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三十三話

 朝日が指し、レンガの壁が熱を帯び、薫風が間を駆け抜けていく。


 雲はそこそこに、青の隙間は多い。割と良い天気だろう。暗殺者が襲うには難しい良い天気。


 今回の任命式に集まる貴族家は皇族を初めとする大方が出席する。陛下は出席しないが、皇太子殿下、第二皇子殿下は出席する、どっかの阿呆は謹慎中。ティーナは勿論の事。后妃陛下以下奥方も第四皇妃以外は出席する。他にもシスム様の聖者の僕以外の三人、大司教八人居る中で全員。あと、父上及びエルカミス家総員。


 その為、国内に居る皇族の大部分が此処大神殿に集結する。なので、ここ数百年で一番警戒が高まっており、態々大掛かりな結界を貼ったり、国内外の集められる限りの神殿騎士を配置されている。


 神殿勢力からも、戦力が投入される中で、エルカミス家からは『鴉』の投入可能部隊の全て、加えて兄上の部隊『黒牙』の戦闘部隊、父上率いる主力『黒祇(こくぎ)』、次いでに騎士団。シンリアは依頼が都合悪く来たらしく、出席しない。


 あと、暗部の構成員が部隊単位で四つは居る。皇族が出席するのだから、近衛騎士団も勿論の事だ。他にも出席する貴族が連れ寄った戦士団や冒険者達に騎士団がいる訳だ。


 国でも落とすのか、疑問でならない。確実に戦力過多である。


 ヨルムンガンドでも来ない限り、護衛対象が一掃される事はないと言える。かの大蛇が人類種領域に攻めいる事は無いだろうが。


 これからやる事は、式典の前に入り込んだ鼠を駆除する事と、ブォルフレ君とガレア用に仕立てたエルカミス家の家紋とシスム様の聖印をあしらった身分証的な物を着けさせるだけだ。


 さ、最初に掃除を手早く終わらせよう。


 昨日酷使したクロノクルスも整備を完了しているし、サイレンサーも拵え、早朝の暗闘には相性抜群である。


 ――――――――――――――――――――――――


 近衛騎士や対魔物、治安維持組織である防備隊の本拠地が置かれる帝都の中でも最も治安が悪く、薄暗い二番街。


 アウトローな連中が寄って一大勢力を築き上げており、帝国は長年手を焼いている。というか、割と放置している。


 その反社会的、というか反身分社会勢力の温床でもある二番街は内戦や紛争、情報奪取を狙う工作員やスパイの隠れ蓑でもあった。


 聖者任命式が目前に迫る朝、音無く忍び寄る暗殺者が不届き者を始末せんと近寄っていた。


「なぁ、あの小僧の式典、邪魔しに行かねぇ?」


「馬鹿言うな、一瞬で細切れにされるわ」


 悪巧みなど炉端の石の様に転がる二番街。常日頃に蹴飛ばされる石ころも、今日ばかりは事情が違う様だ。


 悪人面の男二人を余所に、路地裏では暗闘が終局を見せつつあった。


 パスパスパスと気の抜ける銃声が連続して三つ。後を汚すのはベチャッという血痕が生じた音色。パキゴキという骨が鳴らす音でもあるだろう。


 ヒトの争いには相応しい不協和音が静かに鳴り響く。その内に醜い命乞いなど、手下人には至高の音色だ。


「グァ……ハァ……ハァ……振りきれないか」


「僕の庭にも等しい場所で、僕から逃げるのは不可能に近い。サッサと罪を清算しなさい」


 先刻右腹に三発の銃弾を喰らった男は小国連合の工作員であった。


 その任務は帝位争い真っ盛りの皇族に協力するか、可能な限り掻き乱すこと。


 銃を携えた白髪緑眼の少年が血潮に消した幾多の屍も、同じ様な使命を背負っていた。


 いずれも、祖国にとっては末端でしかないという事実が尚も男を深く憤怒させていた。故に一転攻勢に出ようとする。


「クソッ!!タダで死んでたまるか……」


 発した音が終わる前に、鉛玉が男の顔面を粉砕した。言葉など、宣言など、丁度良い隙である。


「おっと、遺言くらいは言わせれば良かった」


 情報引き出せたかも、とヒトの生き死になど石ころと、反省は呟かれた。


 少年は物と化したヒト型に魔術式に取り込み、事後処理を行った。術式操作に集中していたからだろうか、背後に迫った影に気付かなかった。


「随分と手荒だな。龍の血など、聞いて呆れる」


 黒い肌に銀髪が光る。対照的な色合いが、引き立たせるのは兇悪さを感じさせる風貌である。


「おやまあ、魔人族(デモニック)が一体何を?人の仕事を盗み見るのは関心しませんよ」


 飽くまでも兇悪さ、本質はそうでは無い。彼ら魔人族(デモニック)にとってはその容姿は平凡であり、常に挑発する様な口調は普遍なものだ。


 それ故に、過去人類種として扱われなかった事もあり、現在リベリオン魔皇国と親交のある国は少ない。


「貴様の式典に出席する大使を狙う輩が居ないか探しているだけだ」


 何事でもないように、目的を告げる魔人族(デモニック)の男。事実そうなのだろう。男の動作には嘘吐き特有の戸惑いは無く、只々漂う気配が邪魔をしていた。


「その様な人物を今し方を掃除していたのですよ、この二番街にはあと三人ほど居ますかね」


 要ります?貴方も手柄は欲しいでしょう?


