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二十五話

その後、未だ農作業に勤しんでいたラジア様を見かけたので、神気封印パーツの作成に一役買って貰った。

 

 具体的には僕が持っている鉄素材を全て上位錬成に使い、出来たとんでもなく魔力適性と硬度が高い黒峰老王亀の黒鉄甲に神気、特に法の要素を強く持つ神気を込めて貰って神鉄(アマンダイト)を作成していた。

 

 目には目を歯には歯を、神気には神気を。対となっている闇属性と光属性を司る神の気である事で封印の原動力として有力だからと、理詰めで交渉した。

 

「大き過ぎる力は人類種に影響を与え過ぎる、でしたね」

 

 これが決め手となって、二十分に及ぶ口上戦が僕の勝利で終わった。危険を制する為に更なる火種となる可能性を否定出来ない所が弱味だったが、相手が世界の平和を天秤にかける神だった事もあって、リスクとリターンをするだけで良かった。

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 楔と鎖が混じりあった封印パーツを魔力にものを言わせて予想を遥かに超える物を作り出し、『結局の所、コレは仮称怨霊くんの手におえるのだろうか?』という本末転倒の悩みが頭をよぎったが、気にしない。

 

 さて、待たせ過ぎたが、身体と得物は完成した。所々問題はあるが、大体は仮称怨霊くんの精神力に影響を受けて直せるものばかりだ。

 

 本人に任せっきりだが、武道とは身体の操作を通じて精神を熟し、戦いに置いての攻防を優勢にさせるもの。

 

 ルール無用、人類種全体の利益の防衛を第一とする冒険者組合の会員である冒険者達の一員であった彼には少々険しい道程だ。そこまで心配していない理由としては、槍も使えるガレアが指南を受け持ってくれたから。

 

 うん、教えるのは上手なんだ。だけど、練習方法が騎士団の育成法だから出来なれば出来ない程、練習時間と量が倍増するんだよね……

 

 彼の腕前に期待するとしよう。

 

 ガレアの前だったら、大概が下手に分類されてしまうけど、あのエサで釣ればやる気を出してくれる筈。

 

 殺る気かもしれないが難点かな。気付いたらとある地方の聖法騎士団副長の首が転がってるかも。

 

 狩る時は自力で殺ってもらう予定だ。

 

 エルカミス家が動くまでの罪状が無いことが一つ、神鎧という世界最大級の武具を使わずとも戦闘行動をとれるのか判別するのが二つだ。

 

 さて、長い事待たせたのを長引かせるのは良心が痛むのでサッサと準備をしなくては。


 二回目となる魔術式を丁寧に、誤る事が無いように書き連ねる。で、今回は魔術式わ崩さない様に円に接する円を作ってその中に錬成術式を追加する。


「輪廻と静寂の女神シスムが聖者 イーミール・アレク・エルカミスが行使する 全ての魂に夜は訪れる されど全てに朝は訪れず 哀れなる魂に救済あれ 悲しき魂に救恤あれ 度重なる猛により己を見失うことなかれ 信賞必罰を、因果応報の理を示せ 死は終わりにして始まり 破壊の先の創造 世界は廻る 邪気無き哀れな魂を救わん 〈権能行使:輪廻転生乃理:創造の再誕 (セカイハマ)破壊の終焉 (ワリヒトハ)人は廻る(ウマレル)〉」

 

 今回の錬成術式は魂に素材の力を受け継がせる事に使うのだが、些か難しいので私は失敗せず、完璧に作業を終えることができる工程を全ての術式(完全オート版)に書いてある。

 

 魂なんて、本来人の手に負える領域に無いからね。技術が存在する時点で人類種は何度も不毛な失敗を繰り返した訳だが。

 

 因みに加える素材は大天使()の羽根を有るだけ詰め込んである。早めに全ての在庫を消費したいので、神気にも適性が有るので追加してみた。

 

 特段何かを狙っている訳では無い。強いて言うなら『天使化しないかなー』とか『神気の適性あがらないかなー』とかである。

 

