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8話 入学式と出会い(1)

聖剣魔術学園紹介【制服】


男子:白シャツに黒のズボン。その上にフード付きのブレザーを羽織る。ネクタイは学年ごとに色が違う。1年生は赤


女子:白シャツに黒のプリーツスカート。その上にセーラーパーカーを羽織る。リボンは男子と同じ色。

 翌日、聖剣魔術学園は晴天の下で入学式の日を迎えた。その朝早く、オルテウスは困惑した顔でポリポリとその白髪を掻いている。その視線の先にいるのは、


「うん、確かに『遅刻しないように』とは言った。……でもそれにしても早すぎないかな?」


 そう言ってオルテウスが時計台を見上げた。時刻は朝7時。にもかかわらず、双子は校庭のベンチに座っていた。早いのは分かっている。オルテウスの視線が痛い。と、アザミはススッとその視線を逸らしてボソボソ言い訳めいたことを呟いていた。


「……いや、流石に昨日の今日で遅刻はまずいし、、」


「……それにまた迷うと大変ですから。でも安心してください! 明日からは寮生活なので迷うはずがありません!」


「うん。なんか君たちなら寮生活でも道に迷って遅刻しそうな気がするんだよね、、」


 任せてください、と胸を張って自慢するシトラにオルテウスはかなり心配そうな顔をみせる。入学式前に実力関係無しで学園長に顔と名前を覚えられる新入生、なんてかなり珍しいことだろう。オルテウスはこれからのことを考えるとキリキリ痛む胃の辺りをキュッと押さえ、


「あ、そろそろ僕は行かなくては。もうすぐリハーサルが始まるんだよ。じゃあ式が始まるまで2時間もあるけど、おとなしく待っているんだよ」


 そう言い残してオルテウスは踵を返すと、スタスタと体育館の方へと歩いていった。その後ろ姿を見送りながら双子は思う。


―――暇だっ!!


 入学式の、それもこんな朝早くだと校内に生徒は一人も居ない。入学式だとテンションの上がった新入生が朝早くから来て......なんてしそうなものだが、それにしても早すぎだ。だが退屈だからといって寝たらそのまま寝坊しそうだからなー、なんてアザミがそんなことを思っていたその時、校門から二人組の男が入ってくるのが見えた。


「あれ? ほほう、どうやら俺達以外にも早く来るやつが居たようだな」


「良かったですねアザミ。仲間ができましたよ!」


 自分の他に宿題を忘れた人を見つけたときのようなテンションでシトラが喜ぶ。出来て嬉しい仲間だが決して誇れない仲間だ。アハハ、と苦笑しながらアザミはその二人に目を凝らす。


(あれは学園の制服……てことは生徒か? 一人はデカイ金髪の男。もう一人は黒髪で細身の男。あれが俗に言う『イケメン』ってやつか、、)


 そんなことを思っている双子の側を男が通りかかった。男は双子を見ると早いね、と一瞬驚いた顔をしたが、すぐに人当たりの良さそうな笑顔で「やぁ」と軽く会釈した。


「あれ? おはよう。朝早いのは良いことだね」


 黒髪の男が話しかけてきた。さっきまでその隣りにいた居た金髪の方はいなくなっていた。飲み物でも買いに行ったのだろうか。声をかけてくるとは思っていなくて反応に困っていた双子の隣を黒髪の男がスッと指差す。


「隣、良いかな?」


「ああ、構わないが……」


 別に断る理由はない、とアザミはシトラの方へスッと身を寄せて、男の座るスペースを空けた。そこに黒髪の男はストンと腰を下ろして、ニコリと笑った。


「ありがとう。僕はトーチ・キールシュタット。君たちと同じ1年生だよ。君たちは恋人......かな?」


 トーチがほほえみながら自己紹介をする。アザミはその言葉の後半部分にフンッと鼻を鳴らし、首を横に振った。


「ぬかせ。俺はアザミ・ミラヴァード。んでこいつが"妹の”シトラ。恋人なんかじゃ無くて双子の兄妹だ」


 トーチに“恋人”と言われたアザミは”妹”という言葉を強調して告げる。シトラは「やっぱり恋人に見えるものなのですかね……」などと、その隣でぶつぶつと呟いていた。それを特に気にすること無く、トーチはなるほどね、とベンチに深くもたれかける。


