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4月10日(水)☽:告白



 【京一】



 帰宅後は、学校で課された宿題を適当に片づけ、あとは本を読んだりゲームをしたりしてダラダラと過ごす。

 断っておくが、僕は宿題などに対しては割合にちゃんと取り組む方なのだ。

 やる気があるというよりは、提出をしなかったために先生から色々と言われるのが面倒だからという消極的な理由だが。


 夕食後、自室のベッドに寝転んでまたダラダラと過ごす。

 ぼうっとしていると、次第にあくびを繰り出す間隔が狭くなっていく。眠い、と思ったときには、すでにもう意識は半ば落ちかけていた。

 やがてそのうち眠りの世界へと落ちていく…………、


 ……

 …………

『僕と付き合ってください!』

 吐き出した想いの丈は、校舎裏の静かな空間にこだました。


 声は震えていた。

 足も震えていたかもしれない。

 言ってから、九十度に頭を下げる。

 心臓は脈々とのたうっていたが、反してどこかで冷静になっている自分もいた。


 頭を下げたまま、しばしの沈黙。


『小智くん、顔を上げて?』


 頭上から柔らかな声が降り注ぐ。僕は、はっとして顔を上げた。


『ありがとう。実は私も、……小智くんのこと、好きだったの』

 恥じらいのある控えめな笑顔で、宮本がそう言った。

 控えめでも、僕には目も当てられないほど眩しかった。


 まじか。宮本が、僕のことを好きだった? 僕は言葉が出せず、固まってしまった。


『な、なんか照れちゃうね。えっと、よろしくね』

 彼女はそう言いながら、一層恥ずかしそうにして顔を俯かせた。かわいい。



 俯いた宮本がおもむろに顔を上げた。

 上目遣いで、じっとこちらを見る。

 何かを期待するような、潤んだ瞳。……これは、まさか。


 僕はゆっくりと、一歩、二歩と彼女に近寄る。

 間近まで来ると、手の震えを抑えながら彼女の肩をそっとつかんだ。

 宮本が静かに目を閉じる。間違いない、これはもう、アレをやる流れだ。


 僕は思い切って、彼女の肩を抱き寄せつつ唇を重ねようとした。

 ……そして盛大に、空振りをした。


 彼女の肩をつかんでいた感触が消え、僕は前のめりにバランスを崩した。……あれ?


 一瞬で、宮本が目の前から消えたのだ。

 それだけでない、景色もまるっきり塗り変わった。

 校舎裏にいたはずなのに、いつの間にか視界のすべてが薄紅色に変わっていた。

 どこを見渡しても薄紅色だらけの、もやもやとした空間。

 …………………………………………………………………………………………………、


 なんだこれは。

 僕は混乱した。 

 ここがどこかわからない。

 自分がなぜこんなところにいるのかも全く分からない。考えようとしても頭がはっきりしない。まるで意識に膜が張ったようだった。


 試しに頬をつねってみた。……痛くなかった。


 つまり、これは夢?



 そこで冷静になった。いやそもそも今さっきまでの状況からして夢なのだ。

 僕が宮本に告白をして、それを彼女が受け入れてくれ、そしてキスをしようとした。

 そんなこと、現実としてあり得ない。僕は宮本に告白をするような気概なんて持っていないし、仮に告白したとして彼女が受け入れてくれるはずもない。どう考えたって夢。


 しかし妙なのはこの状況だ。


 さきほどまでは自分が夢の中にいるという実感はなかった。通常、夢とはそういうものだ。

 そこから一転して意識が切り替わって、今。

 ならば今は目が覚めている状態であるはずではないか?

 それが、なぜにこんな薄紅色のもやに囲まれた空間に僕はいるのか。……いやだから、ここも夢なのだ。

 じゃあ、はっきりとした自意識があるのはなぜなのか。……だめだ、ますます混乱してきた。


 首を回して視界を巡らせるが、どこをとっても薄紅色一色。足元の感覚に違和感があり、目を向けるとそこにも同じ色があった。

 地面はなく、どうやら僕の体はもやに包み込まれたその空間の中で浮遊しているようだった。


 今思い返せば、さきほどまでの光景……、

 宮本に告白するシーンはどこかぼやけて不鮮明な映像だったように思える。

 すなわちいつもの夢と同じだ。


 だが今は、夢の中なのに起きているときと変わりないしっかりとした視覚映像ではっきりとした意識を持っている。

 こぶしを握ると力のかかる感覚もある。

 夢にしては感覚がはっきりしすぎているのだ。

 ここが夢であると自覚を持っていることも含め、不可思議なことである。



 しかし先ほどからもやの中に浮遊するのみでどうにも進展がない。

 せっかくここまで感覚がはっきりした夢を見ているのにこれではつまらない。

 もっと、こう、いっそ宮本が出てきてさっきまでの夢の続きとか見られたりしないものか。


 などと不埒なことを考えていると、ふと、前方のもやが蠢いているのに気がついた。


 何事かと目を凝らすと、もやの向こう側にうっすらと人影が見えた。

 何者かがこちらに向かって近づいてきて、もやが掻き分けられているのだ。


 次の瞬間、目の前がぱっと晴れて、その人物が僕の眼前に勢いよく現れた。



「じゃあーーーーーーーーんっっっっ!!!」



 いかにもな効果音を自ら発したその人物は、僕の鼻先で両手足を広げてポーズをとった。


 そこには、得体のしれない何かがいた。

 ぱたぱたと背中の羽を羽ばたかせながら、そこに浮遊している。

 全長三十センチにも満たない大きさで、白いワンピースに身を包み、その小さな頭の上には煌々と輝く輪っかをたずさえている。



 僕がぽかんとして押し黙っていると、そいつは、んん、と咳払いをしてから口を開いた。


「どうも、京一サン! ワタシは夢の案内人、キューピーといいますデス!」

 芝居がかった胡散臭い喋り方で、その少女……、いや小女と表記すべきか、とにかく目の前のそいつは高らかに名乗った。


「…………は?」


 僕は、茫然とした。


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