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魔王の兄と勇者の妹 〜転生したら双子の兄妹だった勇者と魔王ですが力を合わせてこの世界で生きていきます。〜  作者: 雨方蛍
第十部 二ヴルヘイム【終幕】 ‟ワールドエンド・オア・ラスト” ~世界また唄う刻~
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1223話(2) これまでの話、あるいはこれからの話

続き

 シルリシア・コルティスという幻影をずっと投影してアザミらを欺いていた彼女を、騎士団全体で捜索したとて果たして見破れるだろうか。今はスイでもシルリシアでも無い別の幻影に身を隠している……その可能性もあるのだし。


「ですが、やらないよりはマシですよね? シアちゃん、ああ見えて抜けているところもありますし、ひょんなところから目撃情報が出るかも……」

「その目撃情報すら、あいつの性格を考えたら‟あえて”の罠や誘いな気もするんだがな。まあ確かにシトラの言う通り、何もしないよりかは断然マシだ。お願いします、エレノアさん」

「もちろんそのつもり。それじゃあ最後の神代兵器(スイについての話)はここまでとして、続きだ」


 アザミたちが騎士団本部までエレノアを訪ねて来た理由は、もちろん電脳世界ニダヴェリルでの出来事を話すためというのもある。だが言った通り話の種はそれだけではなく、あと二つ。


「そうそう。俺たち、この世界へ帰ってきてすぐにゾルディナ王と一戦交えたんですよね」

「なるほど、ゾルディナ王と……。ゾルディナ王と!?」


 シルリシアの一件がピークだと思っていたが、まさかこんな隠し球があっただなんて。アザミがあまりにもあっさりと語るものだから、一度は普通に受け入れかけたその話にエレノアはゴホゴホッと咳き込む。


「それは本当なんだろうな?」

「それは、俺がわざわざこんな状況の騎士団本部を訪ねて何の利にもならない嘘をつくような人間に見えているということですね?」

「それは……いや、まあそうだけれど」


 ニコリと返したアザミに、エレノアは「むぅ」と眉をしかめるだけ。決して短くはない付き合いだし、現騎士団長と元魔王なんて珍妙な関係ながらこの世界の滅びを回避するため戦い仲間でもある。ゆえに、アザミ・ミラヴァードがそのような空気を読めぬ人間じゃ無いことくらいはよく分かっていた。


「悪かったな」

「いえいえ、別に嫌な気を覚えたって訳じゃないんですよ。ただちょっとからかってみただけで」


 その答えをフンッと鼻で笑うエレノア。古今東西、騎士団長を相手にこんな振る舞いができるのなんてアザミとエリシアくらいのものだ。


 と、いけない。脱線しかけた話に気を取り直して、コホンとひとつ咳払い。そして再開。


「まあ、報告って言っても大した収穫は無いんですけどね。相変わらずあの絶対の力は凄まじいものでしたし、攻略法もエリシアの透結界が通じることくらいしか」


 2年前と比べて何か大きく変わった、ということは無かった。だから恐らく、エレノアの知るゾルディナと今の彼女との間にそう認識の開きは無いだろう。強いて言うなら……攻撃のバリエーションが増えたくらいか。


「あの一戦は、信じられなかったですけど本当に、俺たちがこの世界に帰ってきてすぐに起こりました」


 そして、アザミはその戦いのことをエレノアに詳しく話す。戦いのきっかけから経緯、途中思いがけないカノアリムージュの参戦によって何とか最終的には痛み分けに持っていくことが出来たところまで。


 ゾルディナの相変わらずな力、強さ。その戦い方から、今のアザミたちがどこまで通用したかまで、それはもう詳しく語る。それこそ電脳世界ニダヴェリルについてよりも長くしっかりと話し合ったかもしれない。


「……なるほどな。それは今後に活かせそうだ」


 そこまで時間をかけ、じっくり話す理由。それは単純で、ゾルディナとの戦いには次があるからだ。アザミたちの持ち帰った初戦の情報を元に作戦を立て、ゾルディナ王の絶対を攻略する。そして、この世界へ訪れんとしている滅びの運命を回避するのだ。

 

 絶対王ゾルディナは何の作戦も無く勝てるような相手じゃない。策を講じたとて不発に終わる可能性も十分にあるような相手なのだ。話しすぎに越したことはない。どんな些細な情報ですら、その糸口になるかもしれないから。


