表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/54

4月21日(日)☀:ふしぎなきもち



 【美代】



 日曜日。

 朝、目が覚めたとき、なんだか不思議な気分だった。

 なんだか印象的な夢を見たような気がするのに、それがどんな内容だったかは思い出せない。

 ただ、なんとなく懐かしいような、暖かな気持ちがぼんやり胸に灯っていた。


 そういえば、昨日の朝も不思議な気分で目覚めたのを思い出した。


 昨日、あたしはまだ風邪が治り切らなくて学校を欠席した。

 朝からどうにも不思議な感覚があったのだ。

 なんだか無性に、愛する我がトカゲの写真を京一に見せてやりたくなった。

 やりたくなったらもうやらざるを得ない。

 あたしはとりあえずメールを送った。京一にメールを送るなんていつぶりだったろうか。

 ついテンションが上がって何枚も送って、秘蔵の『とっておき』までも送ってしまった。

 どうしてそんなことをしたのか自分でもよくわからない。でもまあ、まさかこれを見て気分を害するようなものじゃないし良いだろうけど。



 今日は、土曜日。

 昨日のうちに風邪は治り、もう元気だ。


 起き上がろうとしたところ、ケータイが鳴った。

 蘭子から電話だ。


『美代ちゃん、おはよう。風邪はもう治った?』

「うん。もう昨日のうちにばっちりよ」

『そっか。じゃあね、あのね、今日ちょっと一緒にお出かけしたいなと思って……。だめかな?』

「別にいいけど」

『ありがとう。じゃあ……』


 そうして蘭子は嬉しそうに、時間や場所を提示してきた。

 蘭子とはよく遊びに行くけど、こんなに突発で誘ってくるのは珍しい。

 あたしがしばらく風邪で学校を休んでいたから会いたかったのかな。そう考えると蘭子らしい。



 家を出て蘭子と合流して、電車に乗って都市部へ。

 普通にご飯食べたり買い物したり。久しぶりに外に出たからあたしもテンション上がっちゃって、つい服とかいろいろ買ってしまった。散財。


 午後、喫茶店で窓際の席についてゆっくり紅茶を飲んでいたとき。


「あ、そうだ美代ちゃん。あした、入部申請書の提出の締め切り日だよ」

 ふと思い出したかのように、蘭子はそう言ってきた。少し、しらじらしかった。


「私と美代ちゃんと、京一君と晃君。それで四人だから、あともう一人をどうしよかっていうこと、美代ちゃんお休みしてたから、あんまりお話しできてなかったよね」

「そうだね」


 確かにあたしは間の悪い時に休んじゃっていたかもしれない。

 仕方ないのだけど、申し訳ない。


「あのね、――」

 蘭子がなにか言おうとした。


 でもあたしは、なんとなく、彼女の方から言わせたくなくて、言葉を遮って口を開いた。


「蘭子はもう一人の部員には凛を入れたいんでしょ?」

「え、……うん」

「考えてみたけど。……あたしも、それがいいかなって思った」


 あたしがそう言うと、ぱっと、顔に笑顔を咲かせる蘭子。


「ほ、ほんとう? 凛ちゃんを誘うこと、美代ちゃんも賛成してくれるの?」

「だからそう言ってんでしょ」

「えへへ、よかったあ」

 嬉しそうに笑いながら、ミルクティーを静かに飲む蘭子。



 当初は、晃と京一と同じクラスの宮本さんとかいう人を誘うって話になっていた。

 でも、蘭子が、もう一人を入れるならやっぱり四人とも共通の友人が良い、と言って、凛を誘ことになったと聞いている。


 だから、あたしがこうして凛を誘うのに前向きな姿勢を見せたことは、この子にとっては何よりうれしいのだろう。


「でも、どうして急に? 前は、その、なんだかあんまり乗り気じゃなかったみたいだから……」

 カップをソーサーに置きつつ、蘭子はふと尋ねてきた。


「うーん……、この前まで、いまさら凛と話すのは気まずいなって思ってたんだけど、

 なんか、今日の朝から不思議な感じがしてさ。

 別に大丈夫かな、って。自信がついたっていうか……、なんだろ、うまく言えないんだけど」



 小さい頃は、ずっと五人で一緒に遊んでいた。

 でも、中学に上がった頃から、凛とは疎遠になってしまった。

 その頃に、凛に話しかけて素っ気ない態度を取られてしまったこともあって、いまさら話すのは気まずいって感じていた。


 でも、その三年間の空白期間が、今日になって急に、何でもないように感じられた。


 五人で楽しく遊んでいた、もちろん凛とも何気なく会話をしていた、あの頃の感覚。

 朝、胸に灯っていた不思議な感覚は、多分それだ。


「私もね、もともと五人でまた仲良くなるのが一番だって思ってたけど、でも、今日になったら、その気持ちがもっと強くなって。――えへへ、やっぱり、みんな仲良しが一番だよね」

「あんた、たまに言うよね、それ」

「うん。だってそうでしょ?」

「そうだね」


 相変わらず子供っぽい、無垢な笑顔を見せる蘭子。


 あたしは、穏やかな気持ちで、紅茶をくっと喉に流した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