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臥龍先生に敵わない!

作者: のぶ

ツイッターでrtありがとうございました。

5000字小説遅くなりましたが出来ました。

『天下が欲しければ臥龍鳳雛(がりゅうほうすう)を手に入れろ』

 そう、世間では噂されているようだ。


「……今こそ君の力が必要だ! わかるよな、臥龍(がりゅう)先生?」

 客人に茶を入れていた孔明(こうめい)は、そのまま客人へぶっかけようか悩みながらも耐え抜き、その客人へは渡さず自分で茶を飲み干した。

 頬杖をつき、目を瞑り思案した。

 何を言っても無駄な気はしたが、正攻法でいくことにしよう。


「臥龍先生はお前のことだろう、なぁ徐庶(じょしょ)?」


 指摘したとたんに徐庶は腕を組み、わざとらしく首をかしげている。

「村で臥龍先生宅への道順を聞いたが、皆この家を指さしていたが……?」

「そりゃお前が来るたびに『臥龍先生宅はどちらかな、ああこの村では孔明と名乗っていたか』と意味不明なことを皆に吹聴しまくったからだろう。こちらはいい迷惑だ!」

 言い終わると同時に孔明は机を叩き、苛立ちを必死に抑えながら、そう反論した。


「ははっそいつは悪かった。ところで臥龍先生」

「まだ言うか! 臥龍先生と突き通すな、私を!」

 再び徐庶は首を横にかしげる。

「私が劉備玄徳(りゅうびげんとく)の下で軍師をしていたことは知っているね臥龍君」

「おい……ああもうかまわん続きを話せ」

 手で追い払うしぐさをした。

 埒があかないので臥龍呼びは諦めよう。

 大事な話かもしれない。

 耳を傾ける。


「手短に話そう、私の代わりに君を推薦しておいた」

「ふざけんな」

「では私はこれで」

 立ち上がり出て行こうとする徐庶の後ろから、襟を掴み引き留めた。

「行かすか! 何のつもりだ徐庶、俺がなんでお前の代わりをしなきゃなんねえんだ?」


「あーなんかほら、母上が()に捕まって……仕方ないだろう?」

 着物が引っ張られ顔が埋まってしまった状態で徐庶はへらへらと笑っている。

「さっさと行ってさっさと戻ってくればいい、なにも俺を巻き込まなくていいはずだ」

「魏で諜報活動するのだ。誰か代わりが必要だろう?」

「そんな『お使い行くから火の番してて』なノリで言うんじゃないっ」

 徐庶は変わらずへらへら笑っている。


 かと思えば急に思い出したかのように着物を正し、颯爽(さっそう)と風呂敷包みを広げた。

「孔明、いや臥龍先生へ祝いの品だ」

「言い直すんじゃねえよっ」

 再び机に頬杖つき孔明は苛立ちながら『祝いの品』を見やる。


「占いで使うやつか?」

 鳥の羽で作られた扇が二つ。

 一つが白い羽で作られており、もう一つは色違いで黒い羽で作られている。

 確か羽扇(うせん)と呼ばれるものだと記憶している。

「これは伝説の鳥、大鵬(たいほう)の羽から作られた逸品。この羽扇を持つ者は過去も未来も見通すことができる」

 大鵬といえば全長が数千里もあるといわれる幻の鳥だ。

 ならいっそ龍のうろこでも持って来いよ、臥龍なんだからと言い返そうと口を開いたその時だ。

「臥龍先生が仕留めた大鵬、私しかとお返ししましたぞ!」

 と徐庶は手で拳を包み、頭を下げた。


「……捕ってねえ」

「はい?」

「いや、はい? じゃねえよ……どこまですっとぼけてんだ」

「はて? お気に召しませんかな」

「捕れるわけねえだろっ俺昔から身体弱かったの知ってんだろ」

