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158話 魔女と呼ばれた少女〜サラ視点(2)〜

2020年最後の更新です。本作を見てくださっている皆さん、ありがとうございました。良いお年を。

そして2021年もよろしくおねがいします! 完結目指して頑張っていきます!


(……人の気配、、この家には誰かいるわね)


 サラが魔弾レボルバーをカチャッと起動し右手に携える。そしてゆっくりとその木の扉の前に立つ。切羽詰まった声が家の中から聞こえてきた。


『奴ら、ここを魔界の軍勢を誘い込んで有利に戦うための拠点にするつもりなんだ、、、そのためには俺たち村人が戦闘の邪魔になる。だから――』


(……魔界の軍勢を誘い込む、、? 確かにオルテウス様から頂いた命令書にはそう書いてあったけど、あなた達がそもそも魔界の者ではないの......?)


 サラの表情に一瞬迷いの色が混ざる。だが迷っている時間はなかった。この家だって、この中にいる人達だって魔界の者で、つまり殲滅の対象だ。サラは一度大きく息を吸い、そして吐く。


「――勘がいいのね。でも、残念......ここまでよ」


 家に足を踏み入れたその瞬間、一瞥するだけでサラは家の構造、どこに何があるか、誰がいるかを全て把握する。


(人は3人、、母親らしき人は寝ているのか? それなら優先すべきは最も強い男の大人――!)


 サラが躊躇なく引き金を引く。赤い閃光とともに放たれた銃弾が父親の額を完璧に撃ち抜く。抵抗の仕草すら与えられなかったその体がグラっと崩れドサッと床に投げ出される。


「父さん――!」


 息子が父親の元へ駆け寄る。


(あの人はさっき目があった人ね、、、でも残念、ここまでよ――)


 サラが今度は息子の方にレボルバーの照準を定め、引き金にカチャリと指をかける。そしてゆっくりと指に力を込める。だがその時、サラを睨みつけその男が叫んだ。


「……父さん、、どうして、、どうしてだよぉぉぉ!! お前らは、お前ら騎士団は俺たちを守ってくれるんじゃないのか!?」


「……えっ、、」


 サラの頭はその瞬間真っ白になった。男の言葉がぐるぐると頭の中を回る。

 男は言った。『お前ら騎士団は俺たちを守ってくれる』と。騎士団が守るのは人界の民だ。ということは――


(……そんなっ、、でも嘘を言っているようには思えない......父親の死を目の前にして、、それで自分だけは助かろうなんてこの場を乗り切るために嘘をついているのなら、、、ううん。そんな男があのような目をするかしら......?)


「――殺せよ、、父さんと同じように俺も殺せェェ!! この、この魔女が!」


 サラは思わず唇をギュッと噛みしめる。全てを理解した。自分のやったこと。それが魔界の侵略者を討ち滅ぼすことではなく、味方であるはずの人界の民を殺していたということに。


(魔女、、魔女か……)


 当然の言葉だ、とサラは思った。リナイ村の住人たちにとっては自分たちを助けに来てくれたはずの騎士団に殺されるのだから。


 そう思うと自分が情けなくなる。どうして命令を鵜呑みにしたのか。どうして、、疑わなかったのか。どうして、、、誰にも確認しなかったのか。


「――ッ!!」


 行き場のない自分への怒りを込めて引き金を引く。当然、男は狙わずに。撃ち出された弾は男の頬をかすめ壁にめり込む。


(私がみんなを止めないと、、)


 サラがサッと踵を返し、開けた扉から外へ駆け出す。男はその後ろ姿を呆然と見ていた。


(――それが今の私に出来る、、唯一のことだから……)


