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15話 開戦前夜(2) 〜情報〜

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「あと一週間だよ、皆」


 ワイワイと作業中のS1の教室にトーチの声が響く。そのよく通る声に皆、特に女性陣が素直に耳を傾ける。


「分かってるって。んで? トーチの方こそ対策はどうなのよ」


 ジョージが剣の手入れをやめて顔をあげる。ジョージの言葉にトーチはフッと笑って、


「情報戦かな? 分かる範囲では、ね。S2については中等学校での成績などがあるから大体の予測はつけられるんだよ。でもね......」


 そう言ってトーチは表情を曇らせる。トーチの情報網でも不確定要素が多いクラス。それは、


「A組、か?」


「そうだね。普通科の情報は少ない。それにA組は動きが無いから情報も出てこないんだよ。特にジョージを倒したあの双子に関しては一切ね。情報がないと不気味だからなんとか聞き出したいんだけどね......」


 困ったな……とトーチは苦笑しながら頭をかく。


(入試に関しても目撃情報は無いし、中等学校時代にも目立った成績は無し。いったい何者なんだい、君たちは……)


「別に情報なんていらねえよ」


 だがそんなトーチの不安とは裏腹に、ガツンッと自信たっぷりに拳を打ち合わせるジョージ。S1では各々が個人の霊装の手入れをしていた。そこに連携や作戦などはない。ただ力のみでねじ伏せる、強者のスタイルだ。そこから来る自信が彼らの強さの源だった。トーチはそんな皆の雰囲気に思わず笑みをこぼす。


「なんだろうと、ぶっ潰せばいいじゃねぇか。だから俺らの指揮は頼むぜ、リーダー」


「ふふっ、そうだね。任せておけ。優勝するのは、僕たちだよ―――」


* * *  * *  *


「とりあえずみんな、偵察お疲れ様。早速だけど、ここ一週間でみんなが集めてくれた情報をまとめたから見て欲しい」


 時を同じくして、アザミ達のA組では偵察結果の共有が行われようとしていた。アックが資料を持って壇上へと上がる。そして黒板に念写した紙を貼っていく。


「まずは、B組からだ。注意しておきたいのはこいつ、ゴードン・アクセルだ」


「えっ!? 嘘だろ!?」


 ゴードンという名前に「マジかよ」「そんな大物が」と教室がざわつく。

 そして例によって何も知らない双子は、「誰だそれ」となっているのだが。聞いたこともないし、会ったこともない。そんないつもどおりの双子を見て


「大丈夫だ。俺も知らねえ!」


 グリムが笑顔でサムズアップ。お前と同じでも不安なだけだ馬鹿、とそれを見て怪訝な顔をするアザミ。そう考えるより先に言葉が口からするりとこぼれていた。


「お前と同じって、なんかムカつくな」


「はぁぁ!? なんだとテメェ、もっぺん言ってみろや!!」


「はいはい、そこまで。……説明するから聞いてくれ」


 立ち上がりかけた二人はアックのなだめる言葉にフンッと席に座る。


「んんっ、えーっと......じゃあ、皆は知ってると思うけど説明するよ。ゴードン・アクセル。彼は戦士(ウォーリアー)だ」


「おぉ! それは聞いたことがある単語だ。……なるほど、俺らと同じで戦争上がりってことか」


「その通り。その中でもゴードンは以前の魔界との大規模抗戦において単騎で敵陣に突撃し、それを壊滅させている。それほどの実力者だ」


「……単騎で? それは凄いな。それはなかなかの実力者ってことか。……だがそれほどのやつがどうして普通科に? 強いやつは選抜されるはずじゃないのか?」


「普通はそうだな。でも、ゴードンはつい1ヶ月前まで騎士団に所属していたんだ。これはあくまで推測なんだけど、だから学園も進学の意思が無いと判断したんじゃないかって思うんだ」


 アックの推測は当たっていた。ゴードン・アクセルは元々王都騎士団に所属していた。そして聖剣魔術学園は王都騎士団に入団する勇者や魔術師を育てることを目標としている。そのため王都騎士団にすでに所属しているゴードンは入学の意味が薄い、よって入学はないだろうと踏んで学園は選抜を打診しなかったのだ。