 全く自慢できないが昔から病気がちで体力は女子並み、大人になってからもそれは変わらなかった。

 兵として戦へ赴けば即死する自信がある。

 狩りなんてしたことがない。

 大鵬などと、大嘘つきもいいところだ。

「忘れたか……ほら昔、空飛ぶカラクリを作ったじゃないか」

「お前の設計図見て作ったあれか」

 手先は器用だった。

 頼まれて暇つぶしがてら、いくつも作った記憶がある。


「あれに毒仕込んで食べさせた」

「………………待て」

 孔明は徐庶へ掌を向けた。

 自身の目がしらに指を押し当て考える。

「私は犬ではないぞ孔明?」

 徐庶の抗議が聞こえるが、そんな事はどうでもいい。


「あー大鵬が実在したのはまぁ? いいとして何? お前大鵬仕留めたのか」

「私ではなく臥龍先生が仕留めたのだ」

 意地が悪そうに口角を上げている。

「私は大鵬が地に落ちる瞬間に立ち会えたこと、光栄に思っているぞ」

「見てたのお前だけだろ……つうか俺も誘えよ」

 伝説の大鵬、それを見つけ捕まえるのはさぞロマンがあっただろう。

「俺も大鵬見たかった……俺の夢と希望の大冒険が、くそぉ徐庶め」

「君が弱いのだから仕方がない」


 理解はしているが、腹が立つ。

 握りこぶしを机に当てて悔しがるのを見た徐庶はため息をついた。

「そうだな、また機会を用意しておいてやる」

「本当か! いや、待て。軍師にはならないぞっ」

「私は犬ではないのだが……」

 話が脱線しまくる徐庶「犬ではない」というが犬だったらどんなに良かったことだろう。

 その時外から人の声がした。


 どうやら家を訪ねてきたらしい。

「客が来たからお前は帰……徐庶?」

 様子がおかしい。先ほどまでの威勢がまるでない。

「徐庶? おーい徐ッ」

 手で口を塞がれた。

「静かに」

 真剣な顔つきで言われたため、とりあえず従ってやる。


 奥にいた弟が指先を舐めながら、部屋に入ってきた。

「外におじさんが三人来てるよ、臥龍兄上」

 今まで『臥龍兄上』なんて呼ばれたことがない。

 手には小さな包みが握られている。

 お菓子か何かだろう。

「人の弟買収すんじゃねえよ」

 そんな小言を無視して徐庶は弟に尋ねた。


「一人は耳たぶが大きく、一人は厳つい風貌で、一人は青龍(せいりゅう)偃月刀(えんげつとう)を持っているか?」

 どんな訪ね方だ。

 素直に劉備(りゅうび)張飛(ちょうひ)関羽(かんう)かと聞いたほうが弟も理解するというのに。

「そもそも見てわかるもんなのか青龍偃月刀」

「それっぽいの持ってた」

「なんで兄の俺より知識あるんだ」

 もう弟に「孔明」と名乗らせようか、そう孔明は考えた。

 自分の代わりに弟を差し出すのだ。

 だが幼すぎると徐庶に却下されそうなので速攻であきらめた。


「そうだ徐庶、挨拶してきたらどうだ?」

 ついでに臥龍は徐庶のことだと教えよう。

 そう思い孔明は戸へ向かおうとしたが徐庶に阻まれる。

「バカ言え、涙涙の別れだったんだぜ。今ここで会っちゃ格好悪いにもほどがある」

 素が出ている。

 よほど焦っているのだろう。

 立ち往生していると徐庶は弟に指示を出した。

「とりあえずいないと言っておいてくれ」

 弟は素直に言うことを聞いた。

 菓子の効果だ。


 玄関から声が聞こえた。

「おや、君が孔明先生かな?」

 普通に自分と間違われていた。

 こんなことなら弟を「孔明」にするべきだった。

 孔明は後悔しながらも聞き耳を立て続けた。

「いいえ、孔明は兄のことですが、とりあえずいない」

 『とりあえず』はいらねえよ!