 走りながら通信用の呪符を起動する。


「――第7魔導部隊の諸君に告ぐ! 今すぐ戦闘をやめて離脱せよ。集合場所は崖下、あの石段の下だ!」


 有無を言わさず命令を発する。返事も聞かずサラは村中を駆け回った。命令の届いていなかった騎士団員には直接撤退命令を伝え、自分も石段の下へと転がり下りる。


「――17番! 全員いるかしら!?」


「確認済みです。第7魔導部隊総勢36名、御主人様マスターで最後です」


 17番が真っ直ぐな瞳でサラを見つめ、胸に手を当てて頭を下げる。


「――隊長! どうしたのですか!? なにか不測の事態でも、、」


 団員の1人が申し訳なさそうにサラに尋ねる。だがサラは血が滲むほど強く握りしめた手のひらに爪を立て、そして唇を噛み締めるのみで何も言わない。


「いいから撤退よ! 本作戦は中止とするわ、、、」

 

 絞り出した言葉は叫びのように聞こえた。団員たちの間に動揺や落胆が走る。


(当然ね......。なんせたくさんの人を殺させておいて何の成果も挙げられませんでした、はい撤退。……じゃ納得もできないわね、、、)


 だが、真実を伝えることは出来なかった。あなた達が殺していたのは魔界の者でも敵でもない、守るべき民達だったのよ、なんて。


 その罪は全て自分が背負う。サラはそう誓った。




「……後日、会長は騎士団長オルテウス様に確認をとられました。その時オルテウス様はこう仰ったそうです。『なんだ、気づいちゃったか。君は素直に命令に従ってくれると信じてたからこの任務を回したんだけどね、、』と。それからしばらくして会長は騎士団を脱退されました。責任を問われ第7魔導部隊も解散……私も軍を辞めざるをえなくなりました」


 語り終わりアミリーが「ふぅ」と一息つく。カニバルは何も言わずただ俯いていた。


「カニバルさん、、、」


「そんな……それが真実なら私たちが君達を恨むのは筋違い、なのか? 私と同じように魔女、そいつも被害者だったのか……?」


「それは違います。知らされていなかったとはいえ手を出したのは、あなた方を殺したのは私達です。あなた方は私達を断罪する権利がある……」


 アミリーがそう言って頭を下げる。


「……私からも謝罪します」


「やめてくれ。今更そんな事言われても気持ちの整理がつかない。……恨みのみで生きてきた私達の6年間を無駄にしたくない、、」


 魔弾ショットガンを握るカニバルの手はプルプルと震えていた。


(6年間、ずっと会長を恨んできたんだ。なのに今、会長も上の命令に騙されていたという事を知った。その気持ちも怒りも行き場を無くしたことだろう、、、)


「確認したい。貴様の言うことは真実、、なのだな? そこの魔女を庇うための嘘ではあるまいな?」


「……はい。私が見たあの日の光景と、後日会長から聞かされた話をありのままにお話しました。私は嘘をつけませんので、全て真実です」


 キッパリとアミリーが答える。その答えにカニバルが肩を落とし、ドサッとソファーに座り込む。


「私はどうしたらいいんだ、、、そこの魔女を殺したいのに、、その気持ちが揺らぐッ! ……父さん、、」


 顔を覆う指の隙間から涙が零れていた。アザミは何も言えなかった。当事者でも無い自分には何も言う権利がない、アザミはそう思い目を伏せる。


「……会長は、御主人様マスターはその後聖剣魔術学園にご入学されました。そして生徒会長になり、今は楽しそうに笑っています。ですが、何も忘れてはいない。私は知っています。会長がひとり、生徒会室で泣いていたことも、あの日以降自信を無くされたことも、、、先程断罪する権利がある、と言いましたが……出来れば会長は見逃して貰えないでしょうか。代わりに、私の首を差し上げます」


「なにを言って――!」


「……正直、その提案は助かる。私は君たちを殺して、みんなの墓の前に報告したい。でもさっきの話を聞いて迷っていた。本当に、私が恨むのは魔女なのかとね。そんな中、その対象からの折衷案だ。確かにこれなら私も仇を討てるし、貴様も主人を守れるだろう。……でも、二言はあるまいな?」

 