 だがゴードンは入学した。入学試験を受けた普通科として。入団のためにではなく、自身のスキルアップのために。アックが眉をひそめ、コソコソと小声で囁く。


「これは噂なんだが、今年の入試成績一位らしいんだ……」


「まあ妥当だな。それほどの強さがあるなら試験など余裕で合格できる。それに戦争経験者ならこのルールで行われる新人戦もかなり有利だろうな」


「おいおい、そんなチートがいて勝てんのかよ......」


 誰かの言葉に教室がシーンと静まる。


―――ゴードン・アクセルなんて勝てるわけ……


そんな声が聞こえてくる、そんな気がした。それほどに戦う前から戦意を失いかけている教室。その中で不意にアザミは「ハッハッハ!」と高笑いをした。当然、皆の注目がアザミに集まる。アザミはそんな視線にフンッと薄ら笑いを浮かべ、立ち上がる。


「……勝てるさ。お前達が集めたのはなんのための情報なんだ?」


 立ち上がったアザミはスタスタと教卓の方へと歩いていく。シトラも遅れてアザミについていく。そんな双子の言葉にまだ理解できない、と言った顔の不安げな面々。


「じゃあ、俺らが調べた情報を教えてやろう」


 そう言って黒板をトンっと叩く。黒板がスッと光ってスクリーンへと変わる。


記憶投影術式(キャストメモリー)か!? なんでそんな高位の魔術を使えるんだ・・・」


 ダグラスが小声で軽くつぶやく。


ダグラスの言う記憶投影術式(キャストメモリー)―――それは自身の記憶を空間や物体に投影する術式だ。魔力が高いほど鮮明に再現できる、普通の学生ではせいぜい手のひらサイズが限界だろう。それなのに黒板ほどの大きさのものに投影したアザミ。だがアザミはそんなざわつきには一切反応せず、ポンッととある場所を黒板に映し出した。


「こっ、これは......?」


 黒板に投影されたのは鬱蒼とした森に城が2つ建っている情景だった。城と言っても建物はなく、壁と床だけのただの砦、と言った感じだが。


「見てわからないか?」


 アザミが腰に手を当て、フフンと勝ち誇った顔をする。その言葉にアックがハッとした表情になる。この状況で投影された“とある場所”。心当たりは一つしか無い。


「まさ、、、新人戦の会場か?」


「そのとおり。言っただろ? 実地研修だと―――」


「いや、こんなのアリかよ!? てか、会場の下見ってどうやって……」


「何を言っているんだ、グリム。これはルールで認められている。書いてあったろ? “教師は一切の介入をしない”って。それは別に教師が“自分から”介入してこないだけで、俺達から介入するのは禁じられていない」


「つまり、”やりたい放題”と、いうことです!」


(……セコイッ!)


 ハッハッハーと高笑いをするアザミに教室中からジトーとした視線が向けられる。まぁ、双子はそんな視線は一切気にせず、話を続ける。


「それに、この新人戦は本物の戦争に慣れるためだろうが、限りなくリアルに行われている。つまり俺達がやったことは敵陣に忍び込んで地図を入手したようなもんだろ。そこに問題なんて一切ない。どこの誰が戦場での略奪行為を咎めるんだ?」


「なんかアザミさんがいたら優勝できるんじゃないかって気がしてきたよ……」


「―――それでアザミ。詳しい説明をしてくれるか?」


 会場の映像に気を取られて忘れていた本題。思い出したようにアックがアザミの方を見る。ああ、とアザミはうなずいて、


「ステージはこの森林一択だ。この2つの城が各クラスの陣地。後方部隊はここで待機だな。この森林エリアには何箇所か開けたところもある。そこが交戦ポイントだろう」


「それにこの森は伏兵や奇襲を仕掛けるには好都合なほどに鬱蒼としています。作戦に活かしたいですし、注意も必要ですね」


 双子の説明におぉーと称賛の声が上がる。現物を見た双子、それに戦争経験者ということもあり説得力は段違いだった。


「伏兵、奇襲、か。それに開けたところがあるなら俺の魔術も役に立ちそうだ。……なるほどな、アザミ。これが情報が大切って理由か」


 感心した様子のアックの言葉にアザミがニッコリと笑い、肩をすくめる。


「んで、アック。集まった情報ってのはこれだけか?」


「うーーん。あとは各クラスの人数、男女比、何名かの顔写真ってとこかな。S1とS2に関しては本当に情報統制が厳しくてな」


「……それはそうだな。優れた将ほど手の内は隠すものだ。まぁ、最悪人数がわかっただけでも十分使える。が、、、」


 アザミがうーんと顎に人差し指を当てて考え込む。


―――選抜科に関しては正直少なすぎるな、、、


「アック、2つ質問がある」


「なんだ? 俺に答えられることならなんでも」


「ゴードン・アクセルはリーダーか?」


「……いや、違った。B組のリーダーは痩せた眼鏡の子だった。まあ、リーダーが一番強いってわけじゃないし、大方頭が切れるってとこだろうけどさ」


「―――次に、ゴードン・アクセルは騎士団でどんな立場だった?」


「確かアブド隊のエース、、、って聞いたけど」


「なるほどな。ひとまずB組に関してはそれで十分だ」


 アックの答えを聞いたアザミはニヤリと含みのある笑みを浮かべて自らの席へと戻っていく。


「十分っていうのはどういう意味だ?」

            

