SS1話 シトラスと仮面舞踏会《1》
……やらかした、、、
ボツにするはずだった仮面舞踏会のSSを投稿してしまった......
ホントは209話から第7章! ってなるはずやったのに、、、
やらかしたので開き直って『シトラスと仮面舞踏会』(全4話)を公開します。アァァ、、内容薄いからボツにしたのによぉ......
そこは人界と呼ばれる場所。その中のアズヘルン王国、王都セントニアには3つの目立つ建物があります。ひとつは星見塔、ふたつは王城、そしてみっつは王城のすぐ側にそびえる要塞のような建物。そう、騎士団本部です。
そしてその王都騎士団本部の団長室。そこで私は騎士団長ジャン・ミラーと向き合っていました。彼の鋭い眼光が私を捉えます。私は彼の言葉に神経を研ぎ澄ませ、その口の動くのを待ちます。
「……お茶飲む?」
「結構です」
即答。私がこの部屋に来たのはお茶を飲みながら語らう訳ではない。ただ、この男に呼ばれたからです。騎士団長が団員を呼ぶ、つまり命令を待ちます。団長がそっとティーカップを下げ、代わりに金糸で丁寧にコーティングされた豪勢な封筒を私に手渡しました。
「……テメェに命令だ、勇者シトラス」
「拝見します」
私はピリッとその封を外し、中身を確認します。
騎士団の仕事は主に2つ。1つ目はその名の通り王都の守護、そして魔界との戦争です。ただ、これだけでは団員は食べていけません。王城から補助金が出ているとはいえ、それも遠征費用や維持費に消えます。なので騎士団の財源の殆どはもう1つの仕事にあります。
それが要人の警護。王や貴族、街の人にに依頼され守るのです。街人クラスなら一般の団員、貴族だと私のような円卓の騎士、王族なら団長が妥当なところ。なので私もこの封筒の中身は依頼だと思っていました。思っていた、ということは違ったのです。私は団長に詰め寄ります。
「……なんですか、これは」
「見たらわかんだろ? 読んでみたまえ」
「……仮面舞踏会への招待状。で、なんですかこれは」
読んでみても分かりません。すると団長が指でちょいちょいと「二枚目二枚目」と私に伝えてきました。確かに、封筒の中にはもう1枚。
「警護依頼、仮面舞踏会においてクルーズ・スレイフィールを護れ、ですか」
「そうだ。スレイフィール家の当主となれば円卓の騎士第弐席のシトラスが行くのが妥当だろう?」
「分かりました。拝命いたします」
命令とあらば、と私は頭を下げ部屋を後にしようとしました。でも、その背中に団長から一言。
「ああ、あと当主様から命令がある。シトラスも舞踏会に参加すること。そしてエイワス君も連れていくこと、だ」
私はピクリと動きを止め、ゆっくりと団長の方へ振り返ります。私も舞踏会に参加? なんでなのか確認するためです。
「向こうからの命令だ。仮面舞踏会は互いの素性を知らぬまま交流するイベント。そこに騎士は要らないとさ。だから警護するシトラスも参加者として来て欲しい、とね。エイワス君を連れていくのはシトラスが彼の上司だからだ。それに彼も貴族の家の生まれ。何かとシトラスの役に立つ」
私は不満でした。でも、命令と言われると逆らえないのが施設生まれの性なのでしょうか。渋々私は頷きます。でも、
「ですが、なぜ私なのでしょう。お言葉ですが、スレイフィール家は貴族の中でも中級。第弐席の私ではなく、他の円卓の騎士でも十分事足りるのでは?」
「……考えてみたまえ。ほかの円卓の騎士の顔を」
そう言われ私は他の円卓の騎士を思い浮かべます。……おじさん、おじさん、おばあさん、少年、おじさん、、、
「君がその中で最も適切な年齢で、かつ舞踏会に参加できる可愛さを持つからだ」
サラッとそんなことを言う団長。普通の人なら照れたりするもの、なのでしょう。ですが生憎私はそのような感情を持ち合わせていません。
「理解はしました。ですが、私は自身の美しさを褒められるよりも剣技の美しさを褒めて頂きたい。では、失礼します」
私は団長室を後にする。そこにはエイワス、私の副官のエイワス・ザッカリアが待っていました。
「その髪、戦うのに邪魔では無いですか?」