 アミリーの言葉を聞き、アザミが慌てて立ち上がる。だがその前にカニバルが魔弾ショットガンを構えアミリーの心臓に狙いを定める。


「ええ。あなたも、ですよ――?」


「やめろ――!」


アミリーがフッと目を閉じる。だがまさにカニバルが引き金を引こうとした瞬間、外からキャーという叫び声と爆発音が聞こえてきた。


「――なんだ!? ……まさか、またお前たちが、、」


「いえ、私は一人で来ましたよ?」


 訝しげな表情を浮かべながらカニバルがそっと扉を開け外の様子を確認する。


「なっ! ……何が起きているんだ、、」


「なにか起きているのか!?」


「……何軒かの家から炎が上がっています。見たところ襲撃、のようですね。誰のかは分かりませんが、、」


 状況を呑み込めていないカニバルの代わりにアミリーが答える。だがその疑問の答えは外から聞こえてきた声が教えてくれた。


「この家が良いか? 金を持っていそうじゃ。ガッハッハッ! ワシらは山賊じゃ! 命が惜しければ金と女を持ってこい!」


 そんな声が開いた扉の隙間から聞こえてきた。それを耳にしたカニバルの顔からサーッと血の気が引く。


「そんな、、どうして山賊がここに!?」


「おそらく6年前の私達と同じルートでしょう。リナイ村は魔術が使えず、助けが来るのにも時間がかかる。加えて平和で手付かず。山賊が狙うのも頷けます」


 動じた様子もなく、アミリーが淡々と答える。


「……くそっ、またこの村から大切な人たちを奪われてたまるか!」


 そう言ってカニバルが魔弾ショットガンを握り外に出ようとする。だがその手をアミリーがぎゅっと掴み、止める。


「正気ですか? ここは魔力を生成出来ない。その武器、、持ち主の魔力を弾に変える魔弾ショットガンでは数発しか撃てません。それでは山賊達に返り討ちにされるだけですよ?」


 アミリーの言葉にカニバルが悔しそうに唇を噛む。だが、バッとアミリーの手を振りほどく。


「――分かってるさ、貴様に言われなくてもね。でも、私はもう嫌なんだ、、。あんな気持ちを味わうのは」


 そう言い残しカニバルが外へ飛び出す。だが、そこにはすでに山賊の姿があった。


「お? なんだあんちゃん、ワシらとやるつもりか?」


 まるまると太った見るからに山賊の首領のような男がカニバルとその銃を見てニヤニヤと馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「そうだ――! 貴様ら、さっさとここから出ていけ!」


「フッ、、ハッハッハッハー! えぇ? そんな武器1つでワシら全員を相手するんかのう?」


 50人を越す男たちが一斉に剣を抜く。カニバルも対抗するように魔弾ショットガンを構える。



「――やめてください。言ったでしょ? 太刀打ちできないって」


 アミリーがカニバルの首元を引っ張り家の中に引き込む。そして入れ替わるように玄関口に立ち、準備運動のように腕を伸ばしストレッチをする。


「……おいおい、嬢ちゃんがワシらと戦うのかい?」


 山賊たちは完全にナメきっていた。剣をしまう者、肩に置く者。誰ひとりとしてアミリーに身構えるものはいなかった。


「――おい、やめろ。魔女の手先なんぞに借りを作って、、」


「そうですよ先輩。何一人で行ってるんですか。……戦うのは先輩だけじゃないぜ? 山賊共――」


 カニバルを押しのけアザミがアミリーの隣に立つ。それを見てカニバルが「なっ、、!」と驚いたような表情を浮かべる。


「……アザミくん、大丈夫なのですか?」


「先輩が気にすることじゃないですよ。それよりも目の前の敵に集中しないと、、、」


 アミリーがアザミに目を向けずに確認し、アザミもそれに合わせてぼそっと呟くように答える。

ふたりの目がスッと細くなる。放たれる異様な雰囲気に山賊たちが少し身構える。


(……さて、どうするか。『戦うのは先輩だけじゃない』なんてカッコつけたけど、正直キツイんだよな......数の差も、条件も、俺自身も、、、)


 なんて考えるアザミをよそに山賊の首領がすっと剣を振り下ろし、それを合図に50人近い山賊たちが一斉に突撃してくる。



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