16話 開戦前夜(3) 〜そして戦いの鐘は鳴る〜
【聖剣魔術学園豆知識】
アザミの能力
恒久の魔眼―――所有者の魔力を無限にし、魔力を自由に操ることを可能にする。相手の魔力をそのまま返す“反射”や相手以上の魔力で上書きすることで無効化する“消去”など、使い方は様々。今は精霊魔術が使えないため、魔力無限の効果しか発動できない。
アザミは魔眼の影響か魔力に対する感受性が人一倍高いため、相手の魔法陣や魔術式を一目見るだけでそれを自分のものにすることが出来る。魔術式とは『いつ、どこへ、どれほどの魔術を発動させるか』を数式化したもの。これを見れば先読みが出来る。魔法陣は自身の魔力をなんらかの魔術に変換するためのツール。精霊魔術と違って現代魔術は基本的にこの2つのいずれか、もしくは両方を必要とする。
「ついに、この日が来ましたね......」
「そうだな、勝つぞ。勝って、王都騎士団にアピールするんだ」
ガツン、とアザミとシトラは拳を合わせる。今日は聖剣魔術学園クラス対抗新人模擬戦、略して新人戦のの本番だった。
* * ** * * *
「準備はいいか? 呪符、霊装、魔剣、魔弾、、、忘れものはありえないぞ!」
試合前、あわただしく動くA組の教室にアックの大声が飛ぶ。
午前の第一試合がS2対C、第二試合がA対B。午後に決勝第一試合、明日の午前に決勝第ニ試合となっている。二日に分けて行われる第一学年最大規模のイベント、それが新人戦だ。
そして今はS2対Cの第一試合の最中。A組は何名かを偵察に行かせ、それ以外の生徒たちでB組戦に向けて着々と準備を進めていた。
* * * * *
この時代にはいろいろな武器があるのだな、とアザミはA組の準備品からいくつかを手に取り眺める。例えば、呪符―――あらかじめ魔術を仕込ませた札。一度しか使用できないが、使用することでそこに閉じ込められた魔術を魔方陣や魔術式、詠唱無しで魔術が使える。長・中距離戦闘むけのものだ。精霊魔法が主流だった300年前には無かったものに「これは戦いのバリエーションが増えそうだ」とアザミは微笑する。
そんな呪符を使った戦い方は、素直に魔術を使うだけでもいいが他にもある。それが霊装―――呪符を用いることで魔術を身に纏うタイプの総称だ。主に手足に使うことで身体能力の向上をはかる、攻撃・防御両方に優れている近接戦闘むけの呪符だ。
そんな魔術関連のグッズに気を取られるアザミと対照的に、シトラはふと剣を見つけてその目を輝かせる。シトラが注目したその剣はただの剣ではない。魔剣―――持ち運びのしやすい小さな十字架のような見た目をしているが、魔力を流すことで元の大きさ(剣)に戻るという性質があった。魔力の種類によって属性が変わるという長所があるが、普通の剣や聖剣よりも壊れやすいという短所もある。シトラの戦い方では一撃で壊れてしまいそうだ。
そして、悲しいことに双子が興味を示さなかった武器もある。それが魔弾―――同名称の魔術もあるのだが、こちらは魔術ではなく銃型の霊装だ。自身の魔力を弾にして放つという長距離戦闘に向いている武器。これは300年前にもあったため双子が興味を示さなかった、というわけだ。ちなみにレボルバー、ガトリング、スナイパーなど様々なタイプがある。
* * * * *
そんな準備品を物色しているうちに時間は経ち、試合開始が近づいていた。アザミのように呪符、霊装無しで魔術を操る純粋な魔術師は少ない。得意の魔術以外は呪符に頼るのがセオリーなのだ。だから皆、呪符を大事そうにポケットに仕舞っている。
「シトラ、これを持っとけ」
だが、せっかくあるこの時代の武器を利用しない手はない。そう言って準備品の中から魔剣を取り出し、おもむろにシトラへ投げる。それをパシッと受け止めるシトラ。
「これは……脆くないですか?」
「お前の聖剣は決勝まで温存したいからな。一回戦は作戦通りに行けば余裕で勝てる」
「ふわぁ〜あ......言うじゃんテメェ、余裕そうだなァ。敵にはあのゴードンがいるのに」
そんな双子の元へとグリムが暇そうにやってくる。馬鹿なグリムは呪符や霊装の知識が無さすぎて戦力外通告を受けたのだ。それを「あー」と察し、双子は黙って両手を合わせる。ご愁傷様です、そう言いたげな双子にグリムは「んだとテメェら―――!」と拳に力を込める。それを「まぁまぁ」とアザミはなだめる。いつもどおりの光景だ。
「……そのゴードンがB組の強みであり、俺らが利用するポイントだって先日説明したろ? 聞いとけよバカグリム」
「―――んだと!? 馬鹿は余計だぜ、このシスコンがよォ!」
なんだと!? と、再び睨み合う二人。そして何故か少し嬉しそうなシトラ。
(どうしてでしょう?なんだか心がポカポカします......)
