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108話 双剣戦《4》 涙と恋と

 結局あれから事件は起こっていない。さすがに騎士団に疑われた状態では何もできないのだろうか。だが、事件は起こっていないものの進んでもいない。解決の糸口は一切なく、消えた人たちも見つかっていない。


「……ってのに、試合はどんどん進んでいくんだもんな、、」


 アザミが疲れたように息を吐く。リゼについて、事件についても考えないといけないし、準決勝だって気を抜けない。


「アザミ、大丈夫? 顔色が悪いよ〜?」


「あ、ああ。心配させちゃったか......?」


 不安そうな瞳でアザミを見上げるセラの頭をワシャワシャと撫でる。セラは目をつむり嬉しそうに喉を鳴らす。


「……じゃあ、任せたぞ。アネモネ」


「にゃにゃ! 承ったにゃ! ネモちゃんがセラちゃんの面倒は見てあげるにゃ〜」


 伸ばされたアネモネの手をセラがギュッと握る。


「アザミ、、あたしの力がいるならえんりょせずに使うんだよぉ?」


「わかった、そのときは頼むな。……ところでアネモネ。レインはどこにいった? 俺は君たち2人にセラの面倒を見てほしいと頼んだんだが、、」


 アザミの脳裏を嫌な予感が過る。だが、アネモネはいつものように軽く「にゃはは〜」と笑う。


「大丈夫だにゃ〜。ムーちゃんは少し体調が優れないだけだにゃ。ネモちゃんは朝様子を見てきたから事件でも行方不明でもないにゃよ?」


 アネモネの言葉にアザミは「良かった、、」と胸を撫で下ろす。


「……でも、ちょっと心配。ムーちゃん、、、試合結果のことだいぶ気にしていたから......」


 目を伏せ心配そうにアネモネがつぶやく。


「……ムーちゃん、きっと気にしてるんだ、、。あの子にとって負けることは“死”と同義だから、、、。なのに、最近ムーちゃんはトーチきゅんにも、リゼちんにも負けて......それも今回は――!!」


 アネモネが自分を責めるように言葉を吐き捨て唇をギュッと噛み締めドンッと胸を叩く。


「……落ち着け、アネモネ。何があったのかは、、知らないが、そういうのは似合わない、、と思うぞ?」


 うまく言葉にならなくて少し詰まりながらアザミはアネモネに笑いかける。

 その言葉に少し驚いたような表情になる。が、すぐに笑顔を浮かべ涙を拭う。


――『今回はネモちゃんがいるのに負けた』だなんて、全く。ムーちゃんは背負い過ぎなんだにゃ〜


 誓ったはずなのにな......。ネモちゃんが笑えばムーちゃんは笑ってくれる。だから、ネモちゃんはずっと笑顔でムーちゃんの側にいるって……


「そうにゃ。ネモちゃんにこんな暗い顔は似合わないにゃ!」


 アネモネが満面の笑みでニッと笑う。似合うのは軽い口調と笑顔。


「じゃあ、アザミくん。準決勝も頑張るにゃ! トーチきゅんもアザミくんもどっちも応援してるにゃ!」


「だめ! あたし達はアザミを応援するんだから!!」


 頼もしい応援団だな、とアザミも軽く微笑み踵を返すとぐっと拳を掲げる。無言の背中からが笑っていた。


「――準備はいいですね? アザミ」


「ああ。やるぞ、シトラ」


 今は、今だけは目の前の勝負に集中するんだ。


*******************************


「新人戦の決勝ぶり、、だね。こうやって勝負の場で顔を合わせるのも」


「ああ。そうだな、トーチ。今回も勝たせてもらうぞ――」


 アザミとトーチがにらみ合う。そして、決戦の火蓋が切って落とされる。


「行くぞ! シトラ!!」


「はい! フィルヒナート!!」


 転移と同時に双子が後ろへと飛びトーチ達から距離を取る。


「チッ、めんどくせぇ!!」


 ジョージが得意とするのは近距離で繰り出す光速の剣技。距離を開いた状態での戦闘は専門外だ。それを分かっているがゆえに双子は距離を開けての戦闘を選択した。


(うーん、、シトラさんもジョージと同じで剣士だから得意なのは近距離のはず、、でもあの“飛ぶ斬撃”や“氷の剣”があるから距離を開けても問題なく戦えるのかな?)


