四十話
今は皇族が各々の護衛の裏に隠れて、離れて護られているので大事には至らないが、アレクの伝えが他の皇族に漏れようものなら、こんな事態でも後継者争いの火に風が吹き込む事になる。
「本気か?兄上達に喧嘩を正面から売るようなものだぞ」
「此度の乱は何れかの魔王の関わりが見受けられる。故に、功績の奪い合いで事態を有耶無耶にさせられる可能性が常に否定できない。よって、候補者から外れている殿下が最も相応しい」
……確かに、理に沿った結論だ。皇太子殿下、エルク兄上以外に優先的に仕事を回される事は無いから。反乱、内乱を未然に防ぐ為の処置ではあるが、他の候補者の不満を貯め込む要因ではある。
他にも、色々な優遇不遇はあるが、功績を積む場を奪われる事が最も彼らにとっては堪える部分だ。
「既に皇帝陛下が多少大雑把だが担当者を下命している筈だ。私では、どうにもならん。征伐には賛同だが」
「それは飽くまで書面上、現場では話は異なる。こうは言いましたが、功績を根こそぎ奪い取ろうというだけです」
……………極力小さく話しているが、流石に強欲が過ぎないか、それは。下手を打って喧嘩になったら、父上に縋りつくしかなくなるのだが。
「指揮や戦力に関しては気にせずに暴れてくださって結構です。主が補完するそうですので」
何から何まで支援付きか。聖者就任もあれだが、病み上がりで何処までやるつもりなのだか。元々聖者の時点で政界から逃れなくなったが、自ら沈んでいくのはどうかと思う。
「そうか、まぁいい。私は皇族としての役目を果たそう。それで、味方は?」
「主より『鴉』、『駒』、ついでに伝のある冒険者と、何故か禁書管理課職員がきます。全員、帝都西門に集合済みです」
『鴉』はともかく、なんで禁書管理課が。『駒』に関しては知らないが、多分それらしきものを見た事がある。
禁書管理課は基本的に大図書館から出ず、全てからの干渉を嫌う、完全独立組織。帝国に属してはいるが、それは帝国がこの地の最大の管理者であるからこそだ。根源的には彼らは味方では無い。
「分かった。私も出来る限りの手勢を連れて、準備次第向かおう」
「ありがとうございます。では、後ほど」
そう言って、メイド服の従者は空間に浮ぶ術式に消えた。多分アレクの転移術式だろう。この場で大っぴらにお披露目とは、補助というのもあながち嘘でもないらしい。
何らかの言い草を付けて強引に功績をアレクに回す予定だったが、補助の功は最低でも付くな。若干荷が降りたか。
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大神殿の一室を神殿長より借り、普段から持ち歩いている本格的な戦闘用の装備にメイド達含め、私の専属女性近衛騎士十二人も着替えた。無論私もだが。
「果たして、この用意が役立って良かったのでしょうか」
ポツリと騎士の一人が言った。初の実戦という訳では無いのだろうが、動きの節々に緊張を感じさせた。確か彼女はあの事件の後に、私の所に来たのだったな。最も、あの事件で生き残ったのは五人中二人だけだが。
「備えあれば憂いなし、この言葉に尽きる。皇族の私とて、未来を予期することは出来ん。可能なのは帝国の盾となり剣となり、何より権威となる事。その為には我等の失墜はあってはならない」
朧気だが、ハッキリと覚えている彼の顔。おぞましい闇の呪いを目の前に、笑っていた。先の不安など、まるで無い様に。
呪いを被せてしまったのは私だ。だから、二度目が無いように対策を打っている。いや、自分の力不足で再びあの様な光景を見るのが怖いのだろう。でなければ、権威を握るこの両手は震えていない筈だ。
「殿下、総員準備整いました」
メイド長の聞きなれた声にハッとする。いつの間にやら、物音が遠ざかる程に下を向いていた。形ばかりだが指揮官がコレでは、務まるものも務まらんだろう。しっかりしなくては。
「分かった。急ぎ、西門に向かおう」
視線を上げれば、天窓に青空が見えた。今日はこのまま、天気が続くようである。吉兆か、凶兆か、私には、よく分からない。
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辿り着いた帝都西門。四方にある関所の内の一つであり、門の向こうにはノーラナス山脈の一端が迫り出している。
アレクのメイドの言った通り、百人ほど門の周辺を固めている。事前の支持があったのだろう。指揮は形だけ、その言に誤りは無かったらしい。これから変わる可能性も無い訳では無いが。
「お待ちしておりました、アルテミス殿下。ご覧の通り、人員に不足はございません」
「最初から嘘は無いと信じていたとも。で、幾つか人ではないのが混じっているが」
上手く冒険者に偽装しているが、感じる気配はゴーレムの様なソレだ。私の執務室や、寮の部屋で何回か感じた事のある気配、コレがアレクの言う『駒』なのだろう。
「あぁ、『駒』ですか。私と彼処の突っ込んだ馬鹿を作った時に得たデータを使用した量産型、らしいですよ」
作った!!?量産!?




