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110話 邂逅

「……お前が、一連の行方不明事件の犯人か、、」


 アザミの言葉にその人物はゆっくりと振り返る。黒いローブで全身を包み、フードの下に鬼の面をつけている。


「……どうして分かった、、」


 仮面の下から聞こえてきたのは男にも女にも取れる声色。


――加工してやがるな、、このままじゃ誰かは分からないってわけか......


「簡単な話だよ。お前がこれまで消してきた相手は皆、強い者たちだった。いや〜、不思議に思っていたんだよ。この行方不明になんの意味があるのか。金目的? いや、違う。攫うだけ攫ってその後は音沙汰無しなんだから。じゃあ、狙いは何か。もしかして兵隊として……、じゃないか?」


 “兵隊”という言葉に仮面の下の目がピクッと動く。どうやら正解のようだ。アザミはそのまま言葉を続ける。


「……活用方法はいくらでもある。俺が知っているだけでも“洗脳”、“死霊術(ネクロマンス)”、“人造人間の核”……などか。大方攫った人たちを使って何かをしようとしていたんだろ? 例えば、人界へ侵攻したいけど数が足りないから、とかさ」


「……さあな。答えてやる義理はない」


「冷たいねぇ。こっちは君の質問に答えてやっていると言うのにさ」


 アザミと犯人がにらみ合う。そんな中、シトラがクイクイっとアザミの制服の裾を軽く引っ張り、小声で尋ねる。


「それで、ここはどこなのですか?」


 路地裏、それもかなりボロっちいアパートの前にアザミ達はいた。もう夕方に近いと言うのに人気は一切ない。


「んー、、レインの家」


 アザミはシトラの質問にためらいなくスッと答える。


「……まさか、犯人の狙いはレイン・クローバーだと、君はそう言うのかい?」


「そう言うも何も、現に犯人がここにいるだろ?」


 レインの家の前に立つ犯人とアザミ達。お互いに睨み合う。


 犯人の狙いがレインであるとアザミが気づいたのは、リゼが試合の直前に消えたことからだった。

 どうしてこのタイミングで消えたのか。仮に本当にリゼが犯人だったとして、どうして試合が終わり人が多くなる時間を狙わなかったのか。


 狙わなかったんじゃなくて、その時間だと駄目だったのだ。なぜなら犯人が狙っている相手はその場にいなかったのだから。

 となると、必然的に狙われるであろう人は絞れてくる。


――今日、会場にいない人で試合時間外だと人目についてしまう人物。


 体調不良で家にいるとアネモネから聞いていた。それにレインはアネモネと二人暮らしだ。

 つまり、試合が終わってからではアネモネが帰宅してしまうためレインのみを攫うことができないのだ。


(――あとは攫われた者の共通点、かな。ココ最近行方不明になった人たちは決勝に出たメンバーだった。決勝での戦いを見て強い相手を攫う、ということだったんだろう......。だからレインを狙っていると気づけた。二回戦でリゼをあそこまで追い詰めたレインを兵隊にしたいと思ったんだろうな、、)