 弟の頭をはたきたかったが今は耐えた。

 幸い三人は気づかず、素直に帰って行ったようだ。


 弟が戻ってきたのではたこうとしたが。

「よくやった、偉いぞこれは追加の菓子だ」

 と徐庶が弟を餌付けし始めたのでその気が失せた。

「それでどうすんだ帰らせて。あれじゃもう来ないだろ」

 徐庶は弟の頭を撫でながら答えた。

「また来るさ。そういうお人だから」

「違うな。そう仕向けたんだ、お前が」

 といい指をさした。


「今の良かったぞ、それ羽扇でさしながらもう一度言ってみてくれ」

 軍師の申し出を断っているので、これくらい付き合ってやるか。

 孔明は白い羽扇を手に取り徐庶へ突き付けた。

「……違うな……あのお方が誠実なのではなく、そう仕向けたのであろう。徐庶、貴公が、だ」

()焼刃(やきば)すぎる三十点」

「低っ」

 純粋にショックを受ける。

「話しながら言葉を考えたな、もう少し演技力を付けろそれじゃ騙せるのは劉備玄徳だた一人だ」

「騙されんのかよっ! つうかいつまで弟の頭撫でてんだ。お前も奥へ行ってろ」

 しっしっと弟を追い払うしぐさをする。

「可哀そうになぁ」

「菓子が欲しいだけだからそいつ」

 図星のようで奥へ引っ込んでいった。


「なぁもういいだろ、お前も母親助けに行くみたいだし旅立ったらどうだ?」

「君が軍師を引き受けてくれるまで帰らん」

「なんでだよ! 母親殺されるぞ」

「魏へ行く意思を見せているのにか? そこまで曹操も愚かではないだろうよ」

 もっともな反論に、返す言葉も出ない。


「大体、母上代わりの死体を調達せねばなるまい。今魏で探させているところだ」

「待て……俺その作戦知らないぞ」

 魏でも何かやらかすつもりのようだ。

「だから俺は犬では……私は犬ではないと言っている」

「言い直すな、面倒くせえな」

 徐庶はした唇を噛んで苦い顔をしている。


「君といると調子が狂う」

「狂わせてんだよバカ。天才と書いてバカ野郎」

「バカ野郎を誉め言葉にするんじゃない。バカにされる度に喜んじまったらどうする」

「とんだ変態だな。まぁ天才なんてそんなもんだろ」

「天才に謝れ、そして俺に謝るんだ!」

 謝る代わりに笑ってやると、つられたのか徐庶は笑いを堪えていた。


「……君ぐらいだ、俺の言いなりにならないのは」

龐統(ほうとう)もだろ。あと水鏡(すいきょう)先生」

 よく考えてみれば、徐庶をこんな面倒な天才にしたのも水鏡先生だった。

「先生は半分くらいなら聞いてもらえるぞ。面白がって君のこと『臥龍』と呼んでいる」

「水鏡先生も敵だったか……」

 言いなり、というよりかはノリがいい、というべきか。

「龐統に会いてえな」

 もう味方になってくれそうな人間は『臥龍鳳雛』の鳳雛側、つまり龐統しかいない。

「龐統にも今回のことを手紙で知らせたんだ。返事はこれだ」

 懐から取り出した手紙には『丁角刀牛 龐統』と書かれていた。


「俺はこの謎を未だに解けずにいる……」

「『了解』じゃねえかっ! 解けてんだろ」

 子供のころ暗号として遊んだものだ。

 徐庶が解けないわけがない。

「おおっさすがは臥龍先生!」

 目を見開き、本当に驚いたかのようなしぐさをする。


「演技をするな。俺は騙されねえぞ、誰が騙されても俺だけはっ」

「そんな君だから、俺の後を任せたいんだ。君以外にだれがいる? 欲もなく真面目に働けるこの俺、臥龍が信頼できる男が君以外どこにいるんだ」

 いきなりまじめな顔をする。

 軍師にしたいという気持ちに嘘はないのだろう、だが。

「徐庶、俺を巻き込むな」

「作戦は随時送ってやるよ」

「巻き込むなっつってんだが?」

「君だって曹操に天下統一されたら嫌だろう?」

 嫌ではあるが、仕官するなら兄のいる呉ではないか。


「今命運を握っているのは、君と余だ!」

 どこかで聞いたような台詞を吐く。

 確か『雷雨時の劉備と曹操の会話』だったか。

 それを裏付けるように、雷が鳴り響く……事はなく、代わりに太鼓の音が聞こえてきた。

 太鼓を叩いているのは見なくてもわかる。

