「74話」
食い始めたのが1時ぐらい、食べ終わったのが3時前ぐらい。
色々後片付けを終えて、家に戻ったのが3時半ってところ。
「微妙な時間になってしまった……これ絶対夜中にお腹空くやつだ」
かなりがっつり食べたので、夕方でもまだお腹がいっぱいだろう。
だが、夜にはお腹が減るのは間違いない。
……お腹すいたらカップラーメンでも食べるかな。
確か在庫はいくつかあったはずだ。
とりあえず夜の心配はしなくてよさそうだ。
クロのお腹も落ち着いているし、今のうちに明日の予定を決めておこうか。
お腹一杯でソファーに寝転がっているが、まだ寝てはなさそう。
「クロ、明日の予定だけど、俺とクロで分担して、4人ずつチーム分けてやろうと思うんだけど、良いかな?」
俺の言葉にクロはにゃあと鳴いて尻尾をぱたんぱたんと振る。
とりあえずはOKっぽい。
「何とか明後日にはチュートリアル突破したいねー」
そう言ってクロの喉を撫でると、ごろごろと気持ちよさそうな音がする。
強く、賢くなってもクロはクロだなあ……1チーム任せて大丈夫かなあ? たぶん大丈夫だとは思うんだけどねー……ま、まあなるようになる!
「と、言うわけで今日は2チームに分けて行こうと思います」
と、翌朝集まった皆の前でチームを分ける事を話すが、驚いた感じの人はいない……あれ?昨日話したっけ?
「チーム分けどうします? クジでも引きますか?」
まあ、いいや。
んでチーム分けをどうするかだけど、やっぱ戦力は均等にした方がいいよな。
そうなると俺には無理だ。各員の能力なんて把握できていないしね、クジは冗談です。
んで、どうなったかと言うと。
俺チーム
・都丸さん(いかつい)
・田尻さん(目つき悪い)
・田浦さん(やばい)
・太田さん(いかつい)
クロチーム
・大野さん
・吉田さん
・山崎さん
・北上さん
結局都丸さんが隊員を割り振って、こんな感じのチーム分けになったよ。
俺チームなんかむさ苦しいな。
「それじゃー行きましょうか。ゴブリンのところまでは走っていきますよ、ポーション飲むのお忘れなく」
まあ、さくっとやって行こう。
まずはゴブリンの出る階層まで走り、その後は集合時間を決めて二手に分かれる。
ちょっぴりクロチームの面々が不安そうな顔をしている様に見えるが、まあクロなら問題なくやるだろう。
それよりもこっちに集中しないと。
昨日の内にどういった感じに進めるかなーと案は考えてきたけれど、それで上手く行くかはやってみないと分からない。
「まず4体から始めます。無傷で行けるようなったら数を徐々に増やしていきます」
4体ならまずは行けるだろう。
それを確認したら次に5体に増やす。1対2になる人が出て、恐らくは怪我をするだろう。
だが防御に専念していれば傷は最低限で済むはずだし、援護も待っていれば来る。ポーションも飲むしね。
戦闘時間は1~2分だろうか? これでひたすら数をこなして行き、怪我人が出なければ5体、6体と数を増やして行くのだ。
目標は1時間に20部屋。
それを途中休憩を挟みながら昼まで続ける。一人当たり100体は狩る事になるのかな?
これならたぶん明日中にチュートリアル突破に必要な条件は満たせると思う。
「それじゃ行きましょうか。 2体は俺がやりますね」
小部屋に居るゴブリンの数は大体が4匹より多い。
なので適正な数になるまで俺が減らす。
減らした後は隊員が突っ込んで戦闘を開始する。
そして戦闘が終わればナイフを回収して次の部屋に向かう。この時ポーションの効果が切れているようであれば追加で飲む。
ただそれだけだと隊員にまかせっきりになってしまう。
わざわざ俺が着いていく意味があまりない……ので。
「モンスターって結構な重症負っても動き止めなかったりするんで、出来れば……こう、首を刎ねるか、頭を潰すか……それが無理なら出来るだけ頭を揺らす感じが良いかもですね、転ばせることが出来ればさらに良し、です」
どうせ数を減らす為に俺が倒すのならと、どんな風に動くとゴブリンを倒しやすいか等、実際に動きを見せる事にした。
もちろん目で見える様に思いっきり手加減はしているよ。
特に盾を使ったぶちかましや、体重を乗せた蹴りは相手との体格差もあって結構有効だったりする。
こいつら回避もしないからね、うまい具合にHITすればこれでまず1体を無効化……は無理でも、一時的に動けなくする事が出来る。
その間に追撃をしかけても良いし、ほかの人が戦っているゴブリンに攻撃を仕掛けても良い。
「盾ごとぶちかますのは良いな! やりやすい!」
「シールドバッシュってやつですねー」
実際にやって見た隊員の反応も良い。
特に脳筋っぽい太田さんは、ほぼ毎回ゴブリンを転がす事に成功している。
他の隊員さんより力ありそうだしなー……あー、でも変に癖がつくと不味い? 今後こっちよりガタイのいい奴や、パワーが上の相手も出てくるし。
……その時にまた教えればいいか。
てか明らかに力負けしそうな相手に同じ戦法はとらんでしょ。たぶん。
4体は問題なし。
なので5体、6体と徐々に相手を増やしていく。
……やはり2体同時に相手にしているとそれなりの頻度で攻撃を受けてるな。
防御に徹しても、逆にしょっぱなにぶちかましても、どちらのパターンでも攻撃を食らっている。
んー。
「2体同時に相手する必要はないので、一体を出来るだけ早く無力化するか、いっその事距離を取っちゃうのもありですね。周りへの注意は必要ですけど。 あとしょっぱなの不意打ちって結構有効ですよ。浅い階層だけですけど」
不意打ち有効だよーと言っておこう。
あと逃げながら攻撃するのも有効です。
俺もよくやってたしね、足が遅い相手なら十分使えるのだ。 4足相手だときついけど、2足ならいけるいける。
「浅い階層だけ?」
「ええ、今は部屋に入るまでこっちに気が付かないですけど、その内待ち構えてくるようになります」
「それはまた厄介ですな」
マジ厄介。
そのうち顔出した瞬間に矢が飛んでくっからね!
