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番外編 龍皇女の追憶 後編

 あの日、八月十五日の帝都周辺の晴れ模様は凄まじい物で、ラジア様とタリス様が生まれた時に生じたとされる太陽の光が阻まれる事なく、大地に降り注いでいた。


 帝都南部にある皇族が管理する庭園でちょっとしたピクニックを予定していた私とアレクは、天気の良さを朝食で喜んで話していた。


 今の私にとっては雲一つ無い空は吉兆ではなく、あの日を思い出させる苦々しい物でしかないが。


 その後、私はドレスをメイド達と一緒に選びに選び抜き、グラスグリーンの多少フリルが付いているドレスとなった。私は動き易いバトルドレスを主張したのだか、メイド達の反対意見の多さから、決めた物だ。


 この時、バトルドレスを着て、帯剣していたら、結果は変わったのだろうか?いや、変わるまい、成長が早いとはいえ、八歳児。アレクと比べれば幼い頃は戦闘の才覚が無かった私が居たところで、同じようにお荷物になるだけだろう。あの戦いは、一瞬の逃走劇でも今の私でも敵いそうになかったのだから。


 ――――――――――――――――――――


「む、座りずらい。やはりバトルドレスの方が良かったのではないか?」


 ドレスの布の多さからくる座りづらさに不満を漏らせば、メイドから即座に答えが返ってくる。


「いいえ、殿下。庭園内では襲われる心配は無いですし、護衛には第一騎士団から中隊が着いています。それに、綺麗な方がいいでしょう?折角イーミール様と会うのですから」


「ええい!うるさい!わ、分かっておるわ!」


 彼女達は、こうして私が不満を吐く度にほぼ婚約者の、第一候補であるアレクを引き合いに出し、私を叱る。愛あっての言葉だと分かっているのだか、揶揄われているように感じるのは気のせいだろうか?


 肯定を表す為に首を振ったからか、チェリーピンクのルビーがついたカスミソウのイヤリングと同じくチェリーピンクのペンダントが視界に入る。ペンダントには龍が象られていて、正式な場でも私が使える様に工夫がされている。


 その、些細な気遣いを再確認して思わず口周りが綻ぶ。イスタール帝国は龍を神聖視し、王権龍受を始まりとする国。皇族の人間である私は正式な場では、龍を表す物を身につけなければならない。アレクはその決まりを知っていたからか、私が人目を気にせず使える物をくれる事が多い。他の候補者達と違って。


「また、ニヤけていますよ、殿下。イーミール様の前ではないようにしてぐださいね」


「ニヤけてなどいないわ!」


「またまた、そんな嘘を仰るのですか?」


 私はニヤけてなどいない、いないのだ!


 ……一人の時はその限りではないが。

 ――――――――――――――――――――

 庭園の入り口に馬車が横付けされると、一足先に帝都を出ていたアレクが手の甲を上にして手を差し出してきたので、迷わず手を取って馬車を降りる。


「ご苦労、アレク」


「褒められる程の事じゃないですよ、ティーナ」


「感謝を忘れると下が見えなくなる。アレクが教えてくれた事ではないか。理解したのならば、実践しなければな」


「そこまで立派な物ではありませんよ。大切な心構えではありますがね。さ、中に入りましょう」


 アレクに手を引かれるがままに、庭園の門をくぐる。花々の香が鼻腔をくすぐり、その顔が私達を出迎える。


「かなり多くの品種がありますね。(うち)にも庭園はありますが、ここまで多くはありません」


「これでも統治者の家系だからな。権威を示す為にあらゆる面を持って、他を圧倒せねばならん」


 権威とは、面倒で誇らしい物だ。他者を統べる要因であり、皇族が常に持たねばならぬ物。華美も、必ず必要でない武力も、深い知識も、全ては帝国を円滑に治める為。皇族には敵わない、と思わせる為。一部では無駄を、一部ではストイックに、どちらも必要であるから、面倒だ。


「それにしても、一目見ただけで品種が多いとよく分かったな?」


 実際、私にも庭師の解説を聞かなければ詳しく名前は分からない。


「魔術の行使に使うんです。例えば御守り、匂い袋、押し花、栞などでしょうか。花にもそれぞれ違った効果や魔力を持ちますから」


 花言葉のような物です、と言うアレク。私は私専属教師(メイド達)に一通り習っているが、覚えているかは別問題だ。今まで見た十種類で覚えている花は三種類でした(まる)


「ティーナ、幾つか資料として持ち帰りたい物があるんですが………」


 少し思案した顔で聞いてくるアレク。彼の収集癖は凄まじい物があるので、貴重な花のみ貰おうという考えだろう。断る理由もないし、相当な金額がかかった花は温室で栽培中だと第一皇妃様が仰っていたので庭師に指示を出しておく。


