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三十四話

 文字通り、ブォルフレ君の眠るベットのシーツを引っ張り上げて、中に浮かせた。

 

 生前の素行か、幽霊自体に時間感覚を失ったのか、寝付きと目覚めが非常に悪いブォルフレ君である。

 

 どちらが正解なのか、定かではないが、今日ばかりは寝坊を見過ごす訳には行かないのだ。

 

 ちなみに、普段はガレアに叩き起こすままに練習場である裏庭に飛ばされる。変な風に二人の知名度が上がらないと良いが。

 

「痛ったぁ!」

 

「馬鹿言ってないで、サッサと身支度しなさい。予定時刻より三十三分遅い起床、主に迷惑をかけることは許しません」

 

「昨日散々言い付けた筈なんだけどね、今日は役割があると」

 

 床に頭を打ち付け、金属特有の衝撃音が室内に響く。衝撃吸収機能付けておいて良かった。神鎧を着用していないとしても、ブォルフレ君の体は二百キロを超えるので、確定で床ごと地面が凹む事態になる。これから引き払う場所の弁償などしたくない。

 

「ウッ……仰る通り」

 

「ほう?主の下命を忘れたと?」

 

 一気に眼光が鋭く変じたガレア。僕にとってはかるーい空気だが、ブォルフレ君と巻き添えを喰らった見習い神官は息苦しく、過呼吸起こし気味である。

 

 全く、気付かぬ内に騎士に寄られている様である。騎士の様な仕事を命じているが、騎士たれと、剣を捧げろとは言っていない。エルカミス家では使用人の殆どが暗闘を得意とする為に、護衛を兼任する事が多い特徴を引き継いでいるだけに過ぎないのだ。

 

「ガレア、君には先に会場の下見を頼めるかな?僕はブォルフレ君を叱ってからいくから」

 

「了解しました。お先に失礼致します」

 

 ガレアは四十五度のお辞儀をしてから、部屋を足早に出ていった。

 

 料理をし始めたから、改善したと思っていたけど、思い違いだつたか。記憶は人間を構成する重大素材だが、この様では呪縛と大差無いだろう。

 

 本人にとってはいつも通り。放るのが適切なのか、取り払うのが適切なのか。今の僕には分かりかねるものだが、何時までも触れない訳には行かない。

 

 呼び出してしまった分、それなりの生活を用意するのが召喚者の責任というものだ。精神面も入るのは言わずもがなである。

 

「ん〜………ブォルフレ君、マント付け替えるから神鎧着てね。着てくれないと、説教終わらないからね」

 

「ブェ?」

 

 さ、手始めは生活習慣の乱れについてだ。

 ――――――――――――――――――――――――

 

 大神殿の大広間。七大神全ての神像が並び、像が描く円内には着々と式典の準備が進む。

 

「聖者殿。着衣は如何ですか?」

 

「これは神殿長様。名匠と名高い聖女ネフス様の作品、丈に狂いは無く、申し分など有りはしません」

 

 未だ聖者じゃないから聖者殿(・・・)は違うのだけど。これは盛者必衰を身をもって教えようとしているのか、単なるヨイショなのか微妙なライン。

 

「それは良かった。では、後ほど」

 

 その後、神殿長は準備の勢に加勢し、人員が目まぐるしい程に動いていく。

 

 こうゆう所を見ると、その手腕を見習いたくなる。人を動かす事に置いては、そこらの貴族の先を一手も、二手も先を行く人物である。並ぶのは陛下に、帝国軍を率いる総統閣下、近衛騎士団総長殿ぐらいなものか。

 

 聖峰国内に座する教皇とやらは知らない。何なら情報が一つとしてない。

 

 宗教国家って潜入しても情報に旨みが無いのが良くないよね。あの国遠方にある癖して情報統制馬鹿みたい優秀だから碌な報告がこない。取れても外交向けの公開情報のみだ。

 

 それはさて置き、開会まであと三十分程。下見に時間を掛け過ぎなガレアを回収し、控え室に引っ込むとしよう。

 ――――――――――――――――――――――――

 

 開会の十分前。広間に角を合わせて置かれた椅子には各方面より集まった貴族達が静寂を保ちつつ、頻りに口を開いていた。

 

「エルカミス・エーミール伯爵子息殿、この頃力を付け始めたな」

 

「しかし、一度堕ちた事に変わりは無い。呪いも解けていないのだろう?」

 

「ああ。しかし、エルカミス家の者、偽りでる可能性もある」

 

「魔導師団副長付き助手殿の御息子を打ち倒したとか……」

 

「審判がいい加減だったのでは無いか、講師は市中の出だと聞く」

 

「平民だとして、講師になるほどの腕ぞ。名高い方より教えを受けておろう」

 

 貴族の聖職就任は珍しい事ではない。一年間で約三十人ぐらいの数で毎年任命されている。

 

 各教会が腐っている訳ではなく、国教だったり、風土に根付いている宗教に対応する為だとか、根本的には政治を円滑に進めて、領民の生活を向上させる事が理由だ。

 

 しかし、今回ばかりは話が違う。帝国貴族が世界でも重要な役割を担う存在である聖者に指名されたのだ。

 

 帝国貴族としての特権、聖者としての権利と名声、そして権威。しかも、僕にはエルカミス家としての義務に伴う権力がある。

 

 規格外が過ぎるのだ。抑々、帝国の民法では貴族が聖者に任命される事態に対する対処法は記されておらず、制定した初代国王も予想だにしなかったのである。

 

 つまりどっかの馬鹿が崩しかけたシーソーゲームが、皇室派、中立派、貴族派、軍派閥の拮抗により成り立っていた一抹の、表面上の平和が僅かに揺らいでいるのだ。

 

 他にも新たなる神器の降臨。『精霊の巫女』のエイリエスの書の未所持。どっかの馬鹿野郎の謹慎処分の終了が近い事。最近増える貴族家の離反。頻繁な国外犯罪組織の流入。工作員もだ。帝国最北部、テルシア平原でのアンデッド増殖。

 

 どれも頭を悩ませるもの。テルシア平原の件については陛下に奏上の上、デイアール・ラフィア辺境伯爵令嬢を介して辺境伯本人に細小な報告書を出する様、陛下の名をもって命じている。

 

 どうやら、陛下はテルシア平原をティーナの管轄とする腹づもりのようだ。

 

 エルカミス家としての職務、ティーナの従者としての公務、聖者としての聖務。最近働き過ぎな気がする。

 

作者がテスト期間の為、次週と次々週の更新はお休みを頂きます。

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