十九話
頑張りましたが、2021年1月1日零時には間に合いませんでした。
朝日が完全に空に上がった頃。遅めの朝食を食べます。因みに他の人達と食べるタイミングは同じです。
神職に就く人達は基本的に朝食前に儀式なり、禊なりがあるので食べるのは遅いのだそうです。其れらの準備も、大勢の聖職者が寝泊まりする大神殿では時間がかかる。必然的に、遅くなってしまうそうです。
私?シスム様の儀式の大半は夜か、暗日と暗月が出ている時しか無いので、朝は暇なのです。
朝食の内容は黒パン、根菜のサラダ、豆とトウモロコシのポタージュと質素な感じに整っています。
不思議と貧乏さは感じないのですよね。なので、メニューに文句は無いのですが、翼を出している時の私を見たら崇めるのをやめてほしい。
一々崇められて食堂に辿り着くのにも時間がかかったので、現在は翼を仕舞っています。
それに、あくまで私は聖者であって貴方々の神では無いですし。
…翼を仕舞って二時間余り、幻術で隠した方が効率的だと気付きました。態々能力が形取らない様に干渉する方が面倒です。
〈ミラージュ〉ぐらいの魔術であれば、神殿長も許してくれるでしょう。流石に〈幻怪〉とか精神に暗示をかける魔術は自重しますが。
それにしても、仮称怨霊くんの素体どうしましょうかね。レイスでは物質層には干渉が難しいので、現在の状態を保持する案は無しなのですが。
ゾンビが一番良いですが、肉が有りませんね。魔物肉を浄化しても、仮称怨霊くんと相性悪いですし。同系列に僵尸が有りますが、同じく肉体が無いので却下です。
スケルトンは骨が朽ちかけな事から戦闘の負荷に骨が耐えられる耐久性を持っていないので、補強が必要ですね。
ん〜……リビングアーマーが妥当な所ですかね。闇精霊であるデュラハンと契約させれば尚のこと良いでしょうし。
ですが、デュラハンも結構個体差有りますからね。光属性の仮称怨霊くんと契約してくれるかどうか……
いっその事、仮称怨霊くんをデュラハンにするか、私の闇属性魔力を注ぎ込みましょう。
相反する属性を持つ事で、魔力質と魔力性質が良くなる筈です。一つ、問題があるとすれば、その分体外における魔力や気功の制御が難しくなる点ですが。
ただ、今闇属性金属を持ち合わせいないので、手に入れるなり、作るなりしなければ。
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現在は統治学の授業中だ。私はアルテミス殿下に着いてきただけなので、一番後ろで黒板を眺めるだけなのだけど。
「この様に、今より三代前のアンドール帝の指示により、多数の帝国史上屈指の武人達の遺体の損失はテシルアの悲劇と言われる」
この講師の出自が武闘派貴族の分家だからでしょうか、戦争関係となると急に解説が詳しくなるですよね。
そして、帝宮での政務だけを仕事とする行政貴族の権力が拡大する時節だと、悪態が増える。
良く講師の評判が帝国全体に広まり易いこの学院で講師を続けられますね。大概、行政貴族の圧力で講師を辞める人が多いのですが。
「この武人の中には、帝国史最強の剣の使い手ザムリス・ガレア・ジークスも含まれる。この様な事例は世界各地であり―――」
ガレアのファンなのですかね?この人。急に声を張り上げましたし。
まぁ、三百年前の小国連合との戦争を長々と語って居ますが。最終的には、遺体の経歴が良ければ本人や、達人が憑くって訳では無いので、死霊魔術を戦争で使う場合は注意をしよう、という話です。
それに、遺体を使って勝利する事は外聞的に良く無いよ。そんな警戒で締められた授業ですが、別にしっかりと準備を行って、日時を選定して儀式規模で行使すれば生前同様の肉体を復元できるのですがね。
……皇帝陛下に送った嘆願書の内容、いつ届くのでしょう?あれらさえ届けば、一気に公国攻略の手筈が整うのですが。
遺体が祀られている程の人物がいたと思えませんから、冥界と繋ぐ触媒の方に難題を頼んだ所為ですかね。
神器や聖遺物の様に、各神殿に徹底的に管理されている訳でもないですが、単に取りに行くのが面倒な品なのです。
特異級術具、その名は天淵通りの鍵。名は体を表す、この言葉に沿う様に、効果は神や天使が住まう神界、そして冥界をここ現世と繋ぐ物です。他にも転移術式に対する高い適性を持ちます。
これが【天満星の試練】というダンジョンの攻略報酬なのですが、このダンジョンがとっても長いのです。六日間かけても、中盤まで行けるかどうか、という程。
だから忌々しい呪いを今の様に封印して攻略しても、途中、又はダンジョンの終盤で術式が解けてしまい能力不足のまま撤退する事になるのです。
出来るだけ、早くして欲しい物です。
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次の授業は魔法学。アルテミス殿下が目指す魔法剣士に就くために、新たに選択した科目だそうです。
魔法剣士が基本的に使うマジックなら、精霊との契約が必ず必要という訳では無いので、選択したのは魔法学だけだそうです。
マジックは極めようとすると、魔力学や科学、工学などマジックの発現に関わる原理の知識。魔法学や魔術学、魔導学、精霊学など、応用、発展の知識。この二つ必要となる為一つに絞ったのは英断と言えるでしょう。
実際、マジックを使うだけなら術式効果さえ覚えていれば、相性が必要ですが可能ですし。
費用対効果が優れたマジックを使いたい、となると話は別ですがね。その辺りはアルテミス殿下が凄まじい魔力変換効率を持っていますが。
今回の授業は自分の魔力を感じる、という物です。文面では簡単に見えますが、実はそこそこ難しい行為です。
マジックの術式には魔力の操作を補佐する部分が組み込まれているのですが、殆どの人はその部分に頼って魔力を操作しているので、自力で魔力操作を満足に出来る人は少ないのです。
例えば私やシンリア、帝宮魔導師達、Bランク以上の冒険者達が当てはまります。補助術式が必要なくなった分、術式に個性が出やすくなるのもこの辺りからですね。私は補助術式を完全に崩して、威力を上げたり、規模を拡大しさせたりしています。
「好きな体勢でいいから魔力を感じるとってくれ。感じとれたらその魔力を体の外に出して球状にするんだ」
これ、絶対後の部分達成させる気ありませんね。学院に通い始めて一ヶ月程しか経っていない生徒に出来る訳ないじゃないですか。
まぁ、実技の授業なんてどの科目でも同じ様な物ですが。
アルテミス殿下は……瞑想の体勢ですね。集中出来れば良いので、理想の答えです。他の生徒の中では、面白い人で左手を必死に抑えています。明らかに演技ですね。………この世界にもいたんですね、厨二病。
目が精神的に痛いので、アルテミス殿下の様子を見るとしましょう。
ここで解説なのですが、私が魔力を観察している時に使うのは、目という魔力臓器の機能ではありません。簡潔に言うと、魔眼なのです。謂わゆる魔眼と言われる物は半分は先天性、もう半分は後天性です。
その中でも、殆どの人物に一時開眼が可能で、魔力を見る事ができる魔眼を『魔観の魔眼』と言います。
『魔観の魔眼』は開眼者の力量次第で能力が少し異なりますが、基本的には魔力を可視化、その濃さや質、深さ、属性を色彩で判別できる魔眼です。
この魔眼を発展させていくと、『鑑定の魔眼』や『解析の魔眼』などの相手の情報を知る事ができる魔眼が開眼可能になります。
それはさておき、アルテミス殿下に話を戻しましょう。
どうやら自分の魔力を感じとる事ができた様ですが、体内で動かす事に苦戦している様です。
魔力を操作、制御する事は、気功を操る事とは勝手が異なります。その点から、完全近接職から転向する際に魔力操作は転向の第一関門と言えます。
気功に慣れているからこその問題に引っかかっている様ですね。フォローは……講師がそっとOKサインくれたので良いですかね。
未だにしまっていた三対の翼を広げます。抜けた毛は、そっとアイテムボックスに回収します。
拾われでもすれば、面倒ごとへの片道切符になりかねません。光属性限定ですが、魔力量も多いので有効活用しましょう。魔力を転じれば、闇属性にもなりますし。
神殿の裏庭に広がった毛は、儀式によって魔力を吸い尽くしたので、問題はないです。
地面に散らばったままだと、流石に失礼なので回収しましたが。
色々やった後に、翼をアルテミス殿下を覆う様に動かします。
そして、周囲の魔力に干渉します。具体的には、魔力その物の純度を増させます。魔力は純度が高い程操作がしやすくなるので、サポートにはなるでしょう。
「………コツを教えてくれ」
「魔力は気功と違い、現象に転換する際に明確なイメージが必要です」
少し迷ったようですが、コツを聞きにきましたね。一から気づかせる事も大切では有りますが、知識すら教えない様では成長は微々たる物ですから。
イメージが明確に必要な理由は、現象の器が必要だからだ。イメージは反復練習でどうにか出来る部分もあるのだが、年の功というのな凄まじい物で熟練の魔法使いや魔術士、魔導士や精霊使いの累積された経験には敵わない。
「気功は体外に出された場合、拳や剣、槍、ハンマーなど武器を通す事で形を持ちます。しかし、魔力は術式を通さない場合、現象という形を成しません」
気功は武器という形が持つ害意、敵意をイメージとして現象として、ここ物質層に現れます。
対して、魔力は術者の現象への考え方、記憶などをイメージとして、物質層に干渉します。
ですが、人間の記憶、イメージは思いの外曖昧な物です。
例えば、火は酸素の助燃性によって成り立っていると説明されても、そうなんだ!とは思いますが実物を覚えなければ三日と経たずに忘れられるでしょう。
その為、態々術式に補助術式、引いては現象形成術式が基本として存在するのです。
……マリルが出した光学レーザー術式は少々特殊な方法でその二つの術式を省略していますが。
「今回は只球状にするだけですから、先ずは魔力を体内で操作しましょう。コツは血の流れをイメージする事です」
「やってみる」
それだけ言って、瞑想に戻った様ですね。真面目に取り組まなければ、魔力を動かす事すらできないので頑張って欲しいです。
周囲の純化魔力はどうしましょうかね。残り時間的に準備した意味がなくなってしまいましたし。集めておきましょうか、霊薬に使えますし。
魔力を動かし、圧縮して物資化を促します。魔石ではなく、液体として。出来た一滴を小瓶に回収して、蓋に結界術式を書きます。魔力を遮断しないと、取り出したら無くなっていた、なんて事があり得ますからね。
……アルテミス殿下の魔力を私が動かしても良いのですが、他人に自分の魔力を動かされるのは猛烈な不快感、又は快感を与えますからやめておきましょう。
アルテミス殿下にこの場で喘がれたり、吐かれたりした私が近衛騎士に斬りかかられる事になりますから。ついでに帝国暗部の人物か六人ほど。
負ける気はサラサラ有りませんが、皇帝陛下への答弁は面倒なので。
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魔法学の教室から、寮への帰り道。何気のない廊下が続き、夕日が窓から差し込んでいます。
「結局、魔力をほんの少し動かしただけで終わってしまったな」
「マジックを使い始めて二ヶ月弱なら十分かと」
帝国暗部の護衛が私の知覚範囲にちょこちょこ入ってくるのが気になりますね。視界にハエが舞い込む様な感覚が。
「十全に出来るお前に言われてもな」
「私は初めて魔力を感じるのに三ヶ月はかかりましたから、成長度では敵いませんよ」
ん〜。一匹か二匹、鼠がいますね。確か、この先には精霊学の教室があった筈ですね。今は阿保皇子はいない筈ですね、皇帝陛下から謹慎を命じられたので。
「アルテミス殿下は先に少し掃除をしてから帰ります」
「分かった。いくつか意見を聞きたい書類があるから、早めに帰ってきてくれ」
動揺していないので、アルテミス殿下も少し勘づいていた様ですね。一先ず、アルテミス殿下と女性近衛騎士達を先に帰らせます。
翼は……出すまでも無いですかね。この程度で、私を殺せる訳がない。
キンッッ
鼠の短刀の鯉口がそんな音を立て、その次の瞬間には私の頸に短刀が突き立てられます。
「主人が呼んでいる、ついてきてもらおう」
「その主人はテデル子爵でしょう?」
その問いには鼠は答える事なく、振り下ろされた短刀が答えになりました。
………爪が甘いですね。そんな遅い攻撃では当たりませんよ。
即座に振り返り、短刀を持つ右の手首を捻り上げます。次に左手の殴打を袖から出したナイフで切り裂きます。
その後、足払いで体勢を崩し、取り上げた短刀を首に投擲して終了です。
「隊を指揮する総隊長が、一隊員よりも弱いなんてある訳ないではないですか。……ってもう聞けないのでしたね」
おかしいですね、弱過ぎる。テデル子爵家に警告文を送った隊員曰くは少しは強いらしいのですが。
囮だったとしたら、それこそ有り得ませんね。私を足止めするならば、私は確実に倒されない人物を送ります。
テデル子爵が白痴だったという噂は聞きませんし、行動を予測するには情報が足りませんね。
この時期になって、外国にパイプを作ろうとする貴族が多い。他にも各派閥から僅かに離反する貴族家も出ています。
阿保皇子が裏で操っているとしたら、能ある鷹だったという事になるけど。手を出した事業が悉く失敗するぐらいには無能ですから、他に黒幕がいると予想して『鴉』を動かしましょう。
新年のご挨拶
読者の皆様、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。LIOを書き始めたのは八月中旬だったと思うのですが、時間が経つのは早いもので、既に新年を迎えてしまいました。いやー、四ヶ月経って作中一ヶ月ほどしか進んでないので、完結するのいつになるのでしょうかね。今年の目標は必ず一章を終わらせる事です。出来れば、ランキングに乗ってみたいなー、読者様増えないかなーとか考えながら。今年も書いていきたいです。
by 炉六 ノノクル
ちょっと修正報告。
翼がいきなり六対まで回復してるのは少しおかしいので、三対まで減らします。