 使役術式から呼び出した仮称怨霊くん、種族で言えばウィスプが機械人形(オートマタ)に吸い込まれる過程で周囲に浮かばせた羽根を取り込んで過ぎ去って行った。

 

 相も変わらず事前準備の割には呆気なく終わる。

 

 閑話だが、仮称怨霊くんの混乱を避ける為に意識は落とした状態でこの作業を行っている。

 

 錯乱してスキルや武技(アーツ)を放たれたらたまったもんじゃない。神殿長の叱咤なんて受けたくない。

 

 憖発言力と名声が高いものだから、言動の広がるスピードが速い。注意だとか、遺憾の意とかの抑えの言葉は聖職者特有のバフがあるし。

 

 聖職者イコールで良識者という式は必ずしも成り立たないんだけどなぁ。

 

 帝都の神殿長はかなりの陳者(ひねもの)で、馭者の如く働き詰めだけど。

 

 老練だからこその人脈の多さと説法の経験に裏打ちされた貴族さえ圧倒する話術。

 

 イスタール帝国の中心であり、人や者、全てが集まると言っても過言ではない帝都の聖職者を一挙に纏める者だからこそこのスキルと言える。

 

 そんな訳で聖者任命の時に名誉司祭で済んで喜んでいたのだ。

 

 一定額献金をしていれば神殿系統の施設は使えるし、ついでに名声が着いてくる。

 

 叩き上げの聖職者達からは嫌われるのが難点だけど。

 

 さて、仮称怨霊くんが起きるまで機体のチェックをしなければ。いきなり暴走とかされたら困る。

 

 えっと、この首元の赤コードが動力エンジン出力測定コードだから…

 ――――――――――――――――――――――――

 

 諸々あって、用意していたチェック項目をオールクリアした機体を暴走時用に十字架型拘束具に縛り付けて放置中。白銀にも似た梟の鎧が力無く磔にされている。

 

 処刑場かな?その時だったか、そのヘルムが僅かに日が差す窓から目を逸らしたのは。

 

「眩しい………」

 

 おっと、起きた様だ。測定データ的には寝惚けてるけど。ククク、現在の状況を正しく認識したらどんな反応をするのやら。

 

「お目覚めの様だね。意識は安定してる、と」

 

「……ハッ?!ちょ、あんた契約したなら術者を害せないって分かるだろうが!外せェ!」

 

 ん、気づいたのは拘束状態だけど、説明面倒だな。念話で情報叩き付けても良いけど、また気絶されたら更に困る。

 

「まぁ、ちょっと待つんだ仮称怨霊くん。君の今の身体は少々繊細でね」

 

「ファ?!!俺の身体蘇ってんじゃねーか!つーか俺の名前はブォルフエだ!」

 

 蘇ってないから、骨を元にして怪我の要因取り除いてパージョンアップして再構成しただけだから。

 

 まぁ、今はその認識でいいか。本人にとっては同じようなものだし。

 

「とりあえず、頭痛とか身体を動かすのに違和感はあるかい?」

 

 あったら神経系の代わりをする信号通信ケーブルをチューニングしなきゃならんのだけど。

 

「そういったモンはねぇが、第一に動けねぇからわからねぇよ!」

 

「おっとそうだった……」

 

 外すのダルいな、これぐらいの拘束はスペック上壊すのはたやすい筈だから、拘束術式への魔力供給をカットして……

 

「その拘束具もう要らないから、破壊しちゃって良いよ」

 

「何だって?パワーよりスピード型の槍使いだった俺に出来るわけねぇだろ」

 

「まぁまぁ、やってみるんだ」

 

 此処で予定スペック発揮できないとなると今後の予定が狂う。

 

「んなに言うんだったら、やってやるが……フン!」

 

 メキメキ パキィーン

 

 割と大きな音を立てて十字架と仮称怨霊くん……じゃなかったブォルフエくんを繋いでいた鎖か弾けた。

 

 うん、振動遮断結界貼っておいて良かった。

 

「おぉ、スゲェ!コイツが守護騎士の力ってヤツか!」

 

「違うのだけど…」

 

