「190話」
その後、落ち込む中村を置いといて残ったメンバーもガチャを回してみた。
「……うーん。地味に嬉しいけど、欲しいのはコレジャナイ」
あたったのはお肉と雑貨にダンジョン素材を使った……包丁あたった。これもRだったよ……まあ嬉しいと言えば嬉しいんだけど、他のが良かったなーと思わなくもない。
「一人一つは当たってるな、確率高いのか?」
「美味しいのは間違いないんで、良いんですけどね……かみさんが喜びそうだ」
「今日の夕飯はすき焼きかなー」
「しゃぶしゃぶと悩むな」
ちなみに松坂牛は全員1つは当たってた。
もしかすると一気に回すと一つは確定で当たるようになってるのかも?1kgって普通に買ったらとんでもないお値段なるよね。そう考えるとお得感がある。
「あたりは北上さんのバッグぐらい?」
「ふふーん。これちょっと狙ってたんだよねー。デザインも良いし、100リットルだけど、マジックバッグになってるし。何より普段使い出来るって凄いよねえ」
「その大きさで100リットルて凄いですね」
一応あたりもあった。
肩から下げる小さいポシェットみたいのだけど、デザインも可愛いし。なかなか良いんじゃないだろうか。
とりあえずこれ持っておけば大抵のお買い物はいけちゃいそう。
まあ、基本引きこもるから暫く使わなさそうではあるんだけどね。まあ、良いものです。
「さて、これで大体見て回ったか?」
「そっすね!」
細々としたの全部みた!って訳ではないけど、ほぼほぼ見て回ったんじゃないかな。
「それじゃ……行くか、限定ダンジョン」
「おー」
いよいよこのイベントの目玉である、限定ダンジョンへと向かう時がきた。
多少人数減ってるといいけどなー?どうかなー。
「人ちょっと減ったかな?」
「かも知れんな」
若干だけど人だかりが減った気がする。
午前中にがんがん参加しまくったとか?
ざっと見渡せば、並んでる人は減ってるけど見学してる人は変わってない感じだから、たぶんそうじゃないかなーと思う。
「ん?」
見渡した時に、視界になんか見たことあるの居るなーって思ったらアマツだった。
こんなとこで何してるんだろ?またパンフレットでも配って……はて、何かすごく真面目な顔……いや、真面目というか厳しい顔してるな?
どうしたのかなー?と声を掛けようと、足を進めた時だった。
アマツの口が小さく開き……そして、今まで聞いたことのない音が、鼓膜を襲う。
「……ぐっ!?」
なに……これ。
とんでもなく高音……何を言ってるかまでは聞き取れなかったけど、これたぶん会話を圧縮したとかそんなのか?
誰かと会話してた?……いや、周りには誰もいなかったはず。
……とりあえず、何かあったか聞いてみるか。そう思い、再び足を進めるが、ふと前を見るとアマツはこちらに気が付いて、やあって感じで手をあげる。
そのニコニコした顔からは先ほどの厳しい表情は伺えない……うーむ。
「やーやー!限定ダンジョンに参加しにきたのかい??ぜひともクリア目指して頑張ってね!!」
「鼓膜破れそう……」
「ハハハ!!」
いつになく声がでけえ。
鼓膜ビリビリいってますやん。
ほんとに引っ叩いて……人前だからやらんけどな!
