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91話 戦いを終えて

 天井が見える。背中にはなんだかふかふかとした柔らかな感覚。


「眩しい、、」


 窓の方から差し込む陽の光に思わず目を細める。


「……よかった、気づいたのですね、、」


 アザミはふと声のした方、窓と逆側に座るシトラに気づく。寝ていないのだろう。目元に暗い隈を作りながらも、優しく微笑みかける。


「俺は、、眠っていたのか......?」


 記憶がない。アイヴィージェに勝って、セラを救って。リコリスに敗北したあとの記憶は全く。


「ええ。……と言っても、今は昼間ですし、少し長い睡眠でしたねって感じですけど」


 シトラがアザミにその後のことを説明する。


*******************************


 グリムとエイドがアザミの元へたどり着いた時、もうアザミは瀕死に近かった。セラが倒れたまま動かないアザミの側で涙を流し、二人に向かって叫んだ。


「……アザミを、、助けて――!」


「――当たり前、です!!」


 その言葉にエイドが腕をまくり、アザミの傷口に指を押し当てる。柔らかな緑色の光がアザミの体を包み込みゆっくりとその傷を癒やしていく。だが、何やら変な力に弾かれ、エイドの回復魔術が途中で遮断される。


「……ダメ、かも、、。間に合わない!」


「おいおい! エイドの高速治癒術式でどうにもならないのって――」


 エイドの額に脂汗がじわっと浮かぶ。時折傷口からパチッと火花が飛ぶ。


「あぁ! なんで!? 落ち着け私、落ち着け、、魔術の流れが不自然なんて、言い訳にもならないんだから!」


 エイドが震える指先で必死にアザミの傷を治癒する。所々でほころんだように魔術の流れが切れ、せっかく繋いだ傷が開き、血が滲む。


「どうして、、どうして――」


「あの......! 手伝わせてください!!」


 不思議そうに声の主を見つめるエイド。セラは覚悟を決めた目でギュッと拳を握ってコクリと頷く。


「っつってもよ、、何が出来るって――」


 グリムが疑念を抱く。それもそのはず、二人の目の前にいるのはロリータ服に身を包んだ、血に濡れたただの少女。だが、その疑念を吹き飛ばすようにセラの体がポ―ッと薄い光を放つ。


「……そのまま、回復魔術を続けて――」


「え......? は、はいぃ!」


 セラがエイドの背後にフワッと覆いかぶさり、その手に小さな手を重ね合わせ、指を絡める。すると、


「……すごい、、魔力の流れが安定した、、」


 エイドがホッとした表情を浮かべる。高速治癒術師の本領発揮か、まるで逆再生のようにアザミの体に流れた血が戻り、傷は何事もなかったかのように閉じていく。


「良かった、、ふぅ......」


 セラが安心したように息をつく。そして力が抜けたのか、ズルリとエイドの背中から滑り落ちる。


「よっ、と、、」


 その小さな体をグリムが支え、ヨイショと持ち上げ、背中に背負う。


「……やんじゃん、お前」


 アザミはセラの魔力、精霊としての力を取り込み、魔法を使った。ゆえに魔術しか知らないエイドにとっては未知の力の流れだったのだ。セラはその流れを掴んだにすぎない。エイドが回復に徹し、セラが道を繋いだ、そんな連携。

 エイドにとっては初めての作業、治したこともないような深い傷。それに――


(無理、させちゃいました、、。精霊への適性がない人間に魔法を使わせるなんて......)


 セラがグリムの背中に負われながら、疲れ果てて座り込むエイドをぼんやりと見つめる。


「チッ、、2人も背負うのは、ちとキツイぜ......」


***********************************


「――セラは、、!!」


 シトラの話を聞いていたアザミはふと、その事を思い出し、慌ててベッドから起き上がる。その大声にびっくりしたのか、シトラがビクッと体を震わせる。だが、


「う、、」


 勢いよく起き上がったアザミだったが、グワンと頭を殴られたような衝撃とめまいを感じ、再びベッドに倒れ込む。


「あぁ!! ……もう、ダメですよ! 絶対安静なんですから。傷はエイドの魔術で治せても、疲労は飛ばないんです。それに、魔力を使いすぎですよ?」


 いくら魔力無限とはいえ、魔法や魔術を用いるには多少なりと身体に負荷がかかる。昨日の夜は“アザミ”にとっては過去最大級に魔力を消費した日だった。急激な魔力消費に、器としての体は悲鳴を上げていたのだ。


「――あと、セラさん、ですか? あの子は大丈夫ですよ。あの子も眠っていましたが、今朝方目を覚ましました。今は、ニアがお昼を作っているのを観察してたような......」


 その言葉に、アザミは思わず安堵の笑みを浮かべる。


(厨房、、ってことはあいつ、森から出られたんだな。良かった――)


「本当に、良かった......」


「うーん、、まあいいです。今回の私はなんだかのけもの感がありましたが、どうせアザミのことです。1人で悩んで、苦しんで、そして全部片付けてきたんでしょ?」


 そう言ってシトラはニコリと微笑む。特に何も聞こうとはしなかった。セラについても、森での出来事についても。


「そうだ、アーシュ達は! あいつらが来たと思うんだが……」


「あなたは本当に周りの心配ばかりですね。大丈夫ですよ。彼らも、無事です。イリスさんがアーシュ君を背負って現れた時はびっくりしましたけどね」

 

 シトラの言葉にアザミが可笑しそうに笑う。


(そうか、合流できたんだな、、)


「あとは、エイドが力を使いすぎて、というか、変な力の使い方をしたみたいで寝込んでますけど、命に別状はないです。と、先に言っときます」


 他の奴らは、とアザミが尋ねる前にシトラがひょいっと話す。


「てことは、つまり……」


「全員無事で、私たちオルティスアローの勝利ですよ」


 双子は顔を見合わせ、ハハッと笑う。ようやく息がつける。あの戦い、惨劇はどんな最悪の未来を生み出しても不思議ではなかった。だが、結界アザミたちは最善の未来を掴み取る。全員の命と、セラとの約束、森、村。全てを守るという、最善の未来。

 ひとつ、心残りがあるとすればリコリスのことと、アイヴィージェを救えなかったこと、か。


(最後、あいつは救われたような、報われたような表情をしたっけ。俺は、少しでもアイヴィージェを救えたのかな……)


 たとえ本当の子ではなく、召喚された特殊生命体(ミュータント)だったとしても、たとえ敵であっても、アイヴィージェは心の底からアザミ、魔王シスルを慕ってくれていた。アイヴィージェの行動が間違っていたとしても、その気持ちに、少しでも応えられたのなら。


 アザミの横顔を陽の光が照らす。


「眩しい、な……」


「ええ。眩しいですね」




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