「……以上、ここまでですかね。そしてカノアリムージュがゾルディナ王を殺すこと無く踵を返して、その後で彼女も撤退を選んだので」


 語り終えて、アザミはやりきったと深く息を吐いた。これで情報としては十分……っと、忘れていた。


「ああ、そうそう。最後にカノアリムージュに言われたんですよね」

「何と?」

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――って。エレノアさんは何か心当たり、あります?」

「世界の真実……この世界の姿、か。さぁね。俺にはさっぱりだ」

「騎士団長でも知らないですか。まあ、ゾルディナ絡みならどうせ神代に関係することでしょうし知らなくて当たり前でしょう。ということで、アポロンはどこに?」


 今から100万年も昔のことなんて、そりゃあ王都をはじめとしたこの大陸のほとんどの書物にアクセスできる騎士団長とて知るはず無い。なんせ、"たった"3万年前のことすら神話としてしか残っていないのだから。

 だが、エレノアが知らなかったとて問題はない。そもそも最初から、カノアリムージュの言ったこの世界の真の姿―――なんてものは、アポロンに聞くつもりだったし。一応、騎士団が何か情報が持っていないかと確認しただけだ。


 その返事は予想通り「知らない」ということだったが、アザミの予想と外れたのは、その答えを聞きたかった相手……アポロンの所在だった。


「生憎だが、アポロンとアルテミスは今、王都にはいない。人界の拠点での最重要、アストラム要塞を守ってもらっているからね」

「おっと、珍しいこともあるものですね。まさかあの神様がエレノアさんの指揮に素直に従うだなんて」

「俺の指示ではない。向こうからその役目を買って出たのだ」

「それは、もっと珍しいことも起きたものですね」


 神様とは大抵、気まぐれで勝手なものだ。よほどのことが無い限り、いや余程のことがあったとしてもほぼ間違いなく、彼ら彼女らは人間の指示に従ったりなんてしない。自由気ままに動いて、言ってもやらないし言われなかったらまずやらない。神様らしく上座にふんぞり返って、自分以外を動かすことで何かを対処する……そんなものだ、神様なんて。


 そんな神様らしさの代表格みたいなアポロンが、しかも自分から最前線に志願するだなんて。彼のすべてを知っているとはまさか言えないが、でもある程度は知っているつもりのアザミにとって、それはかなり衝撃的なことだった。


(というか、いつも王都でのんびり趨勢を眺めているくせに、なんでこう探している時に限って王都を離れているんだよ……)


 その点に関しては少し運命の悪戯みたいなものを感じるアザミであった。どうして、求めていない時は「やぁ」なんてデカい顔してそこらに転がっているくせに、いざ必要になって探した時に全く見つからないのだろうか。そんな落とし物と同じ扱いの神様アポロン。しかし、王都を離れて最前線にいるのならば文句を言うわけにもいかない。


「……正直に言うと、アポロンとアルテミス、あの神々二柱がアストラムを守ってくれなければ今頃、とっくにあの要塞は陥落していた」

「そして、アストラム要塞が敵の手に陥れば次は聖都モルトリンデ……ですね。なるほど、そうなっていれば騎士団長室の喧騒はあの程度じゃ済まなかったかも」


 もしもアストラム要塞が陥落していたら……と想像するだけでゾッとする。かの要塞はかつて、魔界との戦いにおいて人界を守る最前線に置かれたものだ。それは現在の大陸における政治の中心地―――聖都モルトリンデを守ることの出来る場所に位置しており、つまりそれが落ちれば聖都の守りが無くなってしまうのだ。


 そんな人類側もゾルディナ王側も、双方揃って必死になるほどのアストラム要塞。そんな激戦地に、望んであのアポロンが向かったというのはやはり簡単に信じられるものじゃ無かった。


「何か変なものでも食べたのか、それとも何か悪だくみをしているのか……・どっちだ?」

「それはアポロンさんに失礼ですよ、アザミ」


 真剣な表情でその二択を吟味するアザミの後頭部をポカリとシトラが叩く。その一撃にも「冗談だって」なんて返しをしない時点で、たぶんアザミは本気でその二択を考えていたのだろう。


「……ゴホン。とりあえず、アポロンとアルテミスは騎士団本部に、王都にいないんですよね?」

「ああ。だから、‟絶対攻略の鍵”は少し待って欲しい」


 それを早く手に入れたい気持ちはエレノアだってある。だがしかし、それを知っている当の本人が居ないのだから仕方ない。アストラム要塞まで聞きに行ってもいいのだが、この騎士団本部の状況でアザミらを伝令役にする余裕は残念ながら無かった。


「……ひとまず作戦を考えてみる。一週間程度ならば問題なく前線も持ちこたえられるはずだから、それまでにな」

「つまり……ようやく騎士団は反転攻勢に打って出るわけですね」

「そうだ。エリシアもアザミ・ミラヴァードも戻ってきたことで、ようやく騎士団に戦力が戻った。この戦力ならば十分、大規模な戦いを仕掛けることが出来る」


 そう語るエレノアの拳はギューッと固く握りしめられていた。

続く


※今話更新段階でのいいね総数→3769(ありがとうございます!!)

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