 弟だ。

「って弟買収してんじゃねええええっお前分かった曹操好きだろほんとは!」

「戦い方はあれだが、なかなか面白いぞあのおっちゃん」

「どんだけ仲いいんだよっ裏切りそうで怖いわ」

「おおっ引き受けてくれるか!」

「どの流れでそう思った!?」


 息を上げて言い返した孔明だったが、このままでは埒があかない事に気付いた。

 仕方ない。

「ああ、わかったよ。軍師だろ軍師。やればいいんだろ」

「孔明!」

 徐庶はご満悦そうだ。

「ただし、途中で嫌になったら投げ出すからな」

  暇つぶしくらいにはなるだろう。

「それで構わん。まずは『天下三分の計』を覚えてもらって……」

 徐庶は風呂敷包みから巻物を取り出した。一つ二つ三つ……

「それ全部覚えさせる気か?」

「大体で構わんぞ。困ったら火を付ければうまくいくようにしてある」

 こいつ泊まる気だな、と孔明は気が付いた。


 まさか何十日も長居するとは思わず、徐庶を追い払うため外へ出ている内に、再び劉備が家へ訪れるとは思わなかった。



 あれから随分と月日が流れた。

 こんな作戦、いずれボロが出るだろうと思っていたがそんなこともなく、今までうまく騙し通してきた。

 徐庶からは定期的に計略が送られてくる。

 ただし一方的で、こちらから文を送ることはできなかったが。

 それだけでなく大鵬の羽扇も本物だったようで、いくらか未来が見えた。

 見たくない未来であっても容赦なく見せてくる。


 今見えているのは(との)である劉備玄徳の死、そして……

 孔明は羽扇を枕元へ置いた。

 神秘的に見えるから、と徐庶の言いつけで肌身離さず持っているが風呂と睡眠は別だ。

 眠くはないが先を見ないようにするため、そのためだけに仮眠を取ることにした。

 体を横にし目を瞑る。


「孔明!」

 聞き覚えのある声に飛び起きた。

「徐っ……いや誰だ!?」

「私の顔を忘れるとは情けない」

 両袖を目元に当て悲しむそぶりをしている。

 声は徐庶であったが、随分と見た目が違う。

「誰に化けてんだ……よくここまで来れたな」

 劉備がいつ亡くなるかもしれぬ状況のため、すぐ駆け付けられるようここは劉備の部屋から一分もかからない。


「臥龍先生に化けたんだ。よく似ているであろう」

「臥龍はお前だろっ! やっぱそれ俺か。よく気づかれなかったな」

「この黒羽扇に香料をな。一時的な錯覚を起こさせる」

 赤壁の時といい、相変わらずおかしな知識があるようだ。

「そうまでして、なんで来たんだ?」

 ただ会いに来た、というのならどんなにいいか。

 厄介ごとを持ってきたに決まっている。


「孔明、君はどこまでの未来が見えている?」

「……公が亡くなり、その後俺が死んで蜀が滅ぶまでだ」

 そうか、一応心配してくれたのか。

 孔明は目頭が熱くなるのを感じた。

「君の死にざまは?」

 心配してないな。

 目頭が一気に冷めていくのを感じた。

 心配しているならそんなこと普通聞いては来ないだろう。


「いつかはわからないが……戦火の中で矢に射られ、矢に塗られた毒で苦しみながら死ぬんだ」

 胸元を押さえるジェスチャーを交え、苦しんでいる演技をする。

 もとはといえばこいつのせいで死ぬようなものだ。

 嫌味の一つ言っても問題はない。

「孔明、ここから先は俺がやろう。軍師でも、十分に体力が付いただろう。大鵬を捕まえに行く機会を約束したな。行方や捕まえ方を記した木簡を用意した」

 言わんとしていることを理解した。

「徐庶。代わりになろうとしてくれるのはありがたいが伝えたいことがある」

 死が回避できるのならとっくにしている。

 出来なかったのだ。

 ただ一つの方法を除いて。


「龐統な、生きてるんだ。当たり所が悪く気が狂っちまったから、死んだことにして隔離している」

 徐庶は「そうか」と頷いた。

 知っていたのかもしれない。

「本来なら公が死ぬはずだった。龐統に話したらあいつ『いい考えがある』って公の代わりになったんだ。もう、止めよう徐庶。死にはしなかったが、お前のあんな姿見たくない」

