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12話(2) 長い1日

【聖剣魔術学園豆知識】

この世界の年代について

☆アザミとシトラの転生前の世界、300年前の世界は中世ヨーロッパ風の街並みだった(通称ナ―ロッパ)。そして現在はそれから300年経過したということもあって1800〜1900年代ヨーロッパのような、少し発展した街並みとなっている。なおそれに合わせて文明レベルも上がっている。(あくまでイメージです)


ジョージ・ハミルトン

1年S1組。上流騎士階級のハミルトン家の長男。ハミルトン家の光の剣技とされる秘術を使う。

トーチとよくいっしょにいるが、これはキールシュタット家とハミルトン家は主従の関係にあるため。

自身が選ばれしものであることに誇りを持っており、他者を見下しがち。しかし剣の腕は超一流。




 何か含みのあるニックの言葉にサラがやれやれと頭を抱えた。このあとに起こるであろう展開を何となく察してしまったのだ。だがもうここまで暴走したニックは止められない。


「まあ見ていてくださいよ。……いち、にい、さんっっ! はいっ、マッスルッッ!!」


 サラの呆れた顔にも、誰もその質問に答えたり、その理由を聞いてもいないのにニックは「ふんっ!」、と全身に力を込めた。すると、ビリビリッ! と力がかかった白いシャツが破れ、その下からニックの鍛え上げられた筋骨隆々の肉体が露になった。パラパラと宙を舞う白シャツの無残な姿、そしてその舞う中でグッとポーズを決めるニックの“見た目からは想像できない”整った肉体美にその場の全員の視線は釘付けだった。ただ一人、頭を抱えるサラを除いて。


「―――はぁ。で、君は一体何枚シャツを無駄にするのかなっ! そ・れ・に、私はさっき校内での魔術の使用は厳禁だって言ったよね......ニック副会長?」


 どうしてあなたが破るのかしら、と言いたげなサラの怒気を含んだ言葉にニックがギクッ、と我に返った。そのままギギギ......とおもちゃのようにニックはカタカタとサラのほうを振り返る。ダラダラと汗を流す顔と小刻みに震える体からは「しまったぁ〜」という心の声が漏れ聞こえてきそうだった。


「あれが噂の筋肉増強術式(マッスルアーマメント)か!」

「確かニック先輩が一昨年開発した術だよな。こりゃ珍しい物を見れたぜ」


 だが勝手に見せられただけ、巻き込まれただけの野次馬にとってはただの珍しいイベントでしか無い。サラの反応に反して周りの生徒たちからは歓声があがっていた。その歓声はパフォーマーにとってはとても嬉しいものだ。ニックは得意げに手を振って応える。……が、サラにギロリと睨まれて動きを止めた。


「……ニックは後で始末書ね。まぁそれは“後で”で、今はあなた達よ。……あなた達二人とジョージ・ハミルトン。そこの3人は私と一緒にちょっと来なさい」


「……どこに?」


「生徒指導室」


 ノロノロと疲れた顔で起き上がったジョージ含め3人に向けてサラはニコッと笑った。しかし、その目は一切笑っていない。これが冗談や小ボケではなく本気の言葉なんだとハッキリと理解する。


「やっぱりこうなるのかっ……!」


 そう、双子の1日が何もなく終わるはずが無かったのだ。反論の余地も無く、双子はジョージと共に入学式その日から生徒指導室にズルズルと引きずられていくのだった。


* * * * *


「……やっと解放されたぁ」


 それは本日二度目の下校であった。あのあと、当然なのだが双子とジョージは生徒指導室でみっちり怒られた。どうやらそれは学園史上最速の指導らしい。オルテウスには「君たちならなにかやらかすと思ったよ」と呆れられ、ハイルには「お前らよく選抜科倒したなぁ」と褒められた。その反応、ハイルは教師失格な気がする。


 とまぁ、そんな事があって双子が校門をくぐったときには聖剣魔術学園の時計塔の針はもう夜21時を示していた。実に半日以上学園に居たことになる。


「それにしても、王都は明るいですね」


 そんな落ち込みたくなる空気の中、あたりの街灯や街の光に目をシバシバさせながらシトラがそうポツリとつぶやいた。確かに見渡してみると互いの表情や破れかけたポスターの文字まで見えるほど、その街路は明るかった。