「大丈夫です。あ、あと何のお話だったのですか?」
「コレを」
歩きながら説明を最低限で済ませます。エイワスは私が渡した封筒を開けて中身を読み、ふむふむと理解した様子。
「分かりました。つまりはシトラス様と僕とで仮面舞踏会に参加すればいいってことですよね?」
「大まかには。目的は参加ではなく警護ですが」
「でも、舞踏会なんて久しぶりだなぁ……そうだ! シトラス様って舞踏会用の衣装って持ってますか?」
ワクワクした瞳のエイワスが私にそう尋ねます。舞踏会、と言われてもピンと来ないのが現状。舞踏の会、ということは踊るのでしょうか。だとすると私は踊れる服を持っていないといけない、となります。ですが生憎、私は『服は動きやすければいい』という考えですので持ってるはずがありません。
「いえ、この服だとダメなのですか?」
「えっと……鎧で踊るのは流石に可笑しいです、、」
言いにくそうにエイワスが苦笑。私は鎧を纏っていても踊れる自信はあるのですが、、どうやら普通ではないようです。
武闘会ならピッタリなんですけどね、なんて。
結局エイワスにダメ出しされ、私は舞踏会用の衣装を借りることになりました。エイワスには姉と妹が居るようで、その服を貸してもらえるとのことです。なので今、私はそのためにエイワスの屋敷に向かっています。
「あっ! シトラス様! こっちでーす!」
待ち合わせ場所に設定した噴水の前でエイワスが手を振っている。私は時間ぴったりに着いたので彼が少し早く来ていることになります。
「早いのですね」
「相変わらず完璧な時間に来るんですね。……っと、じゃあ行きましょう!」
私はエイワスに案内され、王都の街を歩く。普段滅多に街には出ないのでなんか新鮮です。でも、何か、、
「……エイワス。先程から何か視線を感じるのですが、心当たりはありますか?」
「あっいや、、なんというか、、、」
エイワスが私から目を逸らし、言いにくそうに頭を掻きます。そうこうしてる間にもすれ違う人や買い物中の人からチラチラと視線を感じます。敵意とは少し違う、好奇の視線を。
「……気を悪くしないで下さいね。あの、シトラス様。その服、変です」
「……変、なのですか?」
私にとっては普通なのに、と少しショックを受けます。どこが変なのでしょう? 無地のワンピース1枚。施設では皆がこの服だったのですが。
「変ですね。周りを見てください」
エイワスの言葉にふと周りを行く人々の服装を見てみます。確かに、皆色とりどりの服を着ています。それに、何やら厚着をしているようです。
「……なるほど。今は冬なので皆さん服を着込んでいるのですね。私には暑い、寒いの概念が無いので失念していました」
「それ、失念できるものなんですか?」
エイワスがあはは、と乾いた笑いを浮かべ私から目を逸らす。
「私が幼少期を過した施設は夏は猛暑、冬は極寒という地にありました。そこで年中この格好で過ごしていたら慣れますよ。それに、どんな場所でも戦闘のパフォーマンスを落とさないためには寒暖に慣れるのも大切です」
そう言って私は肩をすくめます。胸元に付いたワッペン、3418番――。それは施設内で私が持つ唯一の個性。
エイワスの家は周りの建物と比べても大きなものでした。ザッカリア家、と言えば王都でも名高い貴族の名家だと聞きます。そしてその家の長男であるエイワスが騎士団に入ったのは2年前のことでした。
「エイワス・ザッカリア、24歳です。よ、よろしくおねがいします――!」
出会ったのはそれから1年半してから。その際、私の彼に対する第一印象は決して良いものではありませんでした。弱そうだ、と私は自分より4つも年上のエイワスにそう思いました。
そしてその通りに、エイワスは落ちこぼれでした。騎士団は序列社会。聖剣を持つ聖騎士として入団したがゆえにその序列をすっ飛ばした私は例外として普通、新入団員は上の立場のものにしごかれると聞きます。そしてそれにより、1割が騎士団を去ると。エイワスはその中でもひどくいじめられていました。上のものにも、同期にも。あまつさえ後輩にまで。