「残念だったな。ようやく尻尾を掴んだぞ」


 犯人の目星しかついていなかった行方不明事件の犯人にようやく巡り会えたのだ。思わず口角が上がる。

 アザミがスッと手をのばす。


「――火属性魔術、炎纏(フレアアーマー)!!」


 なんの脈略もなく唐突にアザミが魔術を詠唱し、その身を真っ赤な炎が包み込む。


「――ドレイン!!」


 パチンッと乾いた音とともに炎が弾け飛ぶ。紫色の光に変わったアザミの炎がスゥーッと犯人の手元へ吸い込まれていく。

 だが、魔術を消された方であるアザミは嬉しそうにニヤッと笑い、犯人の目は悔しそうに細く絞られる。


「――アザミ? もう戦うのですか!!」


 シトラがスッとフィルヒナートを引き抜く。準決勝を途中で止められているのもあって戦い不足のシトラが嬉しそうにペロッと口元をなめる。


「ああ。あの仮面を剥ぎ取ってやるぞ」


 アザミの号令と同時にトーチも魔術を準備する。ハイルも羽ペンを取り出し構える。


「――チッ、、」


 犯人がバッと路地裏へと逃げようとする。だが、その退路を颯爽とトーチが塞ぐ。


「行かせないよ、、土魔術、ゴーレム(岩人形)!!」


 路地の石畳が盛り上がり低木ほどの大きさのゴーレムを作り出す。


「……闇魔術、グラビティ、、!」


 だが犯人の放った黒い閃光がゴーレムに当たり、その巨体がズシンと沈み込んだ。


「――飛翔する斬撃(フロウトスラッシュ)、、バーチカル!!」


 ゴーレムを躱し別の路地へ逃げようとした犯人にシトラが斬撃を叩き込む。犯人は背中を向けたままひらりと見をひねり、その斬撃を躱す。相手を失った斬撃はザクッとレンガ造りの家の壁をえぐり取った。


 シトラがスッと剣を引いてザンッと踏み込み犯人に向かって飛びかかる。

 その太刀をギリギリのところでひょいひょいと躱し続ける犯人。


「チッ、、」


 流石に鬱陶しいと思ったのか、バッと左手を伸ばし、シトラに向ける。その手のひらにズズズと紫の光が集まっていく。


「――!!」


 それに気づき、シトラは慌ててぴょんっと後ろへ飛び躱すための距離を確保した。

 犯人はトーチとシトラに挟まれながら、黙って周りを見回していた。保険なのか左手に展開している魔術はそのままに。そんな犯人にアザミがニヤリと笑いかける。


「……どうした? どうして剣を使わない、、?」


「……っ!!」


 仮面の下からギリッと歯ぎしりする音が聞こえた気がした。これは‟使わない”んじゃない。きっと、


「剣を使ったらマズイ理由でもあるのか?」


 シトラとやり合うのに剣を使わずただ避けるだけなんて、そんな戦い方はないだろう。使わないんじゃない。使えないんだ。


「……アザミくん、3秒作る!!」


「――了解です、、!」


 その時、これまで戦いを静観していたハイルがスッと羽ペンを振った。このタイミングでの加勢。すると、ハイルの後ろの家から漏れていた光がクルクルと集まって球体を作り、ブワッと一気に光を犯人に向けて放出した。


「……クッ、、!」


 犯人はローブの裾でバッと目を覆う。間一髪、とっさの判断のおかげで視力を奪われずに済んだ。この光に乗じて逃げよう、と犯人がスッと左足を後ろに引く。だが、そんな犯人の視界がふと暗くなった。


――なんだ、、?


 影が落ちていた。その影が伸ばされた‟手のひら”だと、その原因になっているのはアザミだと気がついたのはその手に掴まれた後だった。


「……しまっ――!」


「もらったぞ、犯人!!」


 ガシッ! とアザミの右手が犯人の仮面を掴む。


――ここまでだ、リゼ、、


 人は想定していない局面に居合わせると、思考より直感が先に働く。つまり、考えること無く身体が先に働いてしまうのだ。例えば、自分の得意な手を無意識に選んでしまったり。


 例えば、アザミに突然魔術攻撃を仕掛けられ、無意識に得意な『闇魔術、ドレイン(吸気)』を使ってしまったり。


(……あの時、お前があの魔術を使ったときに正体を確信したよ。俺の前で過去に使った魔術を今、使ってしまうなんてな、、)


 アザミが掴んだ仮面をバッと引き剥がす。その下にはリゼの顔がある......


 ……はずだったのに、


「……はぁっ、、、?」


 アザミは呆然と目を見開く。そんな事があるのか?


「おいアザミ・ミラヴァード、、これって......」


 その仮面の下にあったのは“傷だらけの男の顔”。まったく知らない、どこの誰ともわからない顔。

 その青白い顔がニッと笑い、アザミの耳元でそっと囁く。


「……残念だったね、、」


「アザミ――!」


 ブワッと広がった紫色の煙がアザミの視界を奪う。

 スッとアザミの眼の前から犯人の姿が消えたことが雰囲気でわかった。


「……どういう、、ことだ......? どうしてリゼじゃない、、」




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