「言葉通りだよ、アック。“これで勝てる”ってことさ。それも最高の形で、ね―――」


「な!?!?」


 まだ新人戦も始まっていない状況でのアザミの勝利宣言に教室が一気にざわつく。だが、アザミはそれを誇ること無く「だが......」と少し考え込んでいる。


「だが問題はその後だ。決勝戦であたる選抜科の情報が圧倒的に不足している。このままでは―――」


「そのコトなんだけどよ、、、」


 ぶつぶつと考え込むアザミを静止してグリムが立ち上がる。

 その行動にアザミを含めて全員の視線が集中した。その状況に少し気恥ずかしそうにしながらグリムが、


「情報についてなら詳しいやつを一人、知ってんだ。ここは俺とエイドに任せちゃくれねぇか?」


〜ある日の放課後。職員室にて〜


アザミ「あのおっさんが空間転移を得意とする魔術師か?」


シトラ「ええ、おそらく。他空間転移(アナザーポーター)の権威らしいですからね。学園の広報誌に載っていました」


アザミ「よし、いくぞ。失礼しま〜ス」


シトラ「・・・失礼します」


アザミ「やあ、先生。あなたがクリカ・テレズマス教授ですね?」


クリカ「は、、、はい、、、そうですが、、、なにか、、、」


シトラ「私達、先生のファンなんです!この学園に入ったのだって、先生のABCループ機構に感銘を受けたからなんです!」


クリカ「そ、そうですか、、、嬉しいです、、、ABCループ機構に興味があるなら、、、是非うちの研究室へ来ませんか、、、???」


アザミ「(シトラをエロい目で見やがって、このおっさん)」


シトラ「はい! あ、でも…もし良かったら先生の転移術をみたいな〜なんて。ごめんなさい。ダメですよね?えへへ」


クリカ「あ、、いえ、、簡単なのなら、、、ほらっ」


シトラ「わーー!!すっご〜い! コップが一瞬で手元にワープしましたよ!」


アザミ「(じーー。魔法陣をつかて対象を読み取り、一度デリート。その後別の場所でそのデータを復元して転移させてるってわけか)」


アザミ「なるほど、勉強になりました。行こうかシトラ」


クリカ「あ、、シトラちゃん、、、またいつでも遊びに来てね、、、」


シトラ「は〜い♡」



シトラ「・・・・・・疲れた。ああいうのはキャラじゃないんです」


アザミ「いや、結構ノリノリで、、いや、冗談だ! 何を詠唱している!?」


シトラ「ゴホン、じゃあさっそく行きますか」


アザミ「ああ、他空間転移(アナザーポーター)!!」


シトラ「おぉ!これが試合会場ですか。それにしてもアザミの力は便利ですね」


アザミ「魔法陣さえ見れれば術式のコピーなんて簡単だよ。この魔眼に残された唯一の力『魔力無限』も使いようだな」


シトラ「森は深いですね。それに城が2つ、陣地でしょうか?」


アザミ「ああ、この開けた空間も使い方によっては有利に―」


クリカ「(な、、なにを、、、しているんですか、、、! 勝手に、、、侵入するなんて、、、)」


シトラ「ッ!?頭の中に声が・・・」


アザミ「チッ、どうやら侵入者を報告するシステムが組み込まれていたらしいな。まあ十分だ。出るぞ」



クリカ「こ、、これは、、、一体どういうことですか、、、許されませんよ、、、こんな不法侵入なんて、、、」


アザミ「いえいえ、どこの世界の戦争に『敵国のスパイだ!不法侵入だ!』なんてぬかす馬鹿がいるのですか?」


クリカ「な、、、私が、、馬鹿だと、、、」


アザミ「情報管理は先生の仕事でしょう。それを怠った結果ですからね。それにルールでは新人戦準備に教師は不介入。俺達がしたことを咎めることは出来ないはずだ」


クリカ「そ、、それでも、、、許しません、、、この件は学園長に報告を―」


シトラ「・・・先生、だめ?」


クリカ「・・・・・・今回だけは、、、見逃します、、、もう二度とこのような真似をしないなら、、、またいつでも来なさいね、、、」



アザミ「なんだあいつ」


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