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4月12日(金)☀:朝日とハーフ


 【京一】



 本日は、めずらしく時間に余裕を持って起きられた。

 これならいつもよりも一本早い電車に乗れそうだが。しかしいつも晃と一緒に通学をしている。

 僕がたまたま早く起きられたからと言って一人先に行くのは、相手があの晃とはいえ、さすがに気後れする。


 支度をしていると、一通のメールが届いた。


『寝坊した。完全に間に合わん』

 差出人は晃だった。立て続けに、もう一通送られてくる。

『俺のことはいいから先に行け!』


 僕はそれに『了解』とだけ返信して、すぐに家を出る準備をした。良心の咎めは一切なかった。



 最寄り駅のホームにて電車を待つ。いつもより一本分早い時間である。

 いつもは遅刻ギリギリの時間で教室に入るものだが、今日はしっかり始業前に到着できる。


 ゲーム脳且つ能天気な腐れ縁の男も隣に立っていないことも手伝って、今朝はいささか気分が晴れやかである。


「あ。京一じゃん。おはよー」

 不意に背後から呼びかけられた。振り向くと、そこには日独ハーフの少女が立っていた。


「イブ。おはよう」

「…………」

 じと、と無言で僕を見るイブ。

「あ、ごめん。名前で呼んだほうがいいか?」


 昨日、彼女は再三『イブ』と呼ぶな、と言っていた。しかしどうにも昔からの馴染みで、反射的にそう呼んでしまう。


「ま、別にいいよ。どーせアイツの方はいくら言ったって『イブ』呼びから変えやしないだろうし。もう諦めるわ」

 彼女の言うアイツはすなわちゲーム脳且つ能天気の例のアイツだ。


「一人? クララは一緒じゃないのか?」

「うん。クララは先に行ってる。恥ずかしながら、あたし、寝坊しちゃってさ。いつもより一本遅い電車になっちゃった」

 僕はこの電車でいつもより一本早いが。


 イブは、僕の隣にちょこんと並んできた。

 長い髪がふわりと揺れる。彼女のそのブラウンの髪は、朝日の照射を受けて華やかに煌めいていた。


「あのさ」

 線路に向けて視線を落しながら、イブが口を開いた。

「昨日のさ、お昼のときに、蘭子が京一に言ってたじゃん? その、……凛も一緒にお昼に誘いたいね、って」

「ああ、言ってたな」

「それで、どしたの? 京一、凛を誘ったの?」

「いや……」


 一応、昨日の帰りの電車で、クララがそう言っていたことを凛には話した。

 しかしあれは誘った、と言えるのだろうか。……。


「誘ってないよ」

 僕はそう答えた。

 実際、凛には断られたわけだし、誘ってないことにしても間違いにはならないように思える。


「そっか」

 イブは少し安堵したような顔をした。

 それを見て、僕はどうにも気になり、彼女に聞いてみた。


「イブは、あの場に凛を入れるのは反対?」

 僕のその問いに対して、ばっ、と、こちらに向き直るイブ。


「いや、そんな、その……」


 何を慌てているのか言葉を詰まらせるイブ。まずいことを聞いてしまったか?


「……うーん、なんていうか。

 ホラ、凛はさ、中学に入ってからちょっと雰囲気変わったじゃん?

 小学校の頃はもっと明るい感じだったけど、物静かっていうか、ぶっちゃけ、冷たくなったっていうか……」

 イブは、慎重に言葉を選ぶように言う。


「……凛が中学に上がってすぐの頃にさ、あたしはまだ小学生だったけど。

 たまたま凛に会ってさ、話しかけたことがあったの。

 でも、そのときに、結構素っ気ない反応されちゃってさ……。あたしもちょっとムッとして離れて行っちゃって、それ以来、もう話ししてないんだよね。

 それで今、高校が同じになったからって、いまさら普通に話せないじゃん。蘭子には悪いけど、凛と同じテーブルでお昼食べるのなんて、さすがに気まずいよ」


 伏し目がちに話すイブ。


 昨日、凛も言っていた。自分はイブに嫌われているのではないか、と。

 それに対して、僕はどう返せばよいか分からなかった。

 今も同じだ。やはり僕は非力だろうか。


 イブが言う、凛が中学に上がったばかりの頃というと、すなわち彼女にとって非常に重大な出来事があったとき。

 僕はよく知っているものの、

 イブや、あるいは晃やクララは、それについては何も知らない。



「あ、ごめんね。京一の前で、凛のことをこんな風に言ったらだめだね」

 ぱっと顔を上げて、さきほどと転じて明るい調子でイブが言う。


「なんでだよ?」

「だって、京一は凛と今でも仲良しでしょ。っていうか家が隣同士の幼馴染みって、もういわゆるアレじゃん。だから京一、凛のこと悪く言われたら嫌だよね」

「…………」


 お前までゲーム脳に汚染されてるのかイブ。



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