4月11日(木)☽:再び遭うアイツ
【京一】
その日の夜。
日付が変わる少し前、ベッドに横になる。
昨日はとんでもない夢を見た。
再三思い返して自分に嫌気が差す。
今晩はいくらかマシな夢を見たいものだと思いつつ、そしてゆっくりと眠りに落ちていく。
………………
……
はっと意識が浮上して、目を開く。
視界いっぱい、薄紅色があった。
上下左右、どこを見ても同色のもやが僕を囲っている。
しばらく言葉が出ず、はあ、と溜め息だけ吐く。
昨日と同じではないか。
宮本の夢の直後、急に現れた薄紅色のもやの世界だ。
周りには何もなくて、意識や感覚ははっきりとしている。この後の展開も同じだとすると……、
「ドモドモ京一サン! またお会いしましたネ。ご機嫌いかがでしょうカ」
案の定、もやの中から勢いよく現れたハイテンションな謎の小人。
「……お前、ホントになんなの」
「何言ってるんデスか。昨日お話ししたデショウ、ワタシは『夢の案内人』デスヨ」
「ここが夢の中なら、お前はその登場人物……、つまり僕の脳内妄想の産物じゃないのか?」
「ムム、失礼な。ワタシは、京一サンの夢の中だけの存在じゃないデス。昨日も言いましたけどネ、『夢の案内人』たるワタシは夢世界を自由に行き来できるのデスから」
つまりこの小人が言いたいのは、
自分は僕の頭の中、すなわち内部から出現したものではなく、外部から僕の頭の中にやってきたということか。
安易に信じたくない話ではあるが、
しかしそれを否定するなら逆に、この奇妙な小人が僕の潜在意識が生み出したものであると認めることになる。
むしろそちらの方が認めたくない。
「そしてデスネ、このワタシが案内役となることで、誰でも夢世界の往来が可能となるのデス。というわけで、昨日に続いて京一サンを夢世界の旅にお連れシマショウ」
「昨日に続いて……?」
「エエ。『彼女』の夢にネ」
言うが早いか、小さなその身をくるりと翻し、もやの中に突入していく小人。
相も変わらず、他人の理解を待つ気はさらさらないらしい。
小人に付いてもやの中を突き進み、やがて抜け出たそこは緑豊かな山林だった。
昨日とは違い、近所の街中ではない。
ただし案内人が忽然と姿を消しているのは昨日と同様である。
僕は一人、林の中で茫然と立ち尽くしていた。
木の葉の合間から太陽光が細く差し込み、僕の体を照り付けている。
その熱はしっかりと肌に感じられる。風が流れ、木の葉がざわめく音。
虫の鳴き声、土の匂い。
やはりどれも鮮明で、夢とは思えないほど現実的で、そしてとても心地よかった。
「きょーいち!」
不意に、背後から呼びかけられる。
「もう、はぐれちゃだめだよ」
凛だった。
昨日の夢と同じく幼い姿。
幼い凛と目線が一緒の高さだ。
……いつの間やら僕の方も幼い時分の姿に変わっている。やはりそこも昨日と同じだ。
正直この後の展開にも、およそ想像はつくのだが。