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4月20日(土)☀⇒☽:―五人の子どもたち―



 【京一】



 いつもそうであるように、その日は一日中、自堕落な時間を過ごした。


 意義のある行動としては、いくつか授業で課されていた宿題に手をつけていったこと。

 普段、居眠りばかりでろくに話を聞いていないので、そこだけはしっかりこなしてせめてものポイント稼ぎとしている。

 ちなみに晃はいずれもろくにこなせていない。


 休日というのはやたらと早く時間が過ぎる。

 やがて、夜になる。



「さァてさて! こんばんはデス、京一サン!」

 いつにも増して元気いっぱいの小人。


「はりきってるな」

「モチロン! ていうか京一サンははりきってないんデスカ」

「まあ、それなりだな」

「なるほど、京一サンらしいデスネ」


 先日から僕が考えていた計画は、深層部における夢の中で子供の頃の情景を再現し、そこへみんなの夢意識を集めるというもの。


 すなわちそれがあの頃の心象を取り戻させ、以前に素っ気ない態度を取られてしまったという苦い記憶とか、疎遠になっていたことによる気まずさとか……、

 それらを解消する手助けになるはずだと考えたのである。


 ただ、その肝心の『情景の再現』は如何にして行うか。



 各人の夢世界というと、

 凛は『マジカル☆リンちゃん』の世界、

 イブはドラゴンが空を飛びまわる世界、

 クララはぬいぐるみたちの世界、

 晃は様々なゲームが入り混じったカオスな世界、


 ……すなわち、みんなをいずれかの夢に集めたところで、あくまでその人の夢世界の登場人物になるだけ。

 子供の頃に遊んだあの頃の情景、にはなり得ない。



 だからその夢の舞台は、僕が用意する。


「要するに、これこそ明晰夢の力デスヨ。明晰夢の力があれば、自分が思い描いた通りの夢を見られるのデスカラ。

 京一サンが、子供の頃の情景を強く思い描くのデス。そうすれば、その通りの夢世界が形成されマス。

 しかし、それは生半可なことではありまセン。

 集中力が切れたり、雑念が混ざると、たちまちその夢世界はバラバラに崩れ去るデショウ。

 五人みんなが仲の良かったあの頃の心象を、夢として見せる……。そのためには、京一サンの頑張りが必須っス!」

 キューピーは、そう言う。


「さァ京一サン。頭の中に思い描くのデス。ワタシはみなさん四人の夢意識を、ここへと『案内』してきますのでネ」

 びし、と人差し指と中指を立てて、夢の案内人はその役目を果たすため、もやの中へと潜っていった。


 僕はここに、夢の舞台を作る。

 思い出すは、初めて宮本と図書委員の当番をしたとき。

 恥ずかしながら、彼女の前でつい居眠りをしてしまった。

 あのとき見ていた夢はまさに、幼い頃に僕ら五人で森の中へ入って虫捕りをしたときの情景だった。


 ――あれを、『意識して』作り出すのだ。


 僕は目を閉じる。瞼の裏側に、その光景を描いていく。

 …………

 ……



 深閑な森の中。

 風がそよぐと、木の葉の触れ合う音が広がる。

 まるでさざ波のような音だ。

 それを聞くととても穏やかな気持ちになり、なんだか体がふんわり浮いてしまうような心地なのだった。


「おーい京一、早く来いよ」

 そのとき、遠くから僕の名を呼ぶ声がした。陽気な男の子の声。


「みんな遅いよー」

 続いて、女の子の声。


 生い茂る草木によって姿が見えないが、その向こうで声の主二人がきゃっきゃと騒いでいるのが分かる。

 さきほどの、もやの中にいたときよりも視点が低くなっているのに気づいた。子供の姿になっているのだ。


「もう。晃もイブも、急ぎ過ぎ」そう言って、すっ、と僕の隣に少女が立ち並んだ。「クララのことも、ちゃんと待ってあげればいいのに」

 その傍らに、さらに背の低いもう一人の少女。

「あうう。ごめんなさい」

 凛とクララ、晃とイブ。


 子供の姿の四人が、森の中にいる。


 晃とイブがはしゃいでいる。

 晃が目当ての虫を見つけ、途端に駆け出す。イブもそれについていく。彼女は当時から、女の子でありながら虫などに平気で触れていた。


「私たちも、行こ行こ」

 凛がそう言って、クララの手を引いて歩き出した。

僕も並んで歩き出す。



 夢見心地、という感じがした。


 自分は明晰夢として、意識を持ってここにいるはずである。

 そもそもここは自分が頭に思い描き、作り出した空間であるはずだ。


 しかし、どこか夢を見ているような感じがするのだ。


 いや、実際にここは夢なのでそれはおかしな言い方かもしれない。

 しかし、そうとしか言い得ない。

 集中力が切れたり雑念が混じったりするとだめだとキューピーが言っていたが、

 正直、意識的な部分で「この夢世界を維持させなければ」、とは考えていなかった。


 ただ、この五人が子どもの姿でここにいて、仲良く遊んでいる。

 ――それが、別に意識をして作る必要などはなく、ごく自然なことであるように思えたのだ。



 目の前の光景を見据えて、考える。

 例えばこのまま五人が高校生に成長したとしよう。


 さすがに森の中に虫捕りをしには来ない。

 だから場所は高校で、遊ぶというのも、別に普通にただ一緒に話しをするだけということにしよう。

 幼い姿の五人が遊ぶ今のこの光景を、そうして成長した自分たちの状況に置き換えてみるのだ。


 手芸部の部室で談笑する五人。


 その様を思ったとき、思いの外しっくりと来た。

 それが自然であるように感じた。


 凛とイブが気まずそうにしているようには見えない。

 もちろん個人個人を見るまでもなく、五人とも、平然と、楽しげに話をしている。



 今僕の視界が捉えている、

 ――子供の僕らが遊ぶ映像――

 は、所詮夢だが。


 今、頭の中で想像してみた、

 ――高校生の僕らが楽しく話しをする映像――

 は、確実に僕の心が現実的な観念を以って描いたものである。



 それは、非常に重大な意味を持つのだろう。


 今、この夜、僕以外の四人も、夢の深層部にて同じ光景を見ている。

 意識の奥底で、この感覚を共有しているということである。

 …………。


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