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146話 誘い、いや命令

《聖剣魔術学園豆知識》


・カヌレ 

 セラとグリムが王都中央広場で出会った少女。銀色の髪に緑の瞳を持つ。服装や周りの反応からどこかのお嬢様だと推測されるが……


・オルメカ

 カヌレの護衛。オルメカというのは偽名で真名はカヌレしか知らない。白いレース付きの赤の鎧を着込んでいる。セラの招待に勘付いたり特定の人にしか自分を視認できないようにしたりと不思議な面も多い。その正体は――





 聖剣魔術学園の三学期は疾風のごとく過ぎて行く。特に目立った行事イベントはなく、強いて言うなら進級試験ぐらいだろうか。だがこれも普通に学園生活を送っていれば特段問題は無いものだ。


 アザミたちはいつものように魔術や剣術、12月のクラン戦で通用しなかったことの洗練や新たな戦い方を身につけるべく練習に励んでいた。クラン戦を終えて皆の顔つきが変わった。どこかバラバラだったオルティスアローの面々も敗北を経てひとつに団結した気がする。もう二度と負けたくない、その気持ちは共通のものだったから。


(バラバラのものをひとつにまとめる方法は簡単だ。それは共通の敵を用意することだーー、だっけ。よく言ったものだな……)


 そんなことを思いながらアザミは久しぶりに食堂へと歩みを進める。シトラはシャーロットに昼の誘いを受けたとかでどこかへ行ってしまったため、1人での昼食となる。


(……そう言えば前、食堂に行った時にクトリ先輩と会って、その後クラン戦の誘いを受けたんだったな、、、)


 それももう3ヶ月近く前のことだと思うとなんだか懐かしく感じて自然と笑みがこぼれる。今は2月の終わり頃だった。進級試験を数日後に控え、アザミたち第一学年も他学年もピリピリと緊張感が走っていた。ヤバい人はヤバいのだ。


(グリムとか、な。俺やシトラは成績からして余程のことが無い限り大丈夫なんだが……)


 食堂に足を踏み入れる。試験勉強を教室でする人が多いのか、いつもより空いているように見える。


(余程のこと、か。まぁ、たまには非日常的なことが起きても面白いかもな、、)


 いつも通りのメニューを頼み、受け取る。だいたいのメニューは食べ尽くしたため、その中でも美味しかったものを順番に食べるようになっていた。プレートを持って空いている席を探す。


――いつもならあそこが空いているよな、、


「やぁ、アザミ・ミラヴァード。こっちこっち!」


 いつもの席には非日常が居た。アザミは思わずプレートを落としそうになる。


「……何をしているんですか? 会長」


「私も食堂で食べてみようと思ってね。いやー、初めて来たけど綺麗なものだね」


 サラが普通に答え、アザミを手招きする。その横にはアミリーが座っていた。当然、セットメニューセットのみが机に置かれている。


「……で、なんの用です? まさか本当に思い出作りだなんて言うつもりでは無いでしょう?」


 アザミがサラの向かいに腰を下ろす。それを見たアミリーがスッと立ち上がりどこかへ行こうとする。


「ちょっと、どこ行くのアミちゃん」


「会長の用事の相手はアザミくんですよね? 私は邪魔になりますので退席を、、、」


「いや、アミちゃんにも関係がない訳では無いよ」


 そう言ってサラがアミリーを再び席につかせる。


(アミリー先輩にも関係のある話、か。やはり俺に用があったってことか……)


「会長は最近どうですか? 第三学年は進路とか色々大変みたいですけど......」


アザミが自分の昼ごはんに手を付けながら世間話へ入る。もちろんただ適当に話をしているわけではない。


(……負かされた相手と面と向かって飯なんて気まずいだけだな。ここはさっさと食べてさっさと帰ろう)


嫌な予感がしていた。この前といい今といい、サラが話があるというときは決まってろくな事がない。だがそんなアザミの心を見透かしたようにコロコロとサラが笑う。


「――私のこと嫌いかな?」


「ゴフッ!」


 サラの言葉に思わずむせるアザミ。


「ど、どうしてそう思うんです?」


「いやー、なんか食べる速さがね……。それになんだか話を逸らしている感じがするし、、、」


 サラが悲しそうな表情を浮かべる。ふぅ、とアザミは息を吐いて、


「……嫌いではないです。ただ、まだ負かされた相手とこうやって共に食事をするのがキツいってだけで、、、」


 とフォローを加えるように言う。それを聞いてサラがニコリと嬉しそうに微笑む。


「嫌いじゃないってことは、、、」


「ごちそうさまでした」


「待って!」


 ニヤニヤとイタズラな笑みを浮かべるサラを無視してアザミが立ち上がろうとする。それを見てサラは慌ててアザミを引き止める。


「……話があるの」


「でしょうね。でもごめんなさい」


「早くない!? ……ふふふ、でも君は断ることが出来ないのだよ、、、」


 冷たい対応をするアザミにどこか余裕のあるサラ。その自信に少し身構えるアザミ。どうもサラの前では後手に回ってしまう。この前の敗北がまだ尾を引いているようだ。

 そんなアザミをビシッと指さし、サラが言う。


「覚えてるかしら? クラン戦の前にした約束……」


 完全に思い出した。あの時は謎の“勝てる”という欺瞞があったのだ。ノリで調子に乗った約束をした過去の自分を殴ってしまいたい気分に駆られる。


「……勝った方のリーダーが負けた方のリーダーに何でもひとつ言うことをきかせられる、でしたね。なるほど、さっきの自信はそういうことですか、、、で、何を命令するつもりです?」


