「15話」
防具を手に入れてから3日。
俺はでかウサギが10匹つまった小部屋にて戦闘を行っていた。
「っくはー……10匹部屋おわり……」
最後の1匹を倒し大きく息を吐く。
やっと10匹部屋を無傷で、しかも角で待ち構えずに攻略できた。
角で待ち構える様にしてからレベリングはかなり捗った。
だが、正直楽すぎる部分があって、自分の実力が付いていないのでは無いか?と言った不安があり、4階への扉に突入する前に確かめてみたのだ。
結果は問題なし。
あとは扉の奥へと突入するだけである。
俺はポーションを飲み干して、鉈を構えるとそっと扉を開け、中の様子を窺った。
「……犬かよ」
部屋の中央に2匹いるのは他の階層と変わらない。
ただウサギなどと違って可愛げが無いと言うか、どうも殺意に溢れてそうなのが鎮座している。
ドーベルマンぽいのが2匹とか勘弁してほしい。
しかもでかいしさ。
……ここでじっとしていたって意味は無い。覚悟決めて行くか。
俺は息を整え集中し、一気に部屋へと飛び込んだ。
「はやっ」
部屋に入ると同時に俺は角へと向けて走り出した。
だが、部屋にいた犬が俺の前に立ち塞がるように飛び出してきたのだ。
「こ、こいつらっ!?」
しかも飛び出してきたのは1匹だけで、もう1匹はどうしたかと言うと俺の後ろに回り込み、鉈を持つ手に噛みついてきたのだ。
犬は噛み付いたまま頭を激しく振り、俺から武器を奪おうとしている様だった。
「このっ、離せっ!」
そう叫んで左手で引き剥がそうとするが、それは出来なかった。
なぜなら俺の前に立ち塞がっていた奴が、今度は盾に噛み付いてきたからである。
「こ、のっ」
こいつら今までの敵と違う!
頭使って連携してきてる……やっかいだ。
力はそこまで強く無いから武器を奪われることは無いが、こう2方向から攻められるとやりにくいなんてもんじゃない。
「離せっ」
くそ、蹴りを入れても離さない!
体勢が悪くて蹴りに威力がないんだ……っ。
それでも蹴られたんだから離せばいいものを……こいつら武器や防具を奪うまで離すつもり無いな。
いいさ、それならそれでやりようはある。
最初は焦って気が動転していたけれど段々冷静になってきた。
「ぐっ……せいっ」
噛みついて離さないのならと、俺は気合いを入れて犬ごと壁に腕を思いっきり叩きつける。
ギャンッと言う悲鳴と共に右手に加わっていた力がふっと抜ける。
やっと離したかと思えば……犬はその一撃で床に沈んでいた。
まだ死んではいないがあの様子ではもう動けないだろう。
俺は残った1匹、盾に噛みついてるそいつに向けて鉈を向けた。
「こ、こえぇぇ……」
終わってみれば割と楽勝ではあった、ただ牙を剥き出しにして襲い掛かってくる来る獣と言うのはかなり恐ろしいものがあった。
「……でも無傷だったな結局」
噛まれた腕を見てみるが防具に歯形が残っているぐらいで血の跡はなく、無傷だった。
痛みもほぼ無かったし、こいつらは素早さと連携に特化していて攻撃力や耐久力自体は低いのだろう。
囲まれて防具の無いところ噛まれない限りは大丈夫だと思う……。
「……さて」
腕の様子を見ている間に階段が現れていたので、俺は期待と不安の混ざった眼差しでそっと階段の先を覗き込んだ。
「……今までと変わらないか」
扉の先にはまだダンジョンが続いていた。
ただその見た目は3階までと変わった様子は無い。
今まで出た宝箱の中身は全てポーションだ……俺としては進むほどに宝箱の中身が良くなっていくのでは? と考えていた。
敵が強くなるだけでそれ以外変化の無いダンジョンに、俺は段々と焦りを感じていた。
このままポーションしか出ないのではないか?と……。
「……戻ろう」
急に体がずしりと重くなる……ポーションの効果で治らない事から精神的なものなのかも知れない。
それか寝不足などによる体調不良はポーションでは治らないかだ。