そんなバカ三人のもとへ、第一試合を観に行っていたダグラスがやってくる。
「おいおい、落ち着けよ。そろそろ試合だぞ......?」
「あぁ、おかえりダグラス。して、結果はどうだった?」
「……それが、、、試合時間は40分。S2の完勝だよ」
「おっ、意外と時間がかかったんだな。選抜科言うことでもっとあっさりと勝負がつくもんだと思っていたぞ」
アザミがまだごちゃごちゃ言っているグリムをグイッと押しのけ、ダグラスから聞いた結果に驚きの表情を浮かべる。そしてどうやらそのアザミの感性は全員共通らしい。ダグラスも「驚いたよ」と試合を思い出し、感嘆の息を吐きながら三人に説明する。
「うん。それがさ、C組がゲリラ戦術を使ったんだ。だからS2も王様の特定に苦労してね」
「……ゲリラ戦術、か。それはなかなかの策士がCにはいるようだな。なるほど、それは助かった」
おーっ! とA組から歓声があがる。それもそのはず、5クラスで行う新人戦では決勝戦が3クラスになってしまい、ひとつ余る。だから試合時間が短いほうが決勝でシードが取れるのだ。S2の苦戦はAにとってはラッキーだった。なんせ40分以下で試合を終わらせればシードを取る事ができ、決勝戦で選抜科に二度も当たる事態を避けられるのだから。そうなれば優勝の可能性はグッと高まる。
そんな盛り上がる中、もうひとりの生徒が駆け込んできた。それは試合が始まるという合図。
「よし、じゃあ行こうか」
バラバラと皆が立ち上がる。ついに、双子の戦いが幕を開けるのだ―――。
* * * * *
「そ、、、それでは、、、準備はいいですね、、、?」
クリカ先生が両手を広げる。すると、A、Bの生徒たちの体がフワッと光に包まれた。
「他空間転移!!」
その詠唱に体が一瞬軽くなりふわふわと浮かんだ......と思うと、次は凄まじい閃光が視界を真っ白に染め上げた。
「眩しいっ!」
「異空間に転移している途中、ってとこか!? 我慢しろ、シトラ!」
しばらくして再び重力に引かれてドンッと地面へと落ちる。……ゆっくりと、目を開く。するとそこはさっきまでいた会場とは全く別の場所、森の中にたたずむ城の屋上だった。
「急いで!前衛は出るぞ!」
そんな全く異なった景観にも動揺やボーッとすることは一切なく、アックが全員に指示を飛ばす。その大声に転移の衝撃に呆然としていた何名かがハッとして動き出す。アックは頼れるリーダーだ、アザミはそんなアックを見てフフッと笑った。
「じゃあ、俺らも行くぞ」
アザミが指示を出し、アザミ、シトラ、グリム、アックの四人を含めたクラスの半数15人が城外へ飛び出していった。作戦通りに。
* * * * *
「さぁ!! 始まりましたよ―――新人戦第二試合ィィ!! 解説は引き続き、一昨年の新人戦MVPであるサラ・バーネット生徒会長にお願いしますゥゥ!!」
「よろしくね」
「はい。よろしくお願いしまァァす! そして! 実況はワタクシ聖剣魔術学園放送部、2年C組のマイク・マイクロプスが担当しますゥゥ!」
新人戦の模様は記憶投影術式を応用して会場に映し出されていた。他クラスの生徒、王都騎士団や各部活・クランの代表はそれを利用して新人戦を見守る。新人戦は学園生活はもちろん、将来までも決定してしまう大事な行事なのだ。
「……大声も疲れました、ふぅ......さて、会長。まずは両クラス、だいたい半分前衛攻撃・半分後衛待機となりましたね?」
「君は最初から飛ばしすぎ......は、いつもどおりか。……うん、そうね。今のところはセオリー通りかな。転移してからの1分間は交戦禁止時間だから、この時間でどれだけ有利なポイントへ移動できるかが大事じゃないかな〜」
「おぉ、なるほど! これは......少し固まって移動するAに対してBはバラバラに散らばるようです。いやぁ、両クラスの作戦が気になりますね、果たして勝負はどうなるのでしょうか!?」
60秒をカウントしていた時計の表示が0へと変わり、ゴーンと鐘の音が響く。
「それでは、一回戦第二試合、、、開始!!」
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