 トーチが軽く距離を詰めながら少し考える。トーチの得意とする特定魔術無効インディビデュアルアルブロックは相手の魔術が見えていないと使えない。元はと言えばトーチのもつ膨大な魔術知識を用いて相手の魔術を特定し、それ専門の対抗術式を組み上げるものなので、相手の手が見えないと反応が間に合わない。


 そういう意味ではこの2人に対して距離を開けた戦闘は正しい選択だった。


「――きた!!」


 トーチがザッと地面を蹴りくるっと体を捻って躱す。その眼前を縦の斬撃がかすめていく。


「クッ、、外しました!!」


(これは厄介だな、、僕が無効化できるのは魔術であって斬撃ではない。あれは躱すのが手一杯だね、、)


 双子は強い。確かに強い。入学時は主席だったトーチであっても条件によっては成すすべなく蹂躙されるであろう。だが、条件さえ整えてしまえば、、


「――僕らは負けないよ。アザミ・ミラヴァード」


「オルラァァっァァァ!!!!」


「――!」


 一瞬の勘、嫌な気配がアザミを屈ませた。その頭上を金色に輝く者が弾丸、いやビームのようにかすめていく。その光はアザミの背後にそびえ立っていた大樹を粉砕し、その粉塵の中でゆっくりと立ち上がる。


「避けんじゃねえよ!」


「いや、避けなきゃやられるだろ......」


 ハミルトンの光速剣技(ルミナス・ハミルニア)。その力を無制限に使うと自身のコントロールを失うという欠点はあるが、おそらく世界最高速の魔術。普段はその1%未満の速さでからだを自由にコントロールしている。が、


(……なるほど、あれが最高速か、、)


 魔術反応に敏感なアザミの魔眼であってもジョージを捉える事はできなかった。魔術を使われたらその刹那、アザミの身体はさっきの大樹のように跡形もなく消え去るだろう。それにこの距離だ。さっきは序盤の動きのおかげで距離が空いていたからすんでのところで躱せたが、次はそうはいかない。同時に動いても間に合わないだろう。


(確かに俺たちの戦い方で穴になるのはシトラではなく俺だ。チッ、トーチは俺をまず潰しにかかってきやがったな、、)


(まずアザミを潰す。僕と似たタイプの彼は距離を開けられたら何もできない。シトラさんに丸投げする戦略だ。確かに、長距離戦をするとシトラさんのみがノビノビと動けて僕、ジョージ、アザミは弱体化する。双剣戦ならではの戦い方だ。……でもね、こっちのフィールドに持ち込んで一瞬でかたをつけてしまえば何の問題もないんだよ――)


 新人戦でその知恵を存分に振るった策略の天才たちが火花を散らす。


 だが、トーチとてアザミの取った策を完全に破ることはできなかった。


(ジョージがアザミを破り、僕がシトラさんに負ける。そして最後はシトラさんの氷の剣とジョージの光の剣の一騎打ち。……ハハ、まさか僕がこんな不確定な策を取らないといけないとはね、、)


 トーチは立ち止まり、目の前に立つ少女、シトラを真っ直ぐに見つめる。


「やあ、シトラさん」


「――一応の礼儀です。流石に闇討ちで決めるのには抵抗がありますから、、」


 シトラがギュッとフィルヒナートを握りしめる。空気が凍りつき、刀身が真っ白の冷気を纏う。


「……どうした? 仕掛けてこないのかい??」


 そのままじっと立ち止まるシトラにトーチは不思議そうに首をかしげる。


「……ごめんなさい。あの時、返事をできなくて」


「今、かい。いや、、いいんだよ。もう、答えも何となく分かるしね......」


 力の抜けたようにトーチが笑う。シトラの視界に自分は入っていない、そんなこと分かって――


「ありがとうございます。私、、ずっと分からなかったんです。“好き”っていう気持ちが。誰かに好かれるなんて思ってもみなかったし、誰かを好きになるなんて経験がなくて......」


 ふわっと通り抜けた風がシトラの前髪をかきあげ、その下で優しく微笑む瞳に光を当てる。

美しい。思わずトーチは息を呑む。


「でも、トーチくんに気持ちを伝えられて、アザミに相談して、自分でも向き合ってみて、、。……それでようやく分かったんです。私は、もう“好き”を持っていたことを。シャーロットのことが好き。私の初めての“ともだち”です。アザミのことが好き。色々あったけど、今は優しい兄で良き仲間です。エイドが、A組の皆のことが好き。いつも私を笑顔にしてくれる、そばにいてくれる大切な人たち。オルティスアローが好き。何の遠慮もなく力を振るえる場なんて早々無いですから。そして――」


 その先の言葉は、、聞きたくない。聞いてしまったらきっと、、

 それでもシトラは微笑んで、言葉を紡ぐ。


「トーチくんも好きです。生徒会の仕事に不慣れな私をいつももサポートしてくれます。優しく、教えてくれます......」


 こみ上げてくる涙を必死にこらえる。

 分かっていたさ。シトラさんの中にある“好き”は並列で、僕はその中のひとつにすぎない。でも、でも、無関心よりはマシで、少しでも思われていたことが嬉しくて、、


――なんだよ、チクショウ......!


「……だからもし、いつか私の中で本当の“好き”が分かったら、もしそれがトーチくんなら。……その時はぜひ、私の手を取ってくださいませんか?」


 小首をかしげて少しはにかみ笑いかけるシトラ。そんな少し言葉下手なところも含めて僕は好きになったんだろう。


「――ずるいな、シトラさんは。これじゃあ、諦められないじゃないか、、」



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