 仕事の分割を狙ったのか、甘い囁きを零す。烏が道行くヒトの食べ物を狙い、屋上で構えている。


「遠慮しておこう。貴様に借りなど作るものではない」


 男は血に濡れた部隊装備をしきりに気にする少年を一瞥し、迷いなく断った。


 その後、振り替える事無く路地裏の暗闇に消えていった。狙いを外した烏は何処か、飛び去っていた。 


「…話に乗せられませんでしたか、流石に百を超えれば疲れるのですがねえ」


 少年は痕跡を完全に消した事を確認した後、同様に消えていった。


 こうして、不意を突かれた者たちは早朝に消えたのだった。


 ――――――――――――――――――――――――


 足元を抄うような浮遊感と、空間を圧縮したことによる暗転が体を駆ける。転移術式特有の感覚であり、最近扱えるようになった僕には慣れないものだ。


 態々大神殿への帰路に転移を選んだのは外に出ていたのがバレるわけにはいかないのが一つ、予想外に返り血で汚れたので二つだ。


 一瞬の浮遊のあと、足が付く。安全性確保のための術式を組み込んだが、思惑は達成されたらしい。


 血濡れ、漆黒ではなく赤黒く染まった部隊装束を壁に付けぬように床を擦り歩く。予想外に進んでいる時計の針が見え、柄にもなくため息が出てしまう。


「ハァ………衰えたね、高が百人超だというのに。一時間半も経ってる」


 最後の最後まで抗われることが多かった。窮鼠に噛まれることは無かったが、血に(まみ)れるのは好きではない。


「さて…身支度をして、式典の準備に入りますか」


 他の聖者や大司教から遅れる事は無いように、と散々釘を刺されている。豪勢な服装は趣味じゃないが、袖を通すのは一年で数回程。我慢すればよい事だろう。


「物魔完全反射……完全遮断結界……宵の加護……梟の羽根……そして加護、大盤振る舞いですね。ラジア様から止められてるんじゃんかったか」


 解析に燦然と輝くシスムの加護。最近怒られたばかりだった気がするのだが、あのお方に反省の文字は無いようである。


 呆れつつ、ボォルフレ君の神鎧同様にモチーフに梟が採用されている神官服に袖を通す。神鎧と違う点があるとすれば、背に翼を意味する装飾が無い代わりに翼を出せるようになっている点だろう。


 人類種の限界故に神鎧ほどの性能は無いが、公式な場での防衛装置はこの服さえあれば十分だろう。何せ、結界としての媒体適性が目を丸くする程には高い。


 作っているのは生産と大地の女神アノア様の聖者だそうで、歴代ですべての聖者用の神官服を担当しているらしい。神官服の効果の中でも、結界に対する触媒適性は標準装備らしい。


 その故は聖者が基本的には何かしらの封印を担う事にあるのだろう。僕の場合は使うとして呪いの封印だろうが。


 そんな事を考えて居れば、ガチャリとドアが開く。開式には二時間程早く、この時間帯に訪れる人物に心当たりは幾つかしかないが、見当は付いていた。


「おはようございます、主。」


 靡く長髪はブロンドメッシュと黒が飾るすっかり女流剣士となったガレアである。といっても、見かける(さま)は基本的に戦闘用にリメイクした全身鎧だが。


「ブォルフレ君はどうだった?生前はそこその腕だったらしいけど」


 たまに見に行けば毎回吹っ飛んでいる彼だが、腕前はいかほどなのか、聞いてみるとしよう。


「元Aランク冒険者だっただけはありますが、経年の錆と勘の衰えが目立ちますね。装備に振り回されているのもあるのでしょうが」


 生前はスピードを重視した槍使いだったブォルフレ君だが、これからはパワーを使った盾となる使い方をする必要がある。リビングアーマーの様な個体になった故にステータスは真っ白なので、変更できないという事は無いだろう。


「修正可能範囲かな、次辺りに死地に送り込んで無理矢理強制するのもありか」


「では、『大地の記憶(ガイアメモリ―)』のモンスターハウスにでも放り込んでおきましょう」


「それイイネ、採用」


 次のダンジョン攻略の予定を決めつつ、散らかったままの机からブローチを取り出す。下弦の月をかたどったブローチには、月の明部には聖印が、暗部にはエルカミス家の家紋が刻まれている。


 サーラがつけている物と同じく魔紋章化させてある。だが、アレとは打って変わって僕が付けることになる聖者の証――ロザリオと連携することに重点が置かれている。


 就任式でかけられるであろうロザリオだが、大司教などが着けている物とは異なり地上に存在できる聖者の数だけ神々から人類種に授けられたものだ。加えて言えば、それぞれの聖者が担う役割事に細部まで嗜好が凝らされているので、殆ど一点物と同義なのだ。


 まぁ、そんな事はおいていて、着けてあげなければ。一応権限が伴う装飾品なので授与の形を取らなければならない。


「ガレア、こっち向いて?」


「何でしょうか?」


 何故呼ばれたのか、疑問に傾げられた頭がちょどよく着け易い。女物の装飾品は着ける機会は無いので、少々手間取ったが、無事に着けることが出来た。


「これは……ありがとうございます!主!!」


 騎士は何を授けられるのって至高の喜びなんだっけ。失念していたような、狙って作ったような、全く作成時の事を覚えていない。


 さぁ、寝坊助のボォルフレを叩き起こして、会場に向かわないとね。 

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