四十四話
『予定時刻、二分前。カウント90より開始。改良術式、全歯車人形に送信完了。順次再起動、戦闘データの統合、最適化の後に攻撃を開始します』
時は進んで、といっても一服した程度。途中から魔物が絡んでくる様になったが為に、周囲が血だらけになった。血も霊薬の素材になったりもするので、上質なものだけを抽出して試験管に入れて保管する。帝都周辺の勢力図は、入られはしないものの、出られもしない、そんな所か。
『全行程完了、カウント90、89、88、87…………』
「術式調整。範囲調整ー効果増強、条件追加『対象数一万以上の場合に限定して発動』ー特殊付与『インフェクション:適正〈生命強奪〉』、効果時間複合延長、重複術式効果増大。完全詠唱ー術式加速」
さてさて、とっておき。状況に合わせて効果もつけた。
「机上の杖、一切の苦労を負わずして極上の死を齎す 地上の剣、大いに傷を負いて一つの死を齎す されど、死しては偏に同じ 逆転は無音にて行われる 汝に刃を授けよう 無色の刃 無形の刃 定まらず幻実の狭間より参る 〈不定の強奪者〉」
『特殊妨害術式の発動を支配領域内で検知、クリエイター資格保持者に寄るものと断定。術者支援機能を用い、術式を接続。追加付与の変異率を変動を実行。内部情報を送信し、術式進化速度を加速的に情報させます』
中々に成長してこの場にいるらしい。生まれたての頃はプロトコルに従うだけの存在だったのだが。この分なら、他の子たちも。先んじては存在とプログラム遂行状況のみを確認したが、次は所在とマスター資格かな。
もっとも、この状況を解決しなければ、満足に術式を確認できない。
「【龍器召喚】っと。そんで、ティルフザールをペルソナを接続!」
これで魔力残量を気にすることはなくなるだろう。最も、龍器の召喚に魔力最大量を削られるから、実質的な行使可能数は減ったままだ。並列操作可能な術式数は増えるから、命中精度は上がるだろうけど。
『特殊妨害術式より、多量の生命力、魔力の流入を確認。〈死神の目〉発動、暫定敵首領勢力圏内を特定、帝都より西方四キロ。魔力深度観測、推定十五、将軍級。周辺地域の支配を完了、歯車人形の投下完了』
「魔力痕跡は………やっぱりバンパイアか。なんでまたこんなところに」
僅かに感知される根状に広がっている魔力、バンパイアが眷属に残す自らの血が発生させる痕跡だ。彼らはほぼ確定で闇属性魔力に高い適正を持ち、そのために日に弱い。エンデール君程に闇属性適正が高ければ、相殺することも可能であるが。
『以前より、嗅ぎまわっていたバンパイアの連中ですか。いないと思ったらそんなところに』
まぁまぁ、功績に免じて許してあげよう。次があるかは知らないが。
「クロノクルスは使えないし、大規模術式は発動に時間がかかる。それにばれる。バンパイア相手では、決め手に使えそうなのは一つだけか」
クロノクルスはヨルムンガンドとの戦闘でレーバテインを使った事によって、絶賛修理中というか、オーバーホールしている。密偵狩りに使ったのが、限界だったのだ。レーバーテイン以外にも特殊弾は用意してあるが、あれらは銃から発射されるという条件もかけた術式弾だ。弾だけあってもしょうがないのである。
従者二人も、体を得てからすぐの事態ゆえに、慣れきっていない。雑魚ならいいだろうが、同格、格上相手では心許ない。
深度十五程度なら、ヨルムンガンドクラスの化け物はいないだろう。あれは軽く八十を超すはずだ。そこまでいけば、魔力ではなくなっているだろうし。そればかりが救いだ。
「帝都周辺の防衛は?」
『歯車人形の動作安定化によって、十分防衛線は安定しました。第二皇女殿下を連れ出せるかと』
じゃ、二人に合図を送って、全員集まり次第で戦闘本格化かな。今のところ、相手は歯車人形たちを争い続けているようである。単体ではそこらの雑兵と同等だが、集団となれば質の悪いゾンビアタックとなる。魔力は相手の手勢から回収し、こちらは情報を得、リソースを浪費させる。
一気に歯車人形が一掃されても、一回ぐらいなら立て直せるかな、と『駒』のネットワークに溜まる魔力を見て思う。一体これが相手リソースの何割に及ぶのか。一抹の不安が、脳裏を過る。
「ふぅ、先は長くなりそうだ」
『事態の完全終息には一か月ほどの時間がかかるかと、気の早い貴族には既に謀略に走るもののいるようです』
はぁ、当分の休みはなくなるのかねぇ?予定を立てるのは敵を倒してからにしよう。
現実逃避はそこそこに、もうすぐで二人が到着するようである。膠着ともいかないが、不利というわけでもない。後手の負債を相殺しただけだ。
「主、御前に」
「呼んだか?主殿」
呼んだから、ここに来ていると思うのだけどね。それよか、仕事か。
「状況を説明しようか」
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敵の居場所を特定したこと、敵がバンパイヤであること、そして中々に強敵であること。ソレら敵情報を伝えつつ、話を続ける。
「うちの手勢、『鴉』も含めて攻撃させている所だ。他にも、ここにはマジック的な反撃探索も来てるから、この場は放棄する。全部弾いてるけどねー」
「帝都はどうです?かなりの量を間引いた筈ですが」
「こっちも、敵がわらわら来やがった。半数は仕留めたが、多少は抜けちまってるな。ちょっとは逃げたげどな」
ブォルフレ君を見て、自主的に後退する知能が有るのか。敵のバンパイアは高みの見物を決め込んでいたから、命令を下した訳では無いだろう。眷属を生み出した血の主―バンパイヤによる命令は、精神層に極めて特異な痕跡を残す、血の支配が眷属を強制するからだ。今回はそれが見えなかった。
「安定してるよ。反撃に出る余裕も、もう少し経てば出てくるだろう」
「じゃ、仕事自体はねぇのか。帝都に補給は要らんだろうしな」
「危機という事態でこそありませんが、帝都、ひいては帝城が敵に囲まれることはよろしくありません。地方貴族に舐められるかと」
「それもあるけど、これに乗じて何かに潜り込まれると帝都は弱いからね。外は固いのだけど」
人は相当量排除したが、それでも末端ばかり。追加で、スパイだと事前に特定していた潜伏下手の者どもだ。バンパイアが該当する―魔族、人型で強力な魔物が入り込んでは厄介だ。一定の強さを超えた魔物は人型か、人外かの二択に極端に二分化される。人型に進化した魔物、つまりは魔族がこの機に乗じて入り込めば、討伐に帝都自体にダメージを与える結果となる。
父上を含め、上位勢の全力は周辺に大きな影響を与えるのだ。
「放っておけば、事態は収束するでしょう。主の攻撃によって援軍は生まれず、反撃はこない」
「けど、君たちと僕という兵を遊ばせているなら、頭を潰しに行った方が得だ。アルテミス殿下と僕の行動は緊急時の独自行動、戦果でも出さなきゃね」
皇帝陛下、怒ってないと良いんだけどねぇ。僕は一応言い訳あるから、まだマシだけども。でも、神殿長には叱られそうだな。
「じゃ、西門にいる狼を倒しに行こうか。最初はそこからだ」




