「371話」
( っ゜、。)っ
本当ダヨ。
「しょうがねえなあ。中村はクロと見学でもしといてよ」
「なんで俺が悪い風になってるんです??」
すでに眠そうになっているクロをほいっと中村に手渡す。
一瞬、クロは上を見上げて猫パンチをくりだそうとするが、眠気が勝ったらしくすっと手を引っ込めた。
よかったね。
「……鎧だけじゃなくて、中に着るのも揃ってんのな」
私服の上から甲冑を装着! なんてことはないらしい。
直垂、袴と……なんだっけ脚絆? あと名前がよくわからんものが大量にある。
袴ぐらいは着た事あるけどさー……よくもまあこんだけ人数分揃えたよな。
「関心してないではよ着けろって。ほかの人はもう大体つけ終わってんぞ」
おっと、いかんいかん。
とりあえずつけ方分かるものからつけていって……わからんのはお義父さんにもで聞くとしよう。
「やっぱ動き制限されるな……」
結局自力だけでは無理で中村に手伝ってもらってどうにか一式装着することができた。
腕をぐいっとあげてみるが、普段の動きやすい恰好と違い抵抗がある。
慣れればどうにかなりそうではあるが……しっかし改めてみると甲冑ってかなりの重武装だよな。
急所は隠れているし、斬ってどうにかなる箇所はだいぶ限られる。
当然だけど甲冑部分を斬りつけても傷がついて終わるだけ。
じゃあどうやって倒すかだけど……鎧通まで用意されているってことはつまりはそういうことか。
刀を使うなら泥臭い戦いになりそうだなー。
ま、それを避けるために槍を用意したんだとは思うけど……槍とかまともに使えるのかさっぱりだ。
ほかの人が持っている槍を見るに突くだけじゃなくて斬ったりも出来そうではあるが、斬っても無駄っぽいからやっぱ突くしかないかあ……? 相手が甲冑つけてなきゃこんな悩まんでも良かったんだが。
「何無言になってんだよ。てか目が怖えっての!」
「わりぃ。鎧着てないと斬る場所悩まなくていいなって思ってさ」
「友人を見て出てきちゃいけない感想だと思うんだけどなあ??」
だって一人だけ私服なんだもん。
どうしても見比べちゃうよね。俺は悪くねえ!
「それよりどうよ? 似合う?」
「それより?? ……まあ、似合ってるんじゃね? 鍛えているから頼りない感じも無いし」
姿見とかないから自分じゃ分からんのよな。
袴だけなら痩身でも似合いはするだろうけど、甲冑も混みとなるとなるとね……鍛えておいてよかった。ま、なんにせよ似合っているならそれでよし!
「ほかの人も……なんか圧が、圧が強い!」
中村が視線を俺からほかの人達に向けた瞬間、集まっていた視線にびくりと身を震わせる。
着替え終わるの最後だったしなあ……そりゃ鎧武者の集団にじっと見られたいたら怖い。
「みんな目がギラギラしてて怖えんだよっ……」
そりゃ一人だけ私服だからねえ。
よかったな中村。もてもてだぞ!
「ほっ、似合っとるじゃないか」
「あ、お義父さん」
着替え終わったし、槍でも選ぶかなーと立ち上がったところで甲冑姿のお義父さんが現れた。
兜どこから面頬までつけてるから声を聴くまでだれか分からんかったのは秘密だ。
うっかり構えなくてせーふせーふ。
「ほれ、これを使うと良い……うむ。益荒男ぶりに磨きがかかっとるな」
「ありがとうございます!」
お義父さんから槍を受け取り礼を述べ、それからじっくり槍を眺める。
全長は3m超えて穂も結構長いな。
ずしりと手に重さがくる……切れ味もよさそうだし、思いっきり叩きつければ鎧の上からでも割といけるかも知れん。
……まあ、実際には無理だからぶっさすしかないんだろうけどさ。
そう思わせられるぐらいには凄みがある刀身をしている。
有名どころの槍の写しとかなんかね?
「うむ! さて、それでは行くとするか!」
「お義父さん張り切ってるなあ」
周りに人居ないからって、槍ぶん回してるし。
風切り音がやべえですわ。
てかお義父さんの槍もなんか凄そうだ。
一体どこから集めてきたんだろうかね?
「おめーも嬉しそうに槍ぶん回してんじゃないよ」
そう中村はあきれた様子で言うが、無理だよ振り回さないなんて。
いい感じの棒でも拾ったらつい振っちゃうじゃん? それが槍だよ? もう振るしかないじゃない。
「中村も……って逃げ足はええなおい」
きっと中村も槍をもてば振り回したくなるよ。
戦ってみたくなるよ。きっとそうに違いない。
そう思い期待の目を中村へと向けるが、中村はすで遠くへと移動してしまっていた。
てか普通に歩いている風に見えるのに妙に早いな?? どうやって歩いてんだ……まあいいか。
とりあえず合戦だおるぁー。
「……もう昼だぞ。あいつらやっぱおかしいって」
島津から逃げた中村であったが、クロを任されている以上会場から出るわけにもいかず、二階席で地獄のような特訓風景を眺めていた。
開始したのはまだ朝といえる時間帯であったが、すでに時計の針は12時を回っている。
その間、休憩は一切ない。
ただひたすらに特訓というなの殺し合いをしている島津をみて、慣れているはずの中村も少し顔が引きつっていた。
「え? ずっと見てたお前も大概だって? ……まあ、見ている分には面白いんだよ。迫力あるしさ。見ている分には」
おかしいと言いつつも、席を離れない中村にクロがあきれたように鳴く。別に何もずっと見ていなくても良いはずだと。
否定しようにも実際ずっと見ていたため否定はできず、中村は頬をかきながら言い訳するようにクロの問にこたえる。
「お? やっと終わったか」
クロの胡乱げな目から顔をそらしていると、その視線の先にちらほらと特訓に参加していたメンバーが映り始める。
助かったとばかりにクロを抱え上げ、中村はメンバーの中に島津の姿を探しに向かった。