「……双子か、、初めて見たけど、案外似てないものだね。あと、僕のことは気軽にトーチって呼んでよ」


 トーチはアザミの黒髪とシトラの金髪を見比べながら、スッとその手を差し出した。似てない、という言葉にピクリと肩を震わせてダラダラ汗を流すアザミ。


「ま、まあ二卵性? だからな。俺のこともアザミでいいぞ」


「シトラです。よろしく」


「そうなんだ。……よろしくね。アザミ、シトラ」


 アザミとシトラはトーチの手を握って握手を交わした。


「ところで、トーチはなんでこんな朝早くに学校に来ているんだ?」


「ん? ああ。僕は新入生総代として挨拶をするんだけどね、そのリハーサルのために早く来ているんだよ。……そう言うアザミたちはどうして?」


「うん。遅刻しないように、かな」


 いい心がけじゃないか! とトーチは驚きながらも感心する。遅刻をしないように朝早くから学校に来る、なんて模範的な心がけだ。……そして同時に思う。「いや、それにしても早すぎないか!?」 と。


「ゴホン......。確かに入学式から遅刻するのはありえないからね。念には念をってやつ、、なのかな?」


―――はい。すいません。僕たち入学試験に遅刻しました。


 納得できる理由を作り出して苦笑いを浮かべるトーチの横で、双子は昨日のことを思い出して落ち込んでいた。まさか入学試験に遅刻したけど特例で〜、なんてバカ正直に言うわけにもいかず、「そう、それだよ〜」とトーチの話に乗っかった。騙していると思うと心が痛い。そんな打ちひしがれる双子の隣でトーチはふと時計台を見上げると、「あっ!」と小さく声を上げて立ち上がった。


「……あ、じゃあ僕はそろそろ行くよ。友達も来たみたいだからね」


「チッ、この俺をパシリにしやがって、、おいトーチ! お前の欲しい飲み物ってこれでいいか……ってなんだ? もう友人でも作ったのか?」


 立ち上がったトーチのもとにさっきの金髪の男が飲み物を二本持ってやってきた。やはりアザミの予想通り飲み物を買いに行っていたようだ。その金髪の男はアザミの視線に「あぁ!?」と怪訝そうに眉をひそめ、「こいつらは?」と指を指してトーチに確認していた。


「ジャン負けなんだから文句はなしだよ。あ、こいつは僕の友人でね、名前はジョージ。ジョージ・ハミルトン。……それでジョージ、こっちが僕たちと同じ新入生のアザミとシトラ。双子なんだって。似てないだろ?」


 トーチに紹介されて双子は「どうも」と軽く会釈する。ジョージはそんな双子をちらっと一瞬目をやったが、すぐにそっぽを向いた。


「なんだ、“普通科”じゃねえかよ」


「やめなよトーチ。―――じゃあ僕らはリハーサルがあるから。3年間よろしくね」


「ああ。スピーチ頑張れよ」


 そう言って立ち去っていくトーチとジョージ。だが、“普通科”というジョージの言葉に若干の違和感を覚えていた。あの馬鹿にするような目、失望したような表情。そしてそれを咎めるトーチの目。


(……気持ちのいい呼び方、、じゃなさそうだな)


 だが特にその真意を聞くことはせず、アザミはトーチ達に手を振り返した。引き止めて聞くと迷惑がかかるし、それにその理由はいつか分かるだろうと予感していたから。気にはなるが、知るのは今でなくてもいい―――と。


 2人は体育館の方へ向かっていく。そして双子はまた超絶暇timeに突入したのだった。


* * * * *


「……以上で僕のスピーチとします。ご清聴ありがとうございました。新入生総代、1年S1組トーチ・キールシュタット」


 トーチの貫禄あるスピーチにワァー、と拍手が起こった。トーチはやりきった清々しい表情で頭を下げ、壇上から降りていく。それを双子は自席から見ていた。羨望の眼差しで......ではなく、あくびをしながら。


「入学式って何度受けても暇だよな」


 パチパチと心のこもっていない拍手をしながらアザミがボソッと呟く。


「初等学校の入学式は人生はじめての入学式だったので新鮮でしたが、こういう祭り事は一回で十分ですね」


 「くわぁ〜」と、アザミにつられてあくびをするシトラ。朝早くから学園に来ていたせいで眠いのと、この入学式の空気に触れすぎたことと、加えて昨日もっと凄いことをやらかした双子にもはや緊張感なるものはなかった。


「それでは新入生が退場します。普通科の生徒は、昇降口にてクラス分けが発表されていますので確認して、各自のクラスへ移動してください」


 ようやく式も終わったようだ。司会進行の先生の言葉で一斉に立ち上がって移動を始める。そんな中自分の席から双子は動かない。


「シトラ、俺らはA組だっけ?」


「はい。バードマン先生が昨日そうおっしゃっていたはずです」


 「そっか〜」と興味なく返事するアザミ。周りが我先にと昇降口に向かっているのを椅子に座りながら静観していた。クラスを事前に知っているため動かないでも良い。


「……人混みに巻き込まれないで良いって幸せだな」


 なんて、心の底から思うアザミだった。


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