11話(2) 普通科と選抜科
【聖剣魔術学園豆知識】
クラス対抗新人模擬戦
訓練用の異空間を使用して行う。その目的は1年生の実力を図る、将来の実戦に向けて経験を積ませるなどなど。しかしその最大の目的は有望な人材のスカウトにある。
最後だけやけに早口で言い切ったシトラがアザミに目配せする。―――手出しは無用です、と。そのアイコンタクトを理解したアザミはその自信に苦笑し、それでも頷いた。
「りょーかい。……じゃあシトラ、任せたぞ」
そうボソッとつぶやいたのち、アザミが二人から距離をとって周りを取り囲む野次馬の最前列に座り込んだ。そんな野次馬の中心でシトラとジョージが向かい合う。
「俺に喧嘩売ったこと、後悔させてやるよ」
「ええ、いつでもどうぞ―――?」
そうシトラが言い終わるや否や、ジョージが物凄い速さで踏み込んでシトラの頭に剣を振り下ろした。足の動きから剣の振り下ろしまできれいに繋がった一撃。その速さを普通なら追いきれず、その頭頂部にまともに太刀を食らうことになる。
(もらったっっ―――!!)
だが、シトラは普通ではない。まるでその剣筋が見えていたかのように、シトラは余裕を持って体をひらりとひねった。そのおかげで先程までシトラの体があった部分をジョージの剣がブンッと虚しく空過した。
「なにっ!? グッ、、だが所詮は偶然―――」
「―――ふんっ!」
偶然だろうとその剣を避けられたことに驚いていたジョージに向けてシトラがもう一度その体を捻り、避けながらの体勢で枝を横に振った。
「チッッ―――」
その速さにジョージもついていく。崩された体勢から強引に剣を戻し、ガキンっとシトラの枝を受け止めていた。
(へぇ、どうやら口だけでは無いみたいだな。あいつの剣について行くとは……)
(この人、普通に剣の腕は上級者......いえ、騎士団並ですね)
鍔迫り合いになりながら少し表情を曇らせるシトラ。だがその表情の変化ならジョージのほうがあからさまだった。最初はヘラヘラと馬鹿にしていたり舐めきっていたが、今やフゥー、と気合たっぷりに息を吐き、その目は真剣そのものでシトラを捉えていた。
「クソ、何でこんなことに……!」
ギリギリとシトラの枝を押し返しながらジョージは思わず今の状況に舌打ちした。ジョージにとってこの勝負は選抜科と普通科、さらには剣と木の枝なんていう圧倒的格差のある勝負だった。勝ちは確定で、万に一つも負けることなんて無い―――にも関わらず、勝てない。そんな今の状況が気に食わなかった。
「……俺の剣の速さについてくるとはな」
「それは私のセリフです。でも、確かに速いですね。……じゃあ“今度は私が加速しましょう”か―――」
そう言って、シトラはトンッと軽やかにバックステップで一歩退いた。そしてその姿勢を低くし、ゾワッと身の毛もよだつ殺気を放った。
「……行きますッッ」
そしてザッと地面を蹴る。ビクッとその凄まじいオーラに固まったジョージ目掛けて、シトラの華奢な体が鉄砲玉のように突っ込んでいった。
「クソッ! 見えてんだよ!!」
だがジョージもそう簡単には負けない。固まった体を無理矢理に動かし、反応させることで剣を受け止めていた。
「次は俺が―――」
男の力でシトラを押し戻して二撃目は自分が、とジョージは意気込んでいた。しかしシトラは枝を打ち込むと同時に、“自ら”またバックステップで後ろへと跳んだ。そのせいで前につんのめるジョージ。だがそんなものは目にもくれず、シトラは体を捻りながら移動し、また別の方向からジョージに斬りかかった。
「なっ、なんだこれは―――!?」
その戦いを見物していた野次馬がシトラの動きにざわつき始めた。アザミもシトラの動きに最初こそ驚いたが、すぐに「へぇ」とその意図を汲み取って笑った。
「……なるほど、ね。“一撃離脱”か。速さの相手にそれ以上の速さで立ち向かうなんてな」
一撃離脱―――その言葉の通り、シトラは何度も攻撃を仕掛けては退き、そしてまた一撃を叩き込んでは退き......を繰り返していた。
「クソッ、うざってえェェ―――!」
ジョージもその速さに反応し防いではいるが、少しずつ遅れが明らかに見えるようになった。ジョージの守りがシトラの攻撃とズレ始め、掴まるのは時間の問題。
「おいおい、これやべえんじゃねえの」
「あのジョージ・ハミルトンが負けるっていうのかよっっ」
「いいぞ!」
「選抜科なんて倒しちまえ!!」
選抜科は焦った声、普通科はシトラが押しているこの状況にイケイケムードを漂わせていた。野次馬の生徒たちから今日一番の声援が舞う。
(クソがッ! ……やべえ、このままではこいつにやられ―――待てよ、、)
その敗北が濃厚になってきたその刹那、ジョージの頭の中に起死回生の考えが舞い降りた。その目の前の闇がパァーッと晴れていくような感覚。その考えとは、
(……さっきからこいつの攻撃にはパターンがないか―――?)
もしもそうなら攻撃の隙を着くことが出来て一気に逆転勝利もあり得る。ジョージはシトラの動きのパターンを読むため、しばらくの間一切の攻撃を捨て防戦に集中した。
(右、右、捻って正面......左、背後、下、右、右......思ったとおりだぜッッ)
やはりシトラの攻撃には、その一撃離脱にはパターンがあった。ハッキリと見えた勝ち筋に自然に口元が緩む。
―――勝った、、
価値を確信し思わずその口角が緩む。そんな中、シトラが右から攻撃を仕掛けていた。二度目の右攻撃だ。そうなれば次は、
「バァカ! 分かってんだよっ、次は体を捻って正面からの一撃だってな―――!」
ジョージは正面に向けて大きく剣を薙ぎ払った。そこに飛び込んでくるシトラにその剣で負けを突きつけるために。そして、ジョージの予想通りシトラは体を捻った。
―――だがそれは、二度。
これまでにはなかったパターン、右攻撃の後にクルクルと二度その体を捻ったシトラ。それによって完璧にタイミングをずらされたジョージの剣がまたもや空を切った。
(なっ! まさか、俺がパターンを読むことを読んだっていうのか―――!?)
そこまでがシトラの作戦。シトラはフフッと笑った。その笑みにジョージは自分がシトラの手のひらの上で踊らされていたことを悟った。パターンを読んだつもりで勝ちを確信したのも、それすらシトラの誘導だったなんて。守る手段を失ったジョージの側頭部に木の枝がスパーンと叩き込まれた。
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