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あなたの事が好きだから  作者: 綾瀬まひろ
10/10

終わり

 僕は慌てて、彼女を抱きとめる。リエは、ほうけたようにしばし、ボーと視線を泳がせて居たが、やがて焦点を合わせ、僕を見た。

「あれ……。私、なんでこんなとこに居るんだろ」

 彼女は、姿勢を戻すと、心配そうな僕を不思議そうに見つめた。

「ありがとうございます。あの……ところで、あなたはどちら様でしょうか?」


 事実は小説よりも奇なり、というが世の中には不思議なこともあるものだ。

 祖母が言うように、人形やぬいぐるみにも魂が宿るのならば、人に憑依ひょういして想いを伝えようとしても、奇天烈きてれつではないのだろうか?

 本当のところは、僕にも解らない。解らないけれど、一つだけ確信に満ちていることがある。

 それは、目の前にいる内島リエという女性のことが、好きなんだということ。


 彼女の問いに、僕は深呼吸したあと、微笑みながら言った。

「僕は——」



◆◇◆終わり


 ベランダを開けると、春を感じさせる心地よい風が、鼻先をくすぐった。長く続いた寒さも、すっかり身を潜め、庭の花壇からタンポポが、活き活きと首を伸ばしている。

 机に置かれた、携帯の着信が鳴った。画面を見ると、理恵からのメールが届いている。

 メールの内容を読んだ僕は、微かに笑みを浮かべた。

「わかった……。わかったよ」

 僕はそう呟くと、クローゼットにかかった、薄手の春コートを手に取った。部屋を出る時、ふと視線を感じ、僕は振り返る。本棚の天板に、写真たてと、犬のぬいぐるみが飾ってある。

「行ってきます」

 誰に語るでもなく、虚空に向かって、呟いた。家主が去った部屋の窓から、うららかな太陽の光が差し込み、ぬいぐるみの黒くつぶらな瞳を輝かせる。犬のぬいぐるみは、動かない。ただ、じっと彼の出て行ったドアを見つめている。



——蓮くん。行ってらっしゃい。あのね、ワタシ。

今、とっても幸せだよ。ずっと離れ離れだったけど、

これからは、あなたのそばに、居られるから。

もう二度と離さないで。ずっと一緒だよ。

だってワタシは、とっても、とっても——『あなたの事が好きだから』


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