「エッジ村じゃこの時間は真っ暗だったからな。この時間に明るいのは随分と久しぶりな気がするよ。……これはさすが都会、といったところだな」


 そんな他愛ない話をしながら双子は寮へと向かう。寮は学校の敷地内、と言っても校門から出て多少歩いたところにあった。二本ほど角を曲がるとその建物が双子の視界に飛び込んできた。


「うおっ、大きな家が2つも建っているぞ」


 ここまでの双子を考えると奇跡的に、迷うこと無く一直線に寮の前までたどり着いた所でアザミが驚きの声を上げた。少し開けたスペースに似た建物が2つ並んで建っていた。高さは5階建て、聖剣魔術学園と同じく石レンガで赤茶色の外壁を持つ建物だ。それを見上げながらシトラは思い出したように、


「えっと.....右が男子寮、左が女子寮のようですね」


「……ってことはここでお別れってことになるな」


「そうなりますね、、」


「そういえばこの世界に転生してから15年、こうやって別々に寝るのって初めてだよな」


「ハハッ、確かにそうですね。幼い頃はは同じベッドで寝ていましたし、成長した今でも家の部屋は隣同士ですしね」


 双子は顔を見合わせて微笑んだ。これが300年前殺し合っていた魔王と勇者だなんて誰が信じられるだろうか。もちろんお互いが持つ敵意や恐怖、といった心の奥底の感情まで完全に許したわけではない。だが、今日も含めてあの“星空の誓い”からこの10年ほどの間に随分と距離を縮めていた。それはこうして笑いあえるほどに。そして、


「じゃあ、おやすみ」


「ええ、おやすみなさい」


 そして、おやすみの挨拶が出来るほどに。双子はクルッと互いに背中を向けるとお互いの寮へと歩き出した。


* * * * *


「あなたがアザミ君ね? 入学初日から生徒指導されたってウワサの」


「……そっすね」


「私は寮母のマドリータ。永遠の18歳よっ☆……やぁねぇ、冗談よ冗談っっ!」


「……どもっす」


 その寮母に随分と適当に返す。こういうタイプ(グイグイ来る年上の女)が苦手な魔王だった。加えて生徒指導やジョージの件など色々あったあとにこのテンションはキツイ。それはもう、つい再び世界征服試みてみるかと本気で考えるレベルで。


―――何が18歳だ。3倍してトントンだろうが


 ジトーッと呆れたように目を細めてそんな事を思いながらも流石に口には出さない。そんなアザミの内心に全く気がついていないマドリータはゴソゴソと壁にかかった鍵の山をあさり、その中の一つを手に取ってアザミにはい、と差し出した。


「あなたの部屋はね......302号室。……あ、そうそう。同部屋の子とまで喧嘩しちゃダメよ!」


「……分かってますよ」


 バシッと半ば強引に鍵を受け取ると、アザミは階段を上がって3階に到着した。302号室は階段のすぐ近くにあったのですぐに分かる。だが、その前に立つとやはり緊張するものだ。アザミは数度深呼吸し、


(にしても“喧嘩しない”、か。よくシトラにも言われたな)


 なんて。そんな昔のことを思い出しながらフッと笑みを浮かべ、アザミは部屋のドアノブに手をかけた。そしてガチャリとひねってドアを開け、中へと足を踏み入れた。


「どうも、今日から同室になる―――」


 開幕から好印象を、と口をついて出かけた言葉をゴクリと飲み込んだ。いや、その部屋の中を一目見た瞬間に引っ込んだのだ。


 なぜなら部屋の中にいたのは、赤髪で目つきの悪い男。


「なっ!? おいおい、ルームメイトってテメェかよッッ、、アザミ・ミラヴァードォッ!!」


「……はぁ。悪いねマドリータさん。……どうやら既に喧嘩済みの相手だったらしい。なあ? グリム」


 アザミは気が付かなかったが、ドアの横に適当に吊り下げられたプレートには下手くそな字でこう書いてあった。


『302号室 グリム・カイエン』と。

 

 その下にアザミは自分の名前を書き足し、ガチャリとドアを閉めて部屋の中に入る。こうして聖剣魔術学園という学び舎で過ごす日々を、その夜を一緒に越える仲間との運命的で......といっても最悪に近い運命の出会いを果たしたのだった。

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