「……龐統と二人で旅をするといい。足手まといかもしれんが、症状もそのうち落ち着くだろう」

「龐統は! 公のためにああなったんだ。俺もそのつもりだったが……」

 関羽と張飛の死は予見できていた。自分の命は公の為と見捨てたのだ。結果がこれだ。どう進んでも公の死は回避不可能だ。

「俺の失態だ」

 自然と涙が頬を伝った。


「孔明、そう責めるな。君は一か月先しか見えないのだろう?」

「! お前」

 もっと先が見えるのか、そう言おうと口を開けると徐庶が口の中に何かを放り込んだ。

「……なんだこれ」

「お菓子。君の弟にあげたやつがまだ残っていてな」

 バリバリと砕くと甘い味が口の中で広がった。

「嘘つけ、何十年前だよ……」

 袖で顔をぬぐう。

「すでに公には話を通してある」

「な……んでっぐっ」

 菓子を放り込まれる。

「おい俺は真剣に……」

 菓子を放り込まれる。

「……」

「おお、賢いな。学習したか」

 口を閉じ、睨みつけた。


「理由を知りたいか? つまりだ、君に言うことを聞かすには黙らせるのがいいと気づいたのだ」

「聞きたいのはそっちの理由じゃねえよ」

 菓子対策のため、手で口を覆いながらそう言った。

「この俺が死ぬようなヘマをする筈がないではないか!」

 一人称俺になってるけどな、と思ったが安易に口が開かないほうがいいと思い黙っておく。

「と言いたいところだが、それだけじゃない。俺の見た未来と君の未来が少々違っているのだ」

 黒羽扇を差し出されたので受け取る。

 流れ込んできた未来はやはり一か月間だけだったが、そこに己の死と蜀の滅亡はなかった。

 その代わり、その蜀に自分はいない。


「ん? 驚いて声も出ないか」

「なんでお前が俺として認識されてんだ……」

「そこに驚くか? さっきも話したこの香料だ。長期使用すればその内使わずともよくなる」

 素直に発明家として生きて行けばよいものを。

 徐庶にはあきれるばかりだ。


「孔明、俺も限界が来たら逃げるつもりだ。公のいない蜀で死ぬつもりはない」

「徐庶、俺は」

 菓子を掴んだ手が口へ向かってきたので徐庶と取っ組み合いをする。

 塞がれてなるものか。


 抵抗をつづけながら孔明は叫んだ。

「大鵬見つけてっ龍も捕まえてやる。お前なんかより大冒険してやる! だから徐庶、役目が終わったその時は」


 徐庶の力が抜けた。

 孔明は正面から両肩を掴んだ。

「その時は、三人で旅をしような徐庶っ」

 黙ったまま動かなくなった。

 徐庶は顔が赤くなり、目には涙を浮かべている。

 ぽつりぽつりとつぶやき始める。


「………………孔明、君、俺のこと……恨んで、なかった……のか?」

「恨んでなんかなっ」

 言い終わらぬうちに突然徐庶は涙を流しながら高笑いし出した。

 そのまま両腕を孔明へ回し強く抱き締める。

 苦しいくらいの抱擁に孔明は顔をゆがめるが、それでも徐庶は喜んでいるのだということは理解できた。

 今度は背を叩き始めたので痛みに耐えかね制止した。

「じょ、徐庶、離してくれ苦しい」

 そう伝えると徐庶は笑い転げながら孔明を離した。


 さすがにそろそろ誰かが異変に気づき様子を見に来るだろう。

 徐庶へ声かけようと口を開いた。

 すかさず徐庶は大量の菓子を孔明の口へ放り込んだ。 

  

 こうなると味も何もあったものではない。

 孔明は何とか飲み込もうと口を押え苦しみ、徐庶はそれを指さしながらさらに勢いを増して高笑いをしながら転げ回っている。


 苦しみながら孔明は考えた。 

 天才というのはよくわからない。

 しかし凡人の自分でも心の底から悟ったことがある。


 ああ俺は、どんなに足掻こうがこの

 ()()()()()()()()()

 のだ、と。

5000字に収まらず、7000字になりました。

三国志で5000字は無理でした。

義兄弟会話と赤壁、余裕があれば魏も書こう。

無茶でした。

続きなんていつ書くか分からないので最後まですっ飛ばしました。

最後までお読み頂きありがとうございました!

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