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89話 300年越しの出会い

 そっと、アザミが抱いていた手を離す。セラは火照って熱くなった自分の頬を不思議そうにぺたぺたと触っていた。


「……これで、セラは助かるんだな?」


『うん、君の魔力がこの子を現世に留めているからね。君が生きている限り、この子は死なないだろうね』


 アザミがようやく「ふぅ」と軽く息を吐き、


「よかった……。俺の魔力、、てことは、この森から出ても大丈夫なんだよな?」


 精霊は自然の力を源に現出する。なので都市や戦闘に用いるには契約者の魔力をその代わりに用いるのだ。


『そうなる、ね。君の側からは離れられないだろうけど』


 精霊の言葉にアザミはドサッと地面に腰を下ろす。


「これで、約束守れるな」


 良かった、とアザミは胸を撫で下ろす。

 夏祭りに行こう、なんて無茶な約束をこれで叶えられる。あいつらも喜ぶぞ。

 セラが嬉しそうに顔を輝かせる。


『あとは、任せたよ。僕たちの姫を、頼むわ~』


 セラの幸せそうな顔を見て、精霊が悔いがないといったように優しく告げる。


「あとは、って、どういう意味だ? セラが生きているならお前ら精霊も大丈夫なんだろ?」


『……それは、僕らの力を少しでも高めてくれるだけに過ぎない。根本的に、森が消えれば契約者のいない僕らは皆、根絶するだろうね』


 森の奥から熱風が吹き、アザミの頬を叩く。火は思ったより燃え上がるペースが速いみたいだ。


「つまり、この森が無事ならいいんだろ?」


『え? ……まあ、うん。でも、もう無理だよ……。今から僕ら全員と契約する、なんて現実的じゃ無いしさ、、』


 そんな絶望的な状況下にも関わらず、アザミは「そんなことか」と不敵な笑みを浮かべる。


「……出来るさ。俺たちなら。俺は魔王シスル。欲しいものは全て手に入れ、不可能は可能にする大魔法使いだぜ?」


 アザミはそう言って立ち上がり、セラの頭にポンッと手を置く。


「力を貸してくれ、セラ」


「うん! あたし、頑張るね!」


 セラが嬉しそうにギュッと握った拳を胸の前で抱く。アザミが右手を掲げる。


(……魔術が得意とするのは自分を含めた主観的干渉。そして、魔法が得意とするのは、、)


 その手に森中から青い光がぶわっと、集まる。セラの体が青白く輝き、アザミに力を与える。


「――事象干渉、F M O , N R F 《アメヲフラセ》!!」


『すごい……まさか、ここまで出来るなんて、、』


 精霊たちは口々に感嘆の声を上げる。ポタッ、ポタッと水滴が空から落ちてきた。それは段々と勢いを増し、ザーッと豪雨となって地に降り注ぐ。

 天候を操るだなんて、並大抵の魔法使いにはできない。それなのに、アザミは悪魔の森ラット・アイア・ファレスに雨を降らせ、炎を消した。


「……これで、大丈夫だろ? みんな、救われた、、」


 アザミがニィッと笑い、精霊たちに向けてピースサインを作る。


『ホント、凄いよ。流石は魔王だね』


『ありがとう、まさか君に救われるなんて思っても見なかったわ……』


 全て、片付いた。セラを救うことができ、アイヴィージェも倒した。雨を降らせ、森の火も消せた。これで何もかもがなかったことになるわけではない。でも、最善のミライへ持っていくことはできたんじゃないか。


 アザミがスッと手をふる。すると、空を覆っていた黒雲が晴れ、雨があがる。


(濡れるのも面倒だしな。この湿気じゃ、もう一度火をつけたりはしないだろう。松明も全部だめになったはずだし……。あとは、、――)


 胸ポケットから呪符を1枚、取り出す。


『それはなぁに?』


「通信用呪符だ。皆に知らせないとな。終わったって、勝ったって」


 魔力を紙に込めると、描かれていた模様が、溝に絵の具を流し込んだときのように色づいていく。


「……お疲れ様。やったぞ、こっちは――」


 アザミが勝利宣言を行う。だが、呪符の向こうから聞こえてきた声は、騒々しいものだった。


「……なんだって!? 聞こえない! というか、早く倒してくれ!! 泥人形は無限に湧いてくる。このままじゃ、こっちの魔力が尽きてしまう!!」


「……アザミ? どうなのですか? まだ倒せていないのですか......?」


 慌てた様子のトーチとシトラの声。「そんな、バカな、、!」と、アザミはバッとアイヴィージェの方を振り向く。


(魔術が解除されるのは『術者の死亡』。だが、パペット(泥人形)は術者の魔力、命令で動く駒だ、、。術者が意識を失っている今、動くはずがない――!)