まあ、それはさておき。
「……ところでアマツさん、何かトラブル?厳しい顔してたけど」
本題に入ろうか。
「ハハハ!!」
俺がそう問いかけると、アマツは再び大きく笑う……が、どこかその笑いには何時もの張りがない。
そして息を吐いて肩を落とし、少し愚痴るように何があったのかを語る。
「……まあ、ちょっとね。私の同僚にダンジョン造ったことがばれちゃってね……ま、大丈夫だよ。見せろってうるさかったけど、イベント終わってから来るように話しておいたから、しばらくは何もないよ」
うーん。
「……フラグ立ってそう」
「ハハハ!!!」
ぜってーフラグ立ってるよこれ。
イベント期間中何かあるやつでしょ。俺知ってるんだ。
巻き込まれないように注意だけはしておこう。
アマツが誰かと話してたら要注意だ。絶対近寄らないぞっ。
……笑いながらアマツはどこかに行ってしまった。ほんと大丈夫かいな……まあ、大丈夫と思っておこう。
さて、限定ダンジョンに行くか。
制限時間的にあまり遅くなると、終わった時には夕方になってしまう。
みんな帰って夕食を食べるだろうし、あまり遅くなっては悪い。
「全員で10人でしょうか?はい、ではこちらの部屋へどうぞ」
参加者の列に並んだ俺たちを出迎えたのは、見た目はマーシーに笑顔の仮面を張り付けたような奴だった。
こんなん子供泣くぞ。
次回はもう少し変えといた方が良いとアマツに言っておこう。
さて、案内されてはいった部屋だけど、そこは椅子がずらりと並んだ殺風景な部屋であった。
椅子の上には頭部を覆うように、無機質な物質で出来た輪が浮かんでいる。
天使の輪とかそんなんじゃなくて、いかにも未来の機械です!って感じの奴ね。
「なんかすごいSFっぽいのが……」
「これ被るのか?」
「座って頂ければ、自動で装着されます」
とりあえず言われるがままに椅子に腰かけると。輪が音もなくすっと下がってきて。
……一瞬で目の前の光景が切り替わる。こわっ。
周りを見るとほかの人も居る……うん、全員居るな。誰か欠けたとかそんな事はない。
さて、これからどう進めるのかなー……なんか看板あるね?
なんでここだけアナログなんだろ。
まあ、とにかく読むべ。
「各々それぞれの道を行き、最奥にあるゲートキーパーを撃破しよう!扉は一度入ると戻れないから気を付けてね!あ、不安だったら何人かで同じ扉に入るのもありだよ?それじゃ、健闘を祈ってるよ!……みんなのダンジョンマスター、アマツより」
「うーん……」
なんか気の抜ける文章だなあ。
アマツの声が脳内再生されちゃうよお……。
「それじゃ、各自道中のアイテムを確保しながらステージ2で合流しよう」
「ういっす」
とりあえず散会してささっと突破、で集合しようって事になり、俺は半ば駆け足で通路を進む。
「ちょこちょこ落ちてるなあ……」
道中のアイテムだけど、これが意外と数あるんだな。
お子様に配慮したのか、どれも見た目は美味しそうなお菓子で……いや、これ拾い食いってことになるからダメなんじゃ?
ま、まあ……そこは両親が言い聞かせるだろう。たぶん。
てかいくらなんでもそこまで小さいお子様は参加せんか。
うん、なら大丈夫大丈夫。
「ん?……んんん?」
さて、もう半分は進んだかなーってところで、なんか変なのを見つけた。
どうみても壁が変色してるのだ、ちょうど扉ぐらいの大きさに。
「この壁怪しい……隠し扉か?」
中にはお宝ざっくざくとかだったりしてなあ!
「どっせい」
と、言うわけで蹴り破りまーすっ。
おじゃましまー!
さってさて、中はなんだろなー……おおおっ!?
「お、おおおぉぉ……アイテムいっぱい!」
扉の向こうはちょっとした広間になっていて、床やらテーブルやらに所狭しとお菓子が転がっていた。
……せめて綺麗に並べておいて欲しいかなーなんて思わなくもない。見た目お菓子なんだしさ。
まあ、転がった原因の何割かは蹴り破った扉にあるので、あまり文句も言えなが…ま、回収しよ、回収と。
これだけあれば相当バフ掛けれるでしょ。
これならステージ3もさくっと行けるんじゃなかろうか?
いやー、うましうまし。
さって、一通り回収したし、先に進もうか。
と、後ろを振り返ったのだけど。
「いやー、気付いてよ……か、った」
全身に鳥肌が立つ。
気配も何も無かったはずなのに……。
振り返った先に居たのは天井から垂れ下がる巨大な蜘蛛。
しかもそいつは……頭部が人のそれだった。




