表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/54

4月18日(木)☀:あっちこっち京一



 【京一】



 授業の合間の休憩時間。

 僕は隣席の凛に声をかけてみた。


「あのさ、凛。……手芸部に入部しないか?」

「は?」

案の定、意味が分からない、といった様子で眉をひそめる凛。

 凛をなにかに誘うことなんてほとんどないので変に緊張してしまい、事情の説明をすっ飛ばしてしまった。


 僕は気を取り直して、

 クララとイブが手芸部に入部したがっている事、

 しかし現在手芸部には部員がいない事、

 僕と晃が『善意』で入部したとしてもあと一人足りない事、

 を順々に懇切丁寧に説明した。



 聞き終えて、凛は淡々として言う。

「でも私、手芸なんかやんないんだけど」

「……それを言うなら僕もやらないよ。廃部を免れるために入るだけだ」

「それだったら私じゃなくても良いじゃない」

「いや、それは……」

「悪いけど私、忙しいし。手芸だったら有紗誘ったら? あの子、裁縫とか好きだよ」

「…………」


 そうか。

 凛は宮本と仲が良いので、彼女が裁縫を好きだと知っていたのか。

 確かに凛にしてみれば、自分よりも宮本の方が適任だと思うだろう。

 しかし宮本は宮本で自分以外に適任がいる筈だと言い、それから凛を誘うことになったのだが。


「それに、そもそも私を入れるのってみんなの合意なの? どうせさっさと空きを埋めたいからって、京一が適当に手近な私を誘ってるだけなんじゃないの」

「そんなことはないよ。ちゃんと、クララが言ったんだ、凛を誘おうって」

「蘭子が、ね」

 なるほど察しがつく、というようにすんなり納得する凛。


「晃はどうなの?」

「ああ。晃もそれでいいって。ていうかこの場合晃の意見はどうでもいい」

「まあそっか」

 そこもすんなり納得する凛。


「……じゃあ美代は?」

「イブは、えっと……」


 言葉が詰まってしまった。

 ここで凛の入部を後押しするには、いっそそれをイブも望んでいるのだと言ってしまった方が、確実ではある。

 しかし今のところそれは真実ではない。

 ここで虚偽を働いては、なにか余計にこじれてしまうだろうか。


 僕が答えに窮していると、凛はふう、と息をついて口を開く。


「うん、やっぱり有紗を誘った方がいいんじゃない。あんたが声かけにくかったら、私が伝えてあげようか」

「…………。いや、宮本とはこのあと図書委員の当番で一緒だし……いいです」

「そ」

 短く言って、凛はさっさと前に向き直った。

 それと同じタイミングで次の授業の担当教員が教室に入って来る。

 凛の号令を受けて、僕は他の生徒と同様に、立ち上がった。


 ・・・


 イブはまだ熱が引いていないようで、本日も欠席だった。

 クララが一人で食堂にやって来ていた。


「もお木曜日だよお。どうしよう、手芸部のもう一人、月曜日までにちゃんと決まらないと、廃部になっちゃう。

 凛ちゃんを誘いたいなと思うけど、でもなんだか美代ちゃんはあんまり乗り気じゃなさそうだし……。困ったなあ」

 はうう、と息をつきながら、クララが言う。


「あ、京一君。もしかしてもう凛ちゃんに声をかけてくれてたり、する?」

「一応、うん」

 さきほど授業の合間に、凛を誘ってみたばかりだ。

「それで、返事は?」

「……えーと、まだ保留だな」

 思わず嘘を言った。


 本当は保留などではなく、はっきり断られている。

 嘘を言うのはどうかと思われるものの、

 しかし凛に断られたことを正直に言うと、クララはもう五人でまた一緒になりたいというのを諦めるかもしれない。

 それは避けたかった。


「ごめんね、なんか京一君に任せてるみたいになっちゃってるよね、もともと私が手芸部に入りたいって言ったのに……」

「いや、いいよ。僕どうせヒマだし」


 当初、宮本を入れようという話をしているときにクララは口を挟まなかったのに、わざわざ希望を聞いたのは僕なのである。

 じゃあその希望に沿うよう僕が動いてあげなければならないのは道理であろう。

 それに、凛を誘うのをあきらめて結局宮本に入部をお願いすることになってしまった場合……、なんとなく、宮本に幻滅されるかもしれないと思っていた。

 彼女は自分より適任がいる筈だと言って、気を遣って身を引いてくれたのだ。

 その気遣いを無下にするのは憚られる。


