386話
中村「え?」
「あれ? ……ああ、恥ずかしいから隠して欲しいらしいよ!」
「ええ……」
どういうことだってばよ。
「とりあえず口にすれば使えるから大丈夫。何をいっているか自分も他人も認識できないけど、口には出来るからね」
「そすか……」
つか、アマツさんの言葉からしてこの【□□権現】の□□にあたる何かが存在しているってことだよなあ。
権現って確か仏教用語だった気がする……仏様とか何かが現れるとかそんなの。
ってことは、このスキルを使うと仏様……はさすがに無いだろうから、なんとか明王とか、何とか門天とか出てきちゃう? まじ?
使い勝手次第では土蜘蛛並みに連発することになるだろうけど、そんな頻繁に使っちゃってええもんなのかこれ。
「……使って大丈夫なスキルですよね。なんかもうやばい予感がしまくってるん―――」
「勿論だとも!!」
「―――ですが……はい」
食い気味できた。
とりあえず使ってみるかー……問題はどっちが使うかだけど。
ちらっとクロに視線を向けてみるが、なんか鼻からぴすぴす聞こえるし、微動だにしないし、みっちりつまってるから尻尾を振ってるかすら分かりゃしない。
たぶんもう昼寝にはいっているな。
と、思ったら小さくうにゃんと鳴いたので、ぎり起きてはいたらしい。
「ん、じゃあ俺が使ってみるね」
「使うのは防具ならどこでも大丈夫だよ!!」
「ういっす」
クロは宝石全部使うから、スキルはそっちで使えとのこと。
やばそうな物を従えるお猫様! とか見てみたかったけどしゃーない。
てかまだどんな効果か分らんしな。
権現ってスキル名からして何か出てくるのかなーって思ったけど、違う可能性もある。
とりあえず防具ってことは直に攻撃するようなスキルではないのかなー。
ま、使えば分かるんですけど。
「構成する物質を原子レベルに分解再構築、新たに作り替える……」
例によって脳内に自然と使い方が流れ込んできた。
□□権現という言葉をキーに、装備やら肉体やらが分解再構築される……らしい。
構築後の姿はもう決まっていて、自分で好き勝手にはいじれないそうな。
「つまり、変!身!が出来るようになると?」
竜化から龍化のそこからさらに□□権現!多聞天島津!とか言って第三形態が出てきちゃうと。
敵に回すとくっそめんどい奴。
てかやべえな。人前だと恥ずかしくて出来そうにないぞ。
とりあえずクロと中村で練習するかあ?
「その認識でも良いけど、全身やるのはあまりお勧めしないかな!」
「ふぅむ……? じゃあ、とりあえず腕に使います」
理由は分らんが、アマツさんがお勧めしないのであればやらないでおこう。
俺目線で割とひどい目にあう場合でも別に止めない人だし、それがやんわり止めるってことはー……ろくなことにはならんだろう。
つーかそもそもそんなスキルを実装せんでくれって話だが……まあとりあえず使ってみんべ。
「そんじゃいっくよー……□□権現!」
何度か息をすって吐いて、覚悟を決めてスキルを使う。
ついでにせっかくなので右手と左手それぞれに輪をつくってみる……確か、きさまを極楽浄土に送ってやるとかそんな意味だった気がしなくもない。
……いや、だいぶ違う気がするな? そもそんな意味の印相ねーべって話だ。
誰から聞いたんだっけなあ。中村かな。
たぶん中村だ。
「う、お!?」
俺が無駄に考えを巡らせている間にもスキルはきっちり発動し、その効果を表していた。
俺の腕が……装備だけかと思ったら俺の腕ごと塵のように細かく砕けていく。
やがてそれは肩まで広がり、すべてが砕けたあとには空中を漂う塵と、腕があった個所に真っ黒な何かがあるだけであった。そういや装備と肉体が対象だったなあ。
……え、ってこれで終わり?
この真っ黒いの……太さ的に元の俺の腕っぽいな。
腕以外の装備はそのまんまなので、妙に細く感じてバランスが悪い。
どうすんべかなー……と思った瞬間。
漂っていた塵が黒い部分に向かい集まり始める。
黒い腕っぽい何かが徐々に肉付き、太くたくましくなっていく。
塵がすべて無くなったころには、やたらと筋肉質で真っ黒な腕がそこにあった。
「おお……龍っぽさ減りましたね」
人の腕かといわれると違うが、鱗だったり甲殻部分はほぼ無くなっていると言って良いだろう。
代わりにヒラヒラとした布が肩から垂れている……ん? とれんぞこれ。
「似合ってるよ!! すごく良いね!」
「え、あ、ありがとうございます」
いつにも増してコスプレっぽい格好になっているのは自覚していたが、似合っていると言われると悪い気はしない。でもやっぱはずいな!
照れ臭さをごまかすためと言うわけではないが、なんとなくそわそわした気持ちを落ち着けようとベッドに腰掛けた時であった。
「はあ!?」
俺が腰かけた部分から、ベッドが見事に真っ二つに折れたのである。
「ちょ、何事ぉ!?」
慌てて身を起そうとして、テーブルに手を掛けた瞬間……今度はテーブルがメキョリと嫌な音をたててへし折れる。
「ど、どうなって……まさか」
ベッドには普通に腰かけただけだ。
テーブルにも別に力を込めたとかそんな事はしていない。
となると思い当たるのは……俺は後ろを振り返り、折れたベッドのまだ無事だった部分にそっと腕を乗せてみた。
すると力を入れていないにも関わらず、ベッドはミシミシと音を立てて壊れていく。
「……さてはこの腕くっそ重いなあ!!?」
トン単位であるんじゃねえのこれ……。