……昨日、今日と中々寝付けず、やっと寝られたと思ったら夜中に何度も目が覚めてしまい……寝不足がたまっているのだ。
寝不足の原因は攻略への焦りとポーション以外の宝が手に入らないことへの不安。
それに敵とひたすら戦い続けた事によるトラウマ的な何かだろうか。
戦闘中の夢というか悪夢で目が覚める事が多いんだ。
「クロ、ただいまー」
俺が帰るとクロが出迎えてくれる。
この時だけは疲れとかそういうの全部どこかに行ってしまうのだけどね。
ダンジョンに潜り始めてしばらく経つけど、今まで俺が平気でいられたのはクロと一緒だったからと言うのが大きいと思う。
クロと一緒ならダンジョン潜るの楽しいと強く感じていた……今は楽しくはない、かな。 やる気は無茶苦茶あるけど。
一人で潜るようになって数日でこの有り様だ。
さて、楽しいクロとの夕飯タイムも終わったし、4階の攻略に入ろうか。
試したい事もあるし、まずは通路でレベルを上げてしまわないとだ。
「クロ、行ってくるね」
俺はクロの頭を撫でて立ち上がり、休憩所の外へと向かう。
クロは俺が出て行くの見送り、毛布へと向かうと横になる。
「……?」
毛布に横になろうとするクロの姿に何となく違和感を覚えた。
2階、3階へと進んでいく内に違和感は強くなっていく。
どことなくぎこちなかったあの動き。 ……レベルアップの恩恵でも誤魔化せないぐらい体が弱ってきているのではないか?
そう思い至った瞬間一気に血の気が引いた。
目眩がしてクラクラする。
「……時間が無い」
クロに残された時間は僅かなのかも知れない。
いや、そうだと考えて行動しなければ……さっき戦った感じであれば小部屋でも大丈夫なはずだ。 安全を取って通路でレベルを上げる予定だったけれどそれは無しにする。
俺はポーションを飲み、手近な小部屋を覗き込む。
中には4匹の犬がいた……ありがたいことに数の少ない部屋を引けたようだ。
俺は大きく息を吸って止めると、一気にかけ出した。
小部屋に入ると同時に直角に曲がり角を目指す。
すると俺に気が付いた犬が進路を塞ごうとする……が、それは予想済みだ。
「だと思ったよっ」
俺は盾を突き出し、そのまま犬へ体当たりをかました。
こいつらは素早さはすごいが力は無い、体当たりをかますと同時に盾に噛みつかれたが、俺はそれに構うこと無く前進する。
直後に後ろ足を噛まれるがそれすらも無視して進んだ。
こいつらの力じゃスピードに乗った俺を止めきる事は出来ない。
盾と壁で犬を押しつぶし、即後ろを振り返る。
予想通りすぐ後ろに残りの犬が迫っている、1匹は盾に、もう1匹は腕に噛み付いてきた……後ろ足に噛み付いた奴は俺が振り返った際に首を捻ったらしく、動かなくなっていた。
俺は腕に噛み付いた犬を壁に叩きつけ、鉈を盾に噛み付いている奴の首に叩きつけた。
やっぱりだ。
全身を防具で固めた俺はこいつらと相性がいい。
こっちはダメージ受けないが向こうは一撃で終わる……これならかなりの速度でレベリングできる事だろう。
「3日……いや、2日で突破する」
俺はそう決意し、次の小部屋へと向かい歩を進めた。
そして2日後の夕方、俺はその言葉を実現する。
「…………いけた」
時にはポーションを使い、半ば無理矢理なレベリングを終えた俺は、10匹部屋を角を使うことなく突破していた。
「……ん?」
次の相手を確認だけしておこうと扉へと向かった俺だが、ある事に気が付いた。
「えっ!? こ、これって……っ」
扉の形とか大きさ、それに装飾が今までのそれと異なっていたのだ。 明らかに今までと違う雰囲気に俺の胸は高鳴る。
一体何が居るのか……俺はそっと扉を開けると中を覗き込んだ。
「……まじかよ」
犬の次は何だろうか。 猪か?それとも熊か? と、俺は今までの敵からして次に来るのも何かの獣だろうと考えていた。
だが、違った。
「……ゴブリン」
室内に居たのは3体の人型の生き物。
ファンタジーで有名なモンスターの代表格である、ゴブリンだった。