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4月21日(日)☀⇒☽:距離感、電話



 【京一】



 夜。自室で、携帯電話の画面を見る。


 今日、クララから、メールが届いていたのだ。

『美代ちゃんがね、凛ちゃんを誘うのに賛成してくれたよ』


 ただの文字の並びだけだが、クララがどれだけ嬉しそうにしているかが窺えた。


 イブがどんな言い方をしたのか、僕には分からない。

 でも、きっと、友人のためを思いやって無理をしてそう言ったのではなく、『本心』からそう言ったのだろうと思えた。


 ただし、イブがそう言ってくれても、それでもまだ話は終わりじゃない。


 僕はそのまま携帯電話を操作し、登録されている電話帳を開く。

 あ行から順に下がっていって、目的の人物の名前に差し当たる。


 わずかばかり躊躇したが、思い切って通話を仕掛けた。


 プルルルル、と、呼び出し音が鳴る。何度か繰り返したところで、突如その音が途切れる。通話が開始した。



『……も、もしもし』


 ケータイの小さなスピーカーから、凛の声がした。


 驚いているような声だった。

 無理もない、僕から電話をかけるなんて、今までほとんどなかったことである。

 メールならいざ知らず、いきなり電話なんて、一体何事とかと大層戸惑っていることだろう。

 しかし、文面よりは直接話しをした方が良いと思ったのだ。


「ごめんな、急に電話して。今、大丈夫?」

『う、うん。大丈夫だけど……どうしたの?』

「あのさ。この間さ、手芸部に入部してほしいって頼んだだろ」

『うん』

「やっぱり、凛、入部してくれないかな」

『え?』


 またも驚くような声。少し間を置いてから、凛は聞いてきた。


『……有紗に頼むんじゃなかったの?』

「いや、やっぱり僕ら四人の共通の友達がいいかな、って。それって凛しかいないし」

『…………』


 少し考えるように、彼女は沈黙した。

 僕はあえて口を挟まず、彼女の次の言葉を待った。


『四人の共通の友達って言ったって、一緒に遊んでたのは小学校の頃の話でしょ。今更、友達って言えるのかな』


 と、そこまで言ってから、すかさず一転して言葉を続ける凛。


『――って、ついこの前までは思ってた。

 美代なんかは、昔、私が冷たい態度を取っちゃったことがあって……それ以来話してないから、きっと嫌われてるだろうなって思ってた。

 だから、この前京一から手芸部に誘われたとき、断ったの。気まずいから。

 でも、やっぱり考え直した。入部するよ』


 電話口の向こう、凛がどのような顔をしているのかは分からない。だが、その声色から、清々しい顔をしているのではないかと想像された。


「……そっか。ありがとう」

『その、せっかくあの子たち二人も高校一緒になったんだし、また五人で一緒になれたほうが良いかな、って思って来て……。手芸部は、それにちょうどいい場所かなって』

「うん。そうだな」


 確かにその通りだ。

 正直、クララが手芸部に入部したいと言っていなければ、この状況にはなっていなかったわけである。

 もちろん、それがきっかけで僕があれこれ面倒を被ったのは事実だが、しかしその見返りとしては十分な結果なのだろうと思う。


『正直言うとさ。京一から電話がかかって来るとき、ちょうど私も電話しようかと思ってたとこだったの』

「え、僕に電話? なんで」


『だから、手芸部の件……、

 もう一人の部員はどうなったのかと聞こうと思って。もし有紗に断られて、もう一人をまだ探してるんだったら、私が入部するって言おうと思ってさ。

 今ちょうど、あんたに電話してみようかと思ってたとこだったの。……そしたら、逆に電話かかって来るんだもん。びっくりした』


 電話に出始めたとき、彼女が驚いた様子だったのはそのせいだったのか。


 では、つまり僕がこうして改めて勧誘をするまでもなく、凛は入部をしても良いと気持ちが変わっていたということか。

 つい先日は五人でまた集まるなんて気まずいと感じていた彼女が、今日になって急に心変わりしたということ。



 思い当たる原因は、やはりあの夢。


 ただし、本当にあの夢をきっかけに彼女が心変わりを起こしたのかは分からない。

 そうだとしても、あれは無意識の夢世界なので、彼女ら自身にはその自覚がない。

 それを確かめるすべはないのだ。


 昨日の夢の、子どもの頃の情景を再現したというのは、ただの僕の考えと、あの胡散臭い小人の言うことを根拠にして実行したに過ぎない。


 もしかすると、僕が夢世界であれこれしたことなど全く関係がなくて、イブや凛が心変わりしたのはただの彼女らの気まぐれの可能性だってある。


 ……だから、結局のところ心変わりの理由なんてどうだっていいのだ。



 その後も、しばらく二人で通話していた。

 夜でテンションが変になっていたのだろうか。

 ……彼女と、ゆっくりと長話をするなんて随分と久し振りだった。

 談笑というほどではない、お互いに笑かしあうようなこともない、ただ淡泊な言葉をラリーするような会話。

 だが、だからこそそこに気兼ねもない。


 不思議な感じだった。


 電話口の向こうの凛は隣の家にいる。

 彼女も自室からかけているだろうから、そもそも電話回線を介しなくとも、互いに窓を開ければ会話ができるほどの距離。

 今更こう言うのはおかしいが、彼女と僕はすぐ近くにいるのだということを、改めて実感した。


「明日こそはいい加減、遅刻せずに来なよ」

「うん、まあ、善処だけはするよ」

「まったく、もう。……じゃ、おやすみ」

「うん。おやすみ」



 そうして僕は眠りについた。


 相変わらず気がつけばもやの中で、奇妙な小人が出てくる。

 本日の夢からまた以前に戻って通常運行ということで、小人は僕を凛の夢の中に『案内』した。


 もやを抜けた先で、ほんのさっきまで電話で話していた凛の幼い姿を見る。


 まったく妙な日常である。


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