「なんとか僕が話を進めるよ。手芸部の廃部だけは避けるようにするから、安心して」

「えへへ、ありがとうね、京一君」

 ふにゃっと、嬉しそうに笑うクララ。

 成長していても、この笑顔だけは本当に子供の頃から変わらない。


 しかし……。

 気前のよいことを言ったものの、特になにか考えがあるわけではない。


 入部申請書の提出締め切りまで、あと四日しかない。どうしたものか。


 ・・・


「……小智くん、例の手芸部の件、どうだった? 一年生の子に話しを聞けた?」

 放課後。

 本日は、図書委員の当番だった。

 カウンターの中、隣に座る宮本が小さな声で聞いてきた。


「うん、まあ」

「なんて?」

「始めに手芸部に入りたいって言っていた子が大倉っていうんだけど、その子が、もう一人の部員には、できれば僕ら四人共通の友達を入れたいって言ったんだ。

 ……ごめん、宮本には悪いんだけど、他の人を誘おうという話になってて……」


 そういえば宮本には、まだそのことを言っていなかったのだ。後手後手である。


「ふふ、謝らなくたっていいよ。やっぱりその方がいいからね。……で、誰を誘うの?」

「えっと……、凛を」

「やっぱりね」

「『やっぱり』?」

「うん。だって五人で小学校から同じ仲良しなんでしょ? だったらもう一人には凛ちゃんを入れるのが良いよ。そう思ってた」

「あれ、なんで宮本が僕たち五人のこと知ってるの?」

「一佳から聞いたの」

 一佳、というと遊免の下の名前。


 あいつ、やっぱり口硬くないんじゃないか。

 別にこのことを宮本に知られても問題はないけど、

 ……でもこれじゃあ僕の宮本への想いがいつ本人にバラされてもおかしくない。怖い。


「それで、もう凛ちゃんにお誘いはしたの?」

「あ、ああ」

「そうなんだ。それで? どうだったの、お返事は?」

「…………、えっと、それが……」


 僕は宮本に、さきほどの凛とのやり取りを詳細に説明した。


「……私を誘う流れになってるじゃない、話が一周して戻ってきちゃってるよ?」

「それは、ごめん……。押し切れなくて」

「もお、小智くん……」

 じと、とこちらを見る宮本。幻滅されてしまったか。


「でも、まだ部活の入部申請書の締め切りまで少しでも日はあるんでしょ。もう一度、凛ちゃんを誘ってみようよ。今度はしっかり、小智くんが強気で!」

「いやでも、正直、凛が引き受けてくれるかどうかだけが問題じゃないんだ。

 もう一人の一年……指宿ってやつが、凛を誘うことに乗り気じゃない感じでさ。凛とはしばらく疎遠になってたもんだからさ、ちょっと気まずいらしくて」


「そっか……」

 残念そうに顔を伏せる宮本。彼女自身には関係のないことのはずなのに、これほど親身になってくれるのはありがたい。さすが宮本である。


「小智くんはさ、その指宿さんが、凛ちゃんとまた一緒になるのを本気で嫌がってるって思う?」


「……わからない。乗り気じゃないのは分かるけど、でもはっきりと拒否されたわけでもないから」


「私思うの。小さい頃の友情って、そうそう消えたりはしないはずだよ。

 当時と性格が変わっちゃってたり、空白期間があったりしても、友情がなかった事にはならない。仲良かったときの気持ちを少し忘れちゃってるだけ。


 ホラ、ちょっとしたきっかけで、ずっと昔の頃の印象を急に思い出したりとかするじゃない? よくここで遊んだなあ、とか、あのアニメ大好きだった、とか。

 ……小さい頃の記憶って、忘れてるだけで、心の底に眠ってるんだよ。だから気まずいって言ってても、本気の拒絶ってことじゃないと思うよ。仲良しの頃の気持ちは、消えてなくなっちゃったわけじゃないんだから」


 優しい声色でそう言うと、宮本はすっと前に向き直った。


 彼女の言葉は、ロマンチックな話のようでいて、どこか説得力も感じられた。


 その考えに倣うなら、凛と気まずいと言いつつも、イブは本気で凛のことを拒んでいるわけではないということ。

 もしそうなら、話はスムーズに進むと思う。

 ただしそうは言っても、宮本のその言葉は、状況を打開するための具体的な回答ではない。

 ともすれば、なんとかなるから気に病むな、と、そう聞こえる。



 あるいは、『ちょっとしたきっかけ』があれば昔の頃の印象を思い出すものなのだから、

 少なくともそれが必要だとでも言いたいのだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