4月16日(火)☀⇒☽:手芸部について
【京一】
山本と遊免は僕らを新聞部部室に入れてくれた。
室内にいる新聞部員は彼ら二人だけだった。
そもそも新聞部員の中で積極的に活動をしているのはほぼ二人だけらしい。三年の部員はおらず、遊免が部長を務めている。
部内で恋愛が成就したのかというとそういうわけではなく、彼らの付き合いは中学時代より続いているものらしい。
つまりカップルで同じ高校に入学してしかも同じ部活に入部したということだ。
もはや爆散などして然るべきである。
新聞部室内で、遊免が僕らに手芸部についての情報を教えてくれた。
「もともと、去年まで手芸部は三年の人たちしかいなかったんすよ。その人たちがこの三月で卒業しちゃったから、今は部員がゼロになってしまっていて、部室がもぬけの殻というわけなのです」
「そうだったんですか……」
クララが残念そうな声色で言う。
「でも、そんな悲観的になることもないすよ。入部申請締め切り日までに新規部員が五人以上集まれば、手芸部の廃部は免れられるんすから」
「……、じゃあ……」
遊免から部員の規定人数を聞いたクララが、イブの方をちらりと見た。
そのイブは僕と晃の方をまたちらりと見る。
「二人とも、部活入ってないんだよね?」
イブが言う。その質問の真意は火を見るよりも明らかである。
「俺はやだぞ! なんで手芸部なんか入らにゃならんのだ」
「んー、京一と晃が入ってもあと一人足りないなあ……」
「聞けやあ!」
猛烈に抗議する晃を尻目に、指を折って人数をカウントするイブ。
彼女の中では僕と晃が入部することは確定しているらしい。クララも異議はなさそうに微笑んでいる。
そこで、部屋の隅の方で立っていた山本が突然口をはさんできた。
「手芸部だったら、宮本誘えば? あいつ裁縫とか好きだぜ。確か、なにかの同好会には入ってたけど、部活はどこも入ってないだろ」
「……なんでお前がそんなこと知ってんだ。お前と宮本って仲良いの?」
「仲良いっていうか……、俺、宮本と中学一緒だからさ」
「あ、そうなのか」
初めて知った。
「中三の文化祭のとき、クラスの出し物で演劇をやったんだよ。『ロミオとジュリエット』。
宮本はジュリエット役だったんだが、裁縫得意だからって言って衣装の縫い合わせも自分でやってたんだ。あいつめっちゃ演技うまかったし、なかなか評判よかったんだぜ」
宮本の演じるジュリエット。
さぞかし艶美であったことだろう。
「そんで、その衣装の完成度も高かったし、楽しそうに衣装作ってたし。宮本なら手芸部向いてるんじゃね。
俺、あとであいつに聞いといてやろうか? 連絡先知ってるし」
「おお。ありがとう山本。助かるよ」
正直、僕は手芸などには欠片も興味はないが、宮本が一緒に入部してくれるのなら入部もやぶさかではない。
むしろ宮本と同じ部活に入れるなら本望だ。
五人の部員が揃えば手芸部が存続されてクララの念願も叶うわけだし、良いこと尽くめだ。
「ふふん、これで手芸部も廃部にならないで済みそうすね」
「ええ、遊免先輩、ありがとうございます。ね、良かったじゃん、蘭子」
イブが嬉しそうにクララの方を見る。
「うん、そうだね……」
手芸部の廃部を免れられそうでご満悦、かと思ったが、クララはどこか浮かない面持ちだった。
なにか言葉が喉元につかえさせていそうな様子だ。
……どうかしたのだろうか。
・・・
帰宅後、自室でいつも通りだらけていると携帯が鳴った。
表示された番号を見ると電話帳登録もしていない知らない番号だった。
『もしもし、小智くん? 私、宮本だけど』
電話口からの聞こえたのは聞き覚えのある可憐な声。
宮本だ。
「え? あ、宮本っ?」
まさかの相手に焦る。電話なので関係ないはずなのに思わず居直ってしまう。
『ごめんね、いきなり。あの、耕太郎くんから番号教えてもらっちゃったんだ』
耕太郎というと、山本の名前だ。
宮本は山本のことを下の名前で呼んでいるのか。
中学からの友人であれば不自然ではないかもしれないが、しかし羨ましいというか、恨めしいというか。
『さっき耕太郎くんから言われたんだ。手芸部の人数が足りないから入部してあげてくれないか、って』
「ああ、うん」
『それでね、ぜひ入りたいなって思ったの。私、もともと裁縫好きだし、手芸には興味があるの。……でもね、』
そこで言葉を一旦留める宮本。
「『でも』?」
『うーん、なんていうか、本当に私でいいのかなって思って』
「え?」
『だって、小智くんと遠野くんと、あと二人の一年生の子たちも、みんな昔からの仲良しなんでしょ? そこに私が入るのって、どうかなのかな』
電話回線の向こうから宮本は淡々とそう言った。
自分が適任でないのではとして悲観的に考えている、というよりは、客観的な事実として自分を適任だとするのは正しくないと考えている、という言い方に聞こえる。
『もちろん、本当に他に入部する子がいなくて、私が入部することで助けになるならぜひ入りたいとは思うけどね。
でも、小智くんと遠野くんは同じクラスだからいいけれど、その一年生の子たちには改めてちゃんと確認を取ってみてほしいな。知らない上級生が入部するってことで本当に大丈夫なのか、他に誘いたい人がいないのか、って。
そもそもはその子たちが手芸部に入りたいって言っているんでしょ? だったら、その子たちの希望を優先するべきだと思うの』
「…………、そうだな。ごめん、そこまで考えていなかった」
宮本の言うことはもっともだ。
彼女と同じ部活になれると思って舞い上がるばかりで、イブやクララのことは考えていなかった。
『ううん、こちらこそ期待を裏切るようでごめんね。
あ、それと、その子たちに話しを聞くとき、私に聞くように言われたってことは伏せてね。変に気を遣うかもしれないし、ちゃんと本心を聞くべきだもの』
「うん、わかった。……わざわざ電話までしてくれてありがとう」
『こちらこそ、いきなり電話してごめんね。……じゃ、おやすみ。またね』
そうして通話が終了した。
思い返せば、ただ部活の見学につき合わされただけだったはずだが。
いつの間にか面倒な話になってしまった。
しかし宮本の言うことは正しいのだ。明日、イブやクララと改めて話しをするべきだろう。
色々考えながら、ベッドに横になった。
…………
……
「ドモドモ。またお会いしましたネ、京一サン」
「はいはい、どうも」
そして小人との対峙である。
僕に息の休まる暇はないのだ。
その日もまた、『マジカル☆リンちゃん』の活躍劇を見せられた。
ちなみにその日は、ある二人のクラスメートが仲たがいをしてしまい、その子たちを仲直りさせるためにリンちゃんが陰で奔走するという話。
今までの魔法少女の戦いから一変、ほっこりする話だった。
夢を終えると、ほっこりと、目覚められた。
もはや僕に新鮮な驚きなどなく、深夜アニメでも観ているような気持ちだった。




