の王様になるわ」


 アザミの予想通り、シャーロットがこくりと頷く。アザミは「どうしてそう思う?」と尋ねる。返ってきた答えは、


「……今日、時間あるかしら?」


「答えになっていないと思うが? まあ......ある、な。特に用事はないが、、、」


 求めていた答えが返って来ず少し困惑するアザミ。だがシャーロットはそんなアザミの肩をポンっと叩き、その場から去る。


「今夜、王選の説明があるわ。そこに貴方とシトっちも招待する。そしたら、、分かるわよ」


 最後にそう言い残して。

 シトラとアザミがその背中を見送る。シトラはチラッとアザミを見上げて「どうします?」と聞く。


「……行くしかないだろうな。チッ、まあアイツが狙っているのかは知らんが、俺はさっき『決めるのは話を聞いてから』と言った――つまり、まだ話が終わっていない以上、今判断することは出来ないんだよ。ただの言葉遊びだが、王同士、国同士じゃ戦争の引き金になるような話だ」


 言葉は武器になる。一度しか発せられない言葉の節々に隠された罠、ほころびをいかに突くかが交渉という戦争の前後段階での舌戦ぜっせんにおいて重要になる。これは元魔王であるアザミ、元王候補かつ現王女様であるシャーロットにとっては職業病のようなものだ。日常的に気を抜けない、言葉一つにも最新の注意を払うという気が滅入る病だが。

 アザミが肩をすくめ階段を降りていく。その後ろをついて歩くシトラ。とりあえずシャーロットの真意は王城で確かめる、そういうことになった。と、いうわけで......



「……シトラ、お前はここにきたことがあるか?」


「いえ。今も昔も制度は変わっていません。王様に謁見、意見出来るのは騎士団長だけです。私は聖騎士でしたが騎士団のNo.2だったので王城にはきたことがありません」


 300年前、王都騎士団のエースとして魔王シスルと何度も戦いを繰り広げた人界の勇者シトラスですら来たことがない王城。そこにその二人、魔王と勇者が訪れているという状況。わけがわからない状況に引きつった笑いを浮かべるアザミ。とりあえず『寄ってけよ』みたいなかる―い感覚で王城に同級生を誘うシャーロットの感覚はおかしい、そう結論をつける。


「アザミ・ミラヴァード様と妹のシトラ様ですね。シャーロット王女殿下からお話は伺っております。こちらへ」


 名乗るだけでパス出来た城門、“シャーロットの友人”というだけで丁重にもてなしてくれる城の使用人たち。そんな非日常な空間を抜けると目の前に大きな建物が現れた。これが王都、いや国内最大の建物であるアズール城だ。さっきまで歩いていた廊下はまだ場内ですら無かったのか、とその大きさにおののくアザミ。魔都アスランにある魔王城ですらここまでの大きさはない。


「……大丈夫でございますか?」


「ハッ! 俺が圧倒されていた、、、だと!?」


 案内してくれている使用人の言葉に現実に戻るアザミ。300年前、攻略の最終目標に定めていた城に今や招かれているのだ。変な話だな、とムズっとする違和感を覚える。


「では、こちらでお待ち下さい」


 そう言って使用人が深々と一礼し、その部屋から退出する。そこはソファや机もない簡素な部屋だった。豪華な絵の飾られた壁やフカフカのカーペットと比べて装飾家具の無さが目立つ。そして部屋を半分に仕切るようにドアのない方は一段高くなっている。


「……やけに殺風景、と言うか外観からは想像できない作りだな、、、」


「それはこの国が王君絶対の国、つまり王様=神様みたいに捉えているからかしら?」


 アザミの疑問に答えるようにシャーロットの声が聞こえる。一段高くなった床、そこに繋がっている螺旋階段の中腹からシャーロットが双子を見下ろしていた。そしてクスッと笑い、ゆっくりと下まで降りてくる。普段の学校生活では見たこともないドレス姿、きちんと整えられた髪や風貌はさすがは王女だ、と言えるほどのもの。


「ま、だから私やカヌレみたいに一般生徒と同じ学校に通うなんてことがイレギュラーなわけね。現にほらっ、この部屋だって王族である私が立っているところと貴方達の立っている場所とでは随分違うでしょ?」


 確かに、とアザミは今一度部屋を見渡す。一段高い床もそうだが絵やカーペットのクオリティ、そしてその位置や造りが織りなす空気ですら随分と違う。


「……わざわざ俺たちに格の違いでも見せつけるために呼んだのか?」


「ハハッ、まさか。ただ見てもらったほうが早い、そう思ったからかしら?」


 シャーロットがチラッと螺旋階段の上、金縁の扉に目をやる。その扉がギギーッと開き、その女性はゆっくりとアザミ達のいるフロアへと降りてきた。


「……あれがアズヘルン王国第一王女、フリュイ姉様よ......」


 アザミが眉をひそめる。シトラは「ヒャッ!」と小さく声を上げてサッと反射的にその長い指で目を塞ぐ。なるほど、シャーロットの言葉の意味が分かった気がした。


「……第一王女様は、、、痴女か?」


 右手にグラスを持ち、ペロッとその長い舌をあざとく出すフリュイは......何故か下着姿だった。

 

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