四十七話
「親玉はバンパイアか、目撃情報が上がっていた覚えはないな」
「こちらの情報網にも引っ掛かっておりませんので、恐らく帝都の内に入っていないのでしょう。城壁の外ともなれば、追跡は困難を極めます」
森を支配下に置くのなら、大狼の一族が邪魔になる。一部を手中に収める事で、彼らの目を誤魔化したか。それほどまでに帝都に執着する理由が見えないな、合理的に考えるなら。
帝都には特別重要な施設は禁書図書以外には存在せず、それも利用が不可能なクラスの危険度のものばかりである。一応『自称:精霊の巫女』が存在しているが、地位と力が安定していない彼女では狙われまい。
それにあのクラスの精霊親和度なら、堕とされたとて対応可能な範囲しか呼び出せない。高を括っているが、あの御馬鹿のことだ、自らの権威の象徴の命を縮めるような真似はさせないだろう。
あれでも、リスク管理ぐらいはできる。専ら生存に長けていて、根の詰めあいである政戦においては発揮されないようであるが。何故、継承権争いから退場しないのか不思議でならない。死にたくなければ、元より継承権など捨ててしまえば良いのだ。
僕らも、継承争いから遠ざかる為に、力を手に入れようとしているのだから。
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敵の占領している広間、普段は大狼の一族が抑えている場所だと、老狼より伝えられた場所である。
近づけば、積みあがった歯車人形の残骸が見え、濃厚な血の匂いが鼻を突く。味方のものか、敵のものか。それが問題だ。
「敵の本拠地、って感じ満々だな。ぶっとばしてやろうぜ」
「それはそうなんだけど、森壊さないようにね。負けそうだったらいいけど」
森を守って負けるくらいなら、一部を壊してでも勝つ。確実に勝てるとは言い切れないが、破壊力が大きい攻撃はこの森を巻き込まずにはいられないのだ、しょうがない。
「皇家的にはやめてほしい所だが、安全でなければ森も使えない。私が暫定的に許可をだそう。戦果がつけば、誰にも文句は出せまい」
「お喋りはここまでのようです。敵です、主。」
前方から漏れ出す魔力の波動、どうやら、お出ましである。攻撃を与えた報告は数少ないが、どれもかすり傷、バンパイア特有の再生力で回復されてしまったようだ。
「貴様らか、私の居城に人形をけしかけたのは。楽しく帝都の惨状を眺めていたというのに。それとも、貴様らが私の玩具になるのか?」
帝国貴族らしい服装、しかし感じる魔力は魔族そのもの。先刻の襲撃してきたバンパイアと同じ特徴だ。外見の情報は報告にあった侯爵子息のものと一致している。
気に食わない、人の欲に漬け込み、利用するその性根、人を騙し、誇りを蝕むその知性、非常に気に食わない。口がでた。
「魔物化か、一体何時からなのか。今逃がせばこの国癌となる、逃す気はない。死ぬ準備はできてるだろうな」
「ふん、この体は義体の一つに過ぎない。この体を殺そうとも、私の本体には傷一つ付かんよ」
「っち!」
当てつけに【力衝変換】を使用して、切り裂いて広間の中央にぶっ飛ばす。【力衝変換】、威力を衝撃に変換する武技。単純だからこそ応用は多様、今回は敵を後退させる為に使用した。
「ぐぅ、この体は弱いな。やはり乗り換えるか」
侯爵子息の体が急速に痙攣し、赤黒い鮮血が溢れるように口腔から流れ出す。その量は人間工学的にあり得ない量に達し、人の体を成したソレは自らの体ー血を割いて地面からナニカを掘り起こした。
それは先ほど筈の大狼の体、腕先の爪や長く伸びていた鋭い牙こそないけれど、それは確かに大狼のそれだった。
「さっきの倒した筈ではっ!!」
正に息を吹き返したかのように蠢動する大狼を見て、ティーナが吠えた。恐らくは倒したソレは首領の再生能力によって生み出された複製体。それ故に改造が施されていたのだろう、アレは肉人形だったわけだ。
「兎も角討伐いたします、ご助力願います。皇女殿下」
「壁は俺がやる、気負いなさんなよ、皇女サマ」
うちの前線メンツが突っ込んで行ったわけだが、この場には僕も含めて近接武器を使えるものは四人、そう全員だ。そして大狼の体は巨大こそあれど、四人全員が張り付けるほどではない。
ティーナもある程度中距離攻撃も可能だが、攻撃手段の数に関しては乏しい。可能なだけだ。よって、マジックを使う。
マジックを使うなら、この距離は近距離戦だ。手札も少ないが、組み合わせは豊富に作ってある。
先ずは、味方を増やす。
「錬成魔術接続召喚魔法:〈騎兵融解〉」
放たれた魔力がうつ伏せに倒れて動かない歯車人形の壊れた体に降り注いでいく。予想通りだ、沢山倒してくれてありがとう。魔力の無駄遣い?そんなことするわけないじゃないか。