 予想以上にアホの子だったな。どうにかして早期に守護術式を覚えさせないと。

 

「其れは身体の力、初めは新しい身体に慣れるために制御の練習からだよ」

 

「わあったよ。で、その練習相手は?」


「ガレアっていう僕の配下の中で接近戦が一番上手な子。それにしても……」

 

「それにって何だ?」

 

 生前の行動記録を読み漁る限り、行動が意外すぎる。言葉使いは一切変わってないけど。

 

「ずいぶんと大人しく僕に従うね?生きていた頃なら文句が垂れ流しだったらしいけど」

 

 依頼主に文句を垂れる事は通常運転で、機嫌が悪ければ報酬金の上乗せを迫る。そんなグレーゾーンの常連客だった様だが、実力は申し分なく、依頼を受ければ内容は百二十パーセントを叩き出す。

 

 冒険者組合としても、機嫌を損ねて暴れられても困るので上機嫌な時に面倒な依頼を回す事で相殺としていたらしい。

 

「あん時は若かったんだよ。運良くお貴族様の目に止まって平民としては上手くいってた」

「俺にビビって、アンラァに接触してくるヤツなんて居ないと思ってた」

 

 フルフェイスで顔をは見えないが、悔いている事が手に取る様にわかった。

 

 その目線は逸らしたはずの太陽と青空に向かっていて、早咲きの火属性を持つ向日葵を眺めていた。

 

「ジャ、そのアンラァちゃんの為にも頑張ってね?ちゃんと働いて功績を出したら犯人の神殿騎士の情報を上げよう

 

 餌を仕掛けるのは狩人の常識。待つだけで獲物が手にはいるのだから、事前準備は欠かせない。

 

「マジかよ!こうなったらボス級の魔物狙って手柄をたててやらぁ!」

 

 やる気が出たなら良し。存分にガレアから技術を盗んで欲しい。

 ――――――――――――――――――――――――

 

 その後、ガレアと引き合わせて護衛の役割の割り振りを親しくり、神殿長とシスム教の大主教と僕の三人で明明後日に行われる聖者任命の式典の打ち合わせをした。

 

 他にもガレアへのプレゼントであふ料理用の刃物の構造研究など、やる事は目白押しで、気付けば朝日に包まれながら机の上に突っ伏して寝ていた。

 

 病気が有った時は、体力の消耗を防ぐ為に僕に回される公務は少なくしていたし、使う機会が無くなって体力が落ちているのかもしれない。

 

 正直身体が重く、作業を進めようにも上手くいかないだろう。

 

 こんな時は経験則から遊ぶか休む事にしている。

 

 幼少期に使っていた帝都の出店や行きつけのお店にも最近は出向けて居ない。

 

 ここは一つ、帝都の抜き打ち治安調査と題して休日と行こう。

 

 配下の皆は………休みでもダンジョンに行くだろうから気にしない。アルテミス殿下も、今日は寝ている予定だし。

 

 何時から戦闘狂ばかりになっていたのだろうか?ガレアがストイックだなーとか思っている合間に手の届かない状態になってしまった。

 

 さて、出かける場所は決まっている。一応、貴族だと分かる程度の変装に平民風のデザインのローブやズボンに着替える。

 

 勿論、エルカミス家特製の変装衣装なので、余程の事が無い限り装備の隠密効果を破る事は出来やしない。

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 やって来たのは帝都東区五番通り。

 

 一番城壁に近く、宿屋などが建ち並ぶ十番通りと比較すれば人通りは寂しいと言う言葉が似合い、通りに面する店もどこかクラシックで静寂な趣だ。

 

 僕の目的はこの通りの奥、閑静を通り越して無音に等しい喫茶店。

 

 訪れる理由として、別にエルカミス家の隠れ家という訳でもないし、単にお気に入りなだけだ。

 

 古風で、重くシンプルに鳩のデザインが施されたベル付きのドアを開く。カランカランと舌が金属を叩き、乾いた、それでいて心地よい音を言う。

 

「おや?貴族の坊やじゃないかい。いらっしゃい」

 