 サラのことだ。何か無茶な要求が飛び出してくるに決まっている。アザミは半ば諦めたように両手を上げ肩をすくめる。


「――卒業旅行に荷物持ちとして参加して欲しい。それが私の願いよ」


「……はい?」


 無茶……なのか? よく分からない願いがサラの口から飛び出した。アザミが懐疑的な目を向ける。だがその表情は、目は真剣そのものだった。冗談とかふざけている訳ではないのだろう。


「……詳しく説明して貰えませんか? まず卒業旅行とは、、、」


「言葉通りだよ。私とニック、それに生徒会のみんなで旅行に行く計画を立てていてね。……計画したのは全部ニックだけど。まあとにかく、そこに君も誘おうかと思ってね。ああ、お金は要らないから荷物持ちね!」


 楽しそうに答えるサラ。聞いても半分くらいしか理解ができずアザミは目をつむりうーんと考え込む。「拒否権はナイヨ〜」とその耳元でサラが囁く。


(なぜ俺を誘うんだ……? 俺はなんの関係もないのに、、、でも約束だから断る訳にもいかない。それに生徒会みんなでってことはシトラもいるということ。心配だし、な。うん……)


 理由をつけてとりあえず自分を納得させる。目を開けサラをじっと見つめ頷く。


「分かりました。荷物持ちでも雑用でもなんでも、俺も参加させていただきます。……でもひとつ、お願いがあるのですが、、、」


「よかったよかった。うん? 聞ける願いと聞けない願いはあるけどとりあえず言ってみな」


「……俺がお代は出します。ですからもえひとり、追加で連れて行きたいやつがいるんです 」


 アザミの言葉にサラは「ふむ、、」と少し上を見上げ、そして「オッケー」と指でまるを作る。


「誰を連れていくつもりか知らないけどいいよ。べ、別に護衛とかは要らないからね!? 何も戦闘しに行くんじゃないんだし――!」


 ハッとした表情でサラがブンブンと手を振る。それを見てアザミはため息をひとつ。


「……会長の中で俺はどんな戦闘狂のイメージなんですか、、、」


「……それならいいんだけど。あ、アミちゃん。という訳でニックに連絡するよろしく。2人増えるって言っといてよ」


「了解しました、会長」


 アミリーが軽く頷きサッと立ち上がり、2人に一礼してテーブルを後にする。


「……何企んでるんです?」


「別に。ただの思い出作りさ。私たち第三学年はあとひと月も無く卒業だからね、、、」


 そう言ってサラがどこか寂しげで不安そうな目をする。


「でも進路とか大丈夫なんですか? 第三学年の方々が就職とか入団試験とかで慌ただしくしているのをよく見かけるのですが、、、」


「もしかして心配してくれてる? ありがとね、アザミくん。でもそれには及ばないよ。ニックは騎士団への入団が内定しているし、私は魔術大学への推薦が決定しているから」


 サラがフフッと笑いジュースを一口含む。


「推薦、ですか……それも魔術大学に、、、」


「うん。生徒会長なんてやってるからね。それに成績だって足りてる。いやー、助かったよね〜」


 サラの言葉にアザミは少し引っかかりを覚えた。確かにサラなら推薦を受けられるだろうし、魔術大学“程度”なら試験を受けたとしても首席で合格できるだろう。


 だからこそ、アザミの中のサラのイメージとの整合性が取れなかった。


(会長はこの学園を卒業したら騎士団に入るものだとばかり思っていた。もしくは国家魔術師になるんだと。それがまさか魔術大学とはな。かなりの遠回りだぞ……)


 魔術大学はその名の通り、魔術師を学ぶ大学だ。聖剣魔術学園から進学する人も多い。だが、そのほとんどは学園内でロクな成績を納められず騎士団にも衛兵にもなれなかった者たちなのだ。聖剣魔術学園に入学する人のほとんどは王都騎士団や国家魔術師の仲間入りし国を守るか、国政に関わるエリートになることを目標としている。だから魔術大学への進学はその目標への遠回りになるのだ。


 でもアザミはその疑問を口にすることは出来なかった。

 ……サラの未来が見えない。一体何になろうとしているのだろうか。サラほどの実力があれば何にでもなれる。だからこそ分からなかった。


「……あ、もうこんな時間か。ごめんね、引き止めちゃって。じゃあまた卒業旅行の日程とか詳しいことは後日、ね」

 

 時計をちらりと見てサラが立ち上がり、パチンとウインクをして踵をひるがえす。


「……卒業後の進路、か。俺は何になるんだろう、、、」


 騎士団に入り魔界と決着をつける。リコリスや他の七罪の使徒を倒し、人界と魔界を統合することを目標としてきた。


 その気持ちは変わっていない。でも、実力のあるサラが遠回りの道を選び、自分は最短で夢を叶えることに引っかかりを感じるのだ。


(……やはり何かある、のかもな。兄が騎士団長だからとか、、、)


 数ヶ月前に出会ったエレノアのことを思い出す。他所の兄妹仲には興味がない。でも、


(本当に会長がそれを望んでいるのか。俺を負かしたくせに逃げの道を選んでいると言うのならその時は――)


 アザミは決心する。せっかく卒業旅行という機会を得たのだから、それを活用してサラから色々なことを聞き出すと。


(クラン戦の目的、狙い。それに進路ときたものだ。……知りたいことは山ほどあるんですよ、、、)


 ため息をつきアザミは立ち上がる。余計なことだっていうのは重々承知していた。でも、サラが本当の気持ちと違う道を歩もうとしているのなら、一度術を交えた同士、放っておくことも出来なかった。


 ここにシトラがいたら、『またですか? アザミ......あなたは本当にお人好しですね』なんて呆れたような反応をされただろう。また誰かのために動くのか、と。


(――今回は俺のためだ。俺自信が納得するためだよ、、)


 アザミ・ミラヴァードはそういう男だ。

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