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5月3日(金)☀:雨漏りの朝



 【凛】



 目が覚めた。


 ベッドから上半身を起こす。

 ……なんだか、妙な気分だった。


 父の分のお弁当を作るために台所で準備を始めた。

 しばらくして、時計を見る。父がいつも起きてくる時間になっていた。

 ……嫌な予感がした。私は急いで父の部屋へ行く。


 父は目を覚ましている。

 しかしうまく体を起こせないと言う。


 昨日と同じだった。考えてみれば当たり前だ、昨日調子が悪かったのに無理して家を出て、また夜遅くまで仕事詰めだった。今日になって良くなっている道理はない。


「父さん、あの、今日は仕事休んだらどうかな……?」

 手を貸して起き上がった父に、私は言った。


「いや、大丈夫だ。少し寝起きが悪いだけだよ、心配かけてごめんな」

 父はハハ、と笑う。

 へたくそな作り笑いだ。

 その表情を見て、胸が痛んだ。


 やはり父は私に心配をかけさせまいとしている。

 父は気遣いの言葉をかけられたくないのだ。

 今まで私は、その思いを察しているからこそ強くは言わなかった。言えなかった。


 父の気遣いを折ってまで、自分の意思を通すのが怖かった。それは私が弱いからだ。

 でも。


「やっぱり、休んだほうがいいよ」


 今日、言わなければならないと思った。

 こんなことを言って、父を困らせてしまうかもしれない。

 しつこいと思われて嫌われるかもしれない。それでもかまわない。


「ううん、休んでほしい」


 父がどう思っているかなんて知らない。


「だって……」


 一緒になにかが溢れそうになるのを押しとどめながら、私は必死に言葉を続けた。


「……父さんがいなくなっちゃったら、わたし、独りになっちゃうんだよ……」



 中学のとき、母が死んだ。

 ……父まで亡くしたくない。


 相手を想うとか関係ない、つまりこれは私のわがままなのだ。


 頭の上に、なにかが乗った。

 父の手だ。物言わぬ手。

 しかし、くしゃ、と私の頭をなでるその手つきには確かなことばがあった。



 ……しまった、と思った。


 私はそれをせき止めることができず、つい溢れさせてしまったのだ。

 …………。



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