『泣き虫エイワス』と言えば名の通った蔑称。彼はすぐに泣き、なのに頑なにその剣を振ろうとしなかった。それに彼は貴族の生まれ。身分差別より実力・階級主義の騎士団においてエイワスは平民の団員にとては日頃の鬱憤を晴らす格好の的でした。
それなのに、彼は騎士団を去らなかった。私はそれが不思議でした。施設でも弱いものはすぐに淘汰され、強いものこそが生き残る。そしてそれが世界の真理、ただ唯一のルールなのだと教え込まれてきました。なぜ、弱い彼が淘汰の波に抗うのか。私は疑問に思い、自分から彼に話しかけました。
『……あなたはなぜ、逃げないのですか?』
『だって、僕が逃げたら妹や姉さん、大事な人が死ぬって思うと......怖いじゃないですか?』
そう言ってエイワスは泣いた。それが私達の出会い。でも、私は彼と語らうだけの言葉を持ち合わせていませんでした。なので、剣を抜いた。
『――私と手合わせしてください。あなたの思いの強さ、というのですか? それを知りたい』
『で、でも、、、はい......』
エイワスは剣を抜きました。でも、その目にはまだ迷いが残ったまま。私は更に付け加えます。
『もしあなたが私に勝てなければ大事な人が死ぬ――。そう思って戦うことです』
そして私は腰の剣、聖剣フィルヒナートを抜き彼に向けて横一文字に薙ぎました。空気すらも切るつもりの高速の一閃、にもかかわらず彼は私の初撃を受け止めた。
『……そんなのっ、、絶対に嫌だっ!!』
『――ッッ!?』
ガンガンと押してくる彼の剣技。決してきれいなものとは言えず、無茶苦茶なものです。なのに私はその剣に振り遅れる――。押していたはずの私がいつの間にか押され、踏み込んでいたはずの足は後ずさっていました。
『グッ、、』
その時、一瞬彼の体がバランスを崩しました。軸が僅かに左に、本当に一握の砂レベルのズレだったでしょう。でも戦闘においてそのズレは命取り。私はそのズレが引き起こした紙切れ1枚ほどの時間の差を利用し、彼の剣を吹き飛ばしました。そしてそのまま押し倒し、彼の顔の横に剣を突き立てる、、、
『ハァ、ハァッ、、、』
息が上がっていました。こんなに苦戦したのはミーシャや団長以来、、
『さすがですね、シトラス聖騎士様。いえ、今は円卓の騎士第二席でしたか?』
『……私とまともに打ち合える人なんて、そうそういません。なのにあなたはなぜ、その力を隠すのです?』
私は彼の上からどかない。答えるまで、離れないつもりでした。彼もそれが分かったのかしばらく黙っていたもののついには諦めたようにダランと体の力を抜いた。
『……僕、泣き虫だから。そんな僕が上になんて行ったら皆の和を壊しちゃうじゃないですか。それに、僕はもう慣れました。いいんですよ、別に……』
『ダメです。私は納得しません。強いものが生き残り、弱いものは淘汰されるのがこの世界です。それなら強いあなたは上に立つべきだ――』
『いや、僕は弱いです――』
『強いです。剣もですがその心も。私は知りません。……あんなに他人から必要ないと烙印を押され、それでも負けないあなたの強さは見たことがない輝きでした。……それは私だって、、持ってない、、、』
驚いた顔でエイワスが私を見上げます。そうでしょう。私も普段影から氷の騎士だの人形だの言われているのは知っています。そんな私がこんなに言うのですから。私は立ち上がり、エイワスに手を差し出しました。
『私と一緒に来なさい。私は円卓の騎士でも騎士団でも異色、あなたと似た存在です。だからまだ私の副官の席が空いています。エイワス・ザッカリア。私とともにいれば、もう嫌がらせを受けずに済みます』
『でも、、代わりにシトラス様が......僕なんかと一緒に居たら、、』
『――私は気にしません。弱いものの遠吠えなど、それこそどうでもいい。そしてそれに、、、慣れてますから』
このとき私は笑っていたのでしょうか。今となってはもう、覚えていません。ただこの時エイワスが見せた笑顔は、そして案の定流した涙は綺麗だった......それだけははっきりと覚えています。
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