事前に言っておいた方が良いだろうけど、規制されとらんよな?
まー、その辺は後で話しておけば良いか。
規制されてたら規制されてたで、話せる範囲で話せば良いしね。
狩り始めて1時間ぐらい経ったかな。
こっちは割と順調だけど、クロの方は一体どうなってるのだろうか……困ってなければ良いけれど。
島津と別れたクロは、チームメンバーを引き連れ手近な小部屋へと向かう。
小部屋の前でポーションを飲みなおす隊員達であるが、どうしたものかと顔を見合わせる。ここにはクロの言葉が分かる島津がいないのだ。
クロがこちらの言葉を理解していると言うことは彼らも承知しているが、クロの言葉を彼らが分かる訳ではない……少しの沈黙の後、意を決した様に隊員……大野がクロに声をかける。
「えーっと、小部屋についたけど、どうしたらいいっすかね……?」
その言葉を聞いたクロは彼らの方を振り返り、ゆっくり近づいていく。
そして彼らの背後に回るとにゃーと鳴き、前足でぐいぐいと彼らを押していく。
困惑しながらも前に進む隊員達。
だが、クロが後ろを押したのは二人のみであった。
「え、あ、え?」
「……俺たち二人でやれと?」
「まじすか!?」
吉田の眼鏡が怪しく光る。
彼はクロの行動が何を意味するか理解したようだ。
クロは小部屋の中にいるゴブリンを二人だけで相手させるつもりらしい。
吉田の言葉に尻尾を振って応えるクロ。
その直後クロは小部屋へと飛び込み、数体のゴブリンを輪切りにして再び部屋の外へと出てくる。
数を調整したようだ。
さすがにいきなり一人で3~4体のゴブリンを相手させるつもりは無いらしい。
小部屋に残されたゴブリンの数は4体。一人で2体相手する計算となる。
「……昨日戦った感じだと、無傷は無理だとしても倒せるはずだ。覚悟決めるぞ」
「お、おう……っす」
そう言うと二人は武器と盾を構え、小部屋へと入っていく。
クロがじっと見守る中、彼らは襲い掛かるゴブリンを相手に必死になって戦った。
手傷を負いながらも武器を振るい、ゴブリンにダメージを蓄積していく。
彼らが受けた傷は事前に飲んだポーションで癒えるが、ゴブリンはそうでは無い。
地面に転がったゴブリンの首につま先がめり込む。
それが止めとなったようだ……時間にして2分程だろうか、4体のゴブリンは全てこと切れていた。
ポーションの効果が切れ、肩で息をする二人に向かい、クロはうにゃうにゃと何か話しかけるように鳴く。
そしてナイフを手早く回収すると、バックパックに詰め込み部屋を出ていく。
「……よくやったって事、か?」
「みたいっすねえ」
クロの鳴き声から何となく機嫌が良さそうだ、とは二人にも分かったらしい。
そして戦闘が終わった後に話しかけてきたと言うことは、恐らく褒めるなりしてくれたのだろうと言うことも何となく分かったようだ。
猫に褒められる。
滅多に無いであろうその出来事に、二人は嬉しいような、複雑そうな何とも言えない表情を浮かべてクロの後をついて行く。
次の小部屋にはすぐに辿り着いた。
「次は私たちー……あ、じゃないんだ」
「が、頑張ってください!」
北上が今度は自分たちの番かと小部屋に近づくが、クロがそれを前足で止める。
そして再び大野と吉田を前足で押すクロ。
どうやらクロはまず二人を徹底して鍛え上げるつもりらしい。