 アイヴィージェの姿は……木の奥に横たわっていた。ピクリとも動かない様子にアザミはひとまずホッとした表情を見せる。だが、


「……アイヴィージェはそこで寝ている。なのに、魔術は切れない......」


 その事実が示す結論は1つしか無い。だとすれば、戦いはまだ終わっていない。そしてそれは――


「“術者は、別にいる......?”」


 アザミがボソッと呟く。風が吹き、森の木々が不気味にザワザワと揺れる。


「――せ〜いかい! 全く、早く気づいてほしかったなぁ、、」


 答えはすぐ近くに。アザミの後ろ、真っ暗な森の木々の奥から女の子の声が聞こえた。ガサガサと草葉を踏み鳴らしながら、声の主が近づいてくる。


 赤色が少し混じった黒い髪を頭上で二つの団子結びにし、余った髪をクルクルとツインテール風に巻いている15歳くらいの少女。


「会いたかったぜ、デパート以来だ。お前には聞きたいことがあるもんでな……」


 デパートでぶつかった時、この少女に“お守り”と称して石を貰った。それは実は精霊石という魔法に用いる代物で、そのおかげで後のクリムパニス大墳墓での死地を脱することに繋がった。


――どうしてそんな物を持っていたのか、そしてどうして俺に渡したのか


 アザミが少女の方を向き、正対する。少女はニコリと笑うと、スカートの裾を持ち上げ、一礼した。


「それはどうも。私も会いたかったよ、我が敬愛なる父君。……っと、そうだ。まだ名を名乗っていなかったね。私はリコリス。七罪の使徒の1人、強欲を冠する者だ。名前ぐらいは、、知ってるかな?」


 リコリスが不敵に笑みを浮かべる。アザミも負けじと平静を装う。


「お前が魔王リコリス、か。俺の名を語っているという不届き者――」


(クソッ、、立っているので精一杯だぜ......。こいつの強さは不明瞭だが、使徒と二連戦は流石に厳しい……)


 アイヴィージェ戦、そして契約、雨と、アザミの魔力は過去最大級に消費されていた。“魔力無限”があるので大丈夫ではあるのだが、それでも肉体的・精神的疲労はどうにもならない。その2つがアザミに重くのしかかる。


「いやだな、父さん。私があなたの名を語っているって? 冗談じゃない......」


 アザミの言葉にリコリスが「ハハッ」と、呆れたように笑う。


「――なんで私より弱いやつの名を語らないといけないのさ」


「言い残すことはそれだけか?」


 リコリスがベッと舌を出す。アザミは無言で右腕を伸ばす。


(全く、しんどいから見逃してやろうと思ったのに。七罪の使徒って言うのはつくづく生意気なやつばかりなのだな――)


「F M O , C O O C《暴走せよ》――!」


「グフッ、、!!」


 アザミの言葉と同時にリコリスの口からドバっと血の塊が落ちる。その白いシャツの腹部が赤く滲む。


(――体内魔術の暴走も知らないようなやつが俺より強いだと? 魔界がこんな調子なら、自伝の一冊や二冊残しておくべきだったな、、)


 腹を押さえ腰を折って前屈体制になっていたリコリスがゆっくりと顔を上げる。

 ニィッと、狂気の笑みを浮かべながら。


「――そんなもんで......私が死んだと思ったぁ?」


 リコリスが笑みを浮かべたままの口元をグイッと拭う。腹の傷はみるみるうちに再生していく。


「う〜ん、、でも想像以上に、“弱い”なあ......。どんなもんだろと思って受けてみたらこの程度なんだもん」


 再生し終わり、リコリスが不満そうに首を振り、ブーッと口をすぼめる。その様子には、魔王シスルに対する恐れや畏怖など微塵も存在していない。






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