 貴族の坊や。坊やと言うべき当時でも神童の二つ名が先行し、そういった扱いは受けなかった。

 

「エルゼール爺、当分来ていませんでしたから、もう少年と言うべき歳です」

 

 けれど、この喫茶店のマスターであるエルゼール爺は僕の事を坊やと呼んだ。頼んだ訳でもない。

 

「ホホホ、ワシにとっては十も二十も誤差の範囲。ワシが生きている間は坊やじゃよ」

 

 彼は僕の生来の使命と義務、伴う責任を全て知ってなお、同じだった。

 

 その些細な不変の呼び名が、心に渦めいていたもどかしさを埋めてくれた。

 

「いつも通り、ウバで良いかの?」

 

 埃一つ無く、丁寧に彩られた花々が飾る内装も、通い詰めた当時と変わらず、懐かしさが込み上げる。この想いを形にする為も、エルゼール爺への答えは一つだ。

 

「僕がウバ以外を頼んだ事が有りましたか?エルゼール爺」

 

「ホホ、そうであったな。では、追加でタルトケーキと茶葉じゃの」

 

 陽気に、軽快に小さく笑い、エルゼール爺は慣れた手つきで白磁のティーポットにお湯を注ぐ。

 ホワホワと天井に揺れながら上る湯気がいつかの、忌まわしき呪いを受ける事を知った困惑と解決の糸を探しに走り回った知識が頭を染めたを事を覚えている。あの日は曇天だっただろうか。

 

「エルゼール爺。僕の居ないフィーネはどうだった?」

 

 気付けば、声が漏れていた。

 

 待ち時間に、カウンターに座って窓から間延び陽光を追い、空に登った太陽とを見るルーチンワークと同じ様に。

 

「ワシは本人から聴くべきだと思うがの」

 

 嗄れて歳の老成を表す声が空気を震わす。龍人族(ドラゴンニュート)の尋常ならざるの聴覚は減衰など無かった事のようにそれを拾った。

 

 最もだ。長年待たせていたのだから、会話の種にするのが一番だろう。

 

 しかし、出来ない理由が、忌まわしき呪いがそれを阻んでいる。

 

 何時も何時も手を引っ張って届く空を掴めなくする。だから……

 

「ごめん。自分でも分かってるんだ。それでも……」

 

 堰を切ったように、弱音が零れる。流れ出る雨粒を止める為に、手を握り締める。

 

 言いかけた言葉をカチッというティーポットの蓋が小さく止める。丁度、ウバの葉がティーポットの中で舞っているのだろう。

 

 加えて、冷蔵機能付きの棚を開く音と、サラサラという音が聞こえる。

 

 カタン

 

「ほれ、フルーツタルトと茶葉、ついでに坊やが望むもんじゃ」

 

「僕が望むもの?」

 

 今、僕が願うのは一つ。只、それは調べる限りの全ての文献に書かれていない。それは、そんな状況なんて起きた事が無いから。

 

 全ての書物は異口同音に結末を語った。幾ら本を漁ろうとも、手を出していなかった技術を学ぼうとも、空を、光を掠ることさえ無かった。

 

「読んでから悩めとゆうものよ。坊や、老人の手心を無為に帰すきかの?」

 

 言われるままに、震える手で受け取ったメモ書きには僕の目を食い入らせるだけの事が書いてあった。

 

「エルゼール爺。コレ、どこで!?」

 

「坊やが聞きたいのは皇女殿下の事だったかの」

 

 エルゼール爺は聞く耳を持たぬかのように、話を進めた。

 

 僕の居ない帝都で起こった事、それを通したフィーネの行動、フィーネがどの様に成長して行ったのか。気付けば、紅茶は冷めていた。けど、紅茶はとても濃厚な覚悟の味で、苦くもあった。

 

 エルゼール爺は『後は、自分で決めろ』とカウンターに向けた背中で言った。そんな、気がした。

 

 メモについては、僕が聞き出せたのは最後に店を去る時のみ。


「一流は初めから全て用意しておくもんじゃ」

 

 この一言のみだった。

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