「よかろう。後で、やった花を使った成果を見せてくれよ」


「それはもちろんです!」


 整った顔立ちが見せる笑顔………卑怯な。

 ――――――――――――――――――――

 昼食を食べ終えた時、庭師がアレクが指定した花を丁度持って来た。アレクは嬉しそうに花を抱えている。それだけでも―簡単な事とはいえ―こちらも嬉しくなる。ふと一瞬、膨大な魔力を感じてアレクに目を向ければ、術式を行使しているのが分かる。


「何の魔術だ?アレク」


「【永刻干渉遮断】という魔導術式です。単純に長く保存する術式ですよ」


「お前が魔導術式を使うとは珍しいな―」


 呟いた瞬間、現れる金の燐光を纏う灰色の術式。一泊の間を置いて現れる灰色髪の冒険者。よく見れば、装備は所々切り裂かれたり、抉られている。


「アレク、皇女殿下!逃げて!」


 庭園の外で護衛についていた彼女。Sランクという、この世界の頂点に近い彼女が逃走を指示する相手とは何か?そんな興味を即座に断ち切り、出口に走り出そうとしたその時。既に私は暗く邪気を纏う、十字架の紋章が付いている戦士鎧を身に着けた人物の腕に抱えられていた。もう片方の手には庭師の首が持たれている。


「皇女殿下は渡さないし、お前の相手は私だよ!」


「そう怒るな、今代――」


 戦士の男の足元に魔術式陣を確認した時点で、私はガゼボのテーブルに花束を置いて現状を俯瞰していたアレクの隣にいた。


「さて、いつバレたのかな」


 アレクの小さな呟きを耳が聞き取ったが、意味が分からない。


「君が神童と呼ばれ始めた頃からだよぉ、神敵のお仲間くぅぅん!」


「先の戦士は先鋒といったところですかね?」


「ガーレリアはよくやってくれたよ。怪盗王を引きはがしてくれたから」


「やはり陽動でしたか。相も変わらずゴミですね」


 その叫ぶ声は、噴水の神像に寄りかかった同じく暗く邪気を纏う、十字架の司祭服の青年から発せられていた。顔には黒やらの刺繍がなされている。可笑しい、何故侵入されている?外には第一騎士団が中隊規模とはいえ居るというのに。


「僕がここにいる事に不思議に思っている様だねえぇ、皇女殿下ぁ。答え合わせをしてあげるよぉ、今頃魔物にでも食われているんじゃなぁい?それか、同士討ちだねぇ」


「言霊を吐くのはやめて欲しいね、忌々しい邪神教徒」


「たぁぁしかに小細工はしたがぁ………本当の事だろう?」


 そこまでの言葉は酒に酔ったような、狂った声だったが、最後の言葉は疾風を伴って私を壁に打ち付けた。その衝撃で気絶したのか、次の記憶は怪物が命を代償にかけた(のろ)いから私を庇う光景だった。

 ――――――――――――――――――――

 作者からの注意書き

 読者の皆様、読書を中断させてしまい、大変申し訳ございません。此処からは皇女殿下の追憶ではなく、過去のイーミール君の物となります。ここで切ろうとも思ったのですが、いくら何でもそこまで長くもない戦闘に一話分を使うのか?と考えたため、接続させました。

 タイトル詐欺になりますが、ここから先もお楽しみくださいませ。

――――――――――――――――――――


 ティーナが壁に叩きつけられるのを見送り、衝撃からあばら骨を骨折しているだろうから【時間遡行】を少しの間かける。時間にしては一秒ぐらい。


「放置して良かったのかな?神敵のお仲間くん。君は貴族だろう?」


「僕にとって目撃者がいなければ問題ありませんよ。それに…」


 気兼ねなく戦闘できるし……


「荷物は要らない……だろう?」


()()()()()()()()()()()()()()。ですよ?」


 相手が邪神教徒(ゴミ)なら十分だけど、覚醒条件には成らないからね。


「ほう?君は…なるほどぉ。君、神敵本人かぁ!!」


「そうだけど、何か都合が悪いかな?それはさておき」


 目を閉じ、己の内側の古き能力を呼び覚ます。何処からともなく鳴り響く鐘の音、一時とは言え使徒が復活する事に喜ぶ音。


【覚醒せよ 我が七天 我が右方 我が大聖天 邪に墜ちし子に死の祝福を】


「救血が到達点 破壊と創造の特異点【救血乃大聖天(ラファエル)】」


 金と共に鳴り響く(詠唱)は私の声ではない、鐘に包まれた世界の声。目を開けば水面に黄金の眼が写り、長い髪は端まで金に染まっている。背中には現在三対の翼が生えている。本来なら六対なのだが、完全覚醒ではない以上仕方ない事だね。さてさて、この程度の塵、家の武器庫からちょろまかした鉄剣一本で片づけよう。


「ふひ、ふひひひひ。僕が、創理十四創者五席たる僕が、直接手を下してあげるよぉ」


「へぇ、あの〝()〟神如きの使徒が私に適うとでも?」


「ふふふふ、肉片すら残さず消し飛ばしてあげよぉ!!」


 煽り易いのが邪神教徒()のいいところですよね。この時代の鉄剣だと、三回振れて限界かな?逆に私の【救血至聖天(ラファエル)】に耐えられる鉄剣が有ると思ってなかったけど。


翼で空を蹴り、塵の邪法である凶々しい槍の雨を避ける。この程度なら、弾くまでもない。しかし、良く見るとこの槍は死肉を使い作られたゴーレムらしく、追ってくる。速度の差で全然追いつけてないけど。


槍のお返しをしようかな。塵の真上を飛び、こちらを向いた塵を追ってきた槍に突き刺させる。顔が苦痛で歪まない、これだから邪神教徒(ゴミ)は。


とりあえず、槍で動きが止まっている内に鉄剣を大上段で振り下ろす。鉄剣が通った場所に添って塵の体から両断される。当然の帰結だね。もちろん距離を取って返り血は避けた。私はゴミの血なんて触れたくもないからね。


「ぐ、なぁ。ならば奥の手だ。我が神よ、矮小なる信者に、御身の力をぉ」


そこまで言った時点で、塵に刺さっていた槍が暴走して肥大化した。そして恐らくは騎士団が戦闘中の所から死肉が沢山飛んできて塵にぶつかった。結果的に塵は大きな死肉団子に変貌した。


 因みにさっき塵が言ってた戯言は邪神(仇敵)に体を捧げるというものだったりする。一回鉄剣を振っただけで邪神(仇敵)に取り込まれてくれたので、私的には効率的だ。大体捧げる前に死んでしまうからね。


 これで奴の一部とは言え滅ぼせる。さっさと終わらせて帰るとしよう。そろそろリンナちゃんが戦士に止めを刺す頃だろうからね。


「呪閃流 (まじな)いの型 三が技流【白銀の浄華】」


 再び空を飛び、すれ違い様に5回斬る。これをセットを五回行う。この時の斬撃は大して意味を持たないが、納刀すれば話は別だ。納刀したとこで、鉄剣は耐えきれず砂の様に崩れてしまった。まぁ、技使って二振り目だから仕方ないかな。


 その後ろでは邪神教徒(ゴミ)のなれ果てが白刃によって花ように切り刻まれているけど。


『グァァァァ、負ケルマモノカ!セメテモ、セメテモ皇女ノ命ヲ奪ッテクレヨウゾォ!』


 肉塊がその身を自ら│のろい徐々に身体が、それに取り込まれていく。面倒な(のろ)いだ。邪神(仇敵)の欠片がその存在を全て使用して使う(のろ)い。


 切りたいが剣がないし、呼び出す時間も無い。じゃあ、私ごと封印しようかな。飛び翼を仕舞って、ティーナの前に立ちはだかる。知っていた結末だけど、やっぱりこれが最善だったね。封印されている大魔天の能力が使えたら、変えられたのかな?(のろ)いの封印中、私は意識と能力、魔力、生命力を(のろ)いの拮抗に当てた結果。記憶の大半は虫食いの状態に、魔力は露程も残っていない状態になるだろう。










 そして恐らく、事前に書いた手紙――()がこの状況を未来を予知能力で知っていた為――はティーナを深い後悔の渦に突き落とすだろう。花束に添えて置いてあるのだから、尚のこと強く。


 だけどね、()に悔いは無いし、不安もない。一つ挙げるとすれば、ティーナの健康だろうか?


【■■の融■】まであと九年。覚醒(めざめ)には早いという事もあるが。初めて会ったあの時からの四年間は()にとって瞬きに等しい時間だった。だが、これほど美しい、楽しいと感じたティーナとの思い出を悲しいラストにしなくて済んだのだから。


()が祈った所で受け取る相手はいないと変わらないけれど。願わくば、次の目覚めが良き物でありますように。

花束の内容は桔梗や藤空木を中心に恋愛関係の夏の花です。そして、その花は今現在も第二皇女殿下の寮室に満開のまま飾られており、手紙も【永刻干渉遮断】により完璧な状態で保たれています。そして、イーミール君は花と手紙の事を覚えているのでしょうかね?


そして作者は思った。使徒が多すぎる。十四創者も元々使徒予定だったのでね。なので■■■の■使徒を■■■の■天に変えてきます。

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