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103話 始動

「おい、アザミ……。何を、言っているんだ?」

「そうだよ! そんな、、リゼちゃんが魔界から来ただなんて――」


 信じられない、と言いたげな表情でアックがアザミの意見を否定する。エイドもコクコクと頷く。


「……何を根拠に、そう思うんだい、アザミ・ミラヴァード。僕はリゼ・ケイネスのことをよく知らないけど、特に怪しいと感じたことは無かった。予選を見ていても、日常ですれ違っても、だ。君がそういうからには、何か根拠があるんだろうね?」


目を細めトーチが静かにアザミに話を促す。


「行方不明事件が起きたのは、リゼがこの学園に転校してきてからだ。つまり、リゼが動くようになってからだ」


「弱いな、それは。そんなもの偶然で片付けられるレベルだろ? 君らしくない」


 アザミの意見をトーチがはねのける。「まあ、まて」とアザミが続きを聞くように促す。


「確かに、1件目・2件目だけならそうとも言えただろう。偶然、9月1日から事件を起こしたと言えないことも無い。だが、フーヴァーは違う。あいつは、北の方の街の貴族の子供だ。ゆえに、ここでは寮生活をしている。そして寮は、、」


「……いちおう、学園の敷地内だな。少し外の通りを歩く必要はあるが、学園の目と鼻の先であることには変わりない。……なるほど君が言いたいのはそこか。“学園の管轄内でんざわざ事件を起こした理由”、だな?」


 トーチの言葉にアザミが「その通り」と満足そうに笑みを浮かべる。


「……んーと、つまりどういうことですか?」


 アザミとトーチのみで進行していく話についていけなくなり、シトラが「ぬ?」と首を傾げる。頭上にはクエスチョンマークがグルグルと回っているのが見える。


「えっとね、、シトラさん。つまり、第一、第二の事件でホームレス、見回り中の騎士なんて居合わせた人を攫っていた犯人Xがどうして危険を冒してまで学園の管轄内で事件を起こしたのだろうか、ということだよ。適当な人を攫いたいのなら学園の近辺なんて警備も行き届いている場所じゃなくたっていいでしょ? 別に、そこらを歩いている人でいいわけだ」


 トーチの説明に「なるほど」とシトラが感嘆したようにポンっと手を叩く。


「つまり、わざわざ学園の近くで犯行を行ったのには理由がある。アザミはそう考えているのですね?」


「そうだ、シトラ。ついでに言うと、その危険を限りなくゼロに近づける方法があるんだが、分かるか?」


 アザミの問い掛けに「うーん……」とシトラが上を見上げてしばらく考える。そして、ハッとした表情になり、恐る恐る口を開く。


「……犯人がこの学園の関係者の場合、ですか?」


 シトラの答えにアザミが静かに頷く。ハッと息を飲み口元を押さえるシトラ。

 犯人が学園の関係者ならフーヴァーを攫うことも容易いだろう。警備に引っかかることも無く、呼び出すにも一言声を掛ければ良いだけなのだから。


「俺は、信じないぞ……! そんな、リゼが犯人だなんてよ!」


 アックが悪い物を追い払うようにブンブンと首を横に振る。アックにとってリゼは双剣戦デュオにおける相方。お互いの利益のために組んでいるとはいえ、相方を疑うなどアックには出来なかった。


「今は、それでもいいさ。確証がある訳じゃない。もしかしたら、なんの関係もないかもしれない。だが、俺はリゼが犯人だと思っている、それだけ。それだけだよ、アック。でも君は優しすぎる……」


 クッと悔しそうにアックが拳を握りしめ、目をそらす。


「さて、俺としてはリゼ・ケイネスを第一容疑者としてこの事件を捜査したい。皆はどうだ? 協力してくれるか?」


 アザミの問いかけにシーンと静まり返る教室。


「……無理にとは言わない。この事件に関わることはもちろんかなりの危険を伴うことだ。なんせ、犯人と渡り合う必要があるのだから。もし、それでも手を貸してくれると言うなら――」


「いいぞ。手伝ってやるよ、アザミ」


 スッと一番に手を挙げ、立ち上がったのはアックだった。リゼのデュオパートナーのアック。アザミが驚いたように目を見開く。


「勘違いするなよ。俺は、リゼを信じている。俺が手伝うのはリゼが犯人じゃないと証明するため、真犯人を見つけるためだ――」


 ドンッと胸を叩いてハッキリとそう言いきったアックに、アザミが笑いかける。


「そうだな、それがいい。アックにはその方が似合っている。……それに、どんな形であれ、理由であれ協力してくれてありがとう」


 アックに続くようにシトラも立ち上がる。


「もちろん私はアザミに従います。理由なんていりません」


「あーもう! 分かったよ! やってやんよ! ……これで何も解決できませんでした〜じゃ許さねぇぜ!?」


 机をバンッと叩き、半ば諦めたようにグリムも立ち上がる。エイドもキュッと口を真一文字に結び、グリムに続く。


「エイド、、いいんだぞ? これは危険なことなんだから無理しないでも――」


「ううん、アザミくん。私、手伝うよ。私もなにかの役に立ちたいの。……それに、私の知らないところで大切な人たちが傷つくのはもう、嫌だから……」


 震える身体、無理のある笑顔。アザミには見えていた。エイドの抱く恐怖感情が。だが、それでもエイドが自ら判断したことだから、それを尊重したいと思った。


“『私の知らないところで大切な人たちが傷つくのは嫌だから』”


 エイドの言葉が何故かアザミの心をチクチクと刺している。


(記憶の蓋が、外れかかっているのか......?)


 何かきっかけさえあればいつでも思い出せそうな記憶に思わず体がブルッと震える。

 思い出したい、というのはある。だが、やはり知るのは怖くて――。


(――きっかけはやはりリゼ、、か。いったいアイツは何を知っているんだ……?)


 アザミがリゼを犯人として見ている理由は他にもあった。

 魔界の者特有の空気感、そして何より“アルカード峠を越えない”ということわざに対する反応。


(“アルカード峠事件”か。魔界では当たり前のように知られていた事件だが、人界ではグリム達の村ぐらいでしか伝わっていないのか......? ……確かに現代に転生してから見た書物にはどこにも残っていなかった、、。でも、この事件は300年前に本当に起こった事件だ。なんせ――)


 その事件を引き起こしたのは